川を渡ろう!②
「よし!行こうか。この板に掴まっててね。後は私が引っ張って行くから、手を離さないように!」
「うん。わかった」
流れが緩やかだからか、流されるとかいうのは特になく、順調に半分ぐらいまで来れた。あと半分で着けると思った時、水の中から妨害がきた。
次はなんだと、急いで水の中を確認したら、タコがぬるぬるとくっついてきて、泳ぐのを邪魔していた。
(こいつは、一体何なの!さっきまでいなかったのに・・・。刃物があれば、たこぶつにしてやるのに!)
水の中では大した抵抗も出来なく、二人とも沈められた。そのまま意識を失い、次に目を覚ましたら皆がいる岸に戻されていた。
女の子も近くに倒れていたので、息をしていることを直に確認した。生きていたので一息ついた。
(半分ぐらいまでは何事も無く大丈夫だったのに、何故あそこで襲われたんだろう?)
何が違うのか考えていると、子供たちが"大丈夫?"と心配してくれた。今にも泣きそうな子もいたので、笑顔で大丈夫だからと頭を撫でてあげた。
この中で更に小さい子達には、女の子が目を覚ましたら教えてくれるようにお願いして、大きい子達とは、さっきの状況を話し合った。
「さっきのを見ていて、何か気付いたことあるかな?半分ぐらいまでは順調で何も無かったのに、いきなりタコに襲われたんだよね」
「うーん、とくになにも」
「タコいるの?みたーい」
「こわいよー」
「あのこ、だいじょうぶかな?」
「・・・・」
子供たちは、思いついたことを色々と言っていた。特に有力な情報は無いけど、一人の子がずっと黙って考えているのを見て、何かあるのかと聞いてみる。
「何か思い当たることがあった?何かをしたとか、逆にしなかったとか、不自然に感じたところとか何でも良いから言ってみて」
「おそわれる、すこしまえにおんなの子があしをバタバタしてなかったかな?」
「ん?どういう事?」
「ぼくたちが、おしえたバタあし、つかれたみたいで、とちゅうからしてなくて、だいじょうぶかなってみてたら、しずんじゃって、こっちにふたりとも、ながされてきた」
「あの子は、始めからずっとバタ足してたの?」
「うん。ぼくたちがおしえたのを、がんばってやってた。おうえんしてたから、ずっとみてた」
そうなると、子供たちも何かをしないと妨害がくるのか。後はあの子が起きてから聞いてみるしかないかな。今は、泳げない子にバタ足を最低限出来るように教えないと……。
この場所は本来、子供用なのか私だとなんとか下に足が着く深さだ。浅瀬もあるし、波も穏やか、練習するには良い場所だ。
バタ足が出来る男の子2人には、それぞれ一人を教えてもらって、私は3人を担当。女の子が起きたのを教えてくれる子を2人つけて、総勢11人の"この川を渡るぞ計画"が始まった。
男の子2人は、バタ足を教えるのは2度目なので、結構スムーズに教えていた。私の方は、私と一緒に手を引く子と、泳ぐ子に分かれて交代しつつ練習していた。暫くすると、女の子につけといた子供が1人やってきて私を呼びに来たので、急いで向かった。
「具合はどう?何があったか覚えてる?」
本人の意思で手伝ってくれてるけど、私が頼んで死なれたら困る。まぁ、ここで死ぬのかは、分からないけど……。
「おねぇちゃん。むこうまでいけなかったの?わたし、なにかしっぱいしちゃった?うぅ……ごめんなさ~い」
泣きそうなというか、もう泣き出してしまったので、暫く落ち着くまで待ってあげた。もちろん、頭を撫でながら……。
「落ち着いた?そしたら、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」
「もう、だいじょうぶ。ききたいことってなぁに?」
「さっき2人で川を泳いだでしょう?あれね、実は川の半分まで行けてたんだよ!凄いよ!」
また落ち込んで泣きださないように私は、なるべく明るく話す。
「わたし、はんぶんもいけたの?」
「うん、そうだよ。ちょっと泳ぎを教わっただけで、半分も行けるなんて凄い!だから落ち込まないでいいよ」
そう言ってまた、頭を撫でてあげる。女の子は、みるみる元気に喜んでいた。
「それでね。半分まで行けたところで、邪魔が入って戻されちゃった。他の子から聞いたんだけど、教わったバタ足をずっとしてたの?」
「うん。いちどみせてもらったら、まえにすすんでたから、はやくパパとママにあいたくて、あしバタバタさせてれば、はやくつくとおもって……」
「そっか、溺れた時って足止めて直ぐ?」
「あしつかれて、ちょっとたったぐらいだったとおもう、あしひっぱられたの」
「そうだったんだ。ありがとう!お陰で向こうに渡れそうだよ」
「ほんとう!やったぁ。パパとママにあえる!」
頭を撫でてあげる。私も撫でるのが気持ち良くなってきた。髪サラサラだし、撫でると喜んでくれるから嬉しい。
「よし、じゃあ皆のところに行こうか!凄い心配してたから顔見せて安心させてあげて、今は泳ぐ練習してるけど、しばらくみんな離れなくて大変だったんだから」
本当に大変だった。全然練習を始めてくれなくて……。結局は、ここまでやってくれたこの子の努力を無駄にするのか?パパとママに会いたくないのか?と怒鳴った。ただ優しく声を掛けただけじゃやってくれないよね。たまには、叱らないと。
「みんなちょっと休憩~集まって~」
子供たちが、わらわらと集まってきた。みんな、私の隣を見て嬉しそうにしてる。
「だいじょうぶ?」
「めがさめたんだ!」
「ふらふらしない?」
「おきてだいじょうぶ?」
「ないてる、どこかいたいの?」
えっ!泣いてる!?吃驚して見てみれば、笑顔で泣いていた。嬉し涙だったようで、安心した。皆凄く喜んでいて、士気も上がっている。今度こそ、この川を渡るぞ!
私は、新しい方法を皆に伝えた。これなら、なんとか行けるだろう。その方法とは『とにかく離されないように、板にしっかり掴まってバタ足!疲れて止まったら、周りの子が騒いで私に教える!』以上。
本当は本人が私に伝えられればいいのだけれど、そんな余裕はないだろう。泳いでいても周りの声は聞こえるから、聞こえたら止まって休憩。この方法でなんとかなると思う。
何故、足が着くのに手をとって私が付き添わないのかと言ったら、単純に遅すぎていつ向こうに着けるか分からないから。なんちゃってバタ足をやってる間に私が泳いで、距離を稼ぐのが1番速い!
休憩の時は、私も近くに行って体が沈まないように支えてあげる。不安なら私に掴まってもいいしね。
「よし、そろそろ始めようか。みんなもなんとかバタ足出来るようになったし、行けると思う!みんなの協力が必要だから、よろしくね」
「うん」
「がんばる」
「およげるとこ、パパとママにみせるんだ」
みんな元気いっぱいに返事してくれた。これは頑張らなければ。私も気合いが入る。始めにやった子と行こうとしたら、違う子に止められた。
「つぎは、ぼくがやるよ。その子は、もうすこし、やすませてあげて」
そう言ってくれたのは、泳げる男の子の一人だった。『おそわれる、すこしまえに女の子があしをバタバタしてなかったかな?』って気付いて発言してくれた子だ。
先程も見た通り、始めは手探りだから危険が伴うのに、女の子を休ませる為に自分が行くと言ってくれている。小さくても男の子だね。
「分かった。じゃあ交代ね。川の半分まで行ったら1度休憩を挟むから、そこまで頑張って!」
「はい!」
結果から言うと上手く行った。小さい子は、4・5回休憩が必要で時間かかったけど、タコに邪魔されることなく無事に全員渡れた。けれども、1つ納得出来ない事もあった。
始めに志願してくれた男の子は結構泳げる子で、私の補助があれば休憩無しでも行けちゃう感じだった。一応、川の半分で休憩したけど、『え!もうはんぶん?まだまだ、だいじょうぶ』と言うので直ぐに出発した。
あっという間に向こう岸に着いたまでは良かったんだけど、その子がパパとママに会いに行った時には姿がなかった。
まぁ分かっては、いたけど・・・。可愛い我が子が川に入った時点で、普通の人なら飛び込んで来るでしょう。それを向こう岸に居るだけなんて、明らかに可笑しかった。
私?私なら、"可愛い子には試練を!"とばかりに手は出さないで、見守ってるね。でも、こんなに大人がいて、皆私と同じ事をするなんてあり得ないからね。
呆然としている男の子を抱き寄せて、川を渡った事を褒めてあげた。『皆も早く渡らせてあげよう』と、今やる事を思い出させてあげた。これで、暫くは大丈夫だと思うけど……。
その後も、川を渡った子は似たような反応をしていた。それを、最初に渡った男の子がなんとか、フォローして慰めていた。良く出来た子である。自分も悲しいのに、周りを優先して慰めていた。
全員を渡らせた後、男の子の所へ行き、皆へのフォローのお礼とパパとママが居ないのは、まだ現世で元気に生きてるから居ないのだと、喜んでいい事だと教えてあげた。"ここに居ない事は良い事"だと……。
暫く皆で休憩をしていると、鬼が数人やってきた。子供たちは怯えて、私の後ろに隠れている。私は一言いってやろうと待ち構えていると、近づいて来た鬼達をみて言う気が失せた。
遠いから小さかったのではなく、本当にまだ子供だった。ここにいる子達より少し上ぐらい、だいたい中学生ぐらいの鬼が5人。子供達読めないから分からないかも知れないけど、胸に『職場体験』と書かれたバッジを皆付けていた。私は発散できない怒りを押さえて、笑顔で話しかけた。鬼達は何故か怯えているけど無視だ。
「何か用?」
「僕達は案内人です。川を渡った人を連れて来るように言われています」
「ちょっと聞きたいんだけど、この川を渡る仕組みを考えたのは誰か分かる?」
「はい!それは我らの閻魔様です」
「尊敬する方です」
「憧れです。近くで働けるように頑張らなくては!」
「その人に私も会える?」
「このまま進めば貴方たちは、一度はお会いする手筈になっています」
「そう、分かったわ。じゃあ行きましょうか」
私は怒りの矛先を閻魔に定め、子供達を連れて鬼達の後に続いて歩きだした。
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