12.可愛い王女様
度重なる誤字報告、ありがとうございますm(_ _)m
「はぁ……まさかレイムさんにあんな頼み事をされるとは……」
「ランス? どうかしました?」
「いや、何でもない。ちょっと考え事をしていただけだ」
あれから数時間が経過した。
俺が魔法を披露した後、予定通り調査は開始された。
結論を言えばあんまり収穫はなかったけど、これから専門の人が数日間に渡って調査をすることに。
俺とソフィアはできる限りの証言を提示し、帰路を辿る。
「にしても、ソフィア。一体どこに向かってるんだ? 急に護衛もいらないって言いだすし……」
「ふふふ、行けば分かりますよ」
今回、俺たちの周りには一人たりとも護衛の騎士はいない。
ソフィアが行きたいところがあるっていうから護衛は必須だろと思ったのだが、彼女はそれを拒否したのだ。
で、何故か俺だけが同行することに。
(本当に俺だけでいいんだろうか? 隣にいるのは一国のお姫様だぞ?)
何かあったらではもう遅いし、仮にもし問題が起きたら――
(いや、そう簡単に問題なんか起こらないか……)
と、考えている最中、隣にいたはずのソフィアが消える。
「あれ? ソフィア?」
辺りを見渡し探していたその時だった。
「あ、貴方たちは一体何者なんですか!」
どこからかソフィアらしき少女の声が。
その声のした方向を見てみると、何者かに引っ張られ、路地裏に連れていかれるソフィアを発見する。
「ま、マズイ!」
俺は全速力で路地裏へ。
すると視界に入ったのはソフィアと二人組の男だった。
「ソフィア!」
「ランス!」
「あ? なんだてめぇは?」
俺の姿を見るなりメンチを切って来る男衆。
服装や装備等を見る限り、冒険者か。
あんまり装備が整っていないところを見る限り、CかD辺りの中堅クラスと思える。
「俺はその子の付き人だ」
とりあえず軽く自己紹介。
すると男衆は、
「ああ? 付き人だと?」
「嘘をつくな! こんなに可愛い子なのにお前みたいなだっせーのが釣り合うわけねぇだろ!」
だっせーので悪かったな、だっせーので。
まぁ。こんな安い挑発に乗ってはお終いだ。
ここは冷静沈着に話すのが一番。
でないと相手の思う壺だ。
「とりあえず、その子を離せ。嫌がっているだろ」
「はぁ? 嫌がっているだ? 俺にはそんな風には見えないがなぁ」
「や、止めてください。離してっ!」
「……と、申されてますけど?」
てかこの状況でよくもまぁそんなことを言えたもんだ。
どっからどう見ても嫌がっているのに。
「俺たちはただ遊びに行こうって誘っただけだぜ? 何を嫌がる要素があるってんだ」
「そうそう。すこーしばかり楽しいところへ行かないかって話をしていただけなんだよ」
「ほう、なるほど。事情は理解しました」
「そうか! なら今すぐここから――」
「今すぐその薄汚い手を離せ。この外道どもが」
「……あ?」
「おいてめぇ、今なんて言った?」
「その子からその薄汚い手を離せって言ったんだ」
二人のヘイトが俺の方へと向いたためか、ソフィアは何とか男たちから逃れることに成功。
そのまま俺の背中に身を隠した。
そして男たちの怒りの矛先は完全に俺へと固定される。
が、ソフィアがこっちに戻ってきた以上、こいつらの相手をする必要はもうない。
俺はそのまま後ろを振り向くと、
「ご協力感謝する。それじゃ……」
そういってその場から去ろうとする……が。
「おい、待てよ。兄ちゃん」
一人が俺の肩の上にポンと手を乗せてくる。
「何でしょう? まだ何か?」
俺は冷静な眼差しを向けるが、彼らの眼はまさに殺意に満ちていた。
これはどうも簡単には行かせてくれないみたいだ。
「なに当たり前のように去ろうとしてんだ?」
「俺たちにあんなこと言って、ただで済むと思ってんのかよ。ああ?」
完全に絡まれた。
もうこれは後戻りできなさそう。
「じゃあ、どうすれば許してもらえるんですかね?」
「ふんっ、そりゃ決まってるだろ? 俺たちに詫び金払うか……」
「ここで痛い目に遭うかのどちらかだ――!」
と、ここで片方の男が短剣を持って突撃してくる。
(選択肢を出しといていきなりかよ!)
多分、我慢ならなかったのだろう。
狂った目を向け、猛進してくる。
「ランス!」
「大丈夫。≪ウォール・フィールド≫」
手を前に翳し、即時詠唱。
すると、突進してきた男は突然反対方向へと吹っ飛ばされる。
「ぐあっっ!」
そしてそのまま臀部を強打。
打ちどころか少し悪かったのか、その場で蹲っていた。
ちなみに今放った魔法は≪ウォール・フィールド≫という防御魔法だ。
対象者から360°の範囲に見えない魔法の壁を貼り、物理・魔法共に一定時間無効化できるというもの。
男が吹っ飛んだのも物理干渉が不可能であるが故のこと。
ま、逆にこっちからも攻撃ができないっていうデメリットはあるんだが、反撃するつもりはなかったのでちょうど良かった。
「お、おい! どうしたんだ!」
「し、知らねぇよ……なんかよくわからんが、壁みたいなのに行く手を阻まれて……」
「はぁ? 何言ってんだ。壁なんて……」
「すみません、おじさん方。俺たち先を急いでいるんでもう行っても大丈夫ですか?」
「なんだと? クソガキ風情が舐めやがって!」
もう一人の男は背中にぶらさげている大剣を抜き、切りかかって来る。
が――
「うわっっ!」
またしても謎の壁に阻まれ、向こう側へと吹っ飛んでいった。
「ど、どうなってやがる! なんであの野郎に近づけねぇんだ!」
「り、ルーク。ここは一斉攻撃で――」
「おい! そこで何をしている!」
その時。
ソフィアが連れてきたのか、王都を巡回中だった複数の騎士がこっちに向かってくる。
男たちはそろって顔を真っ青にし、
「や、やべぇ! 国家騎士だ! おい、ずらかるぞ」
「クソッ! 覚えておけよクソガキ!」
男たちは情けなくも尻尾巻いて逃げていった。
「ランス! 大丈夫ですか!?」
「うん。もう大丈夫。例の二人は逃げていったよ」
「良かった……本当にごめんなさい。また、ご迷惑をかけてしまって」
「気にするな。そもそも俺がぼーっとしていたのが悪いし」
「い、いえ! ランスは悪くないです! わたしがお店のショーケースに目を奪われてしまったばっかりに……」
ソフィアは首を振り、不甲斐ない自分を責めているのか悲し気な表情を浮かべる。
(なるほど。それで突然姿を消したってわけか)
俺はそんなソフィアの頭にポンと手を乗せると――そっと撫でた。
「ら、ランス!?」
驚きで声がひっくり返るソフィア。
俺もその声を聴いて我に返り、すぐに手を引いた。
「わ、悪いっ! つい……」
(なにやってんだよ、俺はぁぁ! いきなり頭撫でるってどういう神経してんだ!)
自分でしたことなのに激しく後悔。
ソフィアも顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「ほ、ホントにごめん。いきなりで気を悪くしたよな?」
「い、いえ……むしろ少し不安がなくなりました」
「え……?」
ソフィアは俺の服の袖をちょこんと触る。
そしてその透き通った碧眼を向け、微笑むと、
「ありがとう、ランス。助けてくれて……」
そう一言、言ってきた。
「お、おう……」
や、やべぇ……普通に可愛い。
(というか、そんな潤わせた眼差しで見ないでくれ)
心拍数がアホみたいにテンポアップ。
ついでに血圧も上がってきたような気がする。
(ま、マズイぞ……これは)
「な、なぁソフィア。例の行きたい場所とやらはこの先にあるのか?」
「え? ああ、はい。もう少し先ですが……」
「じゃ、じゃあ早いところ案内してもらおうかな。もうすぐ日も暮れるし」
「そ、そうですね! すみません!」
と、何とか蒸発は回避。
こんなところで女慣れしてないっていう理由でぶっ倒れたら笑いもんだ。
それに早いとこ行かないと今日泊まる場所がない。
色々あって宿を取るのをすっかり忘れていた。
「で、では案内しますね!」
と、いうことで。
道中色々とありましたが、俺たちは何とか目的地まで辿りついたのであった。