閑話 運命の出会い
前回助けられた、シスターマリナの視点
「( )」は話してるキャラの内心です!
「昨日の雨のお陰で、作物達も活き活きしています。子供たちも凄く元気です。今日も皆が健やかに過ごせますように・・・」
風化していて、姿が分からなくなっている像に、お祈りを捧げている1人の女性がいた。
この教会で崇めているのは、この世界を創造したと言われるウィズホルン神。唯一無二の存在で、どの街でもずっと崇められていたのだが、大きくなり過ぎた教会の幹部は20年前にかなりの聖職者が汚職をし、信者達は暴動を起こした。そして丁度その頃から新教徒が数々誕生し、人々はウィズホルン教を辞めた。
この街には、2つ教会がある。1つはここウィズホルン教会。もう1つはマニー教会がある。
信者には、その神様の恩恵が少し与えられる。ウィズホルン神は回復の神様なので、傷とか病気は普通より治りが早くなると言われている。魔物がいる世界だからとても役に立つ筈だけど、あまり恩恵の実感が無いのと、あの不祥事の件以降から信者は少ない。
マニー教会は10年前に他の町から来た新教徒で、信者の証をギルドにあるマニー信者窓口で見せると、買取価格が少し上がるらしい。なので魔物が多い、この辺境の地では、かなりの信者がいる。
なので、うちの教会は寄付とか御布施がそんなに入ってこない。教会の庭で家庭菜園をしたり、街の人に施しを頂いたりしてなんとか運営している。でも孤児の子供が沢山来るので、そろそろ運営状況が厳しくなって来ている。マニー教会では、孤児を受け入れる慈善活動はやってないみたいで、ここに集められる。
そんな状況だとしても、"どんなに苦しくても貧しくても、誰も見捨てない。神様は皆のことを見ている"がここの施設長&母の言葉である。母は子供たちの食事の準備や洋服を縫ったりしていて、私は子供たちと遊んであげたり、買出し全般をやっている。
朝食の後は、いつもやっているお祈りをして、教会と外の掃除、午後からは薬草の補充に行かなければならない。子供たちが昨日喧嘩をして、怪我をしてしまい薬草を使ったので、ストックが無くなってしまった。
私は回復の魔法も使えるのだけれど、傷とかを治すものでは無く、癒やす効果のものらしい。数少ない信者のお爺さんとお婆さんが言っていたので、本当かどうかは分からない。全然役に立たない魔法だ。薬草以下だ。
冒険者ギルドに行って薬草を頼むのが普通だけど、お願いするお金がないので、自分で調達しなければならない。危険だけど、街出てすぐの所だし、母に少し戦闘を教わっているので、2体ぐらいなら何とかなる。更に、他の冒険者が出た後の、昼ぐらいに出掛ければ魔物の数も減っていて比較的に安全なのである。
水魔法が少し使えるので、魔法の威力が増す媒体の杖と、採った薬草を入れる袋、軽食にパンと干し肉を持って、外と街を繋いでいる門に向かう。
門には警備隊が居て、人の出入りの管理や魔物が攻めてきた時に、街に入らないように警備してくれている。外に出るには、そこで受付を済まさないといけない。
私が行った時には、若い男女の冒険者4人グループが受付をしていた。
「これから、ゴブリン退治の任務に行ってきます!」
「おぉ、元気いいね。君達は冒険者になったばかり?」
「はい、そうです。何かアドバイスとか情報とかありますか?」
「そうだなぁ。無理はしない。驕らない。逃げるが勝ちってとこかな?」
「無理はしないは分かるけど、驕らないっていうのと逃げるが勝ちってどういう意味ですか?」
「驕りは、新人じゃなくてもベテランにも沢山いるんだよ。明らかに無理なのに、自分の力で何とか出来ると思い、無理しちゃうやつ、そう言うやつは長生き出来ないから気を付けろよ。少しでも無理だと思ったら引き返せ」
「はい!分かりました」
「それと逃げるが勝ちは、生きて帰らなきゃ意味がないのだから逃げても全然恥じゃない!勇気ある撤退だ!森で何かあったらここまで走って逃げて来い!そしたら、俺達が何とかしてやるから」
「かっこいい」
「色々とありがとうございます」
この詰め所の警備隊隊長の方が、しっかりと新人冒険者にアドバイスをしていた。
「それと、ここ2日ウルフが大量に目撃されているから気を付けろよ」
「ウルフがですか?気をつけます!」
「よし、ギルドカードの確認も終わったから行っていいぞ。気をつけて行って来い」
「行ってきまーす」✕4
冒険者4人は元気に出ていった。次は私の番である。私は、住民カードを渡して用を伝える。
「ちょっと、そこまで薬草を採りに行きます」
「シスターマリナ。また、お一人で薬草を取りに行くのですか?」
「はい、そうです。うちは冒険者が雇えないので仕方ないのですよ。マスト隊長。水魔法と戦闘も少しは出来ますので、大丈夫ですよ」
「ですが、最近はウルフがかなり目撃されているので、お一人での、薬草採取はお勧め出来かねます。手が空いてれば私が付き添えるのですが・・・」
「あっ!自分ちょうど午後から休みなので行きますよ!」
そう言って、奥から出てきたのは茶色い髪の優しそうな男性だった。
「カイルいいのか?」
「はい。特に今日は予定もありませんし、大丈夫です」
「良いのですか?折角のお休みなのに私に付き合わせてしまっては……」
「いや、是非行かせて下さい!」
付いて来てくれるのは心強いので、お願いする事にする。
「では、よろしくお願いします!時間はかからないと思いますので……」
「はい!(やったぁ)隊長行ってきます」
「気をつけてな。しっかり守るように!」
「はい!(絶対守ります)」
2人で世間話をしながら森に向かって歩いていく。街に近い所の薬草は大分採られて無くなってしまっていたので思いの外、森の奥の方に行く事になった。
「隊長がシスターと言ってましたが、マニー教会のシスターなんですか?」
「いいえ、私は、ウィズホルン教会のシスターです」
「それは大変失礼しました。ウィズホルン教会なら、先程の詰め所から近いですよね?」
「そうですね。お陰様で治安はとても良いですよ。小さい子達が沢山いるので助かっています」
「それは良かったです。孤児院もやっているのですか?大変ですね」
「元気過ぎて大変な事もありますが、みんな良い子だし可愛いですよ」
「いいですね。今度行ってみてもいいですか?」
「是非一度、来てみて下さい。皆でお待ちしてますので」
そう言って笑顔で返す。見学に来ていただいて、少しでも施しをいただけたらと言う打算もある。
「ここなら薬草があるので、採取しますね。ちょっと遠くなってしまって、すみません」
「いえいえ、大丈夫ですよ(たくさん話せたし……)では、周りを見張ってますね」
「よろしくお願いします」
元気な子が多く、薬草がすぐに無くなってしまうので、多めに持って帰る為に沢山摘む。袋がいっぱいになったので、そろそろ街に帰ろうと立ち上がった。
「きゃーーーー」
「このっ、街まで逃げろーー」
悲鳴が聞こえた。少し遠かったけど、複数人がこちらに向かって来るらしい。
(魔物に襲われてる?助けないと!)
「こっちだ!」
「みんな早く!」
私が叫ぶ前にカイルさんが叫んで呼んでいた。自分が危険になるのに、同じ事を考えて行動したことに、ちょっと嬉しくなる。
走ってきた冒険者をみて、先程会った子たちだと気付く。
「貴方達、さっき詰め所に居た子たちよね」
「はい!10匹以上のウルフの群れが来ます!急いで街に!」
他の子は疲れているみたいで、受け答えはリーダーらしき子がしてくれている。
『キュア』✕4
疲れてる子たちに私の役に立たない魔法を気休めでもかけておく。
「ウルフの群れか……。殿は自分がやるから、皆は行け!街まで死ぬ気で走れ!止まるな!」
「行きなさい!早く!」
「貴方も一緒に街へ…「私も微力ながら手伝います!」
杖を握り締め、気合いを入れる。
(ウルフの群れじゃあ、私達2人では無理でしょう。でも、"どんなに苦しくても貧しくても、誰も見捨てない。神様は皆のことを見ている"家訓ともいえる言葉の通り、あの子達を守らないと!)
あの子達を追いかけようと、走り出そうとしたウルフを、カイルさんが腰にあった剣で倒した。私達を危険と感じたのか、あの子達を追いかけるのは止めて、残りの群れで囲んで襲う気のようだ。
カイルさんは流石に訓練しているだけあって、飛び掛ってきたウルフを剣で防ぎ、突き飛ばし、群れから外れたウルフを、1匹ずつ確実に倒している。私は水魔法の『ウォーターボール』で、怯ませたり杖で殴るくらいしか出来ない。
昏倒には出来るけど、とどめを刺していないので、その手間をカイルさんが私を守りながらやってくれている。実際、足手まといになっているかも……。
2人でなんとか5匹倒した所で、戦闘に慣れていない私が、疲れからフラついた隙を狼が狙ってきた。
「きゃっ」
(あぁ、神様。私はここまでなのですね。残された子供たちにご加護を……)
襲い掛かって来るウルフを、スローモーションで見ながら、皆の事を願う。
「ストップ!動くな!『ウインドアロー』✕10」
どこからか、女の子の声が聞こえてきて、目の前に迫っていたウルフを魔法で倒してくれたみたい。
ウルフが倒れて視界がひらけた所に、可愛らしい女の子が現れていた。そんな場合じゃないのに、どこから現れたのか、何が起こったのかを感がえてしまった。よく見ると、その子は体調が良くないのか、苦痛の表情をしていた。
女の子の後ろにはウルフがいて、飛び掛かってきた。私は、庇おうと思い立ち上がるけど手が届かず、女の子がウルフに襲われる光景が目に浮かんだ。
でも、カイルさんが女の子に飛び掛かってきたウルフを剣で倒してくれたので、悲惨な光景にはならないで済んだ。
残りは2匹居たのだけど、一気に仲間を失ったウルフは、森へと逃げて行った。それを確認して安心したと同時に、女の子が倒れてきた。
「大丈夫!?どこか怪我でもしたの?」
返事は返ってこなかったけど、息はしていたので、取り敢えず街に連れて帰ることにした。気休め程度に私の『キュア』を使ってあげて、背中におんぶした。
「あっ、自分が運びますよ!」
カイルさんは、そう申し出てくれたけど、街までの戦闘はカイルさんしか頼れないので、手が塞がらないように私が運ばなければ……。
「ありがとうございます。でも、私は戦闘だと役に立たないので、私が運んでカイルさんには護衛に集中してもらった方がいいかと・・・」
「あっ!はい!そうですね。次こそは守ります!」
『キュア』✕2
「一応気休めぐらいにしかなりませんが、疲れがとれるみたいなので……」
自慢が出来るほどの魔法じゃないので、恥ずかしいけど、やらないよりは良いだろう。
「あっ、ありがとうございます。これは凄いですよ!疲れが一気に取れました。とても、便利な魔法ですね」
凄さがよく分からないけど、カイルさんがべた褒めしてくれた。
「そんな大袈裟に、褒めなくてもいいですよ。早く行きましょう。この子が心配です」
帰りは魔物に会わなくて済んだ。途中から先程の冒険者の話を聞いて、応援に来てくれた警備隊の人が街まで送ってくれた。カイルさんは詰め所から教会まで、この子を運んでくれた。とても良い人だ。
「この子は知り合いですか?」
「いいえ、全然知りません。意識が戻るまで、暫らくここで看病しておきます」
「そうですか。話を聞かないといけないので、意識が戻ったら教えてください。自分はこれから、先程の事を報告してきます。それでは、また」
「今日はありがとうございました。ここまで、送ってもいただいて・・・。お仕事頑張ってください」
一礼して、カイルさんは詰め所に戻っていった。私は母を呼び、今日あった事と女の子の事を報告する。暫くここで面倒をみると・・・。
(あの子の体調大丈夫かしら?何故森にいたのかしら?)
次回2週間後に更新します!