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熊さんに出会って、酷い目に遭わせた話

アーロフさんが卵を持っていった後、ドルロフさんから槍を受け取った。

うん、完璧に元通りだね。

「ドルロフさん、ワイルフさん、ありがとうございます。これで俺はまた戦えます!」


「ぐぅぅ!使徒様、ワシらは誇り高き戦士が死地に赴く為の準備しか出来んのです。おぉぉぉ!」


ワイルフさんが号泣し始めた。え?俺は誇り高き戦士なんてもんじゃないですぜ。

ヘタレだから遠距離武器ばっかなんだけど。


「使徒様、ワイルフ殿に貸していた神器を模倣させてもらってもいいでしょうか?今、鉄は割と余裕があるのです」


神器?ああ、両刃鋸とかの事か、全然構わないよ。だが、やはり鍛冶衆は相当の

鉄を貯めこんでいた様だな。何の為なんだろうね?


「どうぞ、ただ現物は後で必ず返して下さいね」


ドルロフさんは嬉しそうな顔をしている。

「ありがとうございます。本音を言うと、ワシは武器より日用品や工作道具を

作るのが好きなのです!ワイルフ殿の神器を見たときは心が震えましたぞ!」


喜んでもらえて良かった。これで改良工具がワイルフさん達に渡れば、村の木工

技術は飛躍的に上昇するだろう。


しばらくドルロフさん達と雑談していると、アーロフさんが息を切らせて走って

来た。何故かエーラが目を三角にして後を追いかけている。


....これは確実に面倒臭い展開になるな。


「使徒様、すみません。遅くなりました。ちょっと厄介事がありましてな」


うん、分かるよ。厄介事って、後ろにいるソイツの事だよね。エーラの姿を見て、

ロップと遊んでいたリリも駆け寄って来た。


「....レイ兄ちゃん、アタシも連れて行け。アタシだって弓は得意なんだ」


「無理に決まってるだろ。アーロフさんとエーラ姉ちゃんを二人も運べる訳ない

だろ!」


「嫌だ!アタシも行くんだ!絶対行くんだあああああ。びええええええん」


出た、ギャン泣き&寝っ転がっての駄々捏ね。オモチャ売り場の子供の様だ。

もう慣れたよ。


「リリ、見てごらん。大きいお姉ちゃんが、あんな事してるよ。恥ずかしいねえ。

ちっちゃいリリだってあんな事しないのにねえ」


「オラはしないけんども....。オラはエーラ姉ちゃんが好きだ」


リリを引っ張りだしても効果は無いようだ。うーん、面倒臭い。

このまま放置でいいか。リリがエーラを慰めている内に話を進めた。


「アーロフさん、試験用の催涙弾は一発のみと考えて下さい。確実に獲物の鼻先

に当てられますか?」


「お任せ下さい。ですが、その催涙弾を矢に取り付ける方法は考慮が必要だと思います。丁度ドルロフとワイルフがいるので意見を聞いてみましょう」


その後、技術屋二人を交えて催涙弾の取り付け方法を検討した。鉄がある程度

あるので、ドルロフさんに取り付け金具を作って貰った。

卵をワシ掴みにするような金具だ。これを矢の先に取り付ける。


しかし、この金具は量産は無理だな、卵は一つ一つ大きさが違うし、卵が割れない程度の力で固定するのはドルロフさんの繊細な造形力が必要だ。

試験運用が成功したら、残りの20個をオーダーメイドでお願いしよう。


さて、石河原に行こうか。でも熊さんに出会えるかな?あそこでは二度、熊さん

に出会っているから、熊度は高いと思うんだが。


その前にリリをココエラさんの炊き出し班に預けよう。

リリを探すとエーラやロップと遊んでいる。エーラはもう立ち直ったのか?

接触するとまた面倒臭い事になるんだろうな。

だが、俺はアイツの駄々捏ねや、我儘への対応方法を改めて認識した。

それは無視。無慈悲な無視だ!構ってちゃんにはこれが一番有効なのだ。

アーロフさんにも教えておこう。


「リリ!そろそろ、ココエラさんのお手伝いの時間だぞ~。あとロップも来い!」


「分かっただよ。すぐ行くだよ」

「うにゃ~。ボクはもうちょっと遊びたいっす」


自分だけ呼ばれなかったエーラが目を三角にして駆け寄って来た。

「レイ兄ちゃん!アタシはあああああ?除け者にするなあああ!」


俺は例の如く、エーラの頭を片手で押さえて突進を食い止めた。

まだジタバタしているな。

「エーラ姉ちゃんは今回の件には、全っ然、関係ありません!早く自分の仕事に戻りなさい!」


「アタシだって弓は得意なんだ!アーロフじゃなくてもいいじゃねーか!

アタシを連れてけ!」


「ダメです~。今回は矢は一発しか無いんだよ。それも黒熊の鼻面に当てなきゃ

ならない。エーラ姉ちゃんは必ず当てられるのか?」


「....分かんないけど。やってみなきゃ分からないだろ!」


「はい、却下でーす!アーロフさんは同じ質問に『お任せください』って言って

くれたぞ。『やってみなきゃ分からない』エーラ姉ちゃんは失格です!」


「びえええええん!レイ兄ちゃんのポンコツゥゥゥ!アタシは一緒に行きたいんだあああ!」

エーラは七転八倒の壮絶な駄々捏ねを始めた。何故、俺がポンコツにポンコツ

呼ばわりされなければならないのだろう?


「こりゃ!エイエラ!いい歳して幼子のような駄々を捏ねるな!お前より幼い

リリエラも見ているのじゃぞ!いい加減にせんか!」


ここで、対エーラ特効薬のココエラさんが降臨した。ドルロフさんが気を利かせて呼んできてくれたようだ。人見知りなのに凄く気が回る人だよね。

逆に、人に気を利かせるのに疲れて孤独を選んだのかもしれないな。

あー、分かったぞ。ワイルフさんと仲がいいのは、あの人には気を利かせる必要

がないからだろうな。


「....ココ婆ちゃん、分かったよ。レイ兄ちゃん、我儘言ってごめんなさい」


エーラは項垂れて立ち去って行った。


「使徒様、アヤツは身体だけは大きくても、心はまだ頑是(がんぜ)ない(わらべ)同然なのですじゃ。いずれ使徒様の手が空いた時にでもアヤツを....」


あれ?この会話、前にもした覚えがあるぞ。あの時はいずれエーラを海にまた連れて行くという話だったよな?今回はエーラを連れて狩りに行く話になるの?


対エーラ特効薬ココエラは、問題を先送りにするだけの様だ。

やはり俺には対エーラ特効薬ベルザロフが必要だ。早くサイクロプスを駆逐して、

ベルザロフさんに戻って来て貰わねば!

ベルザロフ・ブートキャンプに放り込めばアイツの我儘も矯正されるだろう。

頼みましたよ!ベルザロフさん(ハートマン軍曹)


リリをココエラさんに預けてから、俺とアーロフさんは試験飛行をした。俺より

デカい男を乗せるのはベルザロフさんの時で経験済みだが、中々バランスを取る

のが難しいのだ。アーロフさんは歓声を上げていた。


「使徒様!私はこんな経験は初めてです!空を飛ぶ!こんなに素晴らしい事はない!」


そうだろうね。大体乗せた人は皆そう言うよ。でもアーロフさんは人一倍感銘を

受けたらしい。何か俺まで嬉しくなるな。


庭に降りると、唇を腫れあがらせたゴリマッチョ(ゴレロフ村長)が腕を組んで待ち構えていた。


ひほひゃま(使徒様)ふひはほれほのへて(次は俺を乗せて)ほんでふれはいは(飛んでくれないか)?」


「....ちょっと何言ってるか分かんないです」


ほひゃほひゃ喚いているゴレロフさんを無視して、石河原を目指した。ロップは

アーロフさんの胸にしがみ付いている。俺は一応カジキを右手に装備した。

俺も結構、魔力が増えているのだろうな。アーロフさんを乗せても時速100キロは出ているな。


「イイイヤッホー!凄いですぞ、使徒様!この爽快感はクセになりそうですな!」


普段は冷静なアーロフさんが高揚しているようだ。また、俺にどっかに連れて行けとおねだりする要員を増やしてしまったかもしれない。

40分程で石河原に到着した。現在12時半。昼飯を食っていないな。


「レイ様、ボクは茶鱒が食べたいっす」


そうだな、釣りをするか。今回はアーロフさんに頼んでみようかな。

俺は森でグリーンペッパー採取とダイア()べア()の誘き寄せをやろう。


「アーロフさん、俺はこれから森に入ってカスレの実(胡椒)を採りつつ、黒熊を釣りだそうと思います。その間、アーロフさんにはここで待機して貰うのも勿体ないので、出来れば茶鱒の釣りをお願いしたいのですが」


「釣りはした事はありませんが、私も狩人の端くれです。一度やり方を見せて貰えれば、狩りの真髄は陸も水も関係ないと思います」


凄い事を言い出したな。狩りの真髄か。騙して捕らえる、追いかけて捕らえる、

大勢で追い詰めて捕らえる。確かに一緒だな。釣りは"騙して捕らえる"だ。


俺は餌の川虫の採り方から始めて、餌の付け方とポイントの選定の説明を経て実釣して見せた。30cm程の茶鱒を釣り上げると、


「成程、大体分かりましたぞ。私は茶鱒を出来るだけ釣り上げましょう。使徒様は出来るだけ黒熊を釣り上げて下さい」


何か凄い安心感があるな、任せたぞ!任されたぞ!って言う感じ?

前世の事をちょっと思い出してしまった。鈴木は俺の後を引き継いで、

やってくれているかな?アイツは見た目はヒョロいけど中身は豪傑なんだぞ!


ああ、追憶に浸るのは良く無いね。さあ、森へ行こう。ロップはアーロフさんに

張り付けてある。予想外の事態があるかもしれないからな。


俺は森でグリーンペッパーを採りまくった。中には赤く熟した実もあったので、

別の土嚢袋に収納した。これはホワイトペッパーになるだろう。


採取中はカジキが邪魔だな、まあ、しょうがない。夢中で胡椒を採っていると、

森の奥に魔力の気配を感じた。俺は収穫物を収納袋に入れて、カジキを構えて

警戒態勢に入った。


熊さんかな?バキバキ藪を掻き分けながら熊さんが姿を現した。デカいぞ!

多分。立ち上がったらサイクロプス位はあるだろう。


俺はゆっくりと後退しながら挑発しつつ、熊を引き付けた。

何故か()られる気は全くしない。熊も警戒しているのか、

いきなり襲って来たりはしなかった。石河原に近くなった時に、

俺は声を張り上げた。

「アーロフさ~ん!準備をお願いしま~す!」


「既に準備完了ですぞ!使徒様。ヤツを誘導して下さい!」


俺は大熊に背中を見せて逃げ出した。森の中で熊さんに出会ったよ~。

すたこらさっさ~のさ~で逃げるんだよ~。


大熊は見事に釣られて追いかけて来たようだ。石河原まで釣り出したところで

立ち止まって振り返ると、大熊が立ち上がっていた。


『ゴファァァァァァ』


おおう!デカいね!サイクロプス並みだ!前脚を上げて威嚇しているがバンザイ

状態だ。そして鼻っ面に催涙弾が命中した!真っ赤な煙が熊さんの顔面を覆った。


『ギャホオオオウ!ギュオヒィィィィ』


熊さんは相当苦しがっているようだ、逃げる事も出来ずに頭を掻きむしっている。

南無!俺はカジキを直接突き入れて、熊さんの頭を破壊した。


これはかなりの効果ではないだろうか?サイクロプスは熊さんと違って顔には

毛が無いし、鼻も鼻孔が開いてるだけだ。いけそうだな!


「使徒様、催涙弾は凄い威力ですな。一つ目巨人にも必ず通用すると思いますぞ!

しかしこの黒熊は持ち帰りたいですな。村では今、肉が足りないのです」


身長5メートルの大熊だぞ。収納袋に入るかなあ?取り合えず血抜きをしよう。

「ほう、それが血抜きの魔法ですか、是非我等にもご教授願いたいですぞ」

「それに関しては、昨日ココエラさんとも話をしたのですが、まず鬼人族の

皆さんは魔力制御が出来ないと話になりません。近いうちに、このロップを講師

にして講習会を開きますので、アーロフさんも是非参加して下さい。

多分魔力制御が出来ないと血抜きは出来ないと思います」


「えっへん!アーロフさんも大船に乗ればいいんすよ!ボクに教わればすぐに

魔力制御は出来る様になるっす。正直レイ様は劣等生だったっすよ。

ボクがそんなレイ様を見捨てずに育てたから、今のレイ様があるんすよ。

それを恩知らずなレイ様はボクにあいあんくろーとかするっす!

アーロフさんもレイ様にあいあんくろーを....」


ロップの長舌を頭を握りしめて強制終了させた。リブートには数分掛かるだろう。


「あの、ロップ殿は大丈夫なのでしょうか?」


「気にしないでください、いつもの事ですから。それよりこの黒熊を持って帰るのは難しそうですね。後ろ脚を持ち上げれば何とかなるかもしれませんね」


首無しの大熊は手足を折りたたんで、なんとかコウエイ様の収納袋に押し詰めた。


アーロフさんが茶鱒を7匹も釣っていたので、炭を起こして七輪で塩焼きにした。

「いや~、釣りたての茶鱒がこんなに美味いとは思いませんでしたよ。

私も漁師衆に移籍しましょうかな?ハッハッハ」

アーロフさんもやっぱり雁木小僧なんだね。何故鬼人族は魚を頭から丸かじりするのだろう?


バケツに頭を突っ込んでいたロップが飛び出して耳をピンッと伸ばした。

こういう時はアホ猫も凛々しいな。


「レイ様、魔物が近寄って来るっすよ、多分ダイア()べア()っす。数は一頭っすね」


「分かったよ。アーロフさん、ちょっと待っていて下さい」


俺がカジキを持って南の森を睨んでいると、先程よりは小さいと言っても

3メートル位ありそうなダイア()べア()が現れた。何か興奮しているようだ。まだ若い熊なんだろうな。赤く光る目で俺を睨むと突進してきた。


俺は嫌がらせ魔法の"キーン"(耳に不快な高音が響き渡り耳が聞こえなくなる)

を掛けた。熊さんは急に立ち止まって顔を手で振り払っている。

まあ黒板を掻きむしる音をイメージしたから不快だろうな。


続けて嫌がらせ魔法の"チカチカ"(対象の目がチカチカして視界を遮る)

を掛けた。ダイア()べア()は立ち上がって、近づく者はあっち行け!ってな感じで、

頭を揺さぶって前脚でデンプシーロールをしているだけだ。デンプシーロール?

下がれば、ただのフックだろ?俺はカジキでダイア()べア()の口の中にカジキを突き入れて(とど)めを刺した。


また血抜きか、俺が首を切り裂いて血を魔法で抜いていると、アーロフさんが

感極まって抱き着いて来た!えー、何だこれ?

「凄いですぞ!使徒様。話には聞いていましたが単独でもあのように一方的に

黒熊を屠るとは!私にも極意を教えてくれませんか?」


俺は生命魔法の嫌がらせ部門を使ってインチキしてるから、傍目には無双している様に見えるかもな。

「残念ながら、これは星母神様の恩恵によるものです。狩人衆は今まで通り地道

に狩りをした方がいいと思いますよ。今度ロップの講義を狩人衆全員で受けて

みて下さい。多分、血抜き魔法もロップの講義内容を理解して、実践出来ないと

使えないでしょうね。まあ一つ目巨人共を駆逐した後の話になりますけどね」


「....そうですな。まずはこの黒熊を持ち帰らねばなりませんな」


俺とアーロフさんは散々悩んで、最初の黒熊と抱き合わせる様な形で何とか

コウエイ様の収納袋に収める事が出来た。


さあ、村へ戻ろう。決戦は出来れば明日がいいな。


【もちっと、れぼりゅーしょん!】

※本編には全く影響がないオマケです。


ゴレロフ「使徒様、よくも俺を騙してあんなモノを食べさせてくれたな」

俺「いや、騙して無いでしょう?それに、俺もアレを食べたんですよ!死ぬかと思いましたよ!」

ゴレロフ「ふんっ、使徒様は軟弱だな!前回、俺は体調が悪かったのだ!次の機会があれば、あんなモノはオヤツと一緒だ!ボリボリ食ってやるさ!ガハハ!」

ティエラ「メドロフく~ん!ピリピリの実(唐辛子)をそんなに抱えて何処に行くの~?」

メドロフ「オイラ、村長さんは辛い物が好きって、使徒様に教えて貰ったんだ~」

俺「では失礼します。辛い物好きな村長様。ふふふ」

ゴレロフ「使徒様!俺を置いて行くなあああああ!」



俺「さて、皆さん。いいですね。ハイ!」

「「評価と感想、ブクマをおなしゃす」」

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