67話 黒豹物語 意思は死なず
ゾゲットは不敵な笑みを浮かべて魔王ノヴァエラに襲い掛かった
今や彼は俺のグレンツェントヒールによって完全な状態ではあるものの魔力の回復はしていない
闘気とは生きている生物の体に存在しているフィルターによって闘気に変換するのだがゾゲットは変換などしていないかの様に素早く闘気を体中から大量に放出させているのである
まだ十分に戦えるほどの量を持っていたという事だが俺と戦った時は万全とはいえなかっただろう
飽く迄ゾゲットは連戦後、直ぐに俺と戦っていたからである
それもあって勝てたこともあるかもしれないがそうであってもシルバ・シルヴ起動した状態の俺とあれだけやり合える奴なんだ
弱い筈がない
『死にぞこない目が!』
襲い掛かるゾゲットと目に止まらぬ速さで互いの武器を使ってぶつけ合う
ゾゲットの大鎌と魔王の両手にはめ込まれたクローが触れ合う度に軽い衝撃波が発生し、その凄さが伺える
ゾゲットの笑みとは別に魔王は苦虫を噛み潰したような表情を見せながら彼の大鎌を弾き返して吹き飛ばす
地面を滑るかのように数メートル後ろに下がったゾゲットは体の正面で大鎌を回転させて肩に担ぐと機嫌の悪い魔王も体から闘気を放出し始める
その溢れんばかりの量を見るだけでも桁違いの強さを持っていることが分かるが魔王の頂点の者だし当たり前だ
こいつが今魔族の全てを背負っているとは思うが俺の客観的な感想を述べるとまるで王というような雰囲気が感じられない
縦社会が根強く続いて来た魔族の生活を良しとして続けて来たんだから背負う気もない
俺は彼に対してそう感じている
そもそも魔王だからとか関係なくノヴァエラの目は何かを背負う気のない邪悪な瞳にしか見えない
『お前を倒せる者がいなくとも疲弊しておれば我もそのまま突き進めると思ったが何故貴様はほぼ無傷なのだゾゲット』
知っている様な口ぶりなのもそうだがまるで万全なこいつを倒すのは難しいとも言える内容でもある
ゾゲットは肩で笑いながらも横目で俺を見てから再び魔王に視線を戻すと闘気を放出させたままか彼に答えたんだ
『お前も先ほどまでの俺と同じ孤独同士だからわからんだろうが・・・答える霧は無い、そして何故また戻った?また遊んでほしいのか魔王?数百年前に一度痛い目を見せた筈だが少し強くなったくらいで俺に勝てるとでも思っているのか?この人数相手だぞ?』
魔王はその言葉に悔しさを顔に滲ませるが堪えている
タツタカはエイミーと共に後ろに下がり始めるとその様子を見た魔王が口を開く
『荷物がいる様だが』
その言葉を言い放った瞬間魔王は俺達を素早く通り越してタツタカとエイミーに襲い掛かる
俺とゾゲットの間を素早く通過する魔王ノヴァエラの後には風しか残らない、タツタカは目の前に現れた魔王に驚く事なく首を傾げて彼を見つめていた
右腕のクローをタツタカに向けて突き出しながら魔王は言ったのだ
『危機感が無いのか?』
『いえ?』
馬鹿にしたようにタツタカは軽く返事をすると同時に自身の体の正面からヘルファイアを横に3発撃ち出した。
術の発動時間も何も起きずに現れた術にノヴァエラは少し驚くとそれを全て避けるために身を低くしてからタツタカの腹部にクローを刺そうとするがその瞬間に魔王は爆発に巻き込まれて俺達の頭上を通り越すようにして後ろに飛び退いて距離をとる、直撃だと言うのに吹き飛んだと言うよりも自ら逃げたというような感じに近い
タツタカがやったのは爆発術のスキット・ボムである
不思議な者を見る目で魔王はタツタカに視線を送るがそうしているあいだにゾゲットは魔王の目の前に一瞬で迫る
『余所見とは馬鹿にしてるのか小僧?』
『貴様!』
両手のクローを前に突き出しすがゾゲットはそれを上半身を反らせてそのまま左手を地面につけてバク転をすると魔王の顔面を蹴り上げながら回転する
大鎌を持ったままよくできるなあいつ、重い武器の筈なんだがかなり手慣れているようだ
蹴られて一瞬目を閉じた隙に俺は銀閃眼の散弾を彼に向けて放ったんだ、撃つ瞬間にゾゲットは後ろに飛んで避けてくれたが魔王は避け切る事は出来ない
だがしかし彼は魔族の王、俺の散弾を避けようともせずに両手を前にクロスして闘気の盾で防いだのだ
散弾が弾かれるがそれと同時に魔王の闘気盾も砕け散る
『俺の盾が一撃か』
全員の攻撃が一度静まる、階段から流れる風だけがこの場で動いているその部屋の中で魔王ノヴァエラはきっと俺とタツタカを得体の知れない何かだと警戒しているに違いない
だが強い、ゾゲットと正面からやりあえるなんて強いに決まっている
『頑張ってねゾゲット』
エイミーがそう口にするとタツタカは彼女の手を掴んだまま小さく頷いた
テレポートで彼女を地上に戻す気なのだと俺とゾゲットは直ぐに理解するとゾゲットは魔王に視線を向けたまま彼女に答えた
『任されよ、恩は返すために一生懸命働かせてもらう』
働くと言う言葉は少し違うと思うがとる行動は正解だろう
伝え方も不器用だけどもそれだけだ
タツタカはエイミーを連れてテレポートで転移すると魔王ノヴァエラは目を開いて驚いていた
多分彼がヘルトだと確信したに違いないがそこで俺とゾゲットも彼の口からとある言葉を聞いたのである
『ヘルトがこの時代に2人など鬱陶しい、手を組んだなゾゲット』
『悪いか?だが残念ながら俺は隣にいる男に負けて協力しているのだがお前には何も感じ無かろう青二才め』
『なんだと!?』
魔王ノヴァエラの視線が俺に突き刺さる、少しどういう言葉を口にしていいかわからん
舐めまわすかのようにジロジロと俺を見る鋭い眼光の魔族の王は俺に威圧を放ってきたけども体中に鳥肌が立つのは慣れている
あまり様子が変わらない俺を見た魔王は階段の近くまで下がりながら話しかけて来たんだ
『何者だ貴様?』
『銀狼のジャムルフィン、摩天狼の職のもんだけど魔族ならわかるだろ?一度初代が魔族をその職で滅ぼしかけたらしいからな』
すると彼は驚きを顔に見せた、だが直ぐに目を細めるとまた話しかけて来たんだ
『合点がいくな、ゾゲットが勝てなかったとなれば』
『どうする小僧?俺とこの魔天狼・・・・はっ!?摩天狼だったのかお主!?』
ゾゲットが魔王に口を開いている途中で驚いて俺に顔を向けて来た
言ってなかったっけ?と少し惚けると彼はブンブンと首を横にしたけども言ってなかった様だ
というか彼も魔天狼を知っているみたいだがそうした彼の姿を見た魔王ノヴァエラは小さく笑うと口を開いた
『全ての頂点である魔天狼、我も聞いた話であるが当時の魔王でも手も足も出なかったと聞く、謎に包まれた最強職に出会えるとは世の中何とも面白い・・・黒豹人族ゾゲットに魔天狼のジャムルフィンか、確かに我でも分が悪い』
そう言うと彼は首の側面付近に闘気を込め始めた、すると驚く事にそこから十天の第3位の刻印が現れたのである
右手の甲にあるわけじゃないんだなとわかると魔王は続けて口を開く
『十天の第3位の我でもお前等相手は御免被るな、兵器も回収は不可・・・・だが我の悲願を達成するには必要不可欠な殺戮兵器ではあるのだがな』
どうやら俺らとはやりあうことは利口ではないと知るや否や、階段を軽く見た
逃げ出す用意は出来ているらしいが果たして本当に逃げるのだろうかがわからない
ゾゲットは睨んだままの魔王ノヴァエラを見ながらも大鎌を肩でトントンと叩きながら聞いてみたのだ
魔王ノヴァエラの企みをだ、ゾゲットは魔王とこの地下で戦った事があるような事を話していたがそれと関係しているらしくどうしても魔王はこの兵器が壊れていても欲しいと言うのである
何に使うかは明らかであるがわかっていたら渡したくはない、この壊れた兵器を直して人間の国に落とす気なのだろう
させる筈がない
こいつにこの兵器を壊れた状態でも持たせるのは危険すぎる
ろくなことを考えていないのは間違いないので俺とゾゲットは気を高めて威嚇をするようにして彼に放つが彼も同じ高みにいる者として狼狽えはしない
『兵器を直せる者をのちに魔族の力で召喚して直させる、そうしてこれを使い新たな魔族の世界を作り出すのだ』
『まるで己の力不足を物に頼るかのような言葉だが滑稽であるな小僧、それで人間を凌駕すると言うのか?』
ゾゲットが笑いながら彼を挑発してそう口にした
そんな彼の言葉に多少目つきを更に鋭くするが魔王の口からは予想外な内容が飛んできたのだ
『まぁ他の魔族には人間に使うように思わせる口ぶりをしたが誰が人に使うと言った?』
俺とゾゲットはどういう意味だとその言葉に耳を傾けると彼はそのまま言い放ったのだ
『これは魔族本土である中央魔国都市ファーラットに落とす為に使うのだ』
魔王ノヴァエラは自らの本土にそれを落とすために使うと言い切った
しかもこの兵器、直したとしてもこれだけじゃ使えないらしく撃ち出す砲台も必要だと口にしたんだ
それは既に彼が永年部下に世界全土を捜索させて見つけたらしいがその時の被害は魔族兵10万以上と凄まじかったと語ってくれた
砲台はトランテスタ大陸の西にある荒れ果てた森の洞窟奥深くにあったのだと言う
それを手に入れるためにその大陸を縄張りとする化け物に部下達が見つかってしまったがそれでもお目当ての品だけは何とか守り抜いて魔王ノヴァエラのもとまで送り届けられたのである
トランテスタ大陸を縄張りとする者とはきっとゾロアじゃないギュスターヴ・ハデスであるとわかる
階段に腰を下ろして話す彼は嘘を言っている様にも思えないがありえなさすぎる
同族を殺すために使うとこいつは言ったんだ
『どういうことだ小僧?気でも触れたか?』
ゾゲットの言葉に対し、魔王ノヴァエラは鼻で笑うと直ぐに答えた
『お前も魔族を何度と見て来た筈だ、根っこから存在を変えることは神でもない限り無理・・・今の魔族は見ているだけで虫唾が走る、表面上だけで取り入ろうとし・・・欲でしか動けぬ者達が中央都魔国都市ファーラットに集まりながらも誰かの肥やしを吸っておる、魔族の中にもしきたりはあるが奴隷は禁止・・・だが広大なファーラットにそれが隠れて萬栄している、富を手に入れてなお満足せぬ欲とはこんなにも見ていて笑えるもんはない』
『何を言っている小僧』
『魔族の王とは今迄力無き王、作られた王であるために蔓延した富の中にある腐った思考を止めるような者はいなかったのだよゾゲット』
『傀儡だと?俺が魔族に触れようとした時の当時の魔王は俺を敵対視したのだぞ』
『そうしなければいずれ王としての座を降ろされて殺されるからだろうな、魔教神会という魔王を決める組織は傀儡を作り今迄帰る事の無かった縦社会を続けていた、自らが得をするために楽をするためにだが形としては昔のガウガロに似ているだろうが俺は今までの奴らとは違う・・・俺は歴代魔王の中でも確実に強い、この手で魔教神会を皆殺しにも出来る力を持っている為あやつらも迂闊に俺に強くは言う事はあまりない・・・が』
彼は静かに立ち上がると首を回してから話を続ける
『腐った奴らの為に今を生きる富のファーラットに兵器を落として俺の国を作るのだ、まだ俺の国じゃない・・・今までの魔族の生き方が勝手に作った道化の王、ギガン魔将軍やガルドミラ大魔将軍は純粋な戦士だったが奴らにもそのうち協力を惜しんでもらう予定ではあったが今となっては既に無理であろう』
『生きてるぞ?』
『なに?』
俺がそう口にすると魔王は意外そうにこちらを見て来た
あれ?こいつ悪い奴じゃない?欲望を持った奴らを一気に吹き飛ばして自分の理想の国を作るってなんだか半分くらい今の魔族の時代を変えようとしている良い方に近いんだよな
魔王は立ったままじっと俺を見てくるが何かを口にするわけでもない、だが彼の言う理想の国とは何なのかが一番気になるのである
答えが俺の思う事と違うならばお前は敵だ
『お前の理想の国を教えてくれるならばギガンとガルドミラの詳細を教えるかもしれない』
『・・・・』
彼は無言で睨み続けている
彼は自身の求める国が出来る為ならば人間など踏み台にだって軽くできる、だから今回このような大掛かりで単純な事をしたのである
俺達は昔からの因果からの戦争かと思っていたのだがあちら側の事情の案外複雑の様だ
だからといって俺達人間を無下に傷つけるのは駄目だ、そうするならばこの場で倒すしかない
ゾゲットは担いだ大鎌を魔王ノヴァエラに向けると口を開いた
『言う気はない・・・・か』
『そうだ』
ノヴァエラは俺達に背中を向けて階段を登り始めた
その行動をゾゲットは止めなかったが俺は本当にそれでいいのか彼に聞くと今は倒す時じゃないと言うので俺は渋々了承することにしたが少し不満である、ゾゲットに言われるとなんだかなぁとなる
俺はまだ許してないぞ?少しだけだけど
足音も小さくなり魔王ノヴァエラの先ほどまでの闘気の気配も小さくなっていくとハルバートを地面に刺してからその場に腰を下ろした
魔王ノヴァエラか、確かにビリビリと凄い力を感じたが今戦って勝てるかどうかと言われるとわからない
やってみなければわかないからだ
ゾゲットは一息ついた俺の様子を見ると再び祭壇の引き出しを探り始める
『何してるんだ?』
俺は頭を左右に動かして何をしているのか見ているとゾゲットは引き出しの中から転移席を取り出してきたんだ
どうやら地上に一度出ようとしたらしいのだがそうしているうちにタツタカが戻ってきてしまったので彼の転移石は無駄となってしまう
『本当にヘルトとは凄いな』
『えへへ・・・』
タツタカは苦笑いをしながら頭を掻いているがゾゲットは外に出てもいいのだろうか?
地下ダンジョンの主なんだろ、と聞いて見ると本当の主は超蟻だから大丈夫だと彼は言うのだ
ということは勝手にここに居座ったと言う事になる
黒豹人族を地上に出す事事態は問題ないがタツタカに大丈夫かどうか聞いて見ると平気で大丈夫と答えてくれる、何も考えてないのか感覚的に彼を信じたのかはわからないがこのディロアの件は彼の判断に任せよう
そうしてゾゲットと俺はタツタカの腕を掴むと彼のテレポートで一気に地上に転移したのである
場所は当然防衛都市ステンラルの南大門前、俺のテントの近くである
視界が完全に俺が寝るテントの前になると目の前にナッツが驚いた眼でこちらをみていた
周りは戦争がおさまって微笑む騎士や兵士達が良い顔でせっせと走り回っている
何者なのかはナッツも直ぐにわかった感じだ、少し身構えているけども問題ない事を伝えると納得いかない様な顔で剣を戻す
『貴公は千剣か!?』
『そうですけども・・・』
『初めて見たが凄いな』
少し褒められてしまってナッツも照れ笑いをするがそうしているうちに遠くからエイミーとゾロアが走って来た
ゾロアは敵意は向けてはいないのだが少し不満そうな顔をしている
その様子を視界に捉えたゾゲットは大鎌を担いだまま彼らを出迎えた、そこでエイミーから聞いたのだがグスタフは順調に回復しているらしいが今のままだと完全となるまで時間がかかるから俺のグレンツェントヒールをかけた方がいいと言われたのでそうすることにしたがカールも同じである
どうやらルルカのヴェーガヒールが凄まじい治癒能力だったらしく2人の危ない状態を2回ずつかけて山を越えさせたらしいのだ
天術って凄いんだな・・・・・
その後もルルカはグスタフに無理をしてヴェーガヒールをかけてしまい逆に彼女が動けなくなってしまって療養中という本末転倒な結果俺は少し笑いたくなった
『引きこもりの黒豹め、とうとう地上に出て来たか』
ゾロアが彼の前に歩いて近付くとどう告げた
少し犬猿の仲みたいな雰囲気を漂わせるけどもゾゲット自身はそう感じていない、だがエイミーに小さい声で言われてたんだ
『ほらゾゲット、謝って』
その言葉に逆らえない彼は小さく唸り声を出すとゾロアに向かって似合わない言葉を口に出した
『すまぬ』
『・・・・強者同士に謝罪は無駄なものだ、俺は実質負けたんだ・・・次は勝つから覚悟しておけ』
ゾロアはそう言いながら彼の胸を軽く小突いてどこかに歩いていく
本当に自由行動が多い男だが意味があって動いているんだし俺がいうことでもない、タツタカとエイミーそしてゾゲットでグスタフ達が療養している大きなテントに向かうが歩いている時の騎士達の顔は物凄かった
まぁ黒豹人族という聞いたことも見た事もない者がいるんだした
療養テントの中の奥の方、安易ベットが2つあり見張りの騎士が壁際に2名いたが彼らもゾゲットを見て驚いた顔をしている
長いテントの奥の部屋、そのベットにグスタフとカールが包帯で巻かれた状態で安静にしていた
俺達が来たことに気付いた2人は顔だけを動かしてこちらを見るとかなり驚いた顔をしたのちに2人は顔に笑みを浮かべて俺に話しかけて来たんだ
『手なずけたかジャフィン』
『くははは、今回ばかりは俺も死ぬかと思ったぞジャムルフィ・・ぐ・・・いたた』
カールは痛そうだ
だが笑っている、そんな彼らを見たゾゲットは小さく口を開いた
『お前等2人は真っすぐ俺を見てくれていたのだな・・・』
ゾゲットはそう答えるとグスタフが痛そうにしながらも彼に答えたんだ
『こじらせすぎた子供の不貞腐れ野郎だったからなぁ、ギリオンカリバーを知っててお前ぇ大鎌じゃトドメ刺さなかったな』
『お前の言う意思が続くと言う意味を知りたかった、その答えは鬼のような顔をした狼が教えにやって来たぞ』
『くっふふふふ・・・・』
その表現にグスタフは笑い出すが痛みも同時に押し寄せたらしくて痛そうだ
そうしてゾゲットはグスタフと話しているとミミリーが入ってきて彼女は無意識に双剣を構えだしたがゾロアとタツタカがなんとかなだめて抑えてもらったんだ、事情を説明すると彼女は驚いていた
当たり前だろうな、さっきまで死闘した強大な敵だからな
ゾゲット・カルロスという名前を名乗ると一同はもっと驚いた
『ゾゲット!?!?あの黒豹物語の主人公!?』
エイミーが目玉が飛び出しそうなくらい女性を忘れた顔で驚いている
『はっ!?!?』
カールは通常だ
『・・・まじか』
それに続いてナッツも俺の隣でかなり驚いていた
『ゾゲットって平和の象徴とされた絵本ですよ先輩っ!?学び舎の図書とかに必ずどこも置いているじゃないですか!教育で使われる本の一つですよ!その主人公ってほんとですか!?実話なんですか!?』
誰もが知るその絵本、俺も知っている
図書館という施設には必ず置いてあり、教育の場でも使われるその絵本は黒豹物語
どんな姿の者であっても平等に触れ合うことが正しき者のする皆が望む道に近い事を絵本では語られていたがそれは風化しないゾゲットが口うるさく言っていた言葉を聞いていた者が先の時代に残すべく残した記録から作られた物だったんだよ
大事な者を信じることを諦めるな、そうすればお前の道は後悔の念で進むこととなる
絵本の最後に彼はそう口にしたがそれは実際彼が言い放っていた言葉であったのだ
自身の夢を諦めずに抗え、やめれば今迄を否定する事になると言う彼からの言葉を黒豹物語は伝えている
他国であっても生きている者同士手を取り合うべきだと言う主張も彼は絵本で黒豹人族と人間という内容で絵本を見る者に多く伝える事となったのだ
ゾゲットは挫折して地下ダンジョンに閉じこもった、だがしかし
彼の意思は誰かの手によって広く人々に伝えられていたのである、ナッツが詳しくその絵本の重要さを話しているとゾゲットは両膝をついて泣き崩れだす
『俺自身が諦めて失っていたか、外では変わっていたというのに俺が心を閉ざしてしまって・・・認めてくれる者が既に大勢いたと言う事か、何故俺は無駄な時間を過ごしたのだろうか』
彼は数百年、いや・・・数千年を後悔しているだろうな
彼の絵本を見ているものがムルド大陸には多いのである、どこの国の図書館でも差別というものは駄目な事だと教育で教える為の本として使われることもあるらしい
黒豹騎士のゾゲットはおとぎ話の英雄であるのだ、だからエイミーは彼と友達になりたいといったんだろう
すると泣いているゾゲットにミミリーも近付くと空気を読まない言葉を発した
『・・・握手して』
『うぅ・・あ・・・ああいいとも』
ミミリーもこのザマだ、敵対していたことを忘れるくらいの有名人
その後彼の口から今迄の事を再び皆はその場で聞くと絵本と似た内容だった、人と仲良くなりたくて何度も村に行ったけども毛嫌いされて退いたり魔族と仲良くしようとすれば上級魔族が村に変な罰を与えるから気を使って身を引いたりとやはり絵本のままの彼である
その頑張りは百年続いたらしいが村魔滝での話は本当か聞いたところ、本当だと言うのだ
だが死んでいない
彼は回復薬で傷を癒して隠居し始めたのがそこからだというのである
一度はとある時代の国に認められたがあまりの強さに国は恐れ始めてしまい、彼を暗殺しようと目論んだりと災難続きなゾゲットの話を聞くとなんだか聞いているこっちが同情したくなる
『本当にあのゾゲットなのか・・・』
『だがしかし・・・』
控えている騎士2名も驚いた様子でヒソヒソと話しているが俺の地獄耳で聞こえる
こいつらも知っているんだな、よほど有名な本であるとわかる
面白い、なんだか殺す気が無くなったがそう考えているとグスタフが俺に顔を向けてこう言ってきたんだ
『俺達の戦いをお前ぇに託しといてあれだが許してやってくれねぇか・・・まぁ敵討ちは素直に助かったぜジャフィン』
グスタフがそう言うなら、いいか
俺は微笑むと彼に返事をした
『お前がそう言うならそれでいいさ、んで・・・俺も起きてから速攻ゾゲットと戦う事になって外の様子がわからないけどもどうなっている?』
グスタフのあとにナッツに向けて口を開くと彼から色々と聞かされることとなる