51話 皆同じ気持ちだ
ネロ大将軍は真剣な顔でケトラとザムエラに言ったのだ
無事に変えることが戦士の務めであると、生きてそして帰りを待つ味方の為に今は退くべきだと彼は強く言葉にする
そんな彼の背後にはタツヤにリキヤそしてマイがいるけども鎧やローブがボロボロである、こいつらも必死で戦ったんだな
いつもの側近騎士達も多少怪我はしているものの元気そうであり大したこと無さそうだ
この光景は人が開戦前に互いの大将同士が顔を合わせて本当にするのかどうかの最終感覚的なものに似ているけども戦争に終止符が打たれようとしている時なのでそれとは違う
蔑むような素振りは一切魔族に見せないネロ大将軍だがケトラ第5将校は気難しそうな顔を浮かべてネロに口を開いたのである
『お前らに勝たないと俺達の魔族も変われない、弱く生まれた者は未だに身分の差から貧しい生活を余儀なくされている奴がいるんだ・・・こっちだってやらないといけないんだ』
気持ちはわかる、変えようとするために必死で戦争を挑んだのだろうがそこには疑問が残る
俺が言う事でもなくそれはこの戦争の被害者となった者達が言ってこそ開花する言葉があった
予想通りそれを口にした者がいた
それは馬に乗って後ろからゆっくりと近付いてきていたザントマ国王であった
『他の種族を犠牲に幸せを手にしようなど間違っている、私はずっと防衛のみに魔族との戦争と時間を費やしてきた』
ネロ大将軍やタツヤ達は驚いて後ろに振り向く
当然そこにはディロアの最高司令官である国王だが一番驚いているのはケトラ第5将校とザムエラであった
目の前に撃つべき王がそこにいるのに動いてはいけない、ザントマ国王に剣を向ければガルドミラの努力を無にするだけであり犠牲が両軍からまた大勢増えるからだ
歯痒い思いもケトラは顔に浮かべるがきっと悔しい筈だ、言い返せないからだ
『くそっ!!!』
彼はしゃがんで地面を殴るとその場に座り込んだ
ザントマ国王は急いできたと予想するがここにくるなんて度胸がある、普通王は安全圏内で指示をするはずなんだけど居ても立っても居られない気持ちだったのかもしれない
ネロ大将軍は道を譲りザントマ国王を前にすると彼は馬を降りてケトラに近付いた、危ないと思いネロ大将軍は王に近付こうとしたのだがザントマ国王はそれを手で止めるとケトラの目の前まで行く
彼と顔の高さを同じにするためにしゃがむと真剣な目を向けて話を再開したんだ
『確かに我々は魔族が怖い、怖い者に人は恐れて武器を持ち力を得ようとする・・・それは魔族にだけじゃなく人という生き物に対しても向けるがそれは魔族とて同じの筈だ、我々ディロア王国は永年お主たちと戦ってきたであろう?戦争とはつまらんものだ・・・勝ってもその歓声によって失う悲しみを覚えた者の声はより大きな声に消えてしまう、魔族にも我らにも互いに理想はある筈だ』
ケトラは口を力強く閉じているとザントマはそれを見て微笑み、彼の両肩にポンと手を置いくと悲しそうな面持ちで伝えたのである
『頼む、もう来ないでくれ・・・この戦争での内乱が起きて罪のない国民にも被害が及んだ、より良い未来を見るために生きてよりよい未来を作るために1日1日を大事に生きる大事な国民がだ、我々は君達が攻めてこない限り決して剣を向けない・・・だからもう来ないでくれ』
事実ではある、ディロアは防衛しかしていない
攻めた事が歴史上無いのである
そのことを知っているケトラは当然黙る事が精一杯であり、目の前のザントマの顔を見る事すらできずに肩にかけられたザントマ国王の手を払いのけるとゆっくりと立ち上がり
見守っていたザムエラに口を開いたのだ
『行きましょうザムエラさん』
『・・・あぁ』
ケトラやザムエラの近くにいる魔族兵達は複雑な顔色を浮かべながらもケトラの言葉に従い、彼を守るようにして魔族領土がある森に向かって歩き始めたのである、ザントマ国王に対しての返事はしていないが彼はする勇気が無かったのだろう
悪い奴ではないのは見ていてわかるがそれはザントマも理解している筈だ
ザムエラは数名の魔族兵に撤退の指示を出すとこちらに体を向ける
彼の表情も気難しそうだ、ザントマ国王をジッと見つめ出すとネロ大将軍がザントマ国王に確認程度で聞いたのだ
『国王様、どうお考えでしたか?』
『・・・直ぐに変えるのは不可能だ、大事なのはどういう道を通って理想に歩めるかだ・・・少しずつ変えたいと言う意思を持った者が増えればおのずと道が開ける』
時間をかけるべき問題だと彼は言った、勿論その通りだ
急には意志という心は変える事が出来ないがその理想に向かって歩むことを諦めなければおのずと同じ理想を求める者は増える
ザントマ国王は優しさで教団を野放しにしてしまい間接的にではあるが国民を危険にさらしたことを悔やんでいるだろう
結局そうしたのはレリックという教皇と魔族達なんだけども無駄に責任感や罪悪感という言葉を胸に持っている国王は心に鞭を持つことがどれだけ大事だったのかを思い知らされる事となった
優しいだけでは悪党は住みやすい
ザントマとネロ大将軍の言葉を耳に入れていたザムエラは一息つくと小さく彼らに口を開く
『魔王様次第である、魔族全てが平和を願っても魔王様がそれを否定するのならば我らは変われない・・・お前達から見たら悪しき習慣なのは理解しているがそれでも俺達は命令されれば剣を持つしかないのだ、許せとは言わない・・・だがこちらとて好きでしているわけではない』
『わかっている』
ザントマ国王が答えるとザムエラはゾロアに顔を向ける
すると何かを言うわけでもなくそのまま背中を向けて歩き始めたのだ
大きな彼の体がその時は一際小さく見えるが何一つ満足した結果が得られなかった以上気分がいい筈がない
ザムエラが遠くまで行きそうになるとタツヤが大声で彼に話しかけた
『あんたらなんどもヘルトと戦ってるならば歴史に詳しいんだろ!?俺達は帰れるのか!?』
彼等も帰りたい、でも保証はない
だがガルドミラがタツタカに話した内容とは真逆な事をザムエラは軽く振り向いて答える
『勇者の使徒は転移魔力の残量が尽きれば自動で帰れる、昔のヘルトの仲間もそれで元の世界に帰ったと伝承で聞くがだいたい3年だ・・・だが先ほども大将軍殿が言われた通りヘルトは帰れない、彼は生きたままここに来たと言って信じようとはしなかったが死ぬ運命の者が新しい命を授かって慣れるのが勇者である』
『でもイガラシが俺達と一緒に遊んでいて一緒に飛ばされたんだぞ!?』
『ならば早い段階で死ぬ運命が訪れていたからとかもあるかもしれん、それを知りたくば伝説のヘルトか鳥神にでも聞くんだな』
彼はそこまで伝えると再び森に向き直して兵士と共に退いていった
『伝説のヘルト?鳥神?』
マイは首を傾げて考え始めるがその2人とは未だに生きている可能性が高いビビとヴァリミア・ラクォカ・ゴットバード・ゼロという十天を作った第0位の化け物だろう
戦った事が無いのに何故俺は彼を化け物と表現したのかが疑問だが外れていない気がする
俺じゃまだ遊ばれて終わりだろうな
赤い死神エレドラという小さな存在がビビで考えてもいい
この場の者達にそのことを伝えると皆予想外だったらしく非常に驚いていたんだ
十天のゼロがいた事が皆知らなかったようであり第1位よりも明らかに強い者だと伝えるとネロ大将軍は苦笑いしてこう答えたんだ
『もう何が来ても驚きはしないと決めてはいたが、ゼロか・・・会いたくはないな』
俺も会いたくないよ、敵意は全然ない奴なんだけどもおっかなすぎる
怒ればきっと俺でも瞬殺されそうな感じしか持てないが夢の中に彼が侵入していた時は普通に話してしまっていたな
俺も肝っ玉でかいらしい
ようやくタツタカが戻ってくるとゾロアに親指を立てて笑顔を見せた
テレポートって本当に羨ましい、俺も欲しいけども銀彗星あるしな・・・でも瞬間的な移動と尋常じゃない音速を超えた速度じゃ天と地の差があり過ぎる
彼が戻るとタツヤにリキヤそしてマイは無邪気に彼に近付いて体をべたべた障り始めているしタツタカも満更じゃない様子で頭を掻いている
友達との時間だしタツタカにとって理想の形には戻ったとは思うが問題は帰れるかどうかだな
皆ヘルトは帰れないと豪語していたがそこまで言わせる何かを俺は見落としている様な気がするんだよ
なんで帰れない?死んでいるならばわかるが彼は生きたまま来た、ザムエラはそのうち死ぬ運命だったから慣れたのかもしれないと口にしたしかれが帰れないと言う運命自体を否定する事が無かった
『お疲れ様です先輩』
『ナッツ、遅かったが何してた?』
『大丈夫そうだったのでテントでおにぎり拝借してました』
超真剣な顔で言ってもなぁ、大事な時にこいつは飯事情が最優先だとはそれでは千剣の評価が食い意地だけになる
まぁ仕方がないか、ナッツだし
いつもより元気に彼の周りを剣30本がフワフワ浮いている
溜め息を漏らしているとザントマ国王が俺に近づいてきた
彼の顔は微笑んでおり深く頭を下げると口を開く
『本当にありがとう、銀狼だけじゃなく他の者全ての者にこの言葉をおくる…決してこの結果を無駄にしない国にしてみせる』
『そうしてくれザントマ国王』
その後は一応警戒を解除するわけにもいかないのであと2日はここに兵を滞在させるのがベストだとザントマが口にするとゾロアもそれが正しいと感動する
話している最中だったからはタツヤ達とじゃれていたが本当に楽しそうにしているので邪魔出来ない
俺達も一応は南大門の広場にて一旦は下がって様子を伺うことに決定する
その間、ザントマ国王はタツタカに頭を下げながらも戻ってきてほしいと頼んではいたがメルビュニアを裏切れないと言い、その頼みを断った
ザントマ国王の心境は勝ったというのに複雑そうだなぁ
メルビュニア全体からはかなり超待遇されている噺は聞いていたからタツタカの性格上だと良くしてもらっている場所から離れにくいんだと思う
『国が落ち着いたら直ぐにでも転移の研究と逆の術を大規模魔方陣にて行えるか尽くすつもりだ、時々顔を出してもらえればありがたい』
『そうしますザントマ国王』
『…すまぬ』
『あはは…』
どうやらタツタカには頭が上がらなくなったらしく彼と話すと謝ってばかりだ、まぁそこまで反省しているってわかるしタツタカも執拗に前の事をとやかく言う奴じゃないからな、一先ず終わったか
俺は地面に突き刺したハルバートを持ち上げてから背伸びをした
(夜だな)
薄暗い空を見上げながらもそのまま振り返り南大門を眺めるとそれに同調して見な振り返ったのだ、タツタカ達もじゃれるのをやめて南大門に目を向けているとマイが口を開く
『物語的には魔王倒してないけども3年ほどて勝手に帰るのね』
マイやタツヤそしてリキヤは自動で帰れる
いわば召喚の類いできたのだから時間経過で元の世界に帰れる
その残った時間で仲間のタツタカが帰れる手段を共に探すだろう
一番辛い1日が今終わったのだ
俺はそう思っていたのだがそれまで周りの様子を伺っていたゾロアの微笑みが一変し
大きく目を見開いて南大門の奥の空を見たのだ
『ゾロア?』
『ゾロアさん?』
俺とナッツは彼に聞いても何も口にしない
彼がそこまで驚いた顔をこのタイミングでされるのは非常に不気味である
それから数秒で俺達は終わっていなかったことにきづいた
遥か遠くの空に緑色の光が勢いよく昇っていったのだ
雲を切り裂いてどこまでも伸びたその光は空高く昇るとまるで天銀と同じ威力と思われる超爆発が上空で起きた
誰もがその光景に体を緊張させ、驚いた
何が起きているのかがまったくわからない、だがゾロアは理解しているような気がした
彼ははるかに遠くの大空から起きた超爆発の後の緑色をした隕石の雨がディロア領土に落ち始めるのを即座に大声を上げたのだ
『タツタカ!今すぐ俺と銀狼を連れてあの場所へ行け!!千剣はここに残って警戒を怠るな!』
『えっ?』
ナッツが変な声を出した
ゾロアの声は焦っていた、彼がここまで狼狽えると言うことはかなりヤバイ事が国内で起きた、しかもそれはゾロアの想定外から現れた
ザントマ国王は直ぐに馬に乗ると蒸気機関車把握に大門内の広場に戻り出す
『ゾロアさんどうし『早くしろタツタカ!!国が滅ぶぞ!!』』
国が滅ぶ、ゾロアの強い言葉でタツタカの顔色は変わると俺は彼の肩を掴む、ゾロアも反対の肩を掴むとナッツが話しかけてきた
『一緒に行きたいですが我慢します、いってらっしゃいませ先輩』
ナッツは軽く頭を下げてそう言ってくれた
するとゾロアが不気味な言葉を口にする
『いくぞ!死ぬ気で行かねば死ぬ事覚悟せよ!!』
そっか、敵がいるんだな
頭でそう考えていると直ぐに俺の視界は曲がり始め、具合が悪くなりそうになると景色は変わっていたのだ
その転移した場所に俺達三人は度肝を抜かす、ディロア王国のとある街に転移したはずだったのだが今俺たちが立っているのは廃屋だらけの街並みである、ここら一帯に街があったはずがまるで全て消し飛ばしたかのような悲惨な状態になっている
ゾロアが焦りを見せる存在は今俺の超感知に触れた
(馬鹿な…この気配、まさか!?)
感じたことがある気配に俺は思い出す、
『龍』
ふとそう小さく呟きながら大通りだったと思われる道の奥にいる魔物に目を向けた
タツタカはその姿を見てウーパールーパーって生き物まんまですねとか苦笑いしながら言ったのだがその魔物を俺は知らぬからきっと彼の世界の魔物だな
ウーパールーパーか、だが色はあっちもブルーサファイアの様に美しい色なのだろうか
そして大きい、全長は20mあっても可笑しくはないほどのサイズの龍だとわかったが誰からも情報が無くてもあれは龍だ
口元は可愛らしく丸みがかってはいるけども少し口を開けると無数の細かい歯が生えている
きっと噛み潰すというより切り刻んで食べるかのような歯の形状だよな、食べられたくないなぁ
その目の前の龍らしき魔物は折りたたんでいた翼を広げると口をパクパクしながらこちらに意識を向けて首を傾げている
タツタカとゾロアと俺、これ以上の戦力は今いない
俺はハルバートを肩に担いで前に歩き出すとゾロアもタツタカも同調して歩き出してくれた
両脇にあったであろう建物が無い、吹き飛ばされたのである
ディロアの街並みがただっぴろい荒野とされてしまったが先ほどの空に昇ったあの技でここをこの様な状態にしたんだと思う
(面倒だな)
龍、だがしかし俺はSランクを一度未熟とはいえ倒した実績はある
それがどのように活かせれるか今それが分かる
『ゾロアさん、こいつは』
タツタカが首を傾げながらそう言ったが彼だけはいつもと変わらず緊張している様子を見せない
そういえば深刻な顔をあまり見たことが無いし戦っている最中もそういった表情は前から見ていないから意外とマイペースな男かもしれん
『こいつは粘龍ウパル・パールだ』
『あぁ・・・ウーパールーパーまんまですね』
ゾロアの答えに彼だけが納得を口にする
するとゾロアはそのまま話し続けたのだ
『想定外過ぎるが・・・川の神とも言われる頭が足りないSランクの龍だが馬鹿だからA+の黒龍の時の俺でも勝てた・・・・』
Sランクかよ、てか龍は全てSランク認定で良いと思うのだ
だって黒龍戦でそれを痛いほど味わったSランクでもその強さは様々だがゼリフタルを襲ったリュシパーズールはA+にしては強すぎた
龍という種族は恐ろしく強く強靭で頑丈であり絶望的な破壊力を誇る絶対強者の存在
俺達の目の前で口をパクパクしている粘龍ウパル・パールもその中の1体
ゾロアは真剣な面持ちのまま最後にこう言い放ったのだ
『だが単純な戦闘力はあ奴が上だった、俺達3人で倒す・・・無理ならこの国は終わりだ』
分かりやすい、せめてグスタフがいてほしかったが無事なのだろうかが心配だ
カールやミミリーそしてカレジリージョンのマルスやアルセリア、アレンにアリスとアビゲイルもだ
向かっている時に吹き飛ばされましたとか言わないでくれよ?
俺達3人は奥の龍に視線を向けて警戒をしているとようやくその龍が口を開いたのだ
『やぁーっとでれーたぁー!』
調子が狂う口調だな、いちいち伸ばすような話し方が逆に不気味である
ゾロアは隣で小さく舌打ちをすると長い刀を粘龍ウパル・パールに向けて会話し始めた
『お前はポーラ・ローランドか?』
まるで知り合いかの様に聞いているがゾロアはもしかしたら自分たちの時代にいた同士と思ってそう質問したのかもしれない
彼の時代の十天は凄い奴らの集まりだ
0位が鳥人族不死鳥種ヴァリミア
1位がリヴィことヘクター
2位が虫神ファブリルダルトロン
3位が雷帝ゼファー
4位がゾロアである
これだけでも既にお腹いっぱいになりそうだし不思議と勝てる希望が僅かしかない
ゾロアが黒龍の全盛期にどれほど強かったかは俺は知らないが相当強かったんだと思っている
雷帝は言われずとも獣神フェンリルという正式な名があり雷帝というのはゼファー自身が名乗って気に入っているだけに過ぎない
虫神は実質今でも生涯で一番の恐怖を俺の体に与えた化け物であり戦いたいとまだ思わない
となるとこいつは一体何位だったのだ?きっと十天だし低くてもかなりのつよさを誇る筈
すると強力な気配を放っている龍が大地を水掻きの様な両手でビタンと叩くと答えた
『そーだよぉ?あれれぇ!ゾロア君だぁー懐かしいぃーけどやっぱぁーり転生してたんだぁー!』
『ゾロアこの龍少し苦手だよぉ』
龍の名は粘龍ウパル・パールであり個人の名はポーラ・ローランド
ゾロアの時代の龍が今の時代に生きていた
その答えを聞いた後すぐにゾロアの鎧の中にいたであろう綿の姿をしている精霊王ケサラ・パサラが苦手意識を口にした
鎧の隙間から少しだけ可愛い綿を出している姿にゾロアは彼女に、そういえばケサラは女だ
彼女の綿を優しく撫でながら話しかけた
『大丈夫だサラ、隠れてろ』
今の名は愛称か?相当仲がいい模様でありそこには触れる余裕も無いのだが彼は直ぐに真剣な顔を浮かべて粘龍を睨みつけた刀の先を昔の同胞とも言える龍に向けながらゆっくりと歩み寄る
俺とタツタカは突発的な行動をされても良い様に十分に以後気出せる準備は完了しているから一先ず不意打ちという攻撃はされでも対応できそうだ
ゾロアと共に近付いていくと彼が口を開く
『どんな経緯でここに居るかも生きているかも知らんがそれはまぁいい、帰れ・・・出なければ』
言い終わるとゾロアは鎧から大量の瘴気を噴出させて自分を隠した
彼の状態が見えないがその瘴気はゾロアの体に合わせて包み込んでいたが直ぐにその影は大きくなり瘴気が一気に始め飛んだ
するとどうだろうか、そこには俺の知らないゾロアらしき魔物が立っていたのである
彼がギュスターヴ・ハデスになったのは知っているがこれがあのトランテスタ大陸全土を1人で滅ぼしたとされるSランクの絶王ということか・・・彼の体から放たれる強大な気配も粘龍ウパル・パールに負けていない
身長はざっと見ると2メートル半、腰から黒いマントをつけているがそのマントはボロボロであり下半身は銀色で輝く甲冑
上半身は鎧等は無いが肉体が筋骨隆々としており肌の色は灰色だが何故か下顎だけは骨が剥き出しになって髪は無い、歯が鋭く噛まれれば肉がズタズタにされる
両側頭部には禍々しい角がそそり立ち、目に瞳は無く真っ白
両腕は上腕二頭筋から黒みがかっており右手にはゾロアが使う赤と黒の斑模様の長い刀が握りしめられている、そんな彼が昔の同士に威圧を大きく放って口にしたのである
『帰らねば殺すぞ?今度は生かさぬ』
彼は勝っていたから4位だったのだろうな、なんだか抜けた感じの粘龍に昔頭を使って勝ったのが予想しやすい、ゾロアの威圧は黒い瘴気が体の正面から突風の様に目の前の龍に飛んでいくがそれでも奴は何事もなかったかのように話し始めたんだよ
『うわぁー!ゾロア君Sになれたんだー!』
肝心の粘龍ウパル・パールは感情が籠って無さそうな雰囲気にゾロアは再びハデスの姿で舌打ちをする
ケサラは彼の肩に乗っていたが直ぐに下半身の甲冑の中に潜り込んでいくがケサラは女だしそこいいのだろうかと違う疑問が頭に浮かぶ
『そこ入るんですね・・・』
タツタカが囁いたが俺は聞こえている、機嫌が悪そうだとゾロアの気配から伝わる
彼の体から漏れ出ている瘴気が濃くなっているからだが多分良い気分じゃないんだなって思う
わざとらしく両手で大きな音で拍手をすると地面に手をついて口を開いた
『冬眠してぇーたはずなんだけどもここどこだぁーろね?まぁいいか』
冬眠?首を傾げたくもなるがそうは言ってられない
ウパル・パールの気が大きく膨れあがったからだ、違う意味で唐突に始まる事に小さく溜息を漏らすが横のタツタカも同じであり彼は苦笑いしながら頭を掻く
ゾロアは刀を肩に担ぐようにして昔の知り合いに首を傾げると龍がとうとう開幕の言葉を口にした
『起きたばっかぁーで体起こさないとぉー!じゃー死んでねぇー』
その瞬間、見た目に騙された俺とタツタカは出遅れる事となる
まだ先にいたウパル・パールが突然俺達の目の前まで現れたが殆ど瞬き程の時間しか経過していない
俺はまだ大丈夫だ、予見で嫌な予感がしていたがタツタカは限界があるようで大きな口を開いたウパル・パールを見上げていた
『絶対零度ブレスゥー』
龍は口から超冷気を激しく吐き出した
粘龍ウパル・パール
魔物ランクS
名はポーラ・ローランド、見た目としては巨大なウーパールーパーの姿をした龍であり体の色はブルーサファイアの様な美しい色だが体中粘粘した粘膜に覆われており、触るとかぶれてしまう
頭の悪さを抜けば胸を張ってSという力を保有している、口は丸みがかって大きく、歯は口内に無数生え散らかしている翼の色だけは黒い
水・冷気属性の粘龍であり技や術もそれと同じ属性を使用可能、弱点は灼熱と渇き
状態異常は完全耐性、マイペースで能天気
元十天の第5位(奪われたり奪い返したりとした他のライバルがいる)
見た目に反してスピードはトップレベル、地面を這えば最高時速1,000㎞
空を飛ぶと500㎞と飛ぶことが苦手である
速度があっても体の丈夫さは龍族の中で一番柔らかい
切り札は『ポセイドン・マスカレード』