59話 地下ダンジョン編 師弟でした
進む事数時間、時刻は既に18時近い
迷路続きな道がそれとは打って変わって単純な分かれ道があるだけの子供騙し程度の道となる
気付けば地下68階層まで来た彼らは疲労よりも眠気が襲い掛かる
ミミリーは大きく欠伸をするとそれは直ぐにカールに移る
『ミミリー、お前・・・』
『えへへーごめんねぇカール』
最後尾で後ろを警戒する2人が会話をしている際、先頭を歩くタツタカとゾロアは現れる強めのガイアマンティスや阿修羅猪を倒しながら前を進むが出てくる魔物は殆どBプラス
普通の冒険者が連戦できる魔物ではないがここにいるのは天位職が生まれた時代の天位職
1人だけは上位職だが肝が据わっていると言う事にして置こう
全員はそのまま階段を見つけると直ぐに下に降りるがその階層だけやけに魔物が出会わない事に皆首を傾げる
ゾロアが辺りを見回しながら最後に後ろを振り向いて皆に話しかける
『うむ、気づいているだろう?』
ゾロアが語りかけた
それに反応を見せて口を開いたのはカールである
『先行者がいると言う事かな?』
いきなり魔物の気配か綺麗に無くなった階層に来たのだ、ここはまだ69階層であり安全地帯まではあと1階層違う
可笑しいと思いながらも魔物のいない洞窟の内部を進むがここだけ異様に距離がある
グスタフは奥の方に誰かがいると感じ始めたが魔物でもないとも感じている、声が聞こえないからだ
それをゾロアに伝えると彼はタツタカよりも前に出て先頭に躍り出る
『懐かしい気配だな・・・そう思うだろうサラ』
彼はそう告げると鎧の隙間からニョキっと綿が現れたがそれはケサラ・パサラである
そのまま鎧から出るとゾロアの肩に乗ってピョンピョン飛びながらも嬉しそうに口を開いた
『えー!生きてるのー?確かに似てるけども違うんじゃない?数千年前だよ?』
まるで昔であったかの様な会話にグスタフ達は嫌な予感を感じたが強力な気配というわけでもない
生物がいると言うだけだが魔物がいないこの階層にポツンと1つの生命反応が感じるだけでも不気味すぎる
しかもゾロアが黒龍次第に知っている様な口ぶりにもしかしたらあの化け物だから気の時代の魔物なのかと少し顔を引き攣らせるがその様子を見たゾロアが直ぐにそれを否定した
『安心しろ、ちゃんと敵だ』
不思議そうな顔でカールがその言葉に疑問を大きくさせる
敵だから安心しろとはどういうことだと誰もが思うだろうがそれを聞く時間もなくゾロアはツカツカと前に歩き出すので皆少し焦りながら彼についていく
彼等は歩きながら遠くの気配を警戒して話をし始める
『ゾロア、どういうことだぁ』
『グスタフよ、魔族にも規格外な寿命を持った奴もいるんだ』
『はぁ?魔族って平均寿命確か300くらいじゃねぇのか?』
『中には千年以上も生きる魔族もいるが俺は勝手の超魔族と言っている・・・まぁ俺だけの言葉だがな』
『マジかよ!?』
『マジだぞ?・・・あと少しで出会えるが昔の様にヤンチャじゃない事を祈るか』
黒龍のゾロアが健在の時の魔族が生きていると言う予想外な事を聞いて誰もが驚くが時に魔族の中でいるとなると僅かに興味が芽生えるがその姿は数分後、目の前に現れた
その姿に全員が口を開けて固まるが明らかにかなりの歳をとっている魔族であるがちゃんと鎧を着ている
顎鬚が長いその魔族の身長は老いからなのだろうか、ルルカよりも少し身長が高い程度である
手には槍を持っている階段の前を守るその魔族の老人はタツタカ達の姿を見ると小さく鼻で笑ってから数歩前に歩き
口を開く
『いつの間にか魔将軍グリードの若造も銀狼の流れ弾で死んでいる様じゃが運も味方にしなくては意味がない』
ニコニコと話す彼は殺意が見られない
だがしかし槍を力強く右手で握りしめているのだけは皆ちゃんと理解している
全員を見回すようにしてその魔族の老将は左右に歩きながら様子を伺うが逆にゾロアは彼を見て微笑みながら押し黙る、肩に乗るケサラ・パサラもニコニコしながらである
『お前誰だぁ?』
グスタフが魔族の老将に質問するとその答えは直ぐに飛んできた
『魔王様の超執事でありますケルビム・ビルディングでございますがこれより先は魔王様のお邪魔になりますのでここいらで足止めさせていただきます』
(ちょっと名前格好いい)
タツタカが暢気にそう考えているとカールは剣を構えながらどのくらい強いのかゾロアに聞いた
その答えは予想をとは違って四魔将軍の者よりも強いのだとゾロアが言ったのだ、ということは四魔将最強と言われたギガン魔将軍以上の者、大魔将軍ガルドミラ未満ということでもかなりの腕前である
見た目は老人なのにそれほどまで強いのだろうかとルルカは疑問を浮かべた、何も感じないのである
強いならば威圧を自然と放っている筈なのにか弱い気配のみなのだ
でもゾロアが嘘をつく者ではないとわかっているので自分たちの常識を疑う他ないだろう
エイミーがゾロアにどうするのか聞くとその答えを口にせず彼は颯爽と前に歩き出すがゾロアの肩にいたケサラ・パサラは振り落とされる不安があるので再び彼の鎧に隠れ始める
『なんじゃ?』
そう言いながら彼は突如として右手に持った槍を素早く突くがゾロアとの距離はまだ10mもあるのだ、だがゾロアは顔を横にズラすとそこを何かが通り過ぎた
後ろにいた者達の間をすり抜けると遠くで何かが砕けた音が聞こえる、それは槍を突いただけで真空波が発生していたのだ
小さな小石程度の小さな空気の塊ではあるが当たれば確実なダメージを受ける事となる
ジャムルフィンや槍の子ハートンそしてリルラの様な槍の熟練度クラスでないと不可能な技ではない技をこの魔族の老将もやってのけた事にグスタフ達は驚いた
只者ではないと、老人という姿は表向きであると誰もが感じる
『ほう!?初見で気づくか若造』
『悪いが俺の方が年上だぞ?』
ゾロアは口元に笑みを浮かべながらも歩き続ける
それに対して魔王様の超執事と名乗るケルビム・ビルディングは2発目を撃つのをやめて槍の攻撃範囲の入るのを待つために中段の構えで槍を持ち直す、体を側面に向けて腰を下ろすその姿勢は槍が一番早く突ける型であり見てから避けるのは至難の業である
ケルビムが不敵な笑みをゾロアに向けて待ち構えるがそれでも堂々と前に歩くゾロアは彼の槍の攻撃範囲に一歩足を踏み入れた
槍とは一撃で敵の急所を貫く武器、ジャムルフィンはそう口にしたがこの魔族の老将ケルビムも同じ思想を持った者である
『それ』
ケルビムが小さく囁くと同時に素早い槍の突きが連続でゾロアに押し寄せた
心臓、首、太もも、みぞおちや頭部と当たれば確実に死を呼ぶ急所だけを狙った槍の素早い突きが何度も押し寄せるがゾロアは的確に体を大きく動かして避けると腰の鞘に納めていた刀を抜刀してケルビムの首を刎ねようとしたが首に触れる寸前で老将は後ろにバク転して避けた、それだけじゃなく振られた足でゾロアの刀を上に弾いてから着地して直ぐに攻撃に転じたのだ
『ほう』
感心したゾロアは顔面に迫る槍を左手で払ってから懐に潜り込むが槍を持ったケルビムの右肘で鎧を押されたゾロアはバランスと崩しながら後ろに歩く、ケルビムは近づかれまいと槍のリーチにゾロアを押し戻したのだ
(あ奴の槍の腕前は人間でもそうそうおるまい)
体術も中々な腕前だとカールは目を細めながらも2人の戦いを見つめる
『ここまでやりよるか貴様』
ケルビムはゾロアの横振りの刀を後ろに飛び退いて避けると着地するまでに槍の技である双龍を放つ
突かれた槍から龍の形の闘気が2つ同時にゾロアに襲い掛かるがそれを回避しても双龍は方向を変えて背後からゾロアに向かってくる
追尾機能に苦笑いした彼は仕方なく背後迄迫るその龍の姿をした闘気を斬って消し去るとゾロアもその場から跳躍して後ろに下がった、ケルビムが槍で攻撃して来ていたからだがあと僅かに遅れていれば刺されていただろう
ケルビムは少し悔しそうな顔をゾロアに向けて口を開く
『ちゃんと2つの目は前後を見ている様じゃの』
『そうだな、お前はどうなんだ?』
『?』
不思議そうな顔をするケルビムにゾロアは言葉を送った
アンデットウォーカーと小さく囁いたのだ、その言葉の後に変化が訪れる
ケルビムの背後に2体の骨だけのワイトという魔物が現れたのだがその右手には錆びた剣を持っている
骸召喚かと舌打ちをするケルビムは横目で背後のワイトを見るとなんと彼はゾロアに目を向けたままワイトの攻撃を避けて槍を突いて頭部を砕いて消滅させて言ったのだ
『凄いおじいちゃん!!!』
ルルカも驚きに似合わない声を出すが後ろのカールとミミリーも驚いて口を開いてしまう
『マジか!?』
『すっごいねぇー!』
全員がその老将の強さを認めた、確実に槍の腕前はぴか一なのだ
人間もそう口にしていると耳で聞いたケルビムは老人の様に笑う槍をクルクル回しながらゾロアと距離を取り始める
この短時間の戦いで只者じゃないと言う事はケルビムも理解しているからだ
しかもこの男はまだ余裕を持っていることも知っている
(強いが・・・はて?なんだか初めて出会った様な気がしないのは何故じゃろうな)
ケルビムは軽く右足を引くと足元にあった小石を蹴ってゾロアの顔面に飛ばして駆けだした
目くらまし程度なのは双方わかっている、ゾロアは飛んできた小石を左手で弾き飛ばすと即座に飛んできたケルビムの槍を刀で弾いてから回し蹴りをしたがその蹴りをケルビムは自らの足を前に突き出して防いだのだ
予想以上の強さにゾロアは驚くがそれでもその蹴りの威力を消すまでには至らなかったケルビムはそのままバランスを崩して後ろに倒れそうになるが姿勢を正す間に左手を前に出してアクアレーザーを手の平から撃った
小手先であると思いながらゾロアは避けるとケルビムの槍の突きからの真空波が何度も押し寄せる
『わっ!わわわ!』
後ろにいるタツタカも当たりそうになり全員でしゃがみこむ
ゾロアだけはその攻撃を頷きながら避ける
真空波を撃ちながら近付いてきた老将はゾロアを槍の攻撃範囲内に捉えると槍を蛇のように軌道を曲げて突いてくるが避ければ当たると寸前で見極めたゾロアは顔を動かさずにいたら肌スレスレを通って空振りとなった
『お主何者じゃ!?』
ようやく老将が驚く、するとゾロアは彼に話したのだ
『そんなに蛇龍の型を初見で見切られたのが悔しいか?』
何度も飛んでくるケルビムの唸る槍を避けながら彼は微笑む
一体どういった知り合い同士なのかと一同は考えるが今ゾロアと交戦している魔王の超執事と名乗るケルビムが気付かないとなると黒龍のゾロアしか見たことが無いのだろうと僅かに予想をする
何度やっても避けられるケルビムは顔面を狙って突いた槍を避けられるとそこでピタリと槍をとめて横に払う
彼の槍による払いがゾロアの側頭部に向けられるがそれは状態を反らせて回避される
『離すなよ?ルビ小僧』
『!?!?』
その呼び名に彼は驚きを顔に出すがそうしている間にゾロアの練り上げる足によって槍を蹴られて武器が弾かれるとそれは勢い良く洞窟の天井に突き刺さった
不味い状況となったケルビムは危機感よりも得たいの知れない変わった感情が押し寄せてくる
(こやつ…わしをルビ小僧と呼んだ)
ゾロアは反った状況から無理やり上体を起こしてからケルビムを見つめた
その表情は敵を見る目では無いと千年以上も生きて千年近く槍を握った彼がそう理解した
どんな相手でも槍だけで制圧してきた魔族の槍使いは風化寸前の記憶を思い出した
『お主……そんなはずはない!死んだと聞いた、十天の死ねば世界に轟く!あなたは天命を全うした筈だ』
『さぁな、にしても俺が教えた通りちゃんと蛇龍の型をマスターしたようだが槍を引くときに脱力しろ…攻撃終わりだと今のように弾かれるぞ?引くときの脱力で速度が増して次の攻撃がしやすいのだ』
『馬鹿な……あなた様は…』
『言っただろうが、常識外を見るつもりで生きよとな…見えるものだけにとらわれたら終わりだぞ、千年振りのあの恐怖をまた見せてやる』
ゾロアは言い終わると威圧を前方に放つ、黒い障気がゾロアの体から放たれるとケルビムはそのおぞましい威圧を感じるとともにある出会いを思い出す
幼少期に槍を持って森に出掛けた際に偶然居合わせた黒龍に彼は森のなかで出会い、一睨みだけで何千回も殺された気分となり体を酷く震わせてその場にヘタりこんだ時の記憶
龍種に手を出すな、睨まれたら死を選べと魔族の世界でも言われる種族にケルビムは子供の頃出会った
失禁しながら頭が真っ白になる彼はそれでも槍だけは離さなかった
震える小さきケルビムは生い茂る森の中に身を隠していた黒龍に睨まれたのちにこう言われたのだ
『ほう…素質があるか、武器を手放さぬとは無意識とはいえ既に体の一部と認識しているようだな』
『……』
黒龍が口を開くだけでも恐ろしい、何か話した瞬間に噛み砕かれるかもしれないとケルビムは思うと押し黙るといった選択をとる
反応をあまり見せない彼に対して黒龍は小さく笑う
怯えすぎだと感じたのだ
まだゾロアは何もしていない、ここでケルビムは脳筋的に覚悟を決めたのだがそれがゾロアが気に入るきっかけとなった
『ぬ?』
黒龍のゾロアが首を傾げる
目の前の小僧が立ち上がったのだが足は大きく震えており、見た目だけ変わったに過ぎないと直ぐに見破られる
怖いという感情は変わらない、だがケルビムは逃げて死ぬのも戦って死ぬのも同じだと覚悟を決めて彼に話しかけたのだ
『お前なんて怖くないぞ』
『ふははははは!!!』
ゾロアは大きく笑うと大地が揺れた、当時の彼は特殊個体の黒龍であり彼に勝てる者は片手程の数しかいないくらいに規格外の強さを持っていた
直感でその強さを感じたケルビムは高笑いしている黒龍を前に再び尻もちをついてしまうが直ぐに立ち上がり槍を両手で構えだす
『!?』
立ち上がって槍を構えた時に突風が発生するが何故起きたのか
それは黒龍のゾロアは一瞬で間合いを詰めてその大きな龍の顔をケルビムの目の前まで近づけていたからである
特殊個体の黒龍のサイズは全量50mはあるだろう、リュシパーよりも確実に大きいその巨体に恐れを抱かない生命などいない
先ほどの去勢すら突風と共に吹き飛んだケルビムは自身が死んだと諦めた、この黒龍の右手の黒い鱗の甲には4という十天刻印が浮かび上がるがそれは単純にこの時代で4番目に強いと言う象徴だ
(父さん・・・母さん、僕駄目だ)
足を震わせたケルビムは決死の覚悟で槍をゾロアの大きな顔に向けて突いた
目を閉じて槍だけに全てを賭けたその攻撃はいとも簡単にゾロアが口でバクンと加えると槍を掴んだままのケルビムごと振り回して近くの木に投げた
木に背中をぶつけた彼は少し苦しそうな声を出して倒れるがそれでもゆっくりと槍を離さずに立ち上がる
『面白い魔族の子だな、突きはその歳でそこそこか・・・もう少し足を開いて突いてみせよ、さすればもっと後ろ脚を踏ん張れるし槍に力が伝わりやすい』
(へ?)
恐怖の象徴である黒龍が指南してくれていることに彼は動揺してしまう
やれと強めに言われたケルビムは怯えながらも先ほどよりも足幅を広めにしてゾロアに向けて中段から槍を突くと再びバクンと槍を咥えられてしまう
今度は普通に口を開けて話すとゾロアは鼻息を強めに噴出して彼を後方に吹き飛ばした
『グェっ!』
再び木に背中をぶつけた彼の声は不細工だ
咳込んで倒れているケルビムを見てゾロアが話しかけたのだ
『殺す気はない、だが何故槍を持つ?魔族の小さき槍の子よ』
ケルビムは何故持ったかは深い理由は無かった、だが彼が簡潔に答えた理由がゾロアにとって余計に気にいる事となる
『一撃に意味を持てるから』
ゾロアはその言葉に関心を持つと小さく笑い、ケルビムに背中を向けた
その光景にホッと胸を撫でおろした幼少期のケルビムは脱力するがそうしていると背中を向けた黒龍が彼に言い放ったのだ
『槍を知りたいならば教えてやろう、気になったらここに来るが良い・・・』
ケルビムはいつの間にか怯えが消え去っていた、強さに憧れを持つ彼は恐怖よりも希望が勝ったからだがこれを機に彼は毎日この森に身を潜めていた黒龍の元に赴いて槍を教わった
それがケルビムとゾロアの千年以上前の出会いである
『俺の名はゾロア・ス・ターク、今は黒龍ではないがあの頃よりも俺は強い、そしてお前も強いが言った事を正直に鍛錬した様だがよくやったなルビ小僧』
彼に右手の甲を見せると十天の第4位の証である刻印を見せる、彼の甲が白く4の数字を浮かび上がらせるとケルビムは大きく目を開いて驚く
懐かしい恐怖の威圧を感じた魔王の超執事ケルビムは体を震わせながら素早く彼の前で膝をつくと口を開いたのである
『転生術を保持していた事を忘れておりました!見事に転生したのですねゾロア様』
『そうだ・・・だが槍の突き後の脱力時間が永いぞ?何度直せと言ったか覚えているか?』
『1億と2457回です!』
師と弟子同士ということにタツタカはゾロアという存在がどういった者か少し分かった気がした
前に進もうとしている者に無慈悲を見せることは決してない、手を差し伸べる彼は可能性を導く為の強さを持った死の精霊神なのである
ゾロアの生き様は与える為の強さ、ケルビムはそんな彼の目に止まったのだろう
そうして戦いは一度そこで終わるがそこでゾロアはあえて弟子だったという武器を使って魔王の思惑を聞く事はしなかった
そのことにケルビムも口を開いて質問をするがゾロアは彼に言い放った
『お前はもう俺の弟子ではない、貴様は自分でそれを完成させたのだ・・・今更師面などするくらいならば死んだ方がマシだ、ここでお前の居場所を無くすような事もしなくて済む』
『ゾロア様!』
ケルビムが立ち上がると突風が発生した、彼はあの頃と同じだと思い出す
死んだと諦めた時のあの光景をハッキリとだ
やはり目の前にはゾロアが迫っており、ケルビムの腹部にゾロアの右拳が深く食い込む
『ぐっふ・・・』
腹部を殴られたケルビムのは思うように力が入らずに両膝をついてその場に倒れる
意識はあるが動かない、必死に手をゾロアの足元に伸ばしても届かないがその様子を上から見下ろすゾロアは彼を横切りながら階段に向かい、最後に口を開いたのだ
『その強さは俺が認めよう、そしてそれを未来に託せる同士に伝えればお前の道が正しかったと天命を全うした時にわかる・・・よくやったぞルビ小僧』
ゾロアが階段に向かうとタツタカ達も彼に小走りについていく
倒れて悶えるケルビムを通り過ぎながらもこの場から階段で降りていく足音を聞きながらケルビムはなんとか階段の手前まで体を引きずっていくとその場で小さく呟いた
『どうか・・我らに未来を・・・私では魔王様は止めれませんでしたが・・あなた様ならば』
痛いけども千年振りの出会いに苦痛と至福が入り混じった感情で彼は気を失った
そうして下に降りたゾロアは先頭のまま皆を引き連れて歩く
先ほどのやり取りが気になるタツタカは彼の隣を歩き始めると顔をジロジロ見つめる、ゾロアは咳払いしてもタツタカはニヤニヤしてやめる気配は全くない
師弟という関係だがタツタカは色んな武器の扱いをゾロアは出来るのだと初めて知った
タツタカは剣、でもケルビムと何かが違うとわかっていた彼は満足げに腕を組んで前を向いて歩き出す
ゾロアは何かを悟った様であり、軽く鼻で笑うとタツタカに話しかける
『お前は心を強くしないと駄目だぞ、もっと叩きこむ必要があるな』
『えぇ・・・』
『帰れないと決まった訳じゃないのにメソメソするな失禁王子』
『ゾロアさん迄それ言うの!?』
驚いたタツタカは目を見開くが後ろでエイミーがその言葉に笑い出す
その時に粘龍ウパル・パールでも彼はあまりの協力は威圧を浴びて少し漏らしていたぞとエイミーに告げ口をすると彼女はニヤニヤしながらタツタカの肩を揉みながらフォローとは言い難い言葉を贈る
『大丈夫よタツタカ!漏らしても王子なんだから』
言葉にグスタフとカールは同じ考えを脳裏に浮かばせた
((腐っても鯛みたいな感じか))
間違ってはいないだろうが腐っていても鯛と漏らしても王子
どっちが良いと言われたら光の速さで人は腐った鯛を選ぶ、意味は同じでも言葉の破壊力はまったく違う
70階層という誰も到達していない階層、主部屋の前で皆は休むことにした
今日はここまでで終わりである時刻も既に20時となっており、早めに休んで明日は早めに進むことを皆で話し出すとグスタフの手料理である野菜炒めとおにぎりを頬張り寝床に着いた
安全地帯は発光する不思議な岩があるため適度が明かりがこの安全地帯を照らす、地下壇上だと言うのに不思議と心地よい雰囲気になれるがそれは聖魔気のおかげだとゾロアが言う、それに対してカールはシーツを羽織って横になりながらも彼に聞いてみることにした
『聖魔気とは詳しくいうとどういうものなのだ?』
壁に背中をつけて腰を下ろしていたゾロアは簡単に説明した
『光の精霊神の気の事を聖魔気と言うのだ、普段は空高くにいるが稀にこの世界に降り立つ・・・その時その光の精霊神が休んだ場所には聖魔気が充満して魔物が寄り付かなくなるのだがそいつを見た事はない』
『まぁ天使みたいな存在がこの世界で休むと安全地帯になるのだな』
『そう言う事だが、この地下深くまでこれがあると言う事はここに何らかの意味があると言う事だ』
『うむ、その光の精霊神が何を理由に地下に来たのかゾロアは薄々正解に近い答えを持っているだろう?』
『貴様もなんとなく予想はしているだろ、この地下ダンジョンは意味深な場所であると納得できる・・・そして魔王もそれを知っている筈だが魔族も普通に休む、しかも睡眠時間が人より少し長いと聞くから少しづつ近付いているやもしれんから油断はするな』
ゾロアはそこまで言い終わると目を閉じで意識を静かにさせた