お花畑
あれから、また目の前が更に白くなって意識が遠のいた。気が付いた時には、一面花畑な所にいた。
「ここはどこ?あれ?」
若いお嬢さんが私の思ってることを言ってくれてるって思ったら、喋っているのは私だった。手を見てみると、凄い!若返っている。身体軽っ!さっき神らしき声と話したし手続きとやらが終わったのかな?これが、話題の異世界転生ってやつか?
でも、服装は亡くなった人が着てるやつなんだけど…どういうこと?辺りを探索しながら歩いていると、花しかなかった風景に変化が・・・
美術館や博物館とかでよく見る、『順路』と書かれた矢印型の立て札があった。人の習性なのか、こう書かれてあったらその通りに進んでしまう。まぁ他に行く当てないから矢印通りに行くしか無いんだけど…。
しばらく歩いてると、自分と同じ格好をした人が前を歩いていた。私は急いで追いかけ、話しかけてみた。
「あの、すみません。少しよろしいでしょうか?」
友好的に話そうと思ったら、なんか街中でみかける、街頭インタビューしてる人みたいな声のかけ方になっちゃったよ。
「はい。何でしょうか?」
良かったぁ、言葉が通じて。前世の私ほど歳は、いってなさそうな年配の女性が返事を返してくれた。顔の作りも馴染みのある日本人顔。
「すみません。私は猪又よし子と申します。ここは、どこでしょうか?なんて言う国でしょうか?」
そう聞いた私に、相手の女性は困惑顔になりながら応えてくれた。
「私の名前は小林です。私もここがどこかは分かりません。ただ、最後の記憶を思い出すとここは、あの世ではないかと…」
「最後の記憶ですか?差し支えなければ、教えていただけますか?」
私は、寿命を全うして家族に見守られながら逝ったけど、皆がみんなそうとは限らないから、辛いようなら話さなくても良いようにたずねた。
「教えるのは良いけど、私の懺悔の話も聞いてくれる?」
小林さんは、かなり後悔しているのだろう。大分、心身ともに衰弱しているような感じだ。ここで一人ずっと考えていたのだろう。
話すことで楽になるなら、私でも役に立てる。私は迷わず。わざと明るく小林さんに言う。
「いいですよ。ここに来てずっと一人だったし、暇してたんですよ。何でも聞きますよ」
「暇つぶしね…。ふふふ…ありがとう。ちょっと気分が上がったわ」
そう言って二人でその場に腰を下ろし座った。ブルーシートとか無く地べたに直接だけど、まぁ仕方ないよね。私は、気にならないからいいけど…。小林さんも気にしてないみたいだし……いいか。
「最後の記憶は強盗に刺されて、苦しみながら息子に謝ってたわね。それで、次に気が付いたら、この格好でこの場所いたのよ」
(・・・あれ?謎の声と会話してないのかな?)
「ん?何か言った?声とかなんとか…」
「ううん…何でもないです。息子さんと喧嘩してたんですか?」
「そんなところね。息子に紹介された彼女が気に食わなくて…暫く三人で同棲してたんだけど、その間に散々いびってしまったの。そしたら息子からもう一緒に住めないと言われ、出て行っちゃったのよ」
「彼女さんの何が気に食わなかったのですか?」
「凄い遊んでいそうなギャルなのよ!見た目や話し方がっ!私の前でも全然変わらないのよ?息子が騙されてるんじゃないかと気が気でなくて…」
「見た目や話し方ですか。う~ん…それじゃあ、素行や注意された後の行動はどうだったのか、覚えてますか?見た目は抜きで、どうでしたか?」
「そうね。言われてみれば、初めに化粧のことを言った後は、少し控えめな感じだったかしら?食事の手伝いも、ろくに出来なくて色々言ってキッチンから追い出したら、片付けだけでもって言って結局やって貰ってたわね……よくよく考えれば、言えばやる良い子だったのね」
「そうですよ。見た目で判断しちゃいけませんよ。因みに私の元の年齢は何歳でしょう?この外見は無視して、さっきから話してるのを参考にして下さい!」
「えっ!見た目と違うの?う~ん、話してる感じだと…色々知っていて、頼れるお姉さん!って思ったけど。それで言うと私より上?」
「そうですね。私は105歳で寿命が尽きて病院のベットの上で亡くなりました。なんで今、この姿かは分かりませんが…」
「そうだったんですね。大先輩とは…敬語で話した方が良いかしら?」
「いや、それですと凄く違和感がありますよね?自分の年齢の半分ぐらいの小娘に敬語で話してる明らかに年上の女性…どれだけその小娘が恐いのかって事になりますよね。嫌ですよ、そんな印象を受けるなんて。さっきまでと同じでいいですよ」
「そうね、分かったわ。そうさせてもらうわね。」
そう言いながら、二人で笑いあった。ふと、小林さんが表情を曇らせた。どうしたんだろう?と心配な顔で見ていると…
「いや、さっきの息子とその彼女の話を思い出して、私あの子に悪い事しちゃったなって思って…」
「まぁ、出ていっちゃったのは仕方ないですよ。聞いてると、彼女さんが出て行きたいって言った感じはしなかったですね。歩み寄ろうと、改善しようと頑張ってるって印象受けましたから。多分、息子さんが見兼ねてだと思いますよ。だからそんなに彼女さんを恨まないで下さい」
そう言ったらもっと、苦しそうな顔をしてしまった。どれだけ酷いことをしたのだろう?
「最後にあんな事しなきゃよかった…はぁ…」
「何かやっちゃったり、言っちゃったりしたのですか?」
「出て行ったのは、彼女が息子に懇願してだとずっと思っていて、強盗に刺された後、まだ少し息があったのよ。その時にちょっとダイイングメッセージみたいに『庄司をよろしく ヒロミ+−』って書いて来たの血で……」
・・・・
「庄司さんは多分、息子さんと思いますが、ヒロミさんって…その彼女さんの名前ですか?」
それを聞いて、小林さんは苦笑していた。
「ヒロミは二番目の息子の名前よ。お兄ちゃんより、しっかりしてる子なのよ。昔はよく女の子に間違えられて嫌がってたわ。だからそれを利用して、ちょっとね」
「最後の+−は?」
「それは『さ』よ。さんって書こうとしてこと切れた感を演出したのよ」
「なんて芸が細かいんだ…もう死ぬという時によく出来ましたね。そんなこと」
私はかなり呆れてしまった。
「私を捨てた息子たちにちょっとした不仲を置いていこうと思ってね。これで別れたなら、元々そんなもんだったのよ」
「台詞が元カノみたいになってますけど…」
よくやるなぁと思いつつ、これも愛情かと納得する。母の試練を無事に乗り越え息子さん達が別れてないことを祈る。
「じゃあ、そろそろ歩き出しますか。このよく分からない矢印に従いながら。ずっとここにいても何も無いですし…」
「そうね。話を聞いてもらってらかなり気持ちが楽になったわ。ありがとう。そろそろ行きますか」
そう言って二人とも立ち上がり、矢印通りに歩きながらお喋りしていると…
「うえーーーん、マーマーーーパーパーーーどこーー!!」
と子供の鳴き声が聞こえた。私達は顔を見合わせて頷くと、急いで声のした方に走っていった。順路からは外れてしまうけど関係ない。また戻ればいいだけだから、まずはこの泣いてる子の所に行かなければ。
身体能力も若返っているらしく、何度小林さんを置いていきそうになったか…小林さんは先に行っていいと言うけど、また合流するのが大変な程ここは広いので、置いていくのは止めた。もう最後は無理やり背中におんぶさせて走った。
「マーマーーーーごほっごほっずるっ」
だんだん近づいてきて、泣いてるのが5歳くらいの男の子だと分かった。とりあえず、背中の小林さんを降ろして二人でその子に近づいていく。
「僕?どうしたの?お父さん達とはぐれちゃったの?」
「うん。かわであそんでいたら。みずにおちて、めがさめたら、おはないっぱいでパパもママもいなくて…ぐすっ」
(この子も謎の声は聞いてないのか…私だけ?)
「そうだったのね。じゃあ一緒にパパとママを探しに行きましょう?」
と言いながら、小林さんは男の子をキツく抱きしめていた。私の位置からは小林さんの顔が見え、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
それもそうだ。私もやるせない気持ちでいっぱいだ。まだ、こんな小さい子が亡くなるなんて……私も小林さんも子供が居るから、突然居なくなったしまった我が子を悲しむ親御さんの気持ちが痛い程分かってしまった。
「パパ、ママさがしにいくの?ぼくもいくー!」
ちょっとズレたような返答が返ってきて私も小林さんも笑ってしまった。
「よしよし、男の子はそうじゃなきゃ。一緒に行こうね」
男の子の頭を撫でて褒めてあげた。あっ、忘れてた!
「私は、よし子って言うの僕のお名前は?」
「よしこちゃん?ぼくのなまえは、ゆうりだよ」
「ゆうり君か!よろしくね!」
二人で握手をした。さっきまで泣いてたのが嘘なくらい今はにこやかだ。
「私は…コバさんって呼んでね。呼びやすいでしょう?」
「オバさ「コバさんよ。コ!バ!さん間違ってもオバで呼ばないで…」
私も『おば』で呼ばれたらショックだな。いや中身は大丈夫だけど、今の見た目的にはちょっとね…複雑。
「コバさんとよしこちゃん!おぼえた!」
二人でヨシヨシと、ゆうり君の頭を撫でてあげた。さてと、そろそろ行きますか。
「よし、それじゃあ、パパとママを探しに行きますか」
「うん」
私達三人は、ゆうり君を真ん中に手を繋いで歩き出した。しばらくすると、立て札が見えてきて、先程と同じように矢印の指す方に向かって、三人とも仲良く進んで行く。
この矢印の先に何が待ってるのかも知らずに三人とも楽しそうに…
名前を言いたくない。小林さんw
この後、出るかな?