146.目論見
「き、貴様! 一体何をした!?」
「魔力を少しだけ使えるように結界に〝穴〟を開けたんですよ」
ドロイドは当たり前のようにそう口にすると、
「け、結界に穴を開けただと? そんなことが……」
「残念ながら、私には出来るんですよ。流石の私も全部は無理でしたが、コピーの能力を使って貴方の作った結界に入り込み、その根源たる場所に許容範囲を上回る魔力を投入する。そうすれば、いくら強靭な結界であろうとも穴くらいはできます」
「それで、魔法を一時的に使えるようにしたというわけ――はっ!」
「気が付いたようですね」
「まさか、あいつら……」
男はランスたちが脱出していることに勘付く。
まさかと思い、遠視魔法を使うが、守衛ゴーレムは無残にも粉々に吹っ飛ばされていた。
「お、おのれ……!」
「我々を甘く見過ぎたみたいですね。これで貴方もお終いです」
「だ、だが貴様はどうなる? 俺が此処にいる限り、お前に未来はない。ギルドマスターと言ったな? それほどの要人をここで殺せば、後の任務がだいぶ楽になる。俺としては損は何一つない!」
声を張りそう叫ぶ男にドロイドは深く溜息を漏らすと。
「はぁ……本当に目先のことしか見ていないのですね」
「なに?」
「そんなこと、対策しているに決まっているでしょう。あ、噂をすれば……」
会話の最中。
ドロイドの服の内ポケットに入っていた球体が光りだす。
ジョイントワーピングボールからの通信だ。
「どうやらお迎えが来たようです。私としては十分に情報は得られましたし、これ以上長居をするつもりはありません。この辺でお暇させていただきます」
ドロイドは端からこれが目的だった。
囮になったのも情報を出来るだけ多く集めるため。
ソフィアをランスに任せたのも、彼の実力を認めてのこと。
そして魔法さえ使えるようになれば、彼の右に出る者はいない。
情報を集めるまでは軽い賭けになっていたが、ランスは見事にこなしてくれた。
「あとで、お二人には謝らないといけませんね」
要するに初めから彼の中に敗北の二文字はなかったのだ。
予めここから脱する作戦は考えてはいたが、ソフィアが案を出してくれたのでそれに乗ることにした。
そこから自分で計算し、最適な方法を二人には伝えずに生み出し、どんな状況になっても必ず無事に脱出できるように場を整えていたのだ。
「流石はランスくんですね。本当に、興味深い少年です」
そう呟きながら、光る球体を手に取る。
球体は徐々に輝きを強める。
そして――準備が整った。
「それでは、機会があればまたどこかで。ごきげんよう」
「に、逃がすかぁぁぁっ!」
男はドロイドの元に駆け寄るが、寸前で逃げられてしまう。
「く、クソッ! こうなったら……!」
男は外界に繋がる扉を開こうとするが、
「ど、どうなっているんだ? 非常用の扉が開かない!?」
だが、それだけではなかった。
「なんだ? 空が暗く……うわぁっ!」
辺り一面が暗く染まり始め、地面は沼地のように変化し、身体が吸い込まれていく。
空間という概念が崩壊しつつあったのだ。
「ま、まさかあいつら……この空間そのものを!」
気づいた時にはもう遅かった。
「嘘だ、嘘だ嘘だ! こんなの……っ! うわぁぁぁぁぁっ!」
男は暗き闇の中で悶え苦しみながらも。
バケモノと共に時間の概念さえもない無限の牢獄へと閉じ込められていくのだった。