56話 静かな一時を過ごせる
タツタカがエイミーと叫ぶが彼女があのエイミーか?タツタカの傍を魂の状態で近くにいたというあのエイミーか!?まぁ救出したのはわかっているが何でここにいるんだ?
彼女はタツタカに走り出すと思いっきり抱き着いたが相当仲がいいんだな
タツタカの顔が赤い、これは落ちたなコイツ
ようやく彼女がタツタカから離れると俺とゾロアを見てくる
少し足が震えている彼女を見てゾロアはアッ!と気づいたみたいで直ぐに自身を瘴気で包み込むといつもの漆黒の騎士ゾロアの姿へと戻る
すると彼女の震えも止まるのだ、怖かったんだな
『これでいいか?』
『そうね~、いつもタツタカの横で見てたけどもちゃんと話すのは初めてねゾロアちゃん』
『ちゃん!?!?!?!?!』
ゾロアの心に見えないダメージが入っている
彼は何故か自身の顔を両手で触っているけども何を確かめているんだろうか、その様子を見てタツタカが笑いを堪えてる
するとエイミーは俺に顔を向けた、何を言うのだ?普通にいってほしい
『化け物狼の人ね!』
(まだマシだなぁ)
『ジャムルフィンだ』
『知っているわ、本当にあなた強いわね~』
『タツタカの近くで見てたんだよな?』
『そうそう!武人祭ではタツタカと怯えてたもん』
懐かしいなぁ、それ去年だよね?
彼女はニコニコしながら俺の周りを歩いているがタツタカは彼女に向かって何故ここに居るのかと聞いたんだ
どうやら少し話を聞くとタツタカはエイミーをインダストリアルの魔物の村に一時的にテレポートを使って避難させていたらしい、だが彼女はここに居る
ゾロアも落ち着いたようでその話に混ざり始めると彼女は予想外な事を言い放ったんだ
『赤いローブを羽織った人にここに連れてこられたんだけどもあれ誰だろうね~、タツタカの味方だと言ってたけども』
俺達全員は
その事実に真剣な目つきで夜で何も見えない辺り一面を見回すが俺は夜でも見えている
赤いローブに一瞬でここまで連れてこれる奴となれば1人しか俺達は浮かばない
ゾロアは再び正気を纏わせてハデスになろうとしているがタツタカがそれを止めた
『エイミーが怯えますんで!一先ずはっ!』
『だが確実に赤い死神エレドラだぞ?』
『敵意はないですからきっと』
確かにあいつは敵ではない、むしろ外から応援するような感じで俺に接してきた
俺からもエレドラは敵にはなろうとしていない事を伝えるとゾロアも渋々納得した様であり
彼は首をゴキゴキと鳴らすとエイミーに質問をしたのだ
『エイミーよ、そやつから何か聞いていないか?』
彼女は首を傾げながら答える
『ん~、今は近くにいた方が彼の為だよって言ってたけども言伝を頼まれてる!』
伝言があると彼女が言う
それはエレドラから誰かに向けての言葉だろうが俺達はエイミーに視線を向けると彼女は軽くそれを口にしたんだ
『諦めるなだってさ~、きっとタツタカの為の伝言だと思うよ?』
その言葉でタツタカは少し微笑んだ
僅かな希望と捉えれるその言葉は小さい言葉ながら大きい、エイミーはなんだかタツタカに懐いている様であり彼の横から抱き着いてニコニコしている、タツタカというと冷静だと言わせたいのだろうが残念ながら鼻が伸びている
ゾロアは遠い目で彼を見ているのは外野として面白いが直ぐに今の状況をゾロアが気持ちを切り替えて整理するが俺達は魔物ランクSの龍である粘龍ウパル・パールに勝ったんだ
当たり前だ、俺とタツタカそしてゾロアがいて倒せない敵なんていてたまるかよ
ゾロアの桁外れな超感知能力のよって南大門の様子を調べてもらったがどうやら何事もなく魔族も森の方まで完全に退いていき、徐々に奥に撤退を初めているらしいけどもよくわかるなこいつ
一応ここはどこか聞いて見ると防衛都市ステンラルの北の街だってさ、となるとゾロアの感知は何十㎞先まで感知できるか予想すらできない
まぁ虫神はインダストリアル全体を把握できるんだし同じSのゾロアでも可能か
『どうするのタツタカ?』
『魔王がまだだ、しかも魔将軍が1人残っている筈だが・・・・』
魔将軍グリードだけはまだ倒していない
彼さえ倒せば殆ど魔族の主力は全滅である、ゾロアが追加で口を開いたがどうやらエンビシャはゾロアの配下となったらしく今は城の護衛を密かにしているんだとさ、城の屋根にいる筈だっていうけども魔物ランクA+を灰かにするって凄いなこいつ
『みんな倒したの?』
『くふふふ・・・当たり前だエイミー、俺とタツタカがいるのだぞ?』
胸を張って自慢げに言うゾロアだがそれは逆効果じゃないか?
『偉い!ゾロアちゃん!』
『・・・・』
ほらな?彼の目が遠いがまぁいいだろう
俺達はそのまま南大門に一度飛んで肉眼で状況を確認しなくてはいけない
みんなでタツタカに触って転移しようとしたんだがやっぱりエイミーだけは必要以上に彼に触っている、触っているというか抱き着いている
ゾロアが咳ばらいをすれば彼女は苦笑いしながらも仕方ない感じでタツタカの肩を掴んだ
『行きますよ!』
一瞬で視界が変わる、その一瞬のグニャッとした視界は気持ち悪いがそう思う前に俺達は防衛都市ステンラルの南大門の入り口前にテレポートしたんだ
夜も深まり、近くの時計を見るとなんと時間は21時と寝る時間が迫っている、必死で戦っていると時間の流れが本当にわからない
いきなり現れた俺達に近くの騎士達は驚いて尻もちをつくが俺は気にせず辺りを皆で見回す
騎士と兵士が前よりも比較的に多い、この広場だけじゃおさまりきれないらしくて設営テントが広場の先の大通りまでずらりと続いているのが分かる
それは援軍が来たと言う事だがどうやら粘龍ウパル・パールが出てくる前に辿り着けたから無事なのだろう
するとゾロアが大門裏側の階段に視線を向ける
俺もつられて向けるとそこにはニヤニヤしながらこちらを見ているゾロアとルルカが仲良く階段に座っていたんだ
話しかけずにそこから見てたのかよお前等、てかよく頑張ったな
『ボロボロじゃねぇかジャフィン』
『顔が酷い火傷だしかなりボロボロよ?さっき北の街がとんでもない感じだったけどもジャムルフィン達が向かったからみんなボロボロなのね』
グスタフやルルカから言われて俺達は自分たちの服を見る、ゾロアは鎧だしいいとしてだ
俺とタツタカはかなり汚れているし俺はかなり疲弊し切っている、思い出すとドッと疲れが肩に重たく圧し掛かり俺はその場に座り込むと2人は立ち上がって俺に近付いて来たんだ
狼気も底をつきそうだと言うとグルルカが魔力回復剤を飲ませてくれたんだけども微々たる量だ
それでもいくらかマシにはなった様な気もするけども一番何とかしないといけないのは体中の怪我だ
グレンツェントヒールは俺の狼気が足りなくて使えないしこの場合2日間何もしないでゆっくりするしかないがそれは遠回しに俺が戦力外になったと言う事である
そのことは俺の仲間達も直ぐに見てわかってくれたらしく
グスタフが苦笑いしながら俺の頬をつねってくる
『そんだけやべぇ野郎と戦ったんだろうなぁ?羨ましいぜぇ?』
『いててて!グスタフ大丈夫だったか?』
『道化のパブロフが教官本部いやがってよぉ?俺とルルカにカールんでミミリーで何とか倒したが殆どルルカのおかげだな』
道化のパブロフか、ランクA+の魔物だが4人で倒したとなると丁度いい相手だったと思う
詳しく聞くとどうやらルルカの天術が弱点だったらしく最後はジャミニブラスターで壁の奥まで吹き飛ばしたんだってさ
グスタフがとんでもないブラスターだったと俺に話してくるとルルカは両手を腰につけて胸を張っている
だが胸は無い、行ったら殺されるだろうから言わん
『せんぱーーーい!・・・なんだかかわいい子いますねぇ!!???!?』
ナッツが遠くの方から走ってくる
可愛い子というのはエイミーの事であり、ナッツはなんだかニヤつきながら彼女と自己紹介をし始めた
そうして俺は一先ずナッツの提案により、明日に何か起きても俺は休日というとんでもない予定となったがやれることは十分やったから大丈夫そうだという
ゾロアもそれでいいとナッツの意見に賛同すると俺はカールとミミリーがどこにいるかグスタフに聞いた
彼等は今見回りで街の中を歩いているらしい、用心深いカールは敵が潜んでいるかもと言いながらミミリーを連れてステンラルを馬に乗って見回りに言ったんだ
その用心深さは心強いが辿り着いて早々と働くよりも休んでほしいな
『まずは話しておく』
ゾロアがそう口にすると皆彼を見た
『・・・何故魔族がこの国を攻めて来たかだが俺は人間に対する恨みとは思えん、南大門を落とすならば一気に攻め込むはずが銀狼の話ではちまちま攻めて来たそうじゃないか』
『確かに一気に来なかったな』
『時間稼ぎだ、城を狙うのもだがエンビシャは魔王の目論見を聞いていないらしくわからないと言うが俺にはどうも腑に落ちん』
『簡潔に言ってくれゾロア』
『落とすならば1日だ、援軍が来る前にもっと敵は上手く動けた・・・結果論で言うのは後手に回ることになるから少し気に入らんがどうも滅ぼす目的にしては時間を欲しがっている』
まぁ俺がいる事が予想外である魔族だがそれでも攻めて来たんだ
いるならば一気に数を増やして50万で押し寄せればいいのはわかるけどもそんなゴリ押しを魔族がするかもわからん
天銀を一度見せているし俺は警戒しているもんだと思っていたが違うのか
『時間稼ぎねぇ・・・』
ルルカが頬杖をついて囁くと近くの椅子に勝手に座る
それにつられてナッツはその場に腰を下ろすと何かを思い出したかのように俺に顔を向けて聞いて来たんだ
『先輩は地下ダンジョンに強制転移したんですよね?』
『そうだな・・・地下74階だったかな?100層まであるとかどうとか聞いたけども更に地下深くは俺もわからんけどもどうやら下に行けばいいお宝があるんだとか聞いたぞ?』
その軽い会話でゾロアが少し考えだす
タツタカもエイミーも考えてはいるが答えが出そうにもない、ここで予想外にもグスタフが口を開く
『地下ダンジョンは俺も興味あっけどよぉ・・・最深部の宝ってなんだぁ?』
確かに気になる、その場のみんなは凄い興味があるらしく全員小さく唸っているのがわかる
超強い武器とか潮下帯防具とかかなぁと色々考えているとエイミーがとんでもない事を口にした
『超やばい封印があるとか絵本とかで聞いたたことがある!人が決して足を踏み入れることが出来ない場所には凄いのがあるって絵本で書いてた!』
ナッツが遠い目でエイミーを見ているがこれは憐みの目だ
絵本で書いてた、その言葉にナッツはその反応しかできなかったのだろう
ルルカは首を傾げて無表情だが少しそれは怖いからやめて欲しい、グスタフは俺を見て『なんだこの珍動物は?』的に見てくるからやめろお前、笑わせるつもりか?
唯一タツタカだけはその言葉に顔を赤くしてモジモジしているが彼の説明ではエイミーはずっと屋外に出た事がないらしく、屋内では絵本をずっと見て外の世界を夢見ていたらしい
その影響なのか絵本の中の物語の様な事を口にしたのだが
『100階層が最新部、とは聞いたことがないが地下ダンジョンは何故あるのだろな・・・』
ゾロアが口にすると全員現実味が増すがエイミーが少し犠牲になった気になる
彼女が言うとファンシー的過ぎるが何故かゾロアがそう言うとなんとなく納得しちゃう
『も~!みんなして~』
『まぁまぁエイミー』
エイミーが口を膨らましているとタツタカが宥める
ゾロアはそれには気にも触れずに夜の空をぼんやり眺めて小さく考えを口にした
『今の状態ではまったく魔王の狙いはわからんが・・・そういえば地下ダンジョンにはレリックも入ったという情報はあったよな銀狼』
『そうだが?』
『何故あいつは入った?力を誇示するならば国内中に自慢する筈だがそれをしなかったと言ったな?』
『ああ・・・』
『何故だ?知る者が少ないのは何故だ?飽く迄レリックはネロ大将軍よりも深く潜った筈・・・で話が終わるのは何故だ?』
『ゾロアさん?』
タツタカがエイミーに抱き着かれながら首を傾げて彼を呼ぶとゾロアは勝ち誇ったかのように口元に笑みを浮かべながら腕を組んだ
何か進展があったんだなと感じたのは俺だけじゃない、ナッツが気になり始めて立ち上がるとゾロアは話し始めたのだ
『きっと南大門は魔族は来ない、来たとしても敵には戦力は数だけ・・・・エイミーは銀狼とお留守番であとは全員地下ダンジョンの最深部まで行くぞ、休む時間などない・・・今すぐだ』
非道すぎる言葉に全員口を半開きにした、疲労しているというのに何を言っているんだとグスタフが口を開くとルルカやナッツそしてエイミーまでも不満を口にする
ゾロアは少し困惑するがそれを助けたのはタツタカの言葉だ
『ゾロアさん、皆人間ですから一先ず今日は休んで万全の状態で明日行きましょう・・・』
流石にタツタカにそう言われるとゾロアは仕方ないと溜息を漏らし、今日を休むことにした
だが俺とエイミーがお留守番なのは変わらないと言い張るとエイミーは退かない
ゾロアの鎧をポカポカ叩きながらついていくと豪語すると鎧の中からケサラ・パサラの声が微かに聞こえる
『ゴンゴンうるさいよぉ~』
俺しか聞こえないだろうな
そこでエイミーは自身の良い所!とか言いながら自分で自分を拍手し始めたんだ
何が始まるんだろうとナッツが不思議なものを見る目で彼女を見ているがお披露目するというわけでもなく彼女は自身の職であるサクリファイスという上位職について話したんだ
『状態異常や傷の回復できるわよ~、一番は疲労回復のボディーキュアね~!あとは術で明かりつけれるわよ!』
『よしお留守番は銀狼と千剣だ!』
ゾロアが使えると判断した様でありエイミーが行く事になると彼女はジャンプして喜びながらもゾロアに抱き着く
だがしかし不幸な男がここに居る
『なんで僕お留守番になるんですかぁ!?』
ナッツだ、先ほどまでは俺を残して地下ダンジョンに入れるメンバーだったが突如として彼はお留守番になる
ゆっくりと彼は俺に顔を向けるが目が細い、何か恨まれることをしたのだろうか?
ゾロアがそれに関して説明してくれたがどうやら俺の『介護』らしい、俺は動くので今精一杯なんだ
狼気が殆どないからな、何かあれば身を守れないが1日寝ればそこそこはいける
それでももしもの場合を考えるとナッツがいた方がいいという結果となり彼は残念そうに溜息をつく
そんな予定を一番待ちわびているのはきっとグスタフ、彼は嬉しそうにニヤニヤすると明日を待ちきれない子供の様に先に寝ると言い、用意されたテントに歩き出すがルルカもそれについていく
『お前は違うだろぉ!?』
『あらぁ?そうだっけぇ?』
コントも調子がいいな、近くの騎士に開いているテントがないか聞いたところ2つほど直ぐに用意できるというのだがエイミーがタツタカと一緒が言いといって聞かない
タツタカは彼女に気を使って1つのテントを使わせようと考えてはいたんだと思うがそれは必要ないと言うのだが本当にいいのか?
タツタカには少々刺激が大きいのではないだろうか
でもゾロアもいるし大丈夫か
『じゃあね~ジャムルフィンさん!』
(ちゃんと呼んだ!?)
悔しいが嬉しい、エイミーは俺達に手を振るとタツタカとゾロアと共に奥のテントに向かって歩いていく
俺はナッツと医療テントにいって火傷の為の塗り薬を塗ってもらうと顔をグルグルに包帯で巻かれた、体の擦り傷も薬草を塗って痛みはおさまるが肋骨と座骨は折れているがずれてはない様だと治療員に言われたので運動は一週間ダメと言われてしまうが2日たてばグレンツェントヒールで完全回復してやるさ
そしてその場を離れると南大門の扉に近いテントに入るとおっさんが出すような声を口にして横になった
ようやく横になるとナッツに何があったか聞かれたから教えたんだ
粘龍ウパル・パールというゼファーの時代の十天の第5位にあって戦ったってな
『あの時代の十天とか正気ですか!?』
ナッツがガバッと起きて視線を此方に向けるが事実だと答えると彼はドサリと音をたてて再び横になる
『あはは…しかも魔物ランクSですかぁ、先輩とタツタカさんにゾロアさんですからね』
『流石に強者揃いの時代の十天でも3人入れば大丈夫だったな』
『でも第4位からは出会えば死というゾーンですよ?』
確かにスカーレットさんが言ってたな、十天の第4位からは出会ったら死ぬってな
ゾロアは黒龍だが特殊個体と聞いていたためSだったのだと予測をしている
深く考えなくてもいいなこれ、粘龍もかなりやばかったぞ
冬眠してたどうのこうの話してたし本調子でないならば俺達は運がいいな、体が起きてない粘龍を相手にしたってことか
『まぁ数大事ってことだ』
『先輩も最近考え方が脳筋ですよ?』
『違う』
即座に否定、俺は夜食を食べてないが食欲はない
今から食べに行くよりも休みたいのだ、ナッツはそれを気にしていたらしく
彼は懐から干肉を二つ俺にくれたんだ、ついでにテントの隅にあった小さめの鞄から紙袋に包まれたおにぎりが二つ、どうやらナッツは寝る前に食べようと考えていたと話すが断る理由なんてないからありがたくもらうしかない
それにしても落ち着かない、俺は顔が包帯まみれなのである
幸いなことに目だけ避けるようにしてグルグル巻きにされたんだけどもまるでミイラみたいだし外に出歩くのも恥ずかしい、ここまで歩いている時には当然騎士達とすれ違ったが凄い顔してたしな
口元もまぁまぁ開くから有難くナッツから貰ったおにぎりなどを食べていると一番見られたくない奴に見られたんだよ
『おうジャフィン!ちと聞きてぇこ・・・と』
『どうしたのぉグスタフ?』
グスタフがテントの入り口の布を捲って入るとそこで俺を見たまま立ち止まる
狭いから少し彼は姿勢を低くしている、後ろの声はルルカだ
『・・・なんだよ』
俺はせめてもの抵抗でそう口にするとグスタフは腹を抱えて大笑いしたのである、ここまで笑うこいつも久しぶりに見るから怒れないんだがその様子が気になったルルカが彼を押しのけて中の様子を見ると彼女も腹を抱えて大笑いしたのだ
2人は後ろに退くとテントの前で転がり始めてこう口にしたのだ
『まんまパブロフっ!パブロフじゃねぇかぁ!!!』
『あっははははは!!』
どうやら俺のこのミイラみたいな姿は道化のパブロフと酷似しているんだな、グスタフとルルカはそいつらと戦って勝ってきたけどもかなり笑いのツボに入ったようだ
俺は仕方ないなと思いながらも頭を掻いて上体を起こしてテントの外に出るがナッツは横になって休んでいる
座る場所も無いからその場に腰を下ろすがまだこいつら笑いがおさまらないらしくヒーヒーいっている
それがおさまったのは約2分間であるがなんだか悔しいのは気のせいだろうか
まぁグスタフは本題に入ったんだけども明日は俺とナッツがお留守番という事もあり、地下ダンジョンの情報を覚えているだけ教えて欲しいと言ってきたので俺は彼等に説明したんだ
まずは各フロアの主だ
10層→ハイゴブリン20体
20層→トロール2体、オーク10体
30層→ゴブリンキング3体
40層→特殊ガイアマンティス
50層→阿修羅猪1頭、赤猪15頭
んで敵
1層~10層(魔物ランクE多め)
11層~20層(魔物ランクEとD均等)
21層~30層(魔物ランクD多め)
31層~40層(魔物ランクDとC均等)
41層~50層(魔物ランクC多め)
51層~60層(魔物ランクBとC均等)
俺の体感でしかないがあっていると思うとグスタフとルルカに伝える
彼等は真剣な顔にようやくなると最初にルルカが質問して来たんだ
『飛ばされたんでしょジャムルフィン?』
『そうだな』
『70層には記録では誰も到達した事がないのよねぇ、レリックが64くらいには言ったという風の噂があるだけで』
『そう俺は理解しているぞ?だが辛いのは休憩地点が少ないんだよ、主の前の通路周辺はどの層も魔物が一切いないという共通点があるくらいで他はぶっ通して進み続けないといけないから普段普通に倒している魔物が何度も来れば疲労で進むのも一苦労なんだよな』
『疲労との勝負なのね』
そうである、敵は単品で倒すならば容易いが休憩場所が主の部屋の前しかない
人数が多ければ休み休み見回りを置いて休めるが半端な人数で挑めば痛い目を見るし俺達でも油断は一切できない事をちゃんと伝えるとグスタフはニコニコしながら俺の肩を軽く叩いて口を開いた
『脱出はタツタカがいる、心配すんな・・・それにカレジリージョンも明日にはここに辿り着くらしいからあいつらと一緒に休んでろ』
『そうする、俺は使い物にならないからすまんが頼むグスタフ』
『うい』
彼は腕を組んで胸を張る、こいつは楽しみなのだろうな地下ダンジョン
実際俺も楽しかった
『僕も行きたかったのに~』
テントの中から少し顔を出してナッツが俺を睨んでいる
お前はここにいろというと拗ねてテントの中に消えていく
ルルカに国内の状況を簡潔に聞かせて欲しいと言うと、抵抗する教団はあらかた鎮圧
ほぼ教団は動きを止めたし城の周りも落ち着いたから入念にディロア兵が何度も見回りをしているらしいし教団本部は精鋭騎士含めて5千が教会を封鎖して内部調査を始めたんだとさ
教団は降参したということだがこの一件が終わった後は国王の手でトゥルーゲン教の処罰を決めるのだと言うがかなり重い筈だし死刑は免れないだろう
再びルルカから魔力回復剤を貰い、俺は一気飲みするが不味い
もう一つ出してきたが懐にこいつは何個あるんだろうな・・・しかも1日に3個以上は薬品上禁止されているから流石に無理だと言って断ると彼女は舌を出しながら懐に戻した
『まぁ休みなさい?頑張ったんだしね』
『狼気がほぼ無いからな、それに折れてる箇所もあるからグレンツェント使えるまで大人しくするよ』
『本当に卑怯な治癒術ねぇ・・・頂戴?』
『無理言うな・・・』
グスタフがその会話でクスクスと笑っていると彼らは満足した様子で立ち上がり、俺に手を振って自分たちのテントに戻っていく
俺も自分のテントに戻るとナッツは既に寝ているのだ、だよな・・・幸せそうな顔しながらスヤスヤとだ
(危機感まったくない顔で寝やがって・・・)
俺はそのまま寝ることにした、ネロ大将軍やタツヤ達にも顔を見せたいが先ずは休もう
んで明日の朝には色々と報告しとかなければいけない、何故粘龍ウパル・パールがここに居たのかが意味が分からないのだ
その答えを見つけるのは難しいだろうが今考えてもわからないし明日考えよう
テントで横になり目を閉じると外の声が一段と俺の耳に入ってくる、テントは少し厚めの布だがそれでも外の松明の揺れる灯りが僅かの俺達のテント内を薄く照らすが気にするほどでもないな
上官らしき人が兵士達を呼んで南大門の上の状況報告を催促している・・・異常なし、か
残り援軍は明日の昼前到着との声も聞こえるがきっとマルス達だ、あいつら大丈夫かな
それにリルラも無事なのだろうかと色々な者達の心配を頭で浮かべながら静かに眠りについた