閑話 マスト隊長視点3
・
・
・
・
ーー 現在(森の中)
(この辺りが多分、彼等が言ってた所だと思う。何か罠っぽい跡が残っているし……。これは落とし穴か?)
俺はこの周辺を探してみる事にした。何かしらの形跡か、もしかしたら遺品があるかも知れないと思って……。
ガサガサッ
「ってか、森の……木………ズルいと思う!」
ガサッ
暫く歩いていると、ガサガサと音が聞こえてきた。それに話し声らしきものも……。気配を消しながら覗いてみると、そこには宙吊りの探し者がいた。
生きて見つかった安堵感と、宙吊りで見つかるという間の抜けた絵面で、何をやっているんだと拍子抜けしていた。助ける為に更に近付くと異変に気付いた。
(あれは!もしかしてトレントか?なんでこんな所に!ってか、お嬢ちゃんはいつから捕まっているんだ?早く助けないと!)
『ストーンハン「おいっ!お譲ちゃん平気か!?」
「マスト隊長なんでここに!?」
俺が剣を抜いて、お嬢ちゃんに声をかけると元気な声が返ってきた。一先ず生きてて安心した。
「良かった。まだ、生きてるみたいだな。すぐ助けてやるから待ってろ!それにしても、こんな所にトレントが居るなんてな……」
俺は身体全体に身体強化の魔法を施し、トレントに向って走り出す。両手で力いっぱいの一閃をトレントにくらわせて、そのまま身体を捻って二閃目をお嬢ちゃんを捕えている蔦に放った。
ガッ バキッ ズドンッ
「わっ!」
一閃目で木を倒し、ニ閃目で蔦を切った。落ちてくるお嬢ちゃんをキャッチして、剣をしまう。
(まだ、弱いトレントで良かった。じゃないと俺1人じゃ、もう少し苦戦していたな)
「大丈夫か?」
「はい!マスト隊長のお陰で助かりました。ありがとうございます」
「お嬢ちゃんがまだ生きてて良かったよ。何故かこの辺魔物が少なかったけど、そのお陰でもあるのかな。無事で良かった。さぁ、街に帰るぞ」
「あの魔物は?」
(ん?トレント?もう倒したから大丈夫だけど、あんな目に会っていたし恐いのかな?)
「あれか?倒したからもう恐くないぞ!あれはトレントって言って、木に化けて近づいた生き物を捕まえて、生気を捕食していく魔物だ」
「あのままでいいの?」
「あのトレントか?良い素材になるから本当は持って帰りたいが、今回は俺1人で来たから勿体無いが置いて行くかな」
歩き出そうとした足を止めて、どうしても倒したトレントを見てしまう。樹齢が長いトレントは、杖などにすると魔法の伝達が良く、魔法使いなら自分の力を何倍にもして出せるようになる。今回の様に若いトレントなら、しなやかだけど頑丈な弓になる。建築素材としても申し分ない。勿体無いけど……。
「そんなに良い物なら、助けてくれた御礼に運びますよ」
「運ぶって、お嬢ちゃんがかい?」
「はい!ていうか、私じゃなくてこの子ですがね。サスケ!」
「ん?なんだ、その魔物は・・・どこに居た?」
(この生き物は何処から出てきた?全く気配を感じなかった。それにトレントを持っていくってどういう意味だ?)
俺は剣が直ぐに抜ける様に構え、突然出てきたこの得体の知れない生き物に警戒しながら、お嬢ちゃん達の行動を観察する。
「サスケって言います。サスケ!あれ回収してきて」
「チチチ・・・」
スッ……
「なっ!?空間魔法だと……」
「サスケの事内緒でお願いしますね。助けてくれたから、貴重な素材を運ぶ為にサスケの能力を明かしただけですから。詰め所近くまで運びますから、後は上手く誤魔化して部下たちを呼んで運ばせて下さい」
「そいつは何ていう魔物だ?害はないのか?」
「種族は分かりません。けど、何も害は無いですよ。物を出すと仕舞うしかしません」
(出すと仕舞うしか出来ないって言っても、あんな重くて大きいのを仕舞ったのか!?空間魔法が使える者や物は、貴重だからあんまり詳しくないが凄いな)
「攻撃は?それこそ、こんな貴重なもんなら持って行かれるだろう?」
「しません。この子は私から離れないので大丈夫です」
「いや、そんな事言っても……「離れないので大丈夫です」
その返答と眼差しに、何故か身震いがした。これ以上は、聞かない方がいいと……。俺とお嬢ちゃんの間に微妙な緊張感が生まれていた。
「さぁ!街に戻りましょう。この子は安全ですから」
(この生き物は一体何なんだ?害は無さそうだが、空間魔法という貴重な魔法が使える魔物なんて聞いた事も見た事もないぞ。その魔物を持っているこのお嬢ちゃんも何なんだ?)
さっきの出来事を自分の中で、色々と考えていた。本当は森の中で周りに集中していないなんて命取りなんだが、あまりの衝撃に考えずにはいられなかった。
「マスト隊長はなんでここに?魔物狩りですか?」
「んな訳ねぇ!!はぁ〜〜〜」
(さっきは、トレントに殺られそうだったのに、こいつは何でこんなに呑気なんだ……そういえば、仲間はどうした?)
「そう言えば、お嬢ちゃんの仲間はどこに居るんだ?」
「仲間?サスケの事?」
「サスケって、さっきの魔物の事か?」
「そうだけど?」
「他には居ないのか?」
「?」
本当に言ってる意味が分からないという様に俺の肩に乗りながら首を傾げている。
(……これは……嘘をついてる顔じゃねぇな。って事は、2日間森の中で1人でいたのか。何をしていたのかは知らないが、前に魔法で何匹もウルフを倒したのが、このお嬢ちゃんだと考えれば不可能な話しじゃないな)
「はぁ〜〜〜〜〜、お嬢ちゃん他の冒険者が心配するから、1人で行動はするんじゃない」
「冒険者が心配って……誰ですか?まさか、ゲノムって人がいる所の人達ですか?」
(ゲノム?誰だそ……あぁ、詰め所で揉めた奴等の中にそんな名前があったな。このお嬢ちゃんと一緒に森に向かったんだっけ?)
「そいつ等じゃない」
「ですよねー!彼らは街に戻りました?」
「その日のうちにな。戻って来た時にお嬢ちゃんが居ないから、その事に気付いたカイルが質問しまくってたけど、"はぐれた"としか聞けなかったみたいだ」
「なんか、すみません……」
「一応聞くが、本当にはぐれたのか?」
「はい。そうです。はぐれました」
「・・・そうか」
(嘘だな。森で何がしたいのか知らないが、詰め所で森に行く方法を聞いていた事から、一応顔見知りなった奴等の手を借りて、森に来たってとこか……)
俺は多分合っているだろうっていう仮説を立ててから、今朝会った冒険者達の話しをする。
「お嬢ちゃんを心配してた冒険者は、男女4人組の新米の冒険者達だ。会ったんだろ?」
「そう言えば森で会いました!無事に街に戻ったんですね」
「昨日の夕方ぐらいに戻って来たらしい。その時に詰め所で、アリスって子供が帰って来てるのか聞いて行ったみたいだ。その時もカイルが担当していて、お嬢ちゃんを知っているあいつが"まだだ"と答えたら、彼等かなり心配をしていたみたいだぞ」
「えっ!そんなに?森でちょっと会っただけなのに・・・」
「それでもだ。部下の話だと、門が閉まるまで1人づつ代わりばんこに詰め所に来てたらしいぞ。そいつ等を見兼ねて、今日休みだった俺がお嬢ちゃんと会ったと言う場所を彼等から聞いて、探しに来たんだ」
「手間と心配をおかけして、すみませんでした……。戻ったら彼等にも謝ります」
「そうしろ、っとそろそろ詰め所に近くなってきたぞ」
街を囲っている外壁が見えてきたので、お嬢ちゃんに教えてやる。
(お嬢ちゃんを見付けて連れ帰ってくるまで、魔物に一度も会わないとは……。森で何かが起こっているのか?)
「じゃあ、さっきのトレントこの辺りに出しますよ」
「おっ、おう」
「サスケ!ここにトレント出して」
ドンッ
少し浮いた位置から出たのか振動が起こった。
「あっ、部下への説明お願いしますね」
「あ、あぁ……」
目の前にいきなり、さっきのトレントが出てきていた。その光景が非現実的過ぎて、思考が固まった。
「マスト隊長しっかりして下さい!頼みま・・・・」
お嬢ちゃんに名前を呼ばれて思考が現実に戻ってきたが、今度はお嬢ちゃんが固まった。そして、真剣な表情をしながら質問してきた。
「マスト隊長!子供1人抱えたままでウルフに襲われたら、何匹ぐらいなら勝てますか?」
「いきなりどうした?」
「いいから、早く答えて下さい」
「子供を抱えての戦闘なら・・・安全を考えて3匹かな」
「分かりました。もう少ししたらウルフが沢山来るので、そしたら私が魔法を使って数を減らしますので、後はお願いします!それと、私がダウンしたら教会に運んで、マリナさんに前回と同じって事を伝えて下さい!」
「なんか色々と訳が分からないんだが・・・」
「私が倒れたら教会に運んでくれればいいです!そろそろウルフが来ます!」
「なんで、そんな事が分かる?」
よく分からない質問に答えつつ、いつもと違って切羽詰まった様子のお嬢ちゃんを地面に下ろして、一応剣を構える。
ガサッ ガサッ ガササ・・・ガルル
「こいつら、いつの間に!」
さっきまで魔物が1匹も居なかったのに、お嬢ちゃんが言った通り、あっという間にウルフの大群に囲まれた。流石に俺1人じゃ対処出来ない数で、直ぐに詰め所までの距離を考えた。
(詰め所まで行ければ、何とかなるが、お嬢ちゃんを抱えてこの距離を行けるか?)
取り敢えず剣を抜いて、色々と打開策を考えていたのに、お嬢ちゃんの声で全て霧散した。
「マスト隊長!さっきのお願いしますね!」
『アースニードル』『エアーカッター』
ギャウンッ ガッ ドサッ
「お嬢ちゃん!大丈夫か!?くっそ……」
強力な魔法を使ったせいなのか、いきなりお嬢ちゃんが倒れた。ウルフ共は、一度に大量の仲間を失い恐怖と困惑で錯乱状態だった。その隙に、倒れたお嬢ちゃんの安否だけ取り敢えず確認した。
(苦しそうだが呼吸はしてるな。待ってろよ。色々と聞きたいが、まずは残りを片付けないとな)
俺は改めて剣を構えなおし、一気に片をつけようと身体強化の魔法を全身に使った。そして、残っていた5匹に向かって集中する。
グルル…… グル……
ガウッガウッ
4匹が唸りながら、俺達の周りを彷徨っていて、1匹はお嬢ちゃんの魔法が外れて、足に当たったらしく動かないで吠えてる。
普通なら、ここまで一気に数が減れば、残りは逃げて行くのに、何故かこいつ等は諦めずにまだ狙ってくる。足元には、倒れてるお嬢ちゃんがいるので俺は防御に徹する。相手が最初に動き出すのを待って、返り討ちにして始末する。
ワォーーーン
怪我してる1匹が吠えた途端、4匹が一斉に襲い掛かってくる。2匹なら兎も角、4匹まとめてだと流石に防御ばかりで返り討ちまで出来ない。そのまま暫く攻撃を躱していると、目の端に倒れてるお嬢ちゃんが目に入った。
(くっ……いつの間に、あんなに離されたんだ?)
そう思って、お嬢ちゃんの方に戻ろうとしたら、足を引きずってる1匹が少しづつ近付いてるのが見えた。
(狙いはそっちか!)
俺は、更に足に身体強化の魔法をかけ、無理やり4匹の連携攻撃から抜け出し、お嬢ちゃんのもとに駆けつけ、近づいて来ていたウルフの首を跳ねた。
その後、急いでお嬢ちゃんの元に戻り追撃を警戒していたが、さっきの攻撃が嘘のように4匹は襲い掛かってくることは無く、首を跳ねた仲間の首を加えて、森の奥に消えていった。暫く警戒したが、何も起こらず剣を仕舞う。
「あいつがリーダーだったのか?初めに負傷していてくれて助かったよ。アイツ等お嬢ちゃんを狙っていたけど何だったんだ?痛っ……」
無理やり身体強化の2重がけをして、筋肉にかなりの負担をかけたから、筋を痛めてしまった。これで明日からは、まともに動かすのもキツイだろう。動けるうちにお嬢ちゃんを抱き上げて、首に下げていた笛を吹いた。
ピィーー ピィー ピィーーーー!
これで暫くしたら、隊の仲間がここに来てくれるだろう。それまで、これからやる事を頭で整理しとく……。
少し前に出してくれたトレントを上手く誤魔化して部下に回収させなきゃだし、視界の端でさっきから小さい物体が、ウルフの死体を回収しているし、お嬢ちゃんの魔法や何故ウルフに狙われてる事とか色々と聞きたい事もある。
「だから、早く目を覚ませよ……」
前回はかなり寝込んだと聞いた。それがあの強力な魔法のせいなのかは分からないけど、腕の中で息苦しそうに呼吸をしているお嬢ちゃんにつぶやく。
次回更新はまだ分かりません!
でも、アリスちゃん本編に行きます!