異世界7日目 詰め所へGo
途中の( )は、アリスの内心です。
「おはよう。サスケ」
昨日、なかなか寝付けなかったのに、かなり早く起きてしまった。今から二度寝も出来ないので、サスケにご飯をあげたり、布団を片付けたり、身だしなみを整えたりと動き回っていた。一人部屋で良かった。
やる事も無くなったので、部屋から出る事にした。取り敢えず、誰もいないであろう礼拝堂で、時間を潰すことにする。
トコトコ・・・・・
静かな教会に私の足音が鳴り響く、案内してくれたお陰で迷わずに来れた。誰もいないと思っていた礼拝堂には、既に先客がいた。お祈りをしていたので、邪魔しないように近づく。
「おはようございます。マリナさん」
ちょうど、お祈りが終わって、像の掃除を始めたので声をかけた。
「!!!……おはよう、アリスちゃん。起きるの早いのね」
「早く街を探索したくて!あの〜、詰め所の用事が終わったら、街を案内してくれませんか?」
「そうね、ちょっと買い物があるから、それを、手伝ってくれるなら良いわよ」
「手伝います!なので、お願いします!」
「ふふふ……分かったわ。じゃあ他の子にも声をかけて、手伝って貰わなきゃ、私達だけじゃ持てないからね」
「手伝いって荷物持ちですか?」
「そうよ、そろそろ買いに行かないといけなかったから、案内するついでに回っちゃおうかと思ってね」
「みんなで荷物を持って、私の案内に付き合ってもらうのは悪いですよ」
「何言ってんの、あなたももう、ここの一員なんだから、そんなに気を使わなくても良いのよ」
「でも・・・。あっそうだ!サスケに任せれば問題解決だ!やっぱり、私とマリナさんの2人で、大丈夫です!」
「ん?アリスちゃんの使い魔が手伝ってくれるの?でも、あの子もそんなに大きく無かったわよね?」
私は、インベントリはサスケの能力だと思わせる事にした。
「サスケ!そこにある桶を回収して」
掃除をする為に用意してあった、水入り桶を指差すと、サスケはいつものように回収してくる。
「サスケ!おいで!ここに今の桶を出して!」
私は、サスケを抱っこして出して欲しい所を指差す。まぁ、出すのは私なんだけど……。間にサスケを入れればバレないだろう。
「その子……空間魔法が使えるの!?」
かなり驚かれてしまった。この魔法は、そんなに珍しいのかな?
「空間魔法と言うか、しまって出すしか出来ないけど・・・」
(何度も言うけど、出すのは私だから!仕舞うしか出来ないんだけど……)
「その魔法は、かなり珍しいから使う時は気を付けなさい。じゃないと、連れ去られちゃうからね」
「サスケなら大丈夫ですよ」
「そう……こんなに可愛くても強いのね」
「・・・・・」
私は笑顔で誤魔化したけど、別にサスケが強い訳じゃない。私から盗むにしても、私が呼ばないと出て来ないからだ。召喚?そんなカッコイイものではない。いつも呼ぶと服とかフードから出てきてたから、前に普通に探してみたら何処にも居なかった。
森の中を探すのに、サスケ〜って呼んだら、居なかった服の中から、にょろ〜っと出てきた。ちょっとしたホラーだったよ・・・・。
だから盗まれる心配はない。えっ?私が誘拐される可能性?それは、あるけど……。そんな事をした奴は、夢にまで見てしまう程の楽しい目に合わせます。
(おっと少しの間トリップしてたわ!でも、マリナさんはサスケを触ってたから平気か)
「そんなに貴重なら、サスケの事を言わないでいてくれると助かります」
「そうね。分かったわ。約束する」
(よし!面倒は出来るだけ後回しにしたいからね。今は観光〜!)
「じゃあ、早速案内を……「その前に、朝ごはんを食べましょう」
ぐぅ〜〜〜
朝ごはんと聞いて、お腹が鳴ってしまった。観光が楽しみすぎて、まだ朝食を食べていないのを忘れていた。
やり途中だった掃除を2人で急いで終わらせて、食堂へ向かった。みんな少しずつ食堂へと集まってきていた。
「あっ!アリスちゃん!おはよう」
「おはよう。リリアちゃん」
私を見つけたリリアちゃんが、元気に挨拶してきた。と思ったら、私の所までやってきて、腕を取りテーブルに連れて行かされる。
「アリスちゃんは、わたしのとなりね!」
「はいはい」
席に座ったら、食事の準備を手伝っていたお姉さん達が、食事を持って来てくれた。
「はい、どうぞ。気をつけてね」
「ありがとう御座います。いただきます」
今日の朝ごはんは、固いパンと肉の入ったスープだった。とても美味しかったけど、野菜が無いのが少し寂しい。
「ねぇねぇ、このあといっしょに、あそぼう」
食事が終わって、みんなそれぞれの用事があるのか、すぐに居なくなってしまった。ここには、数人の子供しか残っていなかった。
「ごめんね。今日は、マリナさんと詰め所に行って、つまらないお話をずっとされる予定なの」
「そうかぁ。たのしくない、おはなしなら、わたしここで、やさいをそだてる。アリスちゃん、がんばってね〜」
そう言って、リリアちゃんは教会の庭に向かって行った。私は、マリナさんの支度が終わったら直ぐに出て行けるように、礼拝堂で謎の像を見ながら待ってる事にする。
「準備出来たから行きましょう。本当にお手伝いの子を連れて行かなくてもいいの?」
「マリナさんには、あちこち街を案内して欲しいので、サスケに任せれば大丈夫ですよ。さぁ!レッツ ゴー」
「レッツ ゴー?」
「いいから、行きましょう!」
謎の言葉を不思議に思って、聞き返してくるマリナさんの背中を押して、初めて教会の外へと出た。
目の前には広場があり、映画とかで観るような、中世の建物があった。
(うわ〜〜!なんか別世界に来た感じ!まぁ、本当に別世界に来たんだけど・・・。なんか、雰囲気がいいね!)
テンションが15上がった。そのまま自分が出てきた教会を見てみる。
(うわ〜〜、ボロボロ・・・)
テンションが10下がった。外から見た教会は想像以上のボロさだった。それこそ、夜中なら心霊スポットとして、使われていそうな感じの雰囲気がある。
(これ……早く何とかしないと……教会なのに、ご利益じゃなく呪いを貰いそうな不気味さだよ・・・はぁ〜)
私は溜め息を吐きながら、今後のやる事リストに加えて、教会の周りも見てみる。周りには民家が建っていて、これから仕事に行く人達が出てくる。
「おはようございます。いい天気ですね」
「本当にいい天気ね〜。今日は、洗濯を干さなくちゃだね〜」
と、マリナさんがご近所のおばさんと話していた。
(ご近所さんとは、仲が良いみたいで良かったぁ。あれ?あれって……?)
私が、周りの建物を見ていると、変な立て札がしてある建物があった。この世界の初めての文字に、読めるか気になって立て札まで行ってみた。
『立ち入り禁止 領主』
その隣の建物にも、同じ立て札がしてあった。教会のすぐ隣から、まぁまぁな距離までの建物全てに立て札がしてある。行かなくても同じ内容だろう。ご近所さんとの挨拶が終わったマリナさんが、私を見て急いでこちらに来る。
「アリスちゃん!そっちに行っちゃ駄目よ!大丈夫?具合い悪く無い?」
「ん?大丈夫ですけど、なんでですか?」
「ここの区画は教会以外、呪われてるみたいなの。この辺で長居をしていると、具合いが悪くなるみたいなの。だから、街の人も教会の皆も立ち入らない様にしてるから、アリスちゃんも気をつけてね」
(うわ〜〜、既に呪いが起こっていたよ。しかもすぐ裏手で……)
「そろそろ詰め所に行きましょう。のんびりしていると、街を案内する時間が無くなっちゃうからね」
「それは大変だ!さぁ早く行きましょう」
私は急いで、マリナさんの手を取って歩き出した。目的の詰め所は、結構近くて街の案内は、後回しだ。しかも、かなりの人が並んでいた。
「こんなに並ぶんですか?」
「これは、外に出る為の手続き待ちね。朝早く来たから、冒険者さん達のお仕事の時間と被っちゃったみたい。私達は、詰め所に用事だからこっちよ」
そう言って、マリナさんは詰め所の扉をノックしていた。そしたら、直ぐに見た事ある男性が出てきた。
「マリナさん!ようこそいらっしゃいました」
(・・・なんか場違いなセリフが飛んできたな。この人大丈夫?なんか緊張してるけど……)
「あの……お待たせしましたか?」
「いえいえ、そんなことはありません。さぁ、二人とも入って下さい」
「おじゃましま〜す・・・」
部屋の中は、詰め所と言うわりには、意外と綺麗で私達は机にと案内された。
「目が覚めて良かったよ。君は覚えてるか分からないけど、森では助かった。ありがとう」
「此方こそ、助けて頂きありがとう御座います。アリスって言います」
「アリスちゃんね。自分の名前はカイルといいます。よろしく」
(あっ!この人、呪いでフラついてる私を、狼から助けてくれた人だ!)
「よろしくお願いします」
私は差し出された手を握って、挨拶を済ませた。
「えっと……それで……。既にマリナさんからも聞かれてると思うけど、此方も報告しなくちゃいけないから、同じ様な質問もあるかも知れないけど、答えてね。マリナさんにも質問があるので答えてください。」
「「はい」」
「まずは、アリスちゃんからね。お父さんとお母さんは?なんで、森に居たの?」
「お父さん、お母さんは分かりません。気が付いたら、あそこに居ました」
質問とはいえ、辛い事を思い出させてしまったと思ったのか、悲しそうな顔をしている。
「……そうか。ここの街や他の街に居た記憶は?」
「全然……ここには初めて来ました」
「……アリスちゃんとマリナさんは元々知り合い?」
「いえ、全然……初対面です」
「そうね。あの時、森で初めて会ったわね」
「なのに、アリスちゃんの面倒をみていると?」
「ウィズホルン教会は、元々そうですわ。孤児の子を預かり育てる。アリスちゃんも親や家がないのなら、例外ではありませんわ」
マリナさんが話してる姿からは『当たり前の事』だけど、何か?っていう、雰囲気が伝わってくる。見ず知らずの赤の他人を、預かって育てるなんて、凄いなぁ……。
「分かりました。これで終わりで…「お?この子がカイルの言っていた子供かな?」
カイルさんより一回りも大きな人が、扉を開けて入ってきた。とても良い体格だ。
「あっ、マスト隊長!」
隊長と呼ばれた人が入って来た。カイルさんが立ち上がり、礼をしている。
「話はもう済んだのかな?」
「はい!後は報告書にまとめるだけです!」
「……そうか。なら、ここからは個人的に、そこの子と少しお話をしたいから、カイルとシスターマリナは、席を外してくれるかな?」
「あっ!私も是非隊長さんとお話ししたいです。聞きたい事があります」
入ってきた時からその体格・・・主に筋肉に見惚れてフリーズしてたけど、向こうから2人で話したいと言うお誘いには、何としても乗る!なんなら、食い気味に……はい!は〜い!
私の勢いに押されたのか2人は、笑いながら言われた通りに詰め所のドアを出ていった。
「それで?君の聞きたい事って何かな?」
笑っているけど、目の奥が警戒している。何故か緊張した雰囲気が出ている。
「私はアリスっていいます!よろしくお願いします!隊長さん?のお名前を聞いても?」
「あぁ、挨拶が遅れて済まない、マストと言う。この街の警備隊長を務めている」
「マスト隊長……覚えました!それでは・・・年齢はお幾つですか?彼女さんは居ますか?」
ガクッ!はぁ〜〜
意外な質問だったのか、隊長さんは頭を項垂れさせていた。何故? 私が、疑問符を浮かべて首を傾げていると、立ち直ったのか、ちゃんと私の顔を見て答えてくれる。
「27歳で彼女いないけど何か?」
嫌々だけど、答えてくれた。
(よし!彼女いないなら、思う存分その肉体美を見に来れる!)
自分の年齢を忘れて、アホな事を考えてる少女がここに・・・。
「いえ〜、身体結構鍛えているんですね!」
「そりぁ、当たり前だろ。この街を魔物から守らなきゃいけないからな」
「でも、カイルさんはそんなにじゃないですよね?ってか、あれ?マスト隊長……話し方……」
「部下がいないから、もうこっちの喋りでいくわ。なんか疲れた。カイルはまだ、鍛え方が足りないからなぁ〜」
さっきとは違って、喋り方だけでなく仕草まで少し乱暴な感じになっていた。後頭部をガリガリかいている。ワイルドでこっちの方がこの人には合ってるけど。
「なるほど……。マスト隊長!今の話し方の方が合ってますね。カッコイイですよ」
私は、親指を立ててgoodサインをマスト隊長に送った。
「そう言われると、嬉しいな」
「出来れば私を呼ぶ時は、"お嬢ちゃん"呼びでお願いします!」
「お嬢ちゃん?」
「はい!是非それで!それともう1つお願いがあります。私に何かお礼の言葉を言う時に"サンキュー"でお願いします!」
「サンキュー?それは、どういう意味なんだ?」
「ありがとうって意味です!それでお願いします!」
「分かった。分かった。それで?他に、お嬢ちゃんが聞きたい事は?」
「今は、もう大丈夫です!」
「じゃあ、次は俺からの質問」
「はい!何でもいいですよ!」
にっこりと笑いながら、早速お嬢ちゃん呼びで呼んでくれて、かなりテンション上がっていた。
「お嬢ちゃん、魔法使えるよね?それもかなり、高度なやつ……」
「ん?魔法は使えますけど、高度かどうかは分かりません。他を見たことないので・・・」
「そうか。……じゃあ次の質問な。気が付いたら森だったんだよな?両親も分からないと・・・」
「はい。そうです」
「じゃあ、……あの森に何日居た?」
「え〜と……」
さすが隊長である。カイルさんは深く聞いて来なかった疑問を、どんどんついてくる。何日居たか思い出す為に、振り返って考えていると。
「……言い辛いのか?」
「いや、ちょっと待ってください。今、思い出してるので・・・」
「・・・答え辛いなら別にいいぜ。今度は簡単な質問にするからさ……。お嬢ちゃんは魔族か?」
その質問の後、凄い殺気がマスト隊長から向けられた。しかも、剣の柄に手をのせて、何時でも抜ける体勢である。
「魔族?ってなんですか?」
「・・・・・」
首を傾げて、何だろう?っと考えているとマスト隊長が説明してくれた。
「魔族ってのは、人の姿をしていて(ふむふむ……)魔力が高く(……一応、私も高いかな?)欲望に忠実で(……私も、やりたい事はやるかな)人を玩具程度にしか見ていなく、殺すのが好きな奴等の事だ(良かった。私じゃないや。途中まで当てはまっていたから吃驚したよ)」
「・・・てか、かなりヤバイやつじゃん!ジャンキーだそれ!この街には、いないですよね?」
・・・・・
私の様子を暫く見ていたマスト隊長は、殺気を収めて、苦笑いしていた。
「……あぁ、今のところ不審死は無いから、この街にはいないのだろう」
「あぁ〜、よかった〜」
私は、心底安心した。だって、初めての街でいきなり中ボスと戦うなんて、今の私じゃ無理だ。もっと、レベルアップしなきゃ。
「俺の感だと。お嬢ちゃんは黒では無いが白でもないな」
「なんで私がグレーなんですか!白ですよ!魔族じゃありません!」
「完璧に白とは言えないんだよな。俺が自ら小隊を率いて現場に行ったら、カイルの証言と一致した状況だった。2歳ぐらいの子供がいくら魔法を使えるからって、こんな事は出来ない。お嬢ちゃんは、何者なんだ?」
「ん?私は、普通の人ですよ?」
「俺にそれを信じろと?」
「ですね……。なんなら、私をマスト隊長が見張っていてくれてもいいですよ!」
「できる事なら、俺もそうしたいが、一応これでも隊長だから忙しいんだよな」
やんわりと断られた。ショック……あからさまに落ち込んでいると……。
「まぁ、ここに来た時に俺が居たら担当してやるから」
そう言って、頭を撫でられた。いつも、やってあげる方なので、なんだかこそばゆい。
「あっ!そろそろマリナさんと、買い物に行かないと!他にも何か聞きたい事ありますか?」
「今は無いな。あったらこの次に会った時に聞くわ」
「それじゃあ私は、そろそろ行きますね。あっ、これもし良かったら……。カイルさんの分も・・・。では今後とも、よろしくお願いします」
そう言って、懐から出した風に装い。インベントリからコリンの実を出して、あげた。
「いや、こんな高いものお嬢ちゃんから貰えないよ」
「これ、高いのですか?」
価値が分からないので別にいいのに……机に置いてさっさと詰め所を出てきた。置いて来た者勝ちだ。
「マリナさん!おまたせしました!買い物に行きましょう」
「あら?そう?じゃあ行きましょう。カイルさん面白いお話ありがとう御座いました。お仕事頑張って下さいね」
「はい!そのうち教会に行きます」
「フフフ・・・お待ちしております。アリスちゃん行きましょう。まずはパン屋さんからね」
手を繋いで、2人で街の方へと歩いて行く。
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