魔物と初遭遇の話
昨晩は緑ゴンズイのマース煮と焼き牡蠣を食った。だが干物が残ってない。
朝飯は抜きだ。今日と明日は保存食を作って、そろそろ洞窟に戻る事にしよう。
現在、午前6時。ロップを肩車して東の磯場に行く。さっそく塩作りを開始する。
大分工程になれたのと、基本魔法に慣れてきたので、正午には昨日の倍の6キロ
程の塩が作れた。もう甕はいっぱいだ。
予定を早めて、明日には一旦洞窟に戻ろう。潮が引いてきたのでカニ網を引き揚げに潮だまりに行くと。カニ網に異様な生き物がむしゃぶりついていた。
なんだこれ?体長2メートル位ある。平べったいエビみたいだが、上半身?
にはカニみたいな鋏と足が生えてる。一番後ろの足はワタリガニみたいに、
オールの様になっている。平べったい頭には赤く光るデカい眼が付いてる。
なんだっけ?そうだ、深海生物のダイオウグソクムシの顔みたいな感じだ。
これはあれだ、子供の頃に図鑑で見たことがある。古生代の生き物、海サソリ
だろう。カニ網を鋏で破って中の魚をムシャムシャ食っている。
クソ!カニ網はまだ予備が三つ位あったはずだが、今仕掛けている分はおしゃか
かもな。つ-か、今まで良く無事だったな。
岩場の上でリコーダーを吹いてるロップを慌てて呼ぶ。
「ロップ君!ちょっと来てくれたまえ!」
ロップがぴょんぴょん近寄ってきた。
「なんすか?レイ様」
「あれが何か分るか?」
「ボクも見たことない生き物っすね。あ、魔石を持ってるっすね。
それに眼が赤いから魔物っすよ」
「魔物は眼が赤いのか?今の俺で倒せるかな?あと魔石を持ってるとか俺も分るようになるのか?」
「魔物は大抵、眼が赤く光ってるっすよ。あのサイズなら、使徒のレイ様の身体能力なら多分倒せるっすよ。ただ水の中にいるんで魔法は効きにくいかもしれないっすね~。魔石の存在感知は魔力認識の練習を続ければ、そのうち分るようになるっすよ」
転生して初めての魔物遭遇!どうしよう?
今、引き揚げればカニ網も直せるかな?
貴重な道具だし出来れば回収して直したい。
水深も60cm位だし、海サソリと言っても尻尾はエビみたいで毒針もない。
鋏は結構長いけど、ヤツは今カニ網の中身に夢中だ。剣スコップで頭上から
ガツっと首を落とせたらなんとかなりそうだ。
よし!初魔物退治に挑戦してみよう。
ヤツはカニ網に頭から突っ込んでいるわけではなく。鋏で中の緑ゴンズイを取り出してお食事中だ。
空中に浮かんで背後から近づき、頭と尻尾の境目辺りに渾身の剣スコップを突き入れた!
....なんか凄い事になっている。切り離した尻尾が潮溜まりでのたくっている。
頭の方はまだお食事を続けている。なんでしょう?その生命力!
取り合えず頭の方は鋏を掴んで引っ張り上げた。体長の大半を占める尻尾が無ければ、オマエはただのデカい蟹だ。
尻尾の方はしばらくのたくっていたが、動かなくなったのでズルズル引っ張りあげた。カニ網を引き揚げたが、中に残っていたのは椎茸もとい、スカシカシパンだけだった....
だがカニ網は釣り糸で補修すれば、まだ使えるかもしれない。洞窟に戻ったら直してみよう。
さて問題は海サソリだ。魔物って食えるのか?尻尾とかずいぶん食いでがありそうなんだが。ロップ先生に聞いてみよう。
「なあロップ、魔物って食えるのか?」
「一部の魔物は、食べられてたっすよ。ダイアボアとか、ダイアバックとか。ただ基本的に魔物は辺境にしかいないんで、主に人族以外の種族が食べてたっすね~。人族の中にも、魔石目当てのハンターと呼ばれている人達がいて、辺境まで遠征した時は食べてたっす。ただ辺境は遠いんで、人族の町では流通してなかったっすね。コウエイ様の国は辺境だったんで、みんな普通に食べてたっす」
うーん。どうしよう喰ってみようかな?尻尾の部分は喰えるんじゃないだろうか?ただロップに与えるのはやめとこう。猫に甲殻類を食わすのは良くないって聞いた事がある。
精神生命体らしいが、今のコイツはどうみても直立したデカい猫にしか見えない。不用意に変な物を与えてコイツがどうかなったら大変だ。取り合えず、尻尾の部分を鉈で叩き切って、いくつかのブロックをクーラーボックスに入れた。流石に1メートル以上ある尻尾を全部は持っていけない。おっと、忘れるところだった。魔石っていうのを探してみよう。
鉈で海サソリの頭を叩き割って中身を探ると、くるみ位の大きさの緑色の石が出て来た、これが魔石か?ロップ君に聞いてみよう。
「なあロップ、魔石ってこれの事か?」
「そうっす!早速吸収するっすよ。手で握って魔素を吸収するイメージをするっすよ(まあ副作用もあるらしいっすけどね。ゴニョゴニョ)」
ん?何か後半、聞き取れなかったぞ。まあ取り合えず試してみよう。魔石を握りしめパワーを吸収するイメージをした。しばらくすると、手の中の魔石がボロボロ崩れ去った。
うーん?特に何も変化は感じない。これ効果あるのか?まあ1個くらいじゃ分からないのかもしれない。今後魔物を倒したら継続してみよう。
しかし海サソリのせいで昼飯がおじゃんになった。午後の釣りでなんとかしたい。朝飯も昼飯も抜きだからな。煮干し用の緑イワシ釣りをしよう。
沖磯に飛んで行って、昨日と同様にサビキで緑イワシを狙う。昨日よりも潮廻りが良かったんだろうか?1時間程で60匹位ゲットできた。
ロップはリコーダーを吹いているが相変わらず何の曲でもない、ただ吹きならしているだけだ。洞窟に戻ったら俺が曲を教えてやんよ!
まずは、Guts n' Mosesの"SWAT child Online"からだ!あ、でもコイツの肉球の猫手じゃ無理か。
現在13時半。ちょっと時間に余裕がある。晩飯と干物用に少しデカい魚を狙ってみよう。サビキ仕掛けを回収して、中通しオモリとジグヘッドで、ブラクリっぽい仕掛けを作った。ブラクリっていうのは、オモリに直結した短い糸の針が付いてる仕掛けだ。岩の隙間とかに落として根魚を狙う仕掛けだ。
前世ではアイナメ、ソイとかカサゴを釣ってたな~。しまった、餌はどうしよう?
取り合えずクーラーボックスの中の海サソリの尻尾の身を千切って試してみよう。
海藻の生え際辺りに仕掛けを落としてみた。しばらく仕掛けを上下して誘っているとガツッと当たりが来た。合わせて抜き上げると、30cm位の緑色のアイナメみたいな魚だ、やっぱ緑なんだね。その後は結構入れ食い状態で、1時間位で16匹も釣れた。
これは素晴らしい。俺はアイナメが大好物なんだよ。同じ味かは分からないけどね。今夜はロップと2匹ずつ食べて残りは干物にしよう。緑イワシの煮干しも作らなきゃならない。そろそろ西のビーチに撤収しよう。明日はビーチで流木を集めてから、昼頃洞窟に戻るとしよう。ビーチには結構太い流木がゴロゴロしてたからな。
タライに入れた緑イワシを抱えてビーチに飛んで戻った。海水に入れて魔法で炊いた後、取り出して魔法で乾燥させる。30分後にカチカチになってきたので瓶に入れておく。
ダシもとれるし、ロップのオヤツにもなるだろう。緑アイナメは12匹を開いて海水に漬けた後、干し網に入れた。もう疲れたので乾燥魔法は使わない。
テントを設営して晩飯の用意をしよう。緑アイナメはどうしようかな?
ロップの分は生でいいが、燃料が枯れ枝しかないので俺の分を焼き上げるのは面倒くさい。またマース煮か。あと海サソリのブロックもある。結構デカいし、未知の食いもんだし、これは別の鍋で煮てみよう。ロップはまた独りフリスビーで遊んでいる。それって楽しいのか?
そろそろ煮えてきたので、ロップを呼ぼう。
「ロップ君!晩飯ですよ~」
ロップがうにゃうにゃ言いながら駆け寄ってきた。
「今日は、朝ごはんも昼ごはんも無かったんで、ボク腹ペコっすよ」
....オマエ、精神生命体だから飯要らないって言ってたよな?魚を与えすぎるのは良くないのかもしれない。
だが明日も朝飯、昼飯はないぞ。干した緑アイナメは洞窟に持って帰るからな!
ロップにバケツに入れた緑アイナメを渡して、俺も食事を始める。
緑アイナメのマース煮を食ってみる。うん味は前世のアイナメっぽい、緑カサゴより美味いな。速攻で食い尽くした後、懸案の海サソリの尻尾ブロックを試してみよう。殻ごと叩き割って煮たのだが、殻は赤くなって身はプリプリして旨そうだ。
身にかぶりついてみると、なんだこれは~!めちゃめちゃ美味いぞ!
ジューシーな汁と、プリプリした食感!俺が今まで食った中で最上級のエビだ。
これは次回の海遠征では、海サソリ捕獲作戦を検討せざるを得ないだろう。
クーラーボックスには後2ブロック海サソリの尻尾が入っているが、
残りの尻尾を廃棄してきた事が悔やまれる。
それに鉈で叩き割った頭にもミソみたいな物があった、
アレも試してみるべきだったな。
満足気な俺を、ロップが恨めし気に見ているが無視する。
キミにはやっぱり貝類と甲殻類は与えられないんだよ。
明日は流木(大)を収集しておうちに帰ろう。