閻魔様とご対面!①
あれから暫く歩いて行くと、大きい立派な建物が見えてきた。中に入ると、私達と同じ服を着た。年配の方も居たので、最終的に皆ここに来るのだと分かった。
皆並んでいるので、私達も並ぼうとその列に行ったら、何故だか私だけ違う所に連れて行かれた。子供達とは、ちゃんとお別れをしてきた。
「よしこちゃん!」
連れて来られた場所には、なんと!ゆうり君がいた。船で別れてから、もう会うのは難しいと思っていたのに、こんな所で会えるなんて……。走ってきたゆうり君を抱きとめ、頭を撫でながら話を聞く。
「ゆうり君、こんな所でどうしたの?コバさんと先に行ったと思ってたんだけど?」
「コバさんとは、このたてものまで、いっしょだったよ。れつならんで、さきにつれていかれたから、わからない」
「そうか。でも、ゆうり君とだけでもまた会えて嬉しいよ」
「よしこちゃんも、こっちにこれてよかった」
お互いに再会を喜んでいると、鬼が遠慮がちに話しかけて来た。よくみると先程、川からこの建物まで案内してくれた、『職場体験中』の鬼だった。
「あの~、白崎ゆうり君そろそろ行かないと……」
「あっ!そうだった。じかんないんだった」
「ん?どうしたの?」
「あのね。よしこちゃんに、あうためにすこしだけじかんもらったの!こわいひとに」
「恐い人ではなく、閻魔様です。立派な方です。僕の憧れの人ですよ」
すかさず訂正と自慢を入れてくる『職場体験中』の鬼。このフレーズなんか面白い。あの世も私達の世界と変わらないんだな。
「わざわざ会う為に時間をとってくれてありがとう」
「ううん。パパとママにあわせるやくそくしたから。ぼくにはね、うまれてくるいもうとがいたの、そのいもうとをまもるの!」
「?」
「白崎ゆうり君は、産まれてくる妹さんの守護霊になって、これからを見守っていくそうです」
鬼が分かりやすく、説明してくれる。
「よしこちゃんきてきて!このかがみのぞいてみて!パパとママがいるの!」
そこに映っていたのは、病院で奥さんが今にもお腹の子を産みそうな場面だった。
「この二人がゆうり君のパパとママなんだね。また一緒に居られてよかったね」
「うん!あっ、ぼくもういかないと!よしこちゃんまたねー、ばいばい」
そう言って手を振り、少し離れた光の中に入って行った。鏡の中では、元気な赤ちゃんが産まれた所だった。近くで一緒に喜んでいるゆうり君が見えた気がする。私は、この家族がずっと幸せであるように祈った。
ゆうり君と会った後、私は始めに並ぼうとした列に行き、自分の番を待った。2人体制なのか、呼ばれた人は鬼2人と一緒に先に進んで歩きだしてる。
いよいよ私の番になり、やっぱり鬼が2人付いた。だけどなんだか、他の鬼とは違って、なんかチャラそうなのと、偉そうなのが私に付いた。
道中暇だったので、鬼に質問してみた。『どこにいくのか』『どのくらいで着くのか』『何故1人に2人付くのか』と色々と……。
「うるさい!黙って静かについて来い!たくっ、昨日は後輩を指導し過ぎて身体が痛いっていうのに鬱陶しい奴に当たったもんだ」
「お前のは、指導じゃなくてイジメだろう?働く鬼がいなくなるから、少しは加減してくれないか?仕事が増えて面倒くさいんだよ」
「てめぇは、やる気無さ過ぎだ。書類は後輩に任せ、身体を鍛える時間はナンパときてる。その身体じゃ逃げ出した奴を捕まえられないだろう」
「大丈夫ですよ。ヤバそうな奴は後輩とチェンジしてるので、今日はチェンジしなくても……、大丈夫そうだったので来ました」
こいつ、私の姿をチラ見して言ったな。
「てめぇの方が、後輩をこき使ってないか?」
「俺は飴と鞭を上手く使い分けてるから、ちゃんと食事奢ってやってるし」
私より、この2人の話の方が五月蝿いと思うんだけど……。まぁ、静かに歩くよりはいいか。そうこうしてるうちに、大きな扉に辿り着いた。入るように言われて、鬼2人と入って行った。
目の前にはかなり大きい机と"これぞ閻魔!"って感じの身体の大きい恐い顔のをした人がいた。なんか、手元の巻物を一生懸命に読んで内容を吟味しているようだ。隣には、どこかで見た事ある補佐官らしき人がついていた。
(あれ?おかしいな。鬼の知り合いなんてそういないのに、どこかで見たかな?)
「ふむ……、お主は大分わんぱくなようじゃな。悪い事はしていないようだが、直ぐに手を出してしまうのは良く無いのぅ」
「記憶にございません」
「自覚なしか。ここには中学の時。学校の下校時間に現れた変出者をボコボコにしたと書いてある」
「き……きおくに……」
「ほぉ~お」
「はぁ~。あの時は、友達が襲われそうだったから……。正当防衛です」
「友達を守った事は素晴らしいが、正当防衛を主張するなら、刃物を持っていたとか、実際に襲われてからじゃないと効力はないのぅ」
「あれは、明らかにギルティ!有罪ですよ!夏なのに全身を隠すコートを着ていて、友達を見る目がヤバかった。実際、露出魔だったし」
「なるほどのぉ。これを見るとかなり命を助けとるのぉ、お主。スーパーヒーローか何かか?」
「命を助けた?それも何回も?」
私はいつの事を言っているのか分からず、首をかしげた。
「言葉だけじゃ分からんじゃろうから、そっちの鏡に映像が映る、それを見ながら儂の話を聞いておれ」
そう言われて見た鏡は、さっきゆうり君と一緒に見た鏡と似ていた。
「あれ?それって今の現世が見えるんじゃないの?過去も見れるの?」
「ん?そうか。お主はこの鏡を見た事あるのじゃな。という事は、ゆうりが会いたかったのはお主か。なるほどの、これは奴が気に入るのも納得じゃの。今までおらなんだ」
「?」
「独り言だから気にするな。それは我が技術部が開発した玻璃の鏡、過去と現在が見れる便利道具じゃ」
「そうなんだ」
鏡の説明が終わると閻魔様は手元の巻物に視線を落とした。私は言われた通りに鏡を観ている。そうすると、若い時の私が映った。
「命を助けたとされる出来事、まずはこれじゃな。小学5年生の時、車に轢かれそうだった飯田海斗を救う」
「あっ、これは海斗と初めて友達になった時だ。懐かしい~」
「……飯田……海斗ぉ~?」
隣の後輩イジメをしていると話していた鬼が反応した。何故だろう?私以上に鏡をガン見している。
鏡には、今にも車に轢かれそうな子供と、ちょっと遠くで歩いてる私と友達が映っていた。
(あの時は友達とサッカーをやりに行く途中だったんだよね。あの子轢かれる!!って気付いて、持っていたサッカーボールをその子めがけて、強く蹴ったんだよね。まだ、体格が小さかった海斗は吹っ飛んだけど、轢かれないで良かったよ)
隣にいたチャラい鬼はその映像をみて、呆れていた。
「おい。あれはなんでも可愛そ過ぎだろう。あんな小さい子にシュートをかますなんて……。飛び込むとか他の方法は、無かったのか?」
「あの時は、"助けなきゃ"って思って身体が勝手に動いたから、考えてなかったけど、こうやって客観的に見てみると。何をしても、距離的に間に合わなかったね。あれしか海斗が助かる方法は、無かったみたい」
もう友達だからかも知れないけど、こうして改めて見ると、ちょっとイラッとする。私があの場で、あの行動をしてなければ確実に海斗は轢かれて死んでいた。
「他にもじゃが、中学3年生の時に通り魔を倒し、安藤さゆりの命を助けとるのぉ」
「えっ!あの時通り魔を倒さなきゃ、さゆり殺される予定だったの!?倒して良かったぁ」
鏡には、学校帰りの子供達が映っていた。そこは、大通りで通学路になっている。近くに学校が2校あるから、かなりの子供達が通る。
(確かあの時、私は友達と話しながら一緒に帰っていた筈だ)
鏡の中の私は確かに友達と話しながら歩いていた。そして、一人の男とすれ違い私が振り返ったと思ったら即座に、持っていた縄跳びを男の首に巻き付け、引き倒し、もう一本友達から縄跳びを貰い、鞭みたいに男の手に叩きつけ、腕と身体を縄跳びで近くにあった電柱に縛りつけた。男はぐったりしていて、大人しく拘束されている。
・・・・・
「あれは……、あんまりじゃないか?普通に歩いていた一般人を、いきなり殺るとは……」
「ちょっと待って!今の角度だと、私ヤバイ人じゃん、これ視点替えられないの?」
「出来たはずじゃが……ちょっと待っておれ」
暫く待つと閻魔が言ったように視点が替わった。私視点になっている。当時の私視点だと、より細かい事が分かるなぁ。
そうそうあの時友達と歩いていたら前から目つきがヤバイ人が歩いてきて、すれ違う直前に後から追いかけて来た友達が私を呼んで、振り返って誰かなって確認してる時に、男が通り過ぎ、服からナイフを出していて、なんか嫌な予感がしたから、縛り上げたんだった。
(なんか、こうやって鏡越しとかで見てると、アクション映画みたい)
「あんた目線でも、こいつのヤバさは分からないな。俺には普通の通行人にみえる。ナイフを出すまではだが……」
「なんか、オーラというか雰囲気がヤバかった」
「そんなヤバそうな奴、中学生が普通一人で倒すか?」
「何も考えてなかった、こいつヤバイと思ったら身体が勝手に動いた」
(この犯人の動機が、子供の声が五月蝿いから、殺そうとしたらしい……世の中、物騒になってきたな)
「ここでは、5人の死亡者が出るはずじゃったが、未然に食い止められた」
「安藤……さゆり……こいつも……」
また隣で何か呟いてるよ。もう無視しよう。
12時にもう、一話更新します!