165.本心
「なに奴らに逃げられただと!?」
「はい。見回りをしていた兵によると牢獄には誰一人いなかったとのことで」
一方。
ヴェルムら帝国側はランスたちの動向に気づき始めたところだった。
「どうなっている? あの牢獄には魔法使用を禁じる特殊な結界が張られていたはずだ」
「いえ、わたくしにも何がなんだが。ですが話によれば牢獄の扉や壁には目立った損傷はなかったとのことです」
「となれば、誰かが奴らを逃がしたということになる。それ以外で奴らがここから脱することは不可能なのだからな」
「内部に裏切者がいるということですか?」
「ああ。それに生憎その人物に心当たりがある。今からそいつに聞いてみるとしよう」
ヴェルムは不敵な笑みを浮かべると、静かにその場を去った。
♦
「……これで、いいのよね」
戦争の開幕を目前とする王都の街並みを見渡しながら、イリアはそう呟いた。
「にしても、塀で覆われた都市の中にこんなにいい公園があるのは不思議なものね」
帝都にはそう言った場所はない。
というかそもそも帝都には娯楽の場自体が少ない。
あるのは絶対帝政を説いた劇ばかりが頻繁に行われる劇場くらいだ。
その点、王都には様々な娯楽で溢れている。
ついさっきまではここにも人々の笑顔で溢れていた。
はずなのに……
「この平和を私たちは壊そうとしている……のよね」
改めて考えてみると、自分たちにしようとしていることが何なのかを実感する。
正解か不正解かなんて分からない。
でもイリアにとっては、これが正しい道なのか、疑問に思い始めていた。
「……そういえば、彼と初めてあったのもこの公園だったわね」
思い出す。
そんなに時間は経っていないはずなのに、もうずっと遠い昔のように思えてくる。
「あの時、彼が手を差し伸べてくれなかったら……」
どうなっていただろう?
目的があって近づいたとはいえ、拒んでいたら私はどうしていたのだろうか?
今更考えても仕方のないことだけど、結果的に色々な経験を得ることができた。
そして今となっては良き思い出になってしまった。
もしかすればあそこで拒まれていた方が幸せだったのかもしれない。
だって……
「こんな思いをしながら、みんなの居場所を壊さなくちゃいけないなんて……」
涙がこぼれる。
思い出を思い出した分だけ、涙があふれてくる。
多分、これが本心なのだろう。
もうこんなことしたくは……
「ふん、奴らに毒されたか。この役立たずめ」
「……この声は!?」
聞き覚えのある声に反応し、顔を上げると、手に魔法拘束具を持った大男の姿があった。
「ヴェルム……殿」
「感傷中に悪いが、貴様には色々と聞きたいことがある。ついてきてもらおうか」
ヴェルムはそういうと手に持った拘束具を起動させた。