厄災との戦いー4ー
ルクスさんの招集により開かれた会議で敵の正体が判明した。
その名はクトゥルフ。水を司る神で異形・深きものどもを従えている。普段は海底の都市ルルイエに封印されているそうだが一ヶ月前に発生した世界規模の魔力異常に影響されて海面にルルイエが近づき封印が弱体化、それによりクトゥルフの本体が解き放たれたらしい。
次いで発表された作戦だが、これは正気の沙汰とら思えない内容だった。
神殺しの権能を使った魔術による総攻撃。これを聞いた時オレは他にも権能持ちがいるのかと思った。が、そういう訳ではなく全員の魔力をオレに集中させ強大な魔術を打ち込むという作戦だった。
作戦の内容こそさっぱりとしているがそれを実行するために必要な魔力の集積回路が異常に複雑で、それの構築に時間を要したのだとか。実際見せてもらった回路の図面は魔術を齧った程度の知識しかないオレでもわかる複雑さだった。
「さて、飛鳥さんがこの作戦の鍵となるのですが…この作戦はあなたへの負荷は計り知れません。あなたの命の保証は残念ながらできません。拒否すれば別の作戦を考えます。どうしますか?」
「…やります。やらなきゃ仲間が死ぬんです、守るって決めた人が死ぬのは絶対許せないんです」
右手に握るクレイヴを握りしめる。それに応じるように剣が赤く煌めく。クトゥグアもやる気なのだろう。
「わかりました。では至急作戦に移ります!各員は指示する場所に移動してください!」
それからすぐにテキパキとルクスさんが指示を出して魔術士が半分に分けられて魔法陣の上に立ち、そこに魔力を込めている。その魔力は魔法陣から伸びたコードを伝ってオレに送り込まれるようで、背後のブースターに繋がっている。
「クトゥグア、作戦開始時間って何分だったかわかるか?」
「ヒトロクマルマル、つまりは四時だな。後三分だ」
少し落ち着きなく剣を振り回す。自分の背中に何人もの人の魔力が、未来がかかっているのだと思うと緊張が走る。が、それをクトゥグアが感じ取り魔術で緊張をほぐしてくれる。
きっと大丈夫だ、この能力と皆がついているんだ、オレは負けない!
「クトゥルフから急速なエネルギー反応の上昇を感知しました!作戦開始時間を早めて対応します、飛鳥さん!」
「わかりました、やるぞクトゥグア!」
剣を右手でまっすぐクトゥルフに向けありったけの、後の事を一切考えずに魔力を解き放つ。
「「其は星を観る焔、終末を告げし者の代行、輝きは収束するーー八幡星の閃光!」
赤雷と共に過去最高出力の閃光が放たれる。それは大気を焼き、世界を焼き切りながらクトゥルフに向かって直進する。
それに対してクトゥルフも口と思われる部分から黒く禍々しいビームを放ち、激突する。
「ぐぅっ、ダメだクトゥグア!このままじゃいつか押し負ける!なんとか出来ないか!」
ぱっと見は拮抗しているように見える二つのビームだが、撃っている側からすれば出力差は火を見るより明らかだ。
オレが威力を抑えている訳ではない。これが全力なのだ。
「…手段はあるが命の保証は一切できない。下手すると死にたくても死なない、ただ存在するだけで何もできないの肉塊になる可能性もある、それでもやるか?」
「やらなきゃ死ぬのは確定なんだ、なら精一杯足掻くに決まってるだろ!」
少しずつ押されながらもクトゥグアにそう叫ぶ。自分の熱意に応えるように少しだけ威力が上がるもまだ押し返すには至らない。
「わかった、少し痛むが耐えて時間を稼いでくれ」
瞬間、両目に激痛が走り頭が割れるように痛む。前に左腕を落とされた時よりも鋭く重い痛みだ。それにより目が景色を写さなくなった。
何も見えず、ただ魔力を放出するだけの機械になる。けれどまだ感覚は残っていて、クトゥルフが健在なのと後ろでオレに魔力を託してくれる人たちをしっかりと感じ取れる。
「くっ、うおおおおおおおお!!!」
そう、託して、勝利を願ってくれている人がいる。消えかけた意思を無理やり引き戻し再度閃光の出力を気合で上昇させる。
クトゥグアが何を準備しているかオレにはわからない。が、現状を打開してくれる物だと信じて時間を稼ぐ。
「まだかクトゥグア!」
「もう少しだ!くそっ、もう一つ肉体があれば今すぐ終わるんだが…」
その時、背後の集団から一つこちらに走ってくる人を感じ取った。姿が見えなくてもわかる、この向かってくる人は…
「先輩ー!」
「なんで来たアリス!戻れ!」
そう、アリスだ。この声を聞いて間違えるはずがない。それにしてもなぜこちらに来るんだ?今のオレは危険な状態にある、それに近づかせてはいけない。
「だって先輩が苦しそうっすし、人の手が必要そうっすもん!わたしが行くしかない状況っすよ!」
「大丈夫だ、オレだけでなんとかする!危険だから下がれ!」
今のオレはクトゥグアと半分くらい混ざっていて、こいつが何をしようとしているかが分かるのだ。だからアリスをここにいさせたくない。
オレの右目とだれか一人の左目を犠牲にしてクトゥグアの眼を顕現させ、力をより引き出すという作戦だ。そんな事の為にアリスの左目を奪いたくない。
その事をアリスに伝え、再度退くように言う。それでも彼女からの返答はNoだった。
「それならなおさらっす。先輩一人に背負わせたくないっすもん!クトゥグアさん、頼むっす!」
「わかったよ嬢ちゃん。その目、借りるぜ。
…さて坊主、嬢ちゃんは覚悟を決めたんだ。後は坊主が宣言するだけだぜ?」
その言葉を聞きアリスの方を向く。その目は真剣で、強くまっすぐオレを見つめていた。
クトゥルフとの撃ち合いの状況は悪く、7:3くらいに押されていてもう時間の余裕はない。アリスの提案を蹴ればもう勝ち目は一切ない。
「っ…。アリス、力を貸してくれ!」
「はいっす!一緒にやるっすよ!」
瞬間、どこからともなくアリスの左目に膨大な魔力が集まりって目が綺麗な碧眼から鮮やかな紅に染まった。
そして今まで一人で握っていた剣を担う手が増える。それだけでより強い一撃を放てる気がした。
「よし、二人とも準備はできたようだな。それじゃあやるぞ!禍天眼を喚び起こす!」




