ヒャッハーと出会った件
翌朝、茶鱒で朝飯をすませた。昨日のスッポンスープの煮凝りはやはり絶品だったよ。俺とリリで二切れずつ位だったが、俺はまたスッポン様を採ろうと決意を新たにした。
さて、荷物を梱包していよいよ海へ向かう。カニ網の補修はなんとかなるんじゃね?位には出来たと思う。
ロップはやや不機嫌の様だ、昨夜のリコーダー独演会で俺の才能に嫉妬したのだろう。
リリはずっと裸足だったが、子供用のスニーカーがあったので履かせておいた。磯では裸足は危ないからな。
衣装ケースに入れて置いた黒猪も持って行こう。
放って置くと腐るからな。
今回はリリもちゃんと服を着てるのでリリを肩車しよう。ブルマーだけどな。
ロップは蓋を外したクーラーを首からぶら下げて中に入れて運ぼう。
今回の目標はホーロー甕いっぱいの塩造りだ。鬼人族へのお土産には充分な量だろう。
さて、いざ征かん!再び海へ!リリを肩車して首からぶら下げたクーラーボックスにロップを入れて俺は飛び立った。右手には勿論愛用の武器剣スコップだ。
「リリは俺の角を掴みなさい。ロップはおとなしくしているように」
「分かっただ!レイ兄ちゃん!オラ楽しみだなや」
「うにゃ~、分かったっすよ」
下流の滝を飛び越えて渓谷沿いに川を下る。前回は3時間弱で河口に辿り着いたよな。今回はちょっと速度を上げてみようか。
リリは頭上ではしゃいでいる。
「うんわ~速いだよ。レイ兄ちゃんは凄いだな~」
リリと出会った石河原を越えてしばらくすると水没林の湿地帯になってきた。
アレ?なんかスゴイ生き物が川辺で寝そべっているよ。
体長10メートル位ある。あれはワニだな、目が赤いし魔物だろうな。
「ロップ!アレは魔物だよな?」
「そうっすね。見たことないけど魔物っす。狩るっすか?レイ様」
ムリムリムリムリ!あんなモン狩れる訳ないだろ!リリもいるし危険な事はしたくない。
「ロップ君、今回は見逃してあげましょう。リリ君もいるので危険は回避ですよ」
「ふ~ん、やっぱりレイ様はヘタレっすね」
この野郎、やっぱり昨夜の事を根に持ってやがるな。だが今後魔物を狩る際にはリリの存在は痛い。リリを守りながら魔物を狩るのはリスクが大きい。
ロップは相談役として一緒に来て欲しいし、そうなるとリリを独りで洞窟に置いて行くのは不安すぎる。
これは塩をお土産にして鬼人族の村長と交渉して、リリの待遇改善を目指すのがいいのかもしれないな。
色々考えながら川沿いに飛んでいるとマングローブ林を越えて河口に辿り着いた。
リリが頭上ではしゃいでいる。
「うんわ~!凄いだな、ずっと水ばっかりだなや!」
まだ10時前だ、前回よりも大分早く着いたな。午後はリリに海水浴をさせてやりたい。午前中はある程度、塩作りと食材の採集をした後ビーチに行こう。
東の岬を飛び越えて磯場に向かった。丁度干潮で潮溜まりが見えている。
俺はリリを連れてバールで牡蠣を引っ剥がして見せた。
「レイ兄ちゃん、これは何だべ、食べ物か?」
「リリ君にお仕事を与えます。この貝を集めてください。これは大変美味しい物ですよ。でも他の生き物には触っては駄目です、毒があるかもしれないですから。ロップ君はリリ君を助けてあげる様に、あまり遠くには行かないようにしてください」
俺はバケツと短いバールをリリに渡した。
「分かっただよ。レイ兄ちゃん、オラいっぱい集めるだ!」
「うにゃ~」
大丈夫かな?ちょっと心配だ。さて俺は塩作りだ。200リットルは入りそうな漬物樽に海水を汲んで気化を始める。概算で1回で3キロ以上の塩が採れるはずだ。
前回と同じ工程を繰り返して、一時間でおよそ3.2キロの塩を作った。
よしもう一回!
現在11時半。ホーロー甕に6キロ超の塩を蓄えた。凄いな漬物樽!そして釣りだ。俺とリリは牡蠣でいいが、ロップの昼飯が必要だ。
まあ無くてもいいんだが、またリリが自分も食べないと言い出すと面倒だ。
そろそろ潮が満ちてくる。急いでその辺の潮溜まりで蟹を探して釣りを始めよう。
取り合えず6匹釣れればいいだろう。ロップの昼飯と晩飯、それに明日の朝食用だ。俺とリリは黒猪の肉があるから充分だ。
緑カサゴを丁度6匹釣ったところでリリとロップが戻って来てバケツを差し出した。
「レイ兄ちゃん、オラ頑張っただよ!」
「うにゃ~、ボクもちゃんとリリちゃんを助けてあげたっすよ」
おおっバケツにてんこ盛りの牡蠣だ、数えてみると43個もある。
取りすぎじゃね?
緑カサゴのワタを入れて、またカニ網を仕掛けてみる。
これはもどかしいが賭けだ。海サソリに出会えるのも嬉しいが、カニ網を壊されるのも困るんだよな~。
まあ昼飯はこの磯場で焼き牡蠣だ。ロップには緑カサゴを2匹与えた。
ポータブルストーブで昨日ロップとリリが集めた枯れ枝で牡蠣を焼いた。10個ずつでいいだろう。食べごろになった牡蠣を皿に乗せてフォークと一緒にリリに渡すと、リリが困っている。
「レイ兄ちゃん、これはどう食べればいいんか?この堅そうな所も食べるんか?」
リリは二枚貝を見るのは初めてらしい。
「中の柔らかい所だけ食べなさい。美味しいですよ」
リリが恐る恐る口に入れると目を見開いた。
「うんわ~!今まで食べた事ない味だんべ!でも美味いだなや~!」
俺は次々に牡蠣を焼いてリリにサーブしつつ、焼き牡蠣を食べた。やっぱ美味いね。
さて、塩も食材もある程度ゲット出来たから、午後はリリに海水浴をさせてやろう。荷物を片付けて西の南国ビーチに向かった。
西の岬を飛び越えるとリリが頭上で大はしゃぎしている。
「レイ兄ちゃん!なんだべ!水が青くて、砂が白いだよ!オラこんな綺麗なの見たことないだよ!」
大興奮のようだ。ロップも最初は大はしゃぎしていたよな。昨日からちょっと、やさぐれ気味だけどな。でも俺のせいじゃないよ。
取り合えずビーチにテントを設営しよう。ロップとリリは波打ち際ではしゃいでいる。楽しそうですね。リリを呼び寄せて、聞いてみた
「あ~、リリは泳げるのか?」
リリは首を傾げて聞き返してきた。
「およぐってなんだべ?オラ良くわかんねえだ」
「よし、レイ兄ちゃんが泳ぎ方を教えてあげよう。リリはテントでこれに着替えてきなさい」
俺はコウエイ様秘蔵のスクール水着をリリに差し出した。勿論名札には昨日マジックでリリと書いておいたんだよ。
リリは疑わし気に俺を見ていたが、テントに行ってスク水に着替えてきた。
俺もカーゴパンツを脱いでトランクスのみになった、俺用の水着は無いのだよ。
発砲スチロールの蓋をリリに渡して手を引いて海に連れて行った。
「レイ兄ちゃん、あんな水が押し寄せる中に行くのはオラ怖いだよ」
「大丈夫だ!俺が見張ってるから、楽しいぞ~」
「分かっただ、レイ兄ちゃんがオラをイジメる訳ないもんな!」
しばらくは、おっかなびっくりで波間に浮かんでいたリリだったが、何度も波に乗って砂浜に打ち上げられるうちに、キャッキャキャッキャはしゃぎだして、
喜んでいる。やっぱ子供がはしゃいでいる様はいいもんだ。俺は独身だったけどな!ロップは水に浸かるのが嫌みたいで、リコーダーの練習をしている。
昨日の俺のリコーダー独演会が悔しかったようだ。だがロップ君、キミのぷにぷに肉球の手では無理なんだよ。
2時間程リリを遊ばせた後、水タンクからタライに水を汲んで適度に温めた後にリリを呼んだ。
「リリ!そろそろ上がってきなさい」
「....うん分かっただ。レイ兄ちゃん、オラ楽しかっただよ!」
素直ないい子だね~
「このお湯で身体を良く洗いなさい。海の水はべとべとするからね」
「分かっただよ、オラもう独りでできるもん!」
その後、俺達は夕飯を済ませた。俺とリリは焼き牡蠣と黒猪の焼きバラ肉。
ロップはいつも通り魚だ。ロップはスッポンには興味を示さなかったくせに、
牡蠣はチラチラ見て食べたそうにしている。どういう嗜好なのだろう?
無視して完食した。
食後はリリに笛を聞かせてくれとせがまれたが、ロップが嫉妬で不貞腐れるので、
今日はロップとリバーシで遊ぶように言っておいた。俺にはまだやることがある。
食器を洗い、服を洗濯した。今回は洗剤を使ったが、これは貴重なものだ、
今後は基本水洗いにしよう。確かムクロジとかいう実が洗剤になったはずだが俺には分からない。
鬼人族は洗濯とかどうしてるんだろう?鬼人族と仲良くなれたら、村の生活をじっくり拝見したいものだな。
それから4日程、海で生活した。午前中は塩作りと食材採集。午後はリリは海水浴で、俺は食材加工。ロップはしつこくリコーダーの練習をしていてうるさかった。
俺が何度もオマエの猫手では穴が押さえられないから無理だと説明したのだが。
塩甕いっぱいに塩が出来たので、鬼人族へのお土産用に半分程の塩を土嚢袋に詰めた。今回は帰路に鬼人族の村を探そう!リリに鬼人族の人数を確認したのだが、
『オラ分かんねえだ。いっぱいだよ』
との事だったので初回はこの位で様子見だ。鬼人族がヒャッハー軍団でない事を祈る。強奪しようとしたら2度と行かないからな!
今回は海サソリ君には出会えなかったが、大量の緑ゴンズイが採れたので干物にした。これもお土産になるだろう。
他にも新たに魚醤を2甕仕込み、大量の煮干しや干しアサリ、干しナマコ、コノワタを仕込んだ。そういえばコノワタはまだ食べていなかったな。
とにかく俺は午後は大変だったのだ。リリは海水浴を早めに切り上げて俺の手伝いをしてくれたが、ロップは相変わらずポヒポヒ笛を吹いている。
俺は一度注意しようと思ったが止めておいた。猫の手も借りたいというが、
猫の手を借りてもロクな事にはならないのだ。
さて翌日、荷物を梱包して帰ろうとしたがマズイ事に気が付いた。
往路は空のクーラーボックスにロップを入れて運んだが、今は大量の干物が詰まっている。
少し悩んだが、ロップを肩車してリリは抱きかかえて飛ぼう。だが剣スコップを持てないのが不安だ。
よし、取り合えずリリと出会った石河原まで行こう!
海に来る途中でデカいワニを見かけたので、湿地帯を抜けるまでは高度を取って飛行した。
「ほえ~、高いだなや~。廻りが丸見えだよ。オラ空飛ぶの楽しいだ」
「リリが行った事ある場所は見えるか?」
「うんにゃ、沼地の辺りは危ないから、村の狩人衆でも近づかないって聞いただ」
やっぱりあの辺りは危険だったか、釣りをするのは止めよう。
一時間程飛ぶと石河原が見えてきた。俺も結構速く飛べるようになったな。
リリと出会った辺りまで来ると、河原でデカい獣と人?が戦っているのが見える。
「ロップ、あれは何だ!」
「あれはダイアベアっす!今のレイ様では要注意の魔物っすよ!戦っているのは鬼人族みたいっす」
リリが騒ぎ出した!
「あれは狩人衆のエーラ姉ちゃんだ!レイ兄ちゃん助けてくんろ!」
黒髪の女狩人は槍で攻撃しているが、ダイアベアの皮膚が厚いようで効果的な攻撃にはなっていない。
逆に女狩人は左腕から出血している。それなりに深手のようだ
よしヘタレ返上だ!俺にはゴールデンコンボ、パラライズからのダークなんちゃらがある。
「ロップ、リリ、静かにしてろよ!」
戦いに夢中になっているダイアベアの背後の上空からこっそり近づき、パラライズを放った。
ダイアベアは一瞬パリッと身を震わせたが、特に効果は無いようだ。レジストか!ダイアベアは背後の俺達に気付いていないようだが、
女狩人は流石に気付いた。
「角無しリリじゃねーか!その魔物に捕まってんのか?コイツを倒したら、その魔物もアタシが倒してやるから待ってな!」
「エーラ姉ちゃん!レイ兄ちゃんは魔物じゃねえだよ!オラを助けてくれたんだ。エーラ姉ちゃんもきっと助けてくれるだよ!」
えー、パラライズが効かなかった時点で結構諦めモードになってたんですけど。だが女狩人は必死でダイアベアの猛攻を避けている。
よし、状態異常てんこ盛りスペシャルだ!再びパラライズから順に生命魔法を掛けていく、そしてスリープを掛けるとダイアベアの動きが鈍くなって行き、終いにはゴロンと横になってご就寝してしまわれた。女狩人はまだ膝をついて息を上げている。
ダークなんちゃらを試してもいいが、途中で目覚めてレジストされたら元の木阿弥だ。
俺は地上に降りてロップとリリにちょっと離れているように指示した。
よし使徒のパワーを信じて剣鉈で首チョンパしよう。....と思ったが獣って毛並みで刃が滑って切り難いんだよね。ここは使徒のパワーを信じて人力メテオで仕留めよう。
河原を見渡すと70cm位の岩があったので頭上に持ち上げる、ふんぬ!そして寝ている熊さんの頭に全力で岩を振り落とした。
ぶちゃっ、熊さんはぴくぴくしているがお亡くなりになったようだ。南無。
リリが女狩人のところに駆け寄って行く。
「エーラ姉ちゃん大丈夫だか?レイ兄ちゃんがきっと助けてくれるだよ」
「角無しリリ、オマエのその変な恰好は何なんだ?あの赤い魔物がレイ兄ちゃんなのか?」
「レイ兄ちゃんが何なのかはオラも良く分からねえだ。でも村の衆が食べ物をくれなくなって、村から出たオラを助けてくれたのはレイ兄ちゃんだ」
「よし分かった"レイ兄ちゃん"と話をさせろ!」
....リリ達は何を話してるんだろうね?再会を喜んでいるのかな?
あ、なんか額から一本角を生やした怖いおねーちゃんがこっちにズカズカ歩いて来るよ!着てる物は毛皮だし、ちょっとヒャッハー感があります。
「オイ!レイ兄ちゃん!あと、そこの黒いケモノ!オマエラは何者なんだ」
いや、レイ兄ちゃんって、こんなアマゾネスに呼ばれたくないぞ!ロップが憤慨して抗議を始める。
「ボクはケモノじゃないっすよ。こちらにいる星母神様の使徒、レイ様の相談役、親友にしてリコーダーの弟子のロップっすよ!」
いや、リコーダーの弟子にした覚えはないから、どちらかというと才能が無いから諦めなさいと言ったつもりなんだが。女狩人が考え込んでいる。
「....星母神様?昔、ココ婆様に聞いた事があるぞ.....。よし、レイ兄ちゃん、オマエはこれからアタシの村に来い!ココ婆様に会わせてやる」
それは願ったりの話だが、このアマゾネスと一緒に行くとなると徒歩になるだろう。どのくらい掛かるのかな。
「いや俺達も貴方達の村に行く予定だったから、その提案はうれしいんですけど、ここからどの位掛かるんですかね?」
「アタシの足で大体3日位だな。割と近いだろ?」
3日の徒歩は正直面倒くさい。飛んで行けば今日には見つかるだろう。
「あの、俺飛べるんで、方角だけ教えてくれませんかね?」
「何!レイ兄ちゃん!そういえばさっきも飛んでいたな。よしアタシの事も飛んで連れていけ!あとアタシの事はエーラ姉ちゃんと呼んでくれ!」
....ああこの女はアホの子なんだね。なんでレイ兄ちゃん、エーラ姉ちゃんと呼び合わねばならんのだ?あとこんなデカい女を乗せて飛べるか!
結構キツめの美人さんなのにアホなのが惜しまれる。
「いや貴女のような大柄の女性を乗せて飛ぶのは無理ですよ。村の方向だけ教えてくれれば俺達だけで行きますので」
「なんだと!やってみなければ分からないだろ!さっき飛んでたみたいにアタシをレイ兄ちゃんが肩車して、その黒いケモノはアタシの袋に詰め込んで、
リリはレイ兄ちゃんが抱えればいいだろ!あとアタシの事はエーラ姉ちゃんと呼べっていっただろ!」
ふむ、一考の余地はあるな。リリでは案内人として不安だしな。早く着ける方が良い、試してみようか。ロップはうにゃうにゃ抗議しているが。
「分かりました。ちょっと試してみましょうか」
エーラは皮のズボンを履いているので倫理的にはOKだ。エーラはロップをひっ捕まえると自分のズタ袋に放り込んだ。ロップ今は我慢だ!
エーラを肩車してみる、よいしょっと。まあ使徒のパワーなら問題ないな。問題は魔力の方だ。リリを抱えてフワリと浮かんだ。
しばらく石河原の辺りを飛んでみた。特に問題は感じないな。
しかしエーラがうるさい。なんだこのハイテンションアマゾネスは!
「ヒャッハー!もっと速く!もっと速くだレイ兄ちゃん!」
やっぱヒャッハーの人だったよ....