異世界14日目 警備隊本部でお礼と交渉
遅くなってすみません
「あっ!こんにちは〜カイルさん。元気だった?」
「カイルさん、こんにちは。お邪魔しています」
「なっ!アリスちゃん!?目が覚めたの!?良かったぁ……。マリナさん、こんにちは!」
「カイルさん心配かけてごめんなさい」
「無事で良かったよ」
私達が和やかに挨拶を交していると、放置されてたマスト隊長が会話に入ってきた。
「あー、カイル。お前を呼んだのは、暫く応接室でシスターマリナの相手をしててくれないか?何か、お茶菓子とか出して待っててくれ、私はちょっと、この子に今回の事を、お説教するから……」
「えっ!お茶菓子!?私もそっちに行く!」
そう言って、ソファーから立ち上がろうとしたら机越しにマスト隊長に腕を掴まれた。
「君はまだだ……。カイル、呼ぶまでシスターマリナをよろしく頼むぞ」
「はい!分かりました。マリナさん、こちらです。さぁさぁ、行きましょう!美味しいお菓子が有るんですよ」
「あら、そう?じゃあお言葉に甘えようかしら」
「あっ……私も………!」
マリナさんもお菓子に弱いのか、私を置いてさっさとカイルさんの所まで移動していた。
ガチャッ
自分が呼ばれた理由を聞いたカイルさんは、ちょっと嬉しそうに、マリナさんを連れて出て行ってしまった。出ていく前に私を見て、"説教頑張れ"って握り拳を作ってジェスチャーしていった。
(あぁ……お茶菓子いいなぁ〜)
ふぅ〜〜
マスト隊長が盛大にため息を吐き出して、私の腕を解放してくれた。
「さてと……じゃあ改めて詳しい話しを聞かせて貰おうか」
「…………はい」
私がお茶菓子が食べれなくて拗ねていると、それを見たマスト隊長が呆れた顔で慰めてきた。
「後で菓子は持って帰っていいから、まずはこっちの話を済ませるぞ」
「本当ですか!?ならさっさと終わらせましょう!何が聞きたいのですか?」
(その一言で元気になった!早く終わらせようよ!早く!早く!何でも聞いて!)
「食い意地の張ったやつだな……まぁいいか。俺が聞きたいのは森での事だ」
「あっ!そうだ!さっきの茶番みたいな質問のやり取りは一体何なんですか?凄く面倒くさかったんですが・・・」
私はさっきの出来事に対しての苦情を訴えた。
「あれは、仕方ないだろう。お嬢ちゃんが起きたならカイル経由で俺の所に来ると思ったら、直接ここにシスターマリナと訪れたんだからな。森での詳しい話しを聞こうにも、彼女がどこまで知ってるか分からなかったから、あんな感じで聞いたんだがな……それとも、正直に森での事を質問した方が良かったか?」
「文句を言って、すみませんでした。マスト隊長の機転で、森に行ったのがバレずに済みました………。ですが!!マリナさんを連れてくる事になったのは、隊長さん達のせいだと思うのです」
「……どういう事だ?」
「私は勿論、1人で来ようとしたのです。ですが、最近人攫いがあるから1人だと危ないと言われて、一緒に来たんです。そこの所はどうなんですか?人攫い増えているんですか?」
私が1人で来れなかったのは、この街の治安が良くなかったから、いわゆる警備隊の不手際が原因だと訴えた。
「くっ……人攫いかは断定できないが、何人かが行方不明だと報告を聞いてる」
「それは、私みたいな子供ですか?」
「いや、無差別だ。男も女も子供も行方不明だと聞いている。だから取り敢えず1人にはならない様にと、暗くなったらさっさと家に帰る事を住民には伝えている。我々も巡回を増やして目を光らせている」
「犯人や失踪の手掛かりは無しですか?」
「あぁ……。ただ、居なくなった者たちが夕方に、人気が無い所で1人でいた可能性が出てきている。多分そこで何か会ったのだろう」
「なるほど……。じゃあ人気の無い所は行かないように気をつけます!」
(まぁ、私の方でも何か分かったら教えてあげよう)
マスト隊長は警備隊長として、手掛かりがあまりにも無いことが悔しいのか、苦悶の表情をしている。
「そうしてくれ……。それで話しを戻すが、やっぱり森に行った事をシスターマリナに話していなかったのか。何故だ?何かやましい事があるのか?」
さっきまでの雰囲気が変わって、詰問タイムになったみたい。私への質問に対しての圧が凄い。"正直に話せ"って言う圧が!
「マリナさんには、始めに質問された内容で話してますので、それでお願いします。真実を話さなかったのは、心配をかけたく無かったからです」
「・・・報告を見る限り、随分と森に行きたそうだな。なんでだ?」
「私の計画の為に、どうしても森に行きたかったんです」
「ほう〜……計画ね〜……それはどういったものか教えてくれるか?」
室内でいきなり凄い殺気が起こり、マスト隊長が目で射殺さんとする程、睨まれた。小心者なら、それだけで怯えるだろうけど、私は全然なんともなく、普通に答える。別にやましい事をしてる訳じゃ無いもんね。
「別にいいけど……教えたら私1人で森に行くのを許して欲しいなぁ。それか、特例で今すぐ冒険者にして欲しい!」
「・・・まずは、計画とやらを教えろ」
「ん?別に大した計画じゃないよ。ほら、ウィズホルン教会って孤児院もやってるでしょう。私もそこでお世話になってるんだけど……」
「………話しを外らすな。それで森に行く意味が分からん。お嬢ちゃんの計画とは……「外らしてないよ!いいから、最後まで聞いてよ!」
「・・・・・」
ここまで来たら、私はもう今の現状を誰かに愚痴りたくて、愚痴りたくてしかたなかった。
「ウィズホルン教会でお世話になっているんだけど、食事が固いパンとスープのみ!そしてたまに貰った肉!いや、食べれるだけで有り難いんだけど、育ち盛りの子供が沢山いるのに毎回それって!!だから、森に行って魔物を狩って肉を沢山手に入れようと思って……だから行きたかったの!」
「・・・森に行きたい理由は分かった。それがお嬢ちゃんの計画か?」
「私の計画は、お世話になったウィズホルン教会のボロボロの家を建て直して、子供達と沢山美味しい物を食べたいの!」
(まぁ他にも、ウィズホルン教を流行らせなきゃだけど、そこは言わなくていいよね)
"どうだ、偉いだろう"って感じに胸を張りながら言い切る。それをマスト隊長は、目をまん丸にして驚いた顔をしていた。そのまま暫く固まっていたので、こちらから話しかける。
「私の計画を話したんだから、冒険者登録してよ!」
「それは駄目だ」
「えー、教えたのにー。嘘つきー。じゃあ、森に行くのを見逃してよ!」
「・・・本当にそれが目的なのか。森に行って魔物を狩って、その肉を教会に持っていくと……」
「そうだよ!ちゃんと私の話しを聞いてた?毎日固いパンとスープだよ!可哀想だと思うでしょう?だから、森に行く許可を!」
「・・・それには条件がある。まず、俺の質問にちゃんと答えて貰う。偽りは無しだ」
「んー?どんなの?」
「お嬢ちゃんは、魔法が使えるだろ?それで魔物を狩るって事であってるよな?」
「うん……」
「じゃあ、森に行ってた3日間でどのくらい魔物を狩った?どうせ、あの小さい生き物の空間魔法に入ってるんだろう?」
「う〜ん、ちょっと待ってて……ウルフが100匹、ホーンラビットが……「おい!ちょっと待て!ウルフを100匹狩ったって言ったか!?」
「うん、だいたいその位」
「俺は嘘をつくなと言ったが?」
「嘘はついてないよ。なんなら、ここに全部出してもいいよ。サスケ!ここにウルフを全部出して」
私はサスケを抱き上げて、指示してる風を装って、自分でウルフを出す。絨毯の上は汚れちゃうので、板張りの所へ行ってだしてあげた。
ドサッ ドサッ ドササササッ
「分かった!もういいから仕舞え!」
次々と出てくるウルフの山を見て、驚愕の顔を浮かべながら呆然としていたのに、ウルフの山を3つ作った所で慌てて止められた。
「もういいの?じゃあサスケ、全部回収しといて」
ジジジ・・・・
「これは……ウルフ共に狙われてるのは、それが理由か」
「ん?どういう事?私、狙われてるの?」
「お嬢ちゃんが倒れた後、ウルフが4匹残っていて、3匹が連携で俺をお嬢ちゃんから離して、残りの1匹が倒れたお嬢ちゃんを狙っていたから、ちょっと無茶して屠ってやったわ」
「げっ!何それ!こわ〜、生きてて良かった〜」
「俺に感謝しろよ」
「マスト隊長ありがとうございます!」
「・・・感謝しろは冗談だったんだが……まぁいい……それで、後は何を狩ったんだ?あぁ、出さなくていいから報告だけな」
えっ!出さなくていいの?私がサスケをまた抱き上げたのを見て、察知したらしい。
「ホーンラビットが120、ゴブリンが80、フライングスネークが40かな?」
(まだ、イノシシとかミミズとかカタツムリとかいるけど、面倒だからいいよね……)
「・・・・はぁ〜」
一応報告はしたけどため息が聞こえてきた。そちらをみたら、頭が痛いのか手で頭を抱えて、俯いているマスト隊長がそこに居た。
「その量の魔物は、この3日間で狩ったのか?」
「ん?そうですよ。取り敢えず、目に付いたやつは全部狩りました」
「最近、森の魔物が少なくなっていると報告がきてたが、お嬢ちゃんが原因か……少しは加減して狩れよ……」
「いや〜、だって今度いつ森に行けるか分からないから、狩れるだけ狩ろうと思って……」
「お嬢ちゃんのその行動により、新人冒険者が依頼遂行の為に、魔物を探して森の奥深くまで行ってしまう事も考えられるんだぞ!」
「っ……!……すみませんでした!」
マスト隊長の話しを聞いて、自分が森で会った冒険者の事を思い出していた。
(確か、ホーンラビットを探してあそこまで来てしまったって言ってたっけ、そんなに強く無さそうなのに、だいぶ森の中まで来てたもんな。あれ私のせいだったんだ。他にも同じ目にあった冒険者がいたかも知れない……)
私は、やらかしてしまった事の大きさを考えて、かなり反省をした。ずっと、俯いたまま下をみていると、マスト隊長から声をかけられた。
「何故、魔物の狩りすぎが良くないのか分かったならいい、これからは気をつけるように!」
「はい…………これから?」
「お嬢ちゃんの事情とかを考え、いくつかの約束を守るなら、こちらも少しは譲歩しよう」
「それは……一体……」
「まず1つめ、さっきも話した。街から出てすぐの所で魔物を狩りすぎない事。2つめ、お嬢ちゃんが森に行けるのは、カイルが受付の担当の時だけだ。奴には伝えとく。それと、お嬢ちゃんが倒れたのは魔法の使い過ぎが原因か?」
「……まぁ、そうですね」
「なら、自分で加減が出来るな。3つめ、倒れるまで魔法を使うな。森で1人で倒れたら、それこそ最後だからな。無理はするな。それが守れるなら、森に行く許可をやる」
「はい!守れます!それで良いので、お願いします!隊長の広い心に感謝します」
私はすぐに、この話しに飛びついた。暫く森に行く予定はないけど(文字通り狩りすぎてストックが沢山あるから)それでも、たまに森に行けるチャンスがあるなら、約束しない訳には行かない。
「よし、ちゃんと守れよ」
「了解です!」
「他にも聞きたいことや話したい事はあるか?」
「えーと、あっ!1つありました。森で言ってた冒険者達のいる所って分かりますか?このあと挨拶に行こうと思っているのですが……」
「スタバの希望か?彼等は、東の詰め所近くにある月影荘って言う宿屋に居るはずだ」
「覚えました。ありがとう御座います」
これであらかた話が終わったのか、隊長が椅子から立ち上がり、扉の方に行こうとする。やっぱり足を少し引きずっている。
「あっ、そう言えばあの木どうしました?」
「あの木ってトレントの事か?」
「そうです!それです!ちゃんと部下さん呼んで持って帰れましたか?」
「あぁ、もう街に近ったから、この笛を吹いて部下を呼んだよ。簡単な指示しか出来ないが、かなり便利なんだぜ」
そう言って見せてくれた笛は小さい金属の棒に紐が通してある物で、パッと見ただの首飾りだと思っていた物だった。
「なるほど!ちゃんと回収されたならいいです。有意義に使って下さいね。そろそろ、マリナさんの所に行ってお茶菓子貰って良いですか?」
「あぁ、もう話しは終わりだ」
ガチャッ
そう言って扉を開けてくれた。私は開けてくれた扉をくぐり、マスト隊長を振り返る。
「あの扉にシスターマリナがいるから一緒に帰ると良い。それと、カイルを呼んでくれ」
マスト隊長が教えてくれたのは、ここから2つ離れた扉だった。
「あそこですね、分かりました。今日は、色々と話せて良かったです。森に行く件はよろしくお願いします」
私は笑顔で右手を差し出す。それを見てマスト隊長も、わざわざ目線を合われる為に屈んでくれて、握手をしてくれる。
「こちらこそ話せて良かった。森の件は何とかするから、お嬢ちゃんも約束守れよ」
私達は笑顔で握手を交す。マスト隊長は、終わったと思って手を離そうとしたので、もう一度握り直して、少しこちらに引き寄せて足に触る。
「なっ!危なっ」
『ヒール』
「じゃあ、またね。隊長さん!」
私は、固まっているマスト隊長を置いて、教えて貰った扉の中に入ってマリナさんと合流する。中に入ったら、カイルさんとマリナさんが楽しそうに、クッキーを摘んで話していた。
「あら?お話し終わったの?」
「うん、終わった……」
私の視線は、皿に数枚乗っているクッキーに釘付けで、マリナさんの返事には何とか答えた。その様子をみて、怒られて元気がないのだと思ったカイルさんが、新しいクッキーを出してくれて、手招きされた。
「アリスちゃんもこっちに来て、クッキー食べな。自分は一度隊長室に行きますので、食べたら適当に帰って下さい。アリスちゃん、無事で良かった。マリナさん今日は楽しかったです。それではまた……」
私は直ぐにマリナさんの隣に座って、出されたクッキーを1つ2つと口の中に入れていった。前世振りのお菓子は、とても美味しかった。
後、残り6枚になった所で食べるのを止めて、紙に包んでインベントリに仕舞っといた。いっぺんに全部食べるのは勿体無い。そのうちゆっくり食べよう。その光景をニコニコしながら見ていたマリナさんが話し掛けて来る。
「クッキーはもういいの?じゃあそろそろ行きましょうか」
「うん!ご馳走様でした!」
ガチャッ
これで1つ用事が終わった。後は、森で会った冒険者達に会って、カミューさんの所で魔物を解体してもらわないと・・・。来た道をマリナさんと戻り、街の中央の広場まで戻って来た。
次回更新は、ちょっと後になりますm(_ _)m