163.君の為に
「き、きみ……今何と?」
「今回の一件、自分に任せてはくれませんか?」
「ら、ランス! 貴方一体何を言って……」
自分でも無茶なことを言っていることは分かっている。
周りの人間が苦い顔をするのも想定内だ。
だけど……このまま指をくわえてみているわけにはいかない。
「どうでしょうか、陛下。もし他に策がないのでしたら、この私めに一つ賭けてみませんか?」
「……」
首を傾げる陛下。
だが結論は思ったよりも早く出た。
「うむ、良かろう。今回の件はランスくん、キミに任せたいと思う」
「お、お父様!」
ソフィアは反対の様子。
無理はない。
「いや、この頼み方はよくないな」
陛下は俺の元に寄ると、ゆっくりと頭を下げた。
「ランスくん、頼む。この国を……皆を救ってはくれないか?」
「もちろん、そのつもりです」
迷いなく答える。
勢いもあるけど、男に二言はない。
一度言ったことは最後まで責任をもってやり通すつもりだ。
「お父様、わたしは反対です。これは国が抱えるべき問題です。ランスは一般人なのですよ! そんな人に責任全て背負わせる気ですか!」
「もし最悪の事態を招いても全責任は私がとる。そこは心配せずともいい」
「でも、ランスを危険な目に遭わせるわけには――」
「いいんだ、ソフィア」
「ランス?」
「これは俺が自分の意志で決めたことだ。誰かに頼まれたわけでも、強制されたわけでもない。紛れもない俺の望みなんだよ」
「そ、それでも……!」
ソフィアはどうも納得がいかないようだった。
俺を大事に思ってくれてるがゆえにいつもは平静なソフィアが感情的に訴えている。
その気持ちは十分に伝わっている。
「でもこのままじゃ、何も進展しない。誰かがやらない限り、この国の未来は暗いままだ。それはこの国を誰よりも愛するソフィアなら分かるはずだ」
「それは分かっています。でもだからといってランスが命を懸ける必要は……」
「あるよ」
「え?」
これこそ迷いのない答えだった。
「ソフィアがこの国を大事に思う限り、それだけで充分戦う理由になる」
「なんでそこまで……」
「それは……」
なんだろうな。
不思議な感覚だ。
前までこんなこと微塵も思ったことがなかったのに。
むしろ世の中に絶望しかけていたのに。
今じゃ国を守る為に必死になっている自分がいる。
でも原因は分かっている。
俺は……
「その……ソフィアに特別な感情を抱いているからだと思う」
「と、特別って……」
言ってしまった。
でもこれは本心だ。
偽りはない。
「ま、まぁ……お前に辛い思いをさせたくないってことだ! 国と民を深く愛するソフィアなら国を明け渡すなんてことは認めたくないだろうし。お、俺もソフィアと接してきてそれは分かっているつもりだったから」
なんだ、なに動揺しているんだ俺は。
言っていることに嘘はないんだ。
もっと堂々と……
「だ、だから! 俺は命を懸けてこの国を守りたいと思っている。これは国や民のだけじゃない。ソフィア、お前の為でもあるんだ!」
「ランス……そう、なんだ」
ソフィアは何だかホッとしたようにニコリとほほ笑んだ。
その心情は俺には分からなかったが、ソフィアは静かに頷くと、
「分かった。でも一つだけ条件があります」
「条件?」
俺が問うと、ソフィアは俺の元に駆け寄り上目遣いで。
「わたしも共に命を懸けます。逝くときは一緒です」
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