160.大きな決断
「殿下、よくぞご無事で!」
鎧を携え、鉄の擦れる音をまき散らしながらアルバートさんはソフィアの元に駆け寄る。
「お怪我はありませんか?」
「大丈夫です。ランスたちが守ってくれましたから」
ソフィアがそういうと、今度は俺の方に視線が傾いた。
「ランス殿、此度は本当に申し訳なかった! 本来我々がすべきだったことを……」
「いえ、顔を上げてください。それに俺一人ではソフィアを救うことは出来ませんでしたから」
あの場でアリシアさんが来てくれなかったら、今頃俺たちはここにはいないだろう。
それに……イリアも。
「ここではあれだ。場所を変えよう」
アルバートさんはついてきてくれというと、ギルドの中へ。
案内されたのはギルド内にある小会議室だった。
「適当に腰をかけてくれ」
「失礼します」
各々席に座る。
そしてしばらく沈黙の末、アルバートさんが一声を発した。
「本当に皆、無事でよかった。誘拐されたと聞いて探索部隊を編成していたところだったのだ。場所の特定が遅れて随分と時間がかかってしまったが……」
「別に貴方がたが悪いわけではありません。今回はわたしの意志で捕まったわけですし」
「……なにがあったのですか?」
アルバートさんがソフィアに問うと、彼女は俺も方を見る。
そしてコクリと意思疎通を図るような行動を見せ、俺もそれに答えると、彼女は再び口を開いた。
「彼らの目的はわたしとランス、双方の身柄だったようです。計画の妨げにならないよう、拉致をしたと」
真の動機は分からない。
けど、それ以外にもこの戦争を帝国に有利に進めるための道具としても使おうとしていたのもあるだろう。
あと、イリアが興味深いことを言っていたな。
確か、俺たちが計画のトリガーになるとかなんとか。
「恐らく彼らの計画の一環としてわたしたちが必要だったのでしょう」
「なるほど。でもまさかそこまでの愚行にも走っていたとは。やはり帝国は……」
ソフィアが粗方話すと、アルバートさんは強く拳を握った。
するとソフィアは間髪入れずに、
「次はアルバート。貴方の方の話を聞かせてもらえますか?」
「もちろんです。今起こっていること、全てをお話します」
神妙な表情に変わるアルバートさん。
雰囲気からして、王国で起ころうとしていることの一辺が分かったような気がした。
少なくとも、いい傾向にはない。
それはすぐに分かった。
「今、上階でドロイドギルドマスターと陛下が国防会議を開いている。その上で我々は大きな決断を下すことになるかもしれない」
「大きな決断……それは?」
アルバートさんは一瞬だけ険しい表情になると、その感情を抑え込むようにして口を動かした。
「この国を……捨てるか捨てないかの選択です」