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閑話 マスト隊長の憂鬱

マスト隊長視点です

「はぁ〜〜、今日はこんなに良い天気なのに、この後の事を考えると憂鬱だな〜」


 毎朝の日課で街中を走りながら、そんな言葉がつい声にして出てきてしまった。昨日、カイルがしてきた報告が原因だ。



〜 昨日 〜


コンコン


「誰だ?」


「西担当のカイルです」


「入れ」


「失礼します。マスト隊長!お疲れ様です」


 警備隊の宿舎に戻って、着替えているところにカイルがやってきた。


「何かあったのか?」


「いえ、ただ報告した方が良い内容がありましたので」


 着替えを終えて、イスに座り改めてカイルの話を聞く。


「どんな内容だ?」


「昼に教会のマリナさんが来て、例の子供が起きたそうです」


「……そうか、何か話したか聞いたか?」


「はい。親の事や森にいた事を聞いたらしいのですが、分からないと答えたそうです。それで孤児と言う事で暫く教会が面倒をみるそうです」


「全く、あそこの教会もよくやるよ」


「凄いですよね。尊敬します」


「それで?いつ、その子供と話すんだ?起きたばかりじゃ、2日後とかか?」


「いえ、明日の朝、西の詰め所に2人で来るそうです」


「……それは……大丈夫なのか?昨日まで意識無かったのに……」


「自分も聞いたのですが、受け答えもしっかりしているし、ちゃんと食事も食べていたそうなので大丈夫だと……」


「大丈夫ならいいんだが、報告ご苦労。下がっていいぞ」


「はい。失礼します」


 そう言って、一礼をしてカイルは部屋から出ていった。1人になったのを確認してから、俺は机に突っ伏した。


(明日か〜、まぁ……カイルが報告した森での内容が事実なら、確認は早いに超したことは無いけどな。今日は早く休まないとな)



            ・

            ・

            ・

            ・



〜 現在 〜


 日課を終えて宿舎へ戻り、食堂で朝食をとってから部屋に戻った。今日の予定を調整する。


(今日の朝に西の詰め所に来ると言っていたから、対処の事も考えて、夕方まで空けとくか。残りは明日やろう)


 準備を済まして、西の詰め所へ向かう。いつものように詰め所には、かなりの人が並んでいた。平和だ・・・。


 詰め所に着くと、部下たちが挨拶をしてくる。


「おはようございます。マスト隊長!」


「変わりはないか?」


「はい。今の所は何の問題も起きておりません」


「そうか。夜からご苦労、交代まで頑張れよ」


「はい!」


「カイルはどうした?」


「ついさっき、シスターマリナが来たので詰め所の中にいます」


「……そうか……ちょっと見てくるかな」


(よし・・・行くか!)


 俺は、改めて気を引きしめ詰め所の扉に向かう。中から話し声が聞こえた。ちょうど、お互いの挨拶が終わって、質問に入る所だった。俺は、気配を消して話に集中する。


「えっと……それで……。既にマリナさんからも聞かれてると思うけど、此方も報告しなくちゃいけないから、同じ様な質問もあるかも知れないけど、答えてね。マリナさんにも質問があるので答えてください。」


「「はい」」


「まずは、アリスちゃんからね。お父さんとお母さんは?なんで、森に居たの?」


「お父さん、お母さんは分かりません。気が付いたら、あそこに居ました」


(それは、報告通りだな。だが、本当か?)


「……そうか。ここの街や他の街に居た記憶は?」


「全然……ここには初めて来ました」


(街にいた記憶が無いのなら、村とか集落?他の可能性もあるな・・・)


「……アリスちゃんとマリナさんは元々知り合い?」


「いえ、全然……初対面です」


「そうね。あの時、森で初めて会ったわね」


「なのに、アリスちゃんの面倒をみていると?」


「ウィズホルン教会は、元々そうですわ。孤児の子を預かり育てる。アリスちゃんも親や家がないのなら、例外ではありませんわ」


(シスターマリナは、元からそう言う性格だからいいとして、赤の他人を助けた?10匹のウルフに囲まれた、あの無謀な状況で?あの子供はいったい何を考えて・・・)


「分かりました。これで終わりで……(ったく、マジかよ!)」


「お?この子がカイルの言っていた子供かな?」


 話が終わりそうだったので、部屋の中に乱入した。


(全く、まだまだ色々と聞くことがあるだろうが……。カイルは後で説教だな。さてと・・・)


「話はもう済んだのかな?」


「はい!後は報告書にまとめるだけです!」


「……そうか。なら、ここからは個人的に、そこの子と少しお話をしたいから、カイルとシスターマリナは、席を外してくれるかな?」


「あっ!私も是非隊長さんとお話ししたいです。聞きたい事があります」


(俺に聞きたい事?なんだ?)


 2人が出て行ったのを確認してから、イスに座る。もちろん、何時でも殺れる間合いを保ちながら・・・。


(報告通り、まだ2〜3歳の子供じゃないか。これなら、魔族だったとしても俺1人で殺れるな)


 俺は警戒しながら、遅れを取らないように、観察をしていった。


「それで?君の聞きたい事って何かな?」


「私はアリスっていいます!よろしくお願いします!隊長さん?のお名前を聞いても?」


「あぁ、挨拶が遅れて済まない、マストと言う。この街の警備隊長を務めている」


「マスト隊長……覚えました!それでは・・・年齢はお幾つですか?彼女さんは居ますか?」


 まさかの内容だった。気を逸らす為の作戦とも思ったけど、顔を見る限り本心の質問だと思った。今まで気を張っていた分どっと疲れた。


ガクッ!はぁ〜〜


「27歳で彼女いないけど何か?」


(なんで俺は、子供にこんな質問されてるんだ?)


「いえ〜、身体結構鍛えているんですね!」


「そりぁ、当たり前だろ。この街を魔物から守らなきゃいけないからな」


「でも、カイルさんはそんなにじゃないですよね?ってか、あれ?マスト隊長……話し方……」


「部下がいないから、もうこっちの喋りでいくわ。なんか疲れた。カイルはまだ、鍛え方が足りないからなぁ〜」


 部下がいないので繕った喋り方を辞めた。


「なるほど……。マスト隊長!今の話し方の方が合ってますね。カッコイイですよ」


 こんな子供でも、正面からカッコイイと言われて、嬉しくない訳わない。恥ずかしくて、後頭部をガシガシとかいた。


「そう言われると、嬉しいな」


「出来れば私を呼ぶ時は、"お嬢ちゃん"呼びでお願いします!」


「お嬢ちゃん?」


「はい!是非それで!それともう1つお願いがあります。私に何かお礼の言葉を言う時に"サンキュー"でお願いします!」


「サンキュー?それは、どういう意味なんだ?」


「ありがとうって意味です!それでお願いします!」


「分かった。分かった。それで?他に、お嬢ちゃんが聞きたい事は?」


「今は、もう大丈夫です!」


(さっそく、呼んでみたら満面の笑みだな。少しは打ち解けてきたか。ならそろそろ、本題にいくかな)


「じゃあ、次は俺からの質問」


「はい!何でもいいですよ!」


「お嬢ちゃん、魔法使えるよね?それもかなり、高度なやつ……」


「ん?魔法は使えますけど、高度かどうかは分かりません。他を見たことないので・・・」


(見たことないのに、魔法が使えるのか?)


「そうか。……じゃあ次の質問な。気が付いたら森だったんだよな?両親も分からないと・・・」


「はい。そうです」


「じゃあ、……あの森に何日居た?」


「え〜と……」


(こんな子供があの森で何日も過ごせてる時点で可笑しい)


 魔族の可能性が上がったので、俺はまた何時でも殺れるように身構える。


「……言い辛いのか?」


「いや、ちょっと待ってください。今、思い出してるので・・・」


「・・・答え辛いなら別にいいぜ。今度は簡単な質問にするからさ……。お嬢ちゃんは魔族か?」


「魔族?ってなんですか?」


「・・・・・」


 子供でも分かるように、単刀直入に聞いたのに、返ってきた答えは知らない。しかも、顔を見る限り本当に初めて聞くって感じだ。仕方ないから説明してやる。


「魔族ってのは、人の姿をしていて、魔力が高く欲望に忠実で、人を玩具程度にしか見ていなく、殺すのが好きな奴等の事だ」


「・・・てか、かなりヤバイやつじゃん!ジャンキーだそれ!この街には、いないですよね?」


(ジャンキーってなんだ?俺の思っていた反応と違うんだけど・・・。普通こんな説明を魔族本人にしたら、高笑いをして、本性をみせるんだけどな)


「……あぁ、今のところ不審死は無いから、この街にはいないのだろう」


「あぁ〜、よかった〜」


(本当に安心しているようだな。こいつは魔族では、無さそうだな。だが・・・)


「俺の感だと。お嬢ちゃんは黒では無いが白でもないな」


「なんで私がグレーなんですか!白ですよ!魔族じゃありません!」


 俺は、警戒心を少し緩めて本心を話す。


「完璧に白とは言えないんだよな。俺が自ら小隊を率いて現場に行ったら、カイルの証言と一致した状況だった。2歳ぐらいの子供がいくら魔法を使えるからって、こんな事は出来ない。お嬢ちゃんは、何者なんだ?」


「ん?私は、普通の人ですよ?」


(嘘つけ!何が普通の人だ・・・)


「俺にそれを信じろと?」


「ですね……。なんなら、私をマスト隊長が見張っていてくれてもいいですよ!」


(街の安全を考えたらそうしたいのだが・・・。こっちも明日に回した仕事が山積みなんだよな)


「できる事なら、俺もそうしたいが、一応これでも隊長だから忙しいんだよな」


 俺は事実を話しただけなのに、何故かお嬢ちゃんが目の前で落ち込んでいた。何故だ?


「まぁ、ここに来た時に俺が居たら担当してやるから」


 そう言って俺は、お嬢ちゃんの頭を撫でてあげた。そしたら、少し立ち直ったみたいだ。


「あっ!そろそろマリナさんと、買い物に行かないと!他にも何か聞きたい事ありますか?」


「今は無いな。あったらこの次に会った時に聞くわ」


「それじゃあ私は、そろそろ行きますね。あっ、これもし良かったら……。カイルさんの分も・・・。では今後とも、よろしくお願いします」


 そう言って出してきたのが、コリンの実だった。俺は、普通に綺麗な拾った石とか花とかと思っていたから、かなり驚いた。


「いや、こんな高いものお嬢ちゃんから貰えないよ」


「これ、高いのですか?」


 本当に価値を知らないらしく、首を傾げていたと思ったら、机に置いてさっさと出て行ってしまった。素早い・・・


 少ししたら、カイルが部屋に戻ってきたので、コリンの実を渡す。


「さっきの子がカイルにってくれたぞ・・・」


「えっ!アリスちゃんが?しかもコリンの実!?なんで?」


「気に入られたんじゃないか?」


「えぇーーーー!?」


(さてと、夕方まで予定を空けたけど、何も起こらなかったから早く済んだな。明日に回した分をやってしまうか。コリンの実は、夜にでも食べるか)


 騒いでるカイルを放って、俺は詰め所を出て仕事に戻る。お嬢ちゃんの事を考えながら・・・。


次回2週間に更新します!

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