114.例の集団
店に滞在してから30分ほどが経過した。
未だ店内に変化はない。
店員に怪しい動きとかも全くなく、至って平和だ。
そして俺たちの方も……
「んん~~~~~~~~ッ!! やっぱりここのイチゴショートは最高ですぅ!」
調査そっちのけで満喫している者がいた。
幸せそうにケーキを頬張るソフィア。
てかワンホール分って……
よくもまぁ飽きずに食べられるものだ。
ソフィア曰くスイーツは別腹とのことだが、普段のディナーよりもよっぽど食べている。
元々小食な彼女だったが、喜びと欲を知ると、人ってこうまで変わってしまうとは……
「恐るべし……」
「ん、どうかしたのですかランス?」
「いや……沢山食べるのはいいことだけど、程々にな」
「はっ! そうでした! 今は調査中でしたね!」
「……もしかして、忘れてたのか?」
「そ、そんなことはないです……よ?」
「なんで疑問形なんだよ……」
諸君、これが後にこの国の頂点に立たれる人の姿だ。
普段は真面目でしっかりとしているソフィアでも心身共に乱れてしまうこの店のスイーツ。
とにかくソフィアがスイーツに完全攻略されてしまう前に次の行動に移らねば。
だが……
(手掛かりが全くと言っていいほどないな……)
さっきからどこかに仕掛けがないかさり気なく探ってはいるが、結果なし。
例のムキムキ店主も今日はいないようだし……
(俺の見当違いだったのか……?)
そう思い、半ば調査を断念しようか迷っていたその時だ。
「店内にいるお客様にお知らせ致します。当店は緊急事態宣言に伴い、14時を持って臨時休業とさせていただくことになりました。お客様にはご迷惑をおかけしてしまいますが、何卒ご理解のほど宜しくお願い致します」
厨房から出てきたウエイトレスが店内の中央に立ち、声を張り上げる。
内容は国からの要請で店を閉めるという報告だった。
時間を確認してみると、現在時刻は午後13時51分。
閉店まであと10分を切っていた。
「臨時休業? いきなりですね……」
「う、うん……」
ソフィアの言う通り、店じまいをするにはいきなりすぎる。
国からの要請があったとのことだが……
「可笑しいですね。国がいきなりそんな要請を出すとは思えませんが……」
「一応通話ガジェットがあるので、確認してみましょうか?」
「お願いします」
「分かりました。少々お待ちください」
一応店内とのことで、外に通話をしにいくとのこと。
通話用の魔道具を持った騎士は一度外に出ると、5分くらいで俺たちのいるテーブルへと帰ってきた。
「どうでしたか?」
「はい、一応騎士団本部を経由して情報を得たところ、そのような要請はしていないとのことで」
「と、なるとさっきのはウソということになりますね」
段々と見えてくる怪しい影。
時間はもう閉店まで5分を切っており、ウエイトレスの対応もあって気がつけば残っているお客は俺たちだけになっていた。
当然、俺たちの方にもウエイトレスさんがやってくる。
「お客様、大変申し訳ないのですがそろそろご退店を……」
「あっ、すみません。すぐに出ます」
俺たちは荷物を纏めると、テーブルで会計を済ませる。
「とりあえず、店は出ましょう。何か深い理由があるのは間違いありません」
ウソをついてまで店を閉める理由。
やはり何か黒いモノが息を潜めているらしい。
少なくとも、これで可能性はかなり高くなった。
「しばらくは外で見張っていましょう。何かアクションが起こるかもしれません」
「そうですね。そうしましょう」
軽く今後の方針を決め、店の外へ出ようとした――時だった。
「おう、ネェちゃん。コーヒー4つ、ブラックで頼むわ~」
ガラガラした声と共に店内に入って来る数人の集団。
だが見たところ客ではない。
「あ、あいつらは……!」
間違いない。
俺が前にアジトで見た連中だ。
しかもその一番最後尾にいるのは……
「ら、ランス……あの人って」
「ああ……どうやらビンゴだったみたいだ」
一番最後尾に歩いてきた男。
周りと同じローブを着ていてもひと際目立つその巨体からすぐに察しがついた。
「あの時の……ムキムキ店主だ」