五話
騒々しさで溢れたギルドの中へ入っていく。
「やあセシル、昨日は門番お疲れ様」
「セシルちゃーん今度買い物付き合ってー」
「先輩こんちわっす、今日は早いですね」
ギルドに入るや否や、ギルド組員と思われる人達に囲まれるセシル。人気者なんだろう。
「皆おはよー…といっても昼だけど。今日は新人君連れてきたから構ってらんないんだ、ごめんね」
手を引きギルドの奥へとオレを引っ張っていくセシル。そんな彼女にギルドに入った時から気になっていた事を聞く。
「…なぁ、見た感じなんだけど女の人多くないか?男が三人くらいしか見当たらないんだけど」
「あぁ、それね。ウチは元奴隷のギルドメンバーが大半なんだ。団長が奴隷に酷い扱いをする奴から買い取ってウチで働かせてるの。給料出るし宿代無料だから充実して働けてるって皆言ってるよ」
「へぇ…じゃあ男三人組は?あの人達も奴隷だったのか?」
「うーん…大人の方二人は団長の前からの知り合いだったから前々からいたんだけど、若い人…カズマ君はいつのまにか居たなぁ。全員奴隷じゃなかったらしいよ…さて、この扉の先に団長がいるよ。まあ固くならずに気軽に行こう?」
「う…緊張するなぁ」
一本道の廊下を真っ直ぐに進んだ先にある重厚感のある扉。その扉をノックして開け、中に入るセシル。その後に続いてオレも部屋に入る。
そこには椅子に座り背をこちらに向けた男がいた。目線の先には大窓があり、そこから見える街の景色を眺めているようだ。
「…お前がセシルの言っていた新入りか。歓迎しよう」
ぎい、と音を立てて椅子を反転させこちらに顔を向ける。その顔には右から左へ斜めに切り傷がついていた。
「よろしくお願いします、了義飛鳥です」
「ガルラス・サーヴェインだ。ここのギルドマスターをしている。…さて、お前はこのギルドに所属して冒険者として生計を立てていくつもりか?」
「はい、そのつもりです」
「よしわかった。それじゃあ入団試験を今からしてもらう、付いて来い。セシルは飲み物でも取って来い」
「わかりました、ご主人の分は金庫からワイン盗ってきますか?」
「水でいい…お前なぜ俺の金庫開けられるんだ」
「秘密という事で…先に言っててくださーい」
セシルは逃げるようにきた道を戻っていった。それを見送ってからガルラスさんはさてと、と言って腰を上げた。
「この先に訓練所がある。お前にはそこで試験をするんだが…剣を振りたいか?魔法を使いたいか?」
「うーん…オレ的には剣を使いたいです」
「わかった、試験は簡単なほうだ。的に思い切り剣を叩きつけるだけだ」
…それだけ?拍子抜けするような内容だ。何か裏があるのかもしれない、色々考えて行動しよう。
ガルラスさんの部屋から2分ほど歩いただろうか、訓練所と思われるひらけた所にでた。
簡単に言ってしまえば広いグラウンドのような所だ。所々に高低差がある事を除けばだが。
そしてオレの前にはざっくり切り出された人型の丸太があった。
「…よし、さっき言った通りだ。思い切りぶった切ってみろ」
「…重っ、いけど頑張ります!うおおおおお!」
なんとか剣を持ち上げ駆け出し、遠心力をフルに使い丸太に一撃を入れる。横薙ぎに放ったそれは見事に丸太を真っ二つにした。
「…思い切りよし。合格だ。冒険者には思い切りの良さが必須だからな、こんな試験をしている。少しでも躊躇やら油断が見えていたらお前は不合格にしていた所だったぞ」
「マジですか」
「マジだ。…さて、そろそろセシルが到着するだろうから待っていろ。簡単な魔術を教えてやる」
魔術か、クトゥグアの教えてもらった奴以外のを見るのは初めてだから楽しみだ。…というかクトゥグアが全然喋らないな、起きてるのか?
(なんだよ坊主。起きてる起きてる。あ、俺の事はそこの男には話すなよ)
脳内に直接語りかけてきた。まだガルラスさんの事を信用しきれてないからこう言っているのだろう。
「水二人分です!…お、その感じだと合格しましたね?おめでとう!はい水」
「ありがとう」
セシルから水を受け取り一口飲む。冷えた水は剣を振るい高揚した気分を落ち着かせてくれた。
「よし、じゃあ次は魔術についての基礎を教えてやろう」
ついに異世界感が出てきた、そう思い俺は心を躍らせた。