閻魔様とご対面!②
「次じゃな、高校1年で安藤さゆりの父親、安藤健作を車のブレーキ事故から救い、そこで巻き込まれる筈だった人達も結果救っておるのぉ」
それは……知らなかった。確か学校の帰り道、何故だかふと、車のエアバックが何処に仕舞われてるのか気になって友達と話していたら、さゆりが『うちの車で試してみたら?無駄に沢山あるし1台ぐらい平気だよ』って言うから、お家にお邪魔したんだった。
さゆりの家に初めて行ったけど、お父さんが医者って言うだけあって、かなり大きな家だった。車庫に案内してもらって、『好きなのどうぞ』ってさゆりが言うから軽く見てみたら、どれも知ってる高級車!
◯に3つのひし形のとか、◯が4つ連なっているのとかばかりだった。私は、流石にこれはダメだろうと思い。中でも見た目古めの、マークもよく分からない車にした。他の車より安いだろうと、その車を選んだ。
ダッシュボードとか、ハンドル辺りとか怪しい所にドライバーを突っ込んでみたりと高校生なのにアホな事をしていた。
そんな事をしてたら、いつの間にか来た、さゆりパパにこっぴどく叱られた。何でも、休みの日に乗る愛車で、古いんじゃなくて、こういうデザインのクラシックカーなんだって、今日も乗ろうと車庫にやってきて、私達が愛車に何かしてるから飛んで来たらしい……。
お宅のお嬢さんの発案と、私があの車を選んだ理由を話したら、弁償は勘弁してくれた。
後日あの愛車の末路を教えてもらった。さゆり経由で感謝の言葉も添えられていた。
あの後、車は私が色々やらかしたから一度点検に出したみたい。そしたらなんと、ブレーキがイカれてたみたい。さゆりが私の無実を証明してくれて、乗ってたら危なかったという事で感謝された。まさかあれが、さゆりパパと沢山の命を救っていたとは……。
鏡には、さゆりパパにめちゃくちゃ怒られてるシーンだった。今見ても、怒っているさゆりパパは、かなり怖かった。
「……全て……お前のせいか」
ん?よく分からないが隣の鬼がかなりの形相で私を睨んでくる。
「お前が俺の邪魔をしたせいで、俺はエリートコースから外されたんだ!許さんぞ」
「言ってる意味が分からないけど、邪魔って……。じゃあ何もしないで、あのまま海斗やさゆりが死んでれば良かったって事!?」
「あぁそうだよ!そうすれば、俺は焦って車に細工したり、それがバレたりしなかった。エリートのままでいられたんだ!」
(ブレーキを細工してバレたのは自業自得じゃん。しかも全く反省してないし……ムカついてきた)
「ふざけるな!自分の出世の為に他の人の犠牲が当たり前なんて言う奴なんか、落ちて当然だ!」
「なにを!クソガキが!」
言葉を発すると共に殴りかかってきた。かなり大振りだったのでそれを躱すと、こんな小娘に躱されたのが更にムカついたのか、追撃をしてこようとする。それを、隣にいたチャラ鬼が止めてくれた。腐っても鬼、鍛えてなくても少しは押し留めることが出来るようだ。
「おい、いい加減止めとけって、閻魔様の前だぞ!お前の私怨で殴るのは良くない!怒りを抑えろ!」
私は、その隙をついて鬼に……ではなく、閻魔の方に走って行った。そのまま机の装飾の出っ張りを蹴り、閻魔の机の上まで来た。そして拳を閻魔の顔の前で、寸止めさせる。
元々、殴る気は無かったので拳を収め、鬼二人を見下ろす。
「はぁ~。私みたいなアホが逃げ出したり、暴れたりしたら取り押さえるのが、貴方達の役目でしょ?こんな簡単に大将まで行かせちゃうなんて、護衛失格でしょう?心身共に鍛え直した方が良いんじゃない?」
私は閻魔に振り返り"どう?"って投げかけてみた。閻魔はどうしようか悩んでいたが、今まで黙っていた隣の補佐官が話し出した。
「それは、いいですね。そこの二人は前々から素行や勤務態度に問題があると、報告にも上がっています。この際、1からやり直して改心してもらいましょう。やり直す前に罰もちゃんと受けてもらいます」
「はぁ!?」
「うわ、マジかよ・・・」
「今、代わりの者を呼びましたから、貴方達は処分が正式に決まるまで、書類仕事をしてなさい」
二人はしぶしぶと入ってきた扉から出て行った。
「閻魔様じゃなく、貴方が勝手に色々と決めていいの?」
「いいのですよ。閻魔大王は、こんな恐い顔してても根が優しすぎるので、軽い処分しかくださないだろうから、私の権限でこの場は一時的に仕切らせてもらいます。じゃないと話が進まないので」
「なるほど……。ところでさぁ、ちょっと聞きたい事があるんだけど……。貴方何処かで私と会った事ある?」
「まさか誘われるとは、これが噂の逆ナンですか!」
「あー・・・そういう意味は一切含まないから真面目に!何処かで見た事あるんだよね」
「私の記憶では貴方は存じ上げませんが……」
「そうか……」
そんな話をしていると、新しい護衛が二人来て、閻魔の机に乗っている私を見つけ、即座に引きずり降ろされ、元の位置に戻った。今度の護衛はちゃんとしているみたいだ。
「ごほん・・・、では続きをするぞ。お主このブローチを覚えておるか?」
「あっ!それ!川の所のインフォメーションの鬼に貰ったやつだ」
「そうじゃ、あやつは知り合いでのぅ。何百年もあそこにいるのに、このブローチを渡したのは今回初じゃ。しかも3つも!」
(あの鬼、結構偉い人だったのか……閻魔と知り合いとは……)
「このブローチは、船守だけじゃなく此処でも多少効果があるのじゃ。お主の希望を1つ叶えてやるぞ」
「ということは、コバさんとゆうり君も何か?」
「そうじゃの、二人とも希望を言ってその通りにしてあげたのぉ。あまりそういう事をするのは良くないんじゃが、あやつは滅多にブローチを渡さんからのぉ。願い事3つぐらい大丈夫じゃ。何でも言ってみろ」
閻魔みずから何でもと言うなら、あれしかないよな。
「じゃあ言うけど、三途の川だっけ?あれを渡らす試練、普通の人なら良いけど、泳げない子供やカナヅチの人にも同じ試練を与えて、出来なければ消すってあれ、酷くないですか?」
「そうかのぉ?ならば、お主はどうしろと?」
「ただ、ひたすらに歩かせるのが良いと思う。子供には、所々にオモチャとかの誘惑を置いて、遊んでしまったら、その分歩く距離を増やすとか……。自分の所の技術部を誇るならVRみたいなので出来るはずだよね?」
「ふむっ。できるとは思うが、それがお主の願いかの?」
「そうですね。『三途の川の試練の見直し』それが私の願いです」
「自分の為に願い事を使わんとは、欲がないのぉ。分かった、技術部と相談し実現させると約束しよう」
私はそれを聞いて安心した。これで、泳げないのに理不尽に消される子供が減ると……。ん?消される……子供……川……。
「あーーーー!思い出した」
いきなり大声を出したので皆ビックリして、私を見ている。私は、そんなのお構いなしに補佐官を指さして、問いかけていた。
「貴方に、そっくりな子供が川で船守に消されてたんだけど、親戚か何か?」
「よく、関係があると気付きましたね」
「雰囲気は違うけど、顔はよく似ているじゃん。もしかして、本人だったりして」
私が『まさか』と言う気持ちで言ったのに、補佐官は凄い笑顔で閻魔に向き直った。
「閻魔大王、私だとバレたので約束通りに子供時代の映像を消去して下さい」
「惜しいが仕方ない、まさか気づく奴がおるとはな」
「?」
何を言ってるのか分からず、呆然としていると、またまた凄い笑顔で補佐官が私に向き直った。
「ありがとうございます。貴方のお陰で、黒歴史が1つ消えました」
「あの……どういう……」
「あぁ失礼しました。あまりの嬉しさに説明を省いてしまいました。あの消えた子供は、私です。私が子供の頃に撮られました」
「撮られたという事は、あれは映像だったの?」
「はい、そうです。実際に消してる訳ではありません。恐怖と混乱と焦りで錯覚させただけです。本当に消す訳にはいきませんからね」
「一応、考えられているんですね。本当に消されたと思って、船守殴っちゃいました。謝っといて下さい」
「わかりました。伝えときます」
「おねがいします。仕組みは分かったけど、なんで感謝されたの?」
「あの映像は、この職業につくための演技試験だったんですよ。あの頃はまさか、こんな事に使われてるとも知らずに、大人になり職場体験で目撃し、閻魔大王に直訴したら『君だって気付く人いないよ。また試験するの面倒だから、あのまま使わせてよ』と言われたんですよ。それでも、どうしても黒歴史を消去したくて食い下がったら『じゃあ、誰かが君だと気付いら消してあげるよ』と約束してくれたので、私は待ち続けて数百年……やっとその時が来たのです。改めてありがとうございます」
かなり深々と頭を下げられた。そんなに嫌だったんだ、あの映像…。
「貴方が考えた。三途の川見直し案は私が必ず実現させますので、ご安心を」
ちょっと引くぐらいの喜びようだけど、まぁかなり出来る人みたいだから、安心だな。
「ごほん・・・、最後にお主の行く所を選ばないとならないんじゃが。沢山、色んな案を出してくれた事は感謝しとるんだが、部下の手前、未遂であろうと儂を殴ろうとした件を無かったことには出来ないので、緩い罰を10年やるか、かなり辛い罰を3年や…「2年やるかの2択、どちらがいいですか?」
閻魔が話してる途中で、隣の補佐官が言葉を被せて短い期間を言ってきた。いいのか?
まぁ、閻魔もため息ついてるから良いんだろうけどさ。神っぽい人に、頼まれごとされてるから、早い方がいいだろう。
「じゃあ、辛くて2年でお願いします」
「緩い方じゃなくて良いのかのぅ?」
「ちょっと先約があるので早い方で!」
「承知した。達者でのぉ。連れてけ」
なんか色々あったけど、やっと次に行けるようだ。
(一人一人こんなにかかってたら、あの人数いつまで経っても捌けないよ。閻魔様ファイト!)
意外に優しかった閻魔にエールを送り、私は次へ二人の鬼と向かう。
ムカつく鬼に確実に罰を与える為なら、何でもする主人公(笑)
次回2週間後に更新します