川を渡ろう!①
今回は本編です!
「やっと動き出したわね。これは合流は少し厳しいかな」
コバさんとゆうり君を乗せた船は、もうだいぶ前に出発していた。私を乗せた船は、なかなか定員にならず、やっといま動き出した。
どこへ向かってるのかは分からないけど、海岸沿いを進んでいるので、私が後をつけた船と同じ所に向かっているようだ。ただ気になる事が1つ……。
この船には、私以外みんな子供が乗っている。いや、私も今の見た目だと子供なんだけど、それ以上に子供ってことだよ。大体、ゆうり君くらいの子達かな?それより小さい子もいるみたい。私がつけて見てきた船は、逆にみんな大人ばっかりで子供は居なかった筈なのに……おかしい。
しかも、何故だかみんな私に捕まっていて離れない。この中では一番年上だから、頼るのは分かるけど、話しをしたのが最初に私の元に来た女の子で、挨拶と怖いから捕まってていい?って聞かれて、了承したらこうなった。
一人にOKを出したら、『私もー僕もー』とやってきた。私が何かを言う前に引っ付いて来て離れない。まぁ、可愛いからいいけど……。これが、大の大人だったら遠慮無く船から落としてるね。大胆なセクハラって事だからね。
ようやく船が止まり、みんな降ろされた。訳がわからず、キョロキョロしていると船守りが指を差す。向こうの岸の方だ。始めに見てきた所より、向こう岸が近くなっている。
私は、なんだろう?っと首を傾げていると周りの子が「パパ!ママ!」と騒ぎ出した。どうやら、向こう岸にいるのはこの子達の親らしい。
『パパとママは向こうにいる。ここを頑張って渡れば会える。ここに居たら消える』
そしてまた、違う所を指している。そこには、私達よりも前に着いた子なのか、岸でただ泣いてるだけの子がいる。
「うわー!やだー、きえるのやだー。パパ、ママたすけてー」
と言いながら消えていった。他にも何人か指を差すと、そこにいた子は消えてしまった。
「ママー!」
「パパたすけてー」
子供たちはかなり怯えて、動けなくなってしまった。泣きそうな子までいる。
『パパとママに会いたければ渡るんだ』
船守りは、やる事はやったと言わんばかりの態度で、それだけ伝えて船着き場に帰ろうとしていた。私は、無情で簡単にこんな小さい子まで消す船守りにムカついていた。
子供たちを岸に置いて、船の後を泳いで付いていった。船はどういう仕組みなのか、流れに逆らって進んでいる、それなのに速い。私は、もともと水泳をやっていたので泳ぐのは得意だ。すぐに追いつき、船に飛び乗り、船守りに殴りかかった。
「大人はともかく」
ガゴっ!
「あんな小さい子まで」
ゴツっ!
「消す事ないだろう!」
バシっ!
「あの子達を元に戻せ!」
『手を離して戻れ。さもなくば消すぞ』
「やるならやってみろ。その前にボコす!」
ドカっ!
『お前じゃない。消すのはあいつ等だ。いいのか?』
そう言いながら船守りは、先程一緒に居た子供らを指差した。
「チッ」
私が消えるならまだいいが、なんの関係もない、あの子達が消されるのは、たまったものじゃない。だから仕方なく手を離した。
暫く睨みつけ、言われた通り子供たちの所へ戻ろうと船に足をかけたその時……
『消えた者は戻らない。消えたくなければ渡れ』
私が与えたダメージなど全く無いのか、普通に立って普通に喋っている。
「チッ」
(こいつは、いったい何なんだ?)
とりあえず、子供たちが心配なので、戻ることにした。バシャン……。戻るついでに一応、この川の安全確認もしておく。
特に何もなかったし、大人達が連れて行かれた所より、流れが穏やかだ。これなら、あの子達でも大丈夫だろう。一通り確認して、集まっている子供たちと合流した。
「おねえちゃん!だいじょうぶ?」
「ここ、なにかいるみたい」
「むこうにいこうとして、いけなかったこが、そこにはこばれてきた」
子供が指を差した所に、男の子が一人倒れている。息を確認しに行くと、大丈夫だった。ただ気を失ってるだけみたいだ。確認している間に、また一人男の子が運ばれてきた。
(嘘!さっき見た時は何も居なかったのに……)
男の子を運んできた物体を追い掛けて、また川に飛び込む。確認しとかないと、子供たちを渡らせるのに危険だ。
それは、泳ぐのが速く平べったいものだった。もう少し近づいてみると……。大きなヒラメだった。ヒラメは、自分のいた場所に戻ると、周囲の色と溶け込み、分からなくなった。始めから溶け込むのを見ていた私ですら、どこだったか分からなくなるぐらいの擬態能力。
ひとまず、大丈夫そうなので戻ることにした。その頃には、二人の男の子は目を覚ましていた。さて、どうするか。
「みんな、パパとママの所に行きたいよね?」
「うん…」
「あたりまえだろうー」
「パパーママー」
「いきたい!」
みんなとても元気に応えてくれた。溺れてた子も元気そうだ。ちなみに二番目に声をあげた子がその子だ。
「じゃあ、この中で水の中を泳げる子ー」
溺れてた二人の子が手を小さくあげた。まぁ、さっき溺れてたからね。仕方ない。経験があったから、行けると思って挑戦したのかな。でも、二人だけかー
「水に顔がつけれる子ー」
三人手が上がった。これは更にまずい状況だ。まだ10人ぐらい手をあげてない子が残っている。向こうまで50メートルぐらいあるよ。大人なら行けても、この試練この子たちには無理でしょう。難易度『鬼レベル』だよ。
(これを考えたの誰だよ!あっ、鬼か!鬼の子供は行けるって基準なのか?この子たちには、それこそ鬼畜の所業だろ)
・・・・
鬼をネタにしてアホな事を考える現実逃避な事は止めて、どうやって全員向こうに連れて行くか考えないとな。私が一人ずつ、連れて行ってもいいんだけど、それは有りなのか無しか。試さなきゃいけないんだけど……
「みんなで向こうに渡るためにお姉さんと一緒に、何回か溺れてもらわなきゃならないんだけど、誰か手伝ってくれる?」
私は、ちゃんと説明責任は果たすよ。子供だからって、騙して嫌な事を手伝わせるのは極力したくない。仕方のない時もあるけど、今はそんな時じゃないしね。
正直に話す私に、子供たちは皆嫌な顔をしている。それもそうだろう "一緒に溺れてくれ" なんて、そんな苦しいと分かってる事、やりたくないよね。大人の私でも嫌だもん……
あっ!今はまだ子供だった。ついつい、年齢を忘れてしまう。次は、なんて説明して手伝ってもらうかと、考えていると船に乗った時、話しかけてきた女の子が小さく手をあげてくれた。
「いいの?一緒に溺れるから苦しいかもよ」
一応、もう一度確認で聞いてみたら、ちょっと怯えていたけど、その子ははっきり言った。
「わたし、ぜんぜんおよげないし、くるしいのイヤだけど、むこうにいきたい!パパとママのところにいきたい!」
その女の子の言葉を聞いて、他の子も迷っている。
「よしよし、良い子だね」
私は頭を撫でてあげた。この子は、とても良い子だな。自分がやると名乗りを上げてくれた、泳げる子はいるけど、その子にだけ任せないで、自分がやる!と言ってくれた。
大人でも、出来る人がやれば良いと考える人は沢山いる。小説でも勇者がいるからとか……。勇者もよくやるよねー、そんな都合の良い人として扱われるのは、私は嫌だな。取り敢えずタダじゃやらないな、やるとしたら相応の報酬は頂くね。
「よし、じゃあやろうか。まずはそうだな、あそこにある板を浮かべて、君はそれに掴まってて、私はそれを引っ張って泳ぐから。身体の力を抜いてれば浮かぶから大丈夫だよ」
(後は紐か何かがあれば・・・)
少し離れた所に蔦を発見した。あれを編んでいけば多少は丈夫な紐になるだろう。その間、泳げる子に力を抜いて浮ぶ方法を教えて貰ってればいいかな。
「泳げる子二人とも来て!この子に身体の力を抜いて浮ぶ方法を教えてあげて、感じ的にはビート板に掴まって浮いてる様な!よろしく!」
私は言うだけ言って二人に任せた。直ぐに同じ長さぐらいの蔦を何本も採ってきて、丈夫になるように何重にも編み込んでみた。
なんとか出来た紐らしき物と板を結んで準備は完了した。後は向こうがどのくらい進んでるかだな。
子供たちの所に合流すると、一応は浮べるようにはなったらしい。さらにバタ足らしきものまで、やっていた。頑張った三人を褒めてあげて、頭もそれぞれ撫でてあげた。女の子は嬉しそうに、男の子達は恥ずかしそうにしていた。
12時にもう一話更新します!