13.新たな拠点
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「えーっと……ソフィアさん?」
「はい?」
「これは一体なんでしょう?」
俺の目の前には今、とんでもないものが映っている。
時刻は夕暮れ。
そしてここは王都の少し外れにある平原地帯。
そこにひっそりと建っているとある豪邸の前に俺たちはいた。
「ここは我がグリーズ家の別荘なんです」
「べ、別荘!?」
「はい。実はあの宴会の後、お父様にお呼び出しを受けまして”ここの別荘を丸々貸すからランス殿と一緒に新たな拠点として使いなさい”と言われたのです」
「新たな拠点ねぇ……ん、ちょっと待って」
今、何かすごい大事なことを聞き逃した気がする。
「ソフィア、今俺の名前を言ったか?」
「はい、言いましたよ。ランス殿と一緒にと」
「……マジなのか? その話……」
「は、はい……本当の話ですよ」
ってことはこれから俺はソフィアとここに住めっていうことなのか!?
いや、多分そうだろうな。話の道筋的に。
「なぁ、ソフィア。一つ聞いていいか?」
「何でしょうか?」
「えっと……本当に俺もここに住むのか?」
「はい。お父様からはそのようにしてもらうといいと伺っていますが、ご迷惑でしたか? それとも何かご不満が……?」
「い、いや……そんなことはないぞ。ただちょっといきなりすぎて……」
不満というかむしろ驚愕すぎてもはや何も言えないというか。
恐らく善意でここまでしてくれたんだろうけど……。
(身の丈以上なんだよなぁ……待遇が)
しかもこんな広いお屋敷に二人だけってことはないよな?
「とりあえず、中に入りましょう。もう外も暗くなりますし」
「あ、ああ……」
ということで俺は色んな意味で不安でいっぱいの中、お屋敷の中へ。
すると――
「「「「「お帰りなさいませ。ソフィア様、ランス様!」」」」」
入った瞬間、出迎えたのは左右に複数人ほどずらーーっと並ぶメイドさんたち。
人数は王城の時と同じくらいか。
その勢いに圧倒され、俺はただ無言でコクリと頷くことしかできなかった。
(マジすか。これ……)
なんとなーく予想はついていた。
でもいざ現実を目の前にしてみると、何もできない。
対してソフィアは当たり前のように振る舞っていた。
王城の時にも思ったが、これが彼女にとっての”普通”なのだろう。
「お帰りなさいませ。ソフィア様、ランス様」
俺がこの状況に圧倒されている中、メイドたちの間を通って来る一人の女性の姿が。
すらっとした桃色のロングヘアに琥珀色の目を持った美人さん。
身なりは他のメイドたちと同じだが、何となく雰囲気が違った。
あと、見た感じすごく真面目そう。
(もしかしてこの人がこのメイドさんたちのボスだろうか?)
と、思っていたら。
「お初にお目にかかります、ランス様。私はメイド長のアリシアと申します。セブルス統括より、この屋敷の使用人として働くよう命ぜられました。これからお二人のお世話をさせていただきます。以後、お見知りおきを……」
「ど、どうも……」
丁寧な挨拶と共に自己紹介をしてくる。
というか、やっぱりメイド長だった。
(でもいきなりこれとは……)
運よく宿を取っていなかったからまだ良かったものの……
「早速ですが、お食事の用意が出来ております。今からダイニングルームへとご案内させていただきます」
というとアリシアさんは俺たちについてくるように言ってくる。
「行きましょう、ランス」
「おう……」
結局。
俺は何も整理がつかないまま、流れに身を任せる形で、屋敷に泊まることになりました。
♦
「うっぷ! うぅ……食いすぎて腹が……」
外もすっかり暗くなった。
俺は王城の宴会並の豪華なディナーを済ませると、一度休みたいとアリシアさんに申し出て自室で休んでいた。
部屋は一平方メートルのコンクリート板を敷き詰めると大体6~8枚くらいの広さで前に借りていた宿と同じくらいだった。
本当はこの部屋ではなくその4~5倍近い広さのある部屋に設定されていたのだが、広すぎて逆に落ち着かなかったのでここになった。
「やっぱ、このくらいの広さがちょうどいいや」
何せ俺は王族でも貴族でもない。
確かにそういう生活は憧れでもあったんだけど、いざ体験してみると案外過ごしにくい。
ただ、飯はとんでもなく美味かったけど。
あと、何でもかんでもメイドさんたちがしてくれるので労力を割かなくてもいいってのが一番の利点だった。
「一昨日までの生活が嘘みたいだなぁ……」
ベッドに横たわりながら、ふと過去を思い返し、そう呟く。
ソフィアを助けたあの日までこんな生活をすることになろうとは思ってもいなかった。
G級冒険者という不名誉に耐え、苦痛なまでのアルバイト生活をしてきた俺にとってはまさに人生の転機とも言える出来事。
まるで夢でも見ているかのようだ。
おまけに美少女と一つ屋根の下で過ごすというイベントまで起きてしまった。
「世の中何が起こるか分からないもんだなぁ……」
そう思いながら天井を見ていたその時だ。
――コンコン
「あ、あの~ランス?」
ソフィアの声だ。
俺はすぐさま返事を返す。
「ソフィアか? どうしたんだ?」
「あ、明日の予定について少しお話したいなと思って……入ってもよろしいですか?」
「ああ、構わないぞ」
「し、失礼します……」
ソフィアは少し遠慮しながらゆっくりと部屋に入ってくる。
いつもの身バレ防止用の白ローブではなく、完全部屋着になっていた。
めっちゃ可愛い。あと新鮮で良き!
「ら、ランス?」
「わ、悪い! いつもと違う姿だったもんだから」
「ああ、この服装のことですか。ごめんなさい、部屋着状態で来てしまって」
「いやいや、むしろそっちの方が俺は嬉しいぞ」
「そ、そうですか?」
「うむ」
って、俺は何を言っているのだろうか。
まぁぶっちゃけこれが本音なんであれなんだけど……。
「あの、ランス」
「ん?」
「その……色々と唐突でごめんなさい。屋敷の件は予め言っておくべきでしたね……」
と、反省をするソフィア。
迷惑をかけたのではないかと気にしていたのだろう。
少し表情を曇らせていた。
「ま、まぁ……確かに唐突だったが、悪気があったわけじゃないだろ? それに迷惑だなんて微塵も思ってないから。むしろ夢なんじゃないかって思ってたくらいだぞ」
「本当……ですか?」
「ああ、本当だとも」
嘘ではない。
実際さっきまでそう思ってたし。
別に悪いことでもないしな。
ただただ、驚きが隠せないってだけで。
「ま、こんな男と一つ屋根の下になるからソフィアにとっては不安しかないかもしれないけど……」
「そ、そんなことはありません! むしろわたしは――!」
「えっ?」
「い、いえ……なんでもありません」
「……?」
途中で何かを言いかけた気がするが……まぁいいか。
なんか触れてはいけないような気がしたので、あえて聞かないことに。
「で、明日の予定を話すんだったか?」
「あ、はい!」
話題を振り出しに戻し、本題へと移る。
すると先に口を開いたのはソフィアの方だった。
「明日はギルドに行くんですよね?」
「まぁ冒険者を知るにはクエスト受けないとだからそうなるだろうけど……」
「なら、その前に少し行きたいところがありまして……」
「行きたいところ?」
「はい」
ソフィアは頷くと、その行きたい場所とやらを言った。
「実は新しい防具を新調したいなと思ってまして……武具店に行ってみたいんです!」