136.TCI計画
「TCI計画? なんだそれは?」
新たに出てくる謎のワード。
俺が問うと、男は間髪入れずにその言葉の意味を説明し始めた。
「テックコントロールド・イノベイティブ計画……我が帝国が独自に進めていた技術計画のことさ。我らが指導者、ダウト元帥の主導で始まった国家再建計画……これはその計画によって生み出されたもの。国家に変革をもたらすダイヤの原石なのさ」
「技術……計画?」
一体なんの話をしているのやら……
彼は誇らしげに語ってくれたが、俺にはさっぱりだった。
「な、なぁ……ソフィアはお前は知っているのか? そのテックなんちゃら計画のこと」
隣にいたソフィアにさり気なく聞いてみると、彼女もまた俺と同じような反応を示した。
「い、いえ。わたしも聞いたことが……」
だがソフィアはここで「でも」と言葉を挟んだ。
「帝国が国の再建の為に動いているという話は風の噂で聞いたことがあります。以前、お父様の公務に同行させていただいた時にチラッと……」
「そうだったのか。じゃあ、ソフィアも計画のことについては初耳なのか?」
「はい。ですが……」
「どうした?」
ソフィアは首を縦に振ると共に顔を顰めた。
まだ彼女の中に何か引っかかる所があるようで……
「そう言えば前にお父様と帝国に訪問した時にお父様含め何処か異様な空気感が漂っていたなと思いまして。帰りの馬車の中でもずっと何かを考え込んでいるようでしたし……」
ソフィアの記憶から絞り出されるその時の雰囲気。
彼女の話と今回のことが関係あるのだとしたら、フォルト陛下はこの計画のことを知っているかもしれない。
王国と帝国は先の大戦で起きたいざこざの影響で緊迫関係にあるらしいからな。
未だに俺には理解が追いつかない規模の話だが……
「でも彼はご存じみたいですよ」
「ん……?」
ソフィアの目線の先にはドロイドさんの姿があった。
ドロイドさんは一言を発せず、ただ拳を強く握りしめながら男の方を見ていた。
「ドロイド……さん?」
俺の問いかけに反応したのは呼びかけてから15秒ほど経った後だった。
「あ、すまないランスくん。なにかな?」
「いや、さっきからずっと何かを考えている様子だったんでどうしたのかなって……」
ドロイドさんの表情は俺でも見て一発で分かった。
やはりこの人は何かを知っていると。
普段は冷静に爽やかな感じで応対してくれる人間が焦りを見せていたら、誰だって分かる。
だから俺は同時に悟った。
今、語られていることは俺が考えている以上に普通のことではないと。
俺は続けて、ドロイドさんに聞いてみた。
「ドロイドさん、何かご存じなんですか? 計画って……」
俺が質問を飛ばすと、ドロイドさんの表情はグッと引き締まった。
そして再び視線を男の方に向けると、ドロイドさんは言った。
「彼らはタブーを起こそうとしているんだ。この”兵器”を使ってね……」
「兵器って……一体何の?」
「あれだよ」
ドロイドさんが目線を使って指示したのは今まさに俺たちの目の前に君臨する巨大な怪物だった。
そしてこの時、俺は計画の一端を悟った。
「まさか……」
そうであってほしくない真実が脳裏を過った途端、ドロイドさんはそれに呼応するかのように頷いた。
「そう。この怪物はこの国を……完全に滅ぼす為の生物兵器なんだ」