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【完結済】槍の新兵は夢を見ない  作者: 牛乳太子
14章 ディロア大決戦 涙を流す勇者に黒騎士は決意し、少女は想う
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43話 数でくる

俺とナッツは南大門前の1日目を無事に防衛成功して夜も深まり寝ようとした時に慌てた様子の騎士が近づいてくるとこう告げられたのだ


『信仰都市ヴェルミストの教会本部が陥落しました!』


当たり前だろ?グスタフ達だしな

隣のナッツは小さくガッツポーズをしているが反応が薄い俺を気にして何故か声をかけてくるがあいつらならばいけるだろうと答えると苦笑いを浮かべていた

となるとその事実を国内中に知らせて教団兵の指揮を避けさせればいいのだろう

一番有効なのは城の放送魔石、戦争まえに聞いたあの声をもう一度発動すればいいのだがそうする気配もない


騎士から聞くとどうやら城も教団兵の襲撃で城の中まで侵入されてかなり危ない状況であり止まらない魔物がそこにいると聞く


『先輩・・・』


『大丈夫だ、ゾロアの作戦に不備はない筈だしあいつもこれを到底しているだろ・・・どう考えても強い奴が城を襲うのはお前でもわかってたろ』


『そうですけども心配ですね』


『信じろ、俺らは寝るぞ』


『先輩図太いですねぇ』


そう言われながらも俺は目の前の騎士に労いの言葉を言ってからテントの中に入る

狭いのが直ぐに慣れたので意外と居心地がよく思えるようになってくるけども中に入った途端にナッツは剣を綺麗に整頓して横に置くとそのまま横になって寝始めた


お前も意外と図太いぞ?

時刻は22時になる頃だろうか、俺の横になって目を閉じて寝ようとしていたのだけれども中々眠れなくて意識がハッキリしていたんだけだ

遠くから鳥の鳴き声が凄い聞こえるのだが鳴き声というよりかは泣き声に近い

俺は何かが可笑しいと思い上体を起こしてハルバートを手にテントの外に出ると周りの騎士達が空を見上げている

俺もその方向に目を向けると大門の外の方から真っ赤な明かりが何度も点灯していた


『何が起きてるんだ?』


近くに騎士に声をかけると彼は首を傾げてきた、仕方ないので大門の階段を登り上まで上がるとその光景を見た俺は引き攣った笑みを浮かべた

遠くに馬鹿でかい鳥が何者かと空中で交戦している最中であり、四方からヘルファイアを撃たれて体が何度も燃え上がっていたのだ、ヘルファイア?いや違う!もっとヤバイ術だ

かなり太い熱光線が爆発を纏って空中の巨大な鳥を攻撃している


(あれ・・・フレアじゃないか?)


たしか火術の最上級術でそういう術があったな、ヘルファイアの一段階上のやつだ

多分間違いないと思うけどもそれをポンポン出し惜しみせず撃てるという事は


『タツタカぁ・・・』


多分彼はテレポートを駆使しながら死角からフレアを撃ってるんだろう

可哀想にもその鳥は体が業火に燃え始めると力尽きた様でそのまま地面に勢いよく落ちるとその周りの光景が燃えた鳥によって照らし出される


魔族が陣を張っていたようであり、落ちて来た鳥によって多少潰されてしまう

俺はそれを最後まで見ずに階段を降りようとすると近くに騎士が俺に話しかけてきたのだ


『いかがいたしますか銀狼殿』


『気にするな、俺は寝る』


『え・・はい』


階段をそのまま降りると今度は爆発音が何度も聞こえ始めて南大門の奥が先ほど以上に明るくなる

彼から教えてもらった言葉にこんな言葉がある、オーバーキル

それはやり過ぎた攻撃を意味するらしいけども今まさにタツタカはそれをしているに違いない

彼は火術を好んで使うし夜襲を目論む魔族の陣を根絶やしにする為に燃やしているんだと思う

タツタカを相手にされていると思えば多少同情を魔族に送りたくもなるが向かってくるならばそうもいってられない


下まで降りると遅れてネロ大将軍がタツタカの友人3人を連れて駆けつけてきたが俺は事情を説明して予定通り夜襲に備えて警備を硬くしとけばいいと話してテントに戻ろうとするがネロ大将軍が納得がいかず階段を登って状況を見に行ったのだがそこから彼の声が階段下まで聞こえたんだ


『ふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


なんだその驚き方?

マイ達は気になる様なのでお前らも見てみればわかるというと彼ら3人も急ぎ足で上に登っていく

予想通りタツヤにリキヤそしてマイの声が上から聞こえてくる


『えええええええええええええ!?』


『まあああああああああああじ!?』


『イガラシ君がもう人を止めたのね』


やめてるなぁ


普通は慌てる状況なのに俺は休むことにした、一応俺が一番休まなければいけない身でのあるのでテントに戻ると少し騒がしい外の様子は気にせずそのまま寝静まった

その日の夜は俺が起きる事は無かった、という事は危険な状況に陥ることが無かったんだ

俺は危険が迫ると自動で起きるからそう言う事である


翌朝6時に再び朝食をとるテントの中で将校達と英雄3傑と無言で食辺ながら会話をするがナッツは相変わらずモリモリ食べている

彼の後方で浮いている剣達が気になるようで将校たちはチラチラとナッツを見る


そのまま2日目の防衛戦となったが読み通り数で押してきた

左翼軍はネロ大将軍の5万、右翼軍は俺とナッツに5万の兵士達だがまだ騎士クラスは少ない

後半戦に出していく予定だろ今日の朝食でネロが話していたが教会本部を陥落したとなると今日には移動する手筈を整えて多少なりとも援軍が来るだろうと皆が口々に言っていた

こちらは初日同様鉄壁の陣だがその前には攻撃する兵士が1万ずつ盾兵の前に展開され、目の前まで迫る魔族兵と交戦したんだ

2日目はナッツが大活躍してくれたんだけども彼は30本の黒い剣を自分を軸に外側に剣先を向けるとそれを高速回転させて縦横無尽に走り始めたんだ


すると触れた魔族兵達はそれに斬り刻まれて倒れ始めるし盾でガードしても回転する剣の遠心力で弾かれ次の剣によって体を斬られる


『千剣もヤバいぞおいおい』


『でも近付くなよお前ら、敵味方かまわず斬られるぞ』


俺の後ろの剣兵がビビるようにして前方のナッツに視線を向けてそう口々に言っていた

本当は俺の後ろから援護する役目だったが少し前に出させてくださいと言うもんだから俺が補助にまわる形で了承したんだ


彼はただ走り回るだけで敵が死ぬし魔力も減らない、ハンドハーベンという剣を操る技が永続発動しているので一回の消費量でずっと動いてられるという彼も一歩足を踏み入れた卑怯な存在ともいえる


(あいつが千剣騎士になればもっとヤバいのか)


今でも殲滅力はルルカと同様だがこいつは長時間だ

対してルルカは瞬間的火力で一気に敵を吹き飛ばすが魔力の消費量はヤバイって聞いてるから戦争ではナッツに分があると見ている


近くを走り回っていたナッツが急に立ち止まり膝をついたので俺は何か攻撃されたのかと思い彼に声をかけようとしたが俺はやめた


『はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・』


『疲れてんじゃねぇよナッツ!』


『ふぇえ・・・』


一応ツッコミは入れておこう

旅団長らしき者は前に出てきたがそれはナッツが一騎打ちを所望して相手がニヤニヤしながらそれを受諾して魔族兵と俺とディロア兵らと半分ずつで囲み、ナッツを見守ったが勝負はあっけなく終わったんだ


『何だこの剣の数ぅ!卑怯だぞ人間!』


『数で押してくる魔族が言うセリフですかぁ!!』


『ガフッ!!!』


魔族の旅団長を剣で囲み、一気に突き刺して勝敗は決した

それを機にこちら側の魔族兵の士気は徐々に落ちていくドンドン後退していった頃合いを見て俺はネロ大将軍がいる左翼軍前方の魔族兵に向けて銀超乱を5回分放って戦いやすくした

ナッツと周りの敵を倒しながらおもむろに俺は彼に話してみることにしたんだ


『深夜の事知ってるだろナッツ』


『知ってますよ!鳥の死骸を見ましたがあれ絶鳥っているランクA+の鳥王ですよ!?術の連発で倒して至ってなるとタツタカさん以外ありえませんが今はいる気配無いですね』


ナッツは正面の敵に剣で斬りつけ、横から襲い掛かる魔族兵数名に浮遊させていた剣を飛ばして突き刺す

どうやらタツタカで間違いないらしいが今いないとなると別の仕事をしているのだろう

夜は本当に助かったけども日中は国内で動いているのか、てか教会陥落ならばきっとエイミーも救出した筈だ


国内にゾロアとタツタカがいれば全然心配する事もない、何かあればテレポートだし


『銀狼を倒せば超昇格だぞお前ら!』


『一気に畳みかけろ!』


重騎兵がドスドスと地面を踏んで5名で襲い掛かって来た、彼らは俺より大きい体をしており手には大斧だ

だがしかし俺は彼らの周りを素早く駆け抜けると直ぐにハルバートを振って大斧を砕いて彼ら全員を素早く倒した

動き回れば重騎兵なんて意味は無い、考え無しに来るのはどうかと思うけどもあっちは数で攻めてくるからそこまで考えてないか・・・


敵を倒しながら奥に視線を向けると昨日とは違い横隊ですらりと地平線上に大量の魔族兵がいるが数はざっと20万と言ったところ

だが向かってはこない、俺達が今戦っている軍勢はネロ大将軍部分と合わせて約5万


前に出て倒すにもあまり出過ぎた真似はしたくないので俺はしない

戦争とはそういうもんだ、出るだけ面倒なことが起きる


『流石ですな銀狼殿!』


近くで戦っている兵士が魔族兵を蹴って転倒させ、剣を突いてトドメを刺すと俺に話しかけて来た


『士気も高まっている様だが冷静で居ろよ?』


『はい!ですが2日目にしては数だけで来るのは不気味ですな』


『まぁな・・・』


そんな話をしてから目の前の魔族兵に集中しながら周りを片付けていくと敵がくるわくるわで減る気配がないが当たり前か

たまにグランドパンサーが飛び込んで襲いかかってくるが殴って吹き飛ばすと俺は前方の敵兵に向けて威圧を放った


モロに受けた彼らは体を震わせながら攻撃の手を緩めてしまいディロア兵に打ち倒されていくがこっちの方が兵士も楽をしやすいかもしれないが威圧は気疲れするから俺はあまり使いたくない


銀圧となると敵味方かまわず誰でも萎縮してしまい、対象が弱すぎると受けただけで死ぬ

前にゴブリンで試したらショック死したんだよね


しばらく敵の強引な数での押しが来たのだが敵を倒していると何やら左翼と右翼の丁度中心地点に一際強い気が押し込み始めていた


魚鱗の陣という刃のような形をした陣形をこの乱戦で構築して素早く中央をこじ開けようとしたらしいが動きが早い


『先輩!行ってください!』


『少し頼んだぞナッツ!』


『はい!』


俺は銀彗星でディロア兵や魔族兵の入り乱れた前線の隙間をジグザグに移動しながら中心部に迫る


(100メートルも中心だけ押し込まれたか、凄いな)


速度を落とさず盾兵をなぎ払い、こちらの重機兵と交戦しだすとようやくその歩みを止めたらしい

騎馬兵ならば即座に気づけたが思い切って歩兵で割ってきたか

道理で気付くのが他が遅れるわけだ、俺は超関知だし魔族の気もわかるのでいち早く気づけたので大事には至らる前に辿り着いたのだ


重機兵を突破されると不味い

押し込んできた魔族兵の側面にくると俺は近くの敵を斬り倒しながら徐々にその先頭集団にまで迫ったがもう少しといったところで久々の大きめの危険を感じてその場に膝をついてしゃがみこんだ


すると敵の先頭集団の方から一直線に図太い雷がバチバチと飛んできて敵味方構わずそれに感電し倒れていく

攻撃も思い切っている、俺を倒すためならばそれが彼らには丁度良いのだろうが可哀想だな


『やはり駄目か』


奥から声が聞こえたが気配は勿論魔族

立ち上がると近づいてくるやつに顔を向けた、褐色が魔族としてトレードマークだがこの者は赤く長い髪が地面スレスレまで伸びている


髪がトレードマークと言ってもいいかもしれないし強そうだ

左利きのようであり左手には珍しい刀という武器を持っており、右手にはクローという腕に装着した獣の爪のような武器をつけているがダブルで珍しい装備は軽装、固そうな革装備だが鱗のような胸当てだなあれ…高そうだし格好いい


(俺を移動させるための囮だろうがナッツにそれまで頑張ってもらうか)


きっと俺がいた右翼側に何かしらアクションを起こすために思い切ってここまで陣を割って来たのだろう

反応するのが俺だとわかってて誘導したのはバレている


『駄目だったな、わかってた癖に』


ハルバートを肩に担いで彼に答えると彼は口元に笑みを浮かべながら話しかけてきた


『魔王軍第5将校のケトラ・ト・バスティアだわかってると思うが俺は囮だ』


『素直だな』


『バレていると思ってるからなぁ、悪いが貴殿がいる右翼は多少数を減らして貰うぞ?』


読み通り時間稼ぎだ、彼は体に闘気を混め始めると右手のクローを前にそして左手の刀を軽く上に構えるようにして姿勢を少し低く身構えた


『俺は十天第7位の銀狼のジャムルフィンだ、行くぞ』


『相手に不足無し!こい!!』


俺が彼に走り出した途端に右翼軍側で爆発音が鳴り響いた

足を止めてナッツがいるであろう場所を見ると敵陣の奥からトロール100体ほどの集団が手から赤色の魔石を投げつけながら走ってきていたのだ、左手に大きめの袋を持ちその中からきっと爆発魔石の欠片を取り出して投げている


なるほどな


それによって爆発でディロア兵がどんどん吹き飛ばされて前線が危ぶまれるが俺はナッツを信じることにした


(頑張れナッツ)




『余所見か銀狼!』


第5将校ケトラに顔を向けると目の前に彼のクローが迫る、体を横にずらして回避をすると同時にそれを狙っていたかのように水平に刀を振ってきた


両断されてはたまらないなと思い、俺は後方に跳躍して避けながらハルバートをついて狼撃破を2頭出現させた、狼気が狼の形となってケトラに向かって飛んでいくが彼はこちらに走り出しながら2頭の正面で地面を蹴ってキリモミ回転しながら避けてから着地すると直ぐに俺に襲いかかり何度も刀を使って素早い突き攻撃をしてくる


時間差でクローも混ぜて攻撃してくるが確かに普通に相手すれば面倒だと思える

俺はタイミングを合わせてハルバートを振ろうとしたら彼は俺が攻撃に移ると感じて攻撃の手を緩めて下がったのだ


『時間稼ぎをわかってるなケトラ』 


『十天に誉められるのは光栄だな』


『でも人だぞ?』


『それでも強さは本物だ、力を求めるに種族は関係ない』


『まともだなぁ』 


まともだ、人が嫌いとかあまりない雰囲気を出している

彼は殺気を放って襲い掛かってくると左手の刀そして右手にはめ込まれたクローを交互の使い攻撃してきた、俺は避けたり距離を取って刀を弾いたりとするがこいつは懐に潜り込むのが上手い

そうされるとハルバートで攻撃できないし石突の部分で彼の武器を弾くしかない、一応様子見なのだがそれでもこいつはトリッキーであり足払いをしたりクローから雷術のサンダーショットを間に挟んで撃ってきたりするが術はオマケ程度でしか放っていない、術で仕留めようと思ってないやり口だ


『様子見か銀狼!余裕を出していると貴様の右翼軍がどんどん押し込まれるぞ?』


『逆に押し込まれてるぞ?』


『はっ?』


彼は攻撃の手を止めて俺を無視してトロールを投入した俺の右翼側を見始めたけどもこの状況で俺無視するの?いいのそれ?

それを言いたくても彼はなんだか口を半開きにして固まっている、それもそうだよな

爆発魔石の欠片を投げていたトロールたちが自爆して言ってるんだから、それはナッツが剣を飛ばしてトロールが抱えている袋を剣で突き刺して誘爆させているからだ、強い衝撃を与えれば爆発するらしいが魔力を込めなくても魔石自体に最初から溜まっていた魔力に衝撃を与えて誘爆させているんだろうな


トロールは生命力は強いのだが流石に手元の爆発を喰らえば自慢の生命力は無駄となる

ドンドン倒れていくトロールにその状況に驚いてドンドン下がる魔族兵達を押し込むナッツ率いるディロア兵達

ナッツのハンドハーベンで操る剣が良い活躍をしたようだ、問題ない


『・・・・』


何も言えないケトラは再びこちらを見てくるが彼は遠い目をしていた

悟りでも開きそうな彼の顔は予想外過ぎる展開に反応が難しいのだろう

この後彼はどうするのかと首を傾げて待っていると彼はとんでもない言葉を言い放った



『帰っていいか?』



俺は予想外過ぎる言葉に流れて答えてしまう


『え・・・あぁ』


小走りに彼と近くの魔族兵はスタスタと来た道を戻るようにして退散していくので俺は無表情のままナッツの元に向かい、今まで通り押し寄せる敵兵を倒し続けたが敵は入れ替わり立ち代わりで押し寄せるもんだからこっちの前線は休める状況じゃなく疲労を顔に見せた瞬間にどんどん敵の剣に倒れていくがそれでも2日目が終わるまでなんとかディロア兵は耐えてくれた


昨日よりも今日は一段と被害が多い、1万は越えた気がする

だが相手だってかなり倒したのだが削り合いをしても勝てる筈がない、俺の狼気はまだ半分もあるが夕日が落ちる頃、南大門にナッツと歩いている時に天銀を撃つかどうかという話をすると彼から撃つことを禁止された


『気持ちはわかりますがまだ駄目です先輩』


『撃てば相手の押し込みが強くなるからだろ?』


『ですよぉ、あれ撃てば敵は流石に先輩の狼気の消費量を予測して雪崩れ込んできそうですから怖いんです・・・』


敵は俺の狼気を削ることが目的、1回くらい撃ってもいいじゃんなんて思ったけども誘われる行為は駄目とナッツに何度も言われたよ

撃たないで黙々と敵を倒しているうちは相手の指揮をする者が深読みして押し込むことを避ける筈だとさ

1日目で敵は正直すぎるゴリ押しを展開したが2日目からは体力勝負に持ち込んできているから俺が天銀使えば思うツボだな、やめとくか


夜食はまだという事なのでナッツとテントに戻ると一先ず横になって彼と話し始めたんだ


『教会が陥落、そして先ほど城の方は初日北側から教団兵と魔族兵が押し寄せたみたいですが持ちこたえたと言ってました』


『ホントか?』


『さっき広場待機の騎士に聞きました、どうやらギルド周辺は冒険者達の奮闘もあり制圧完了との事ですが北のドライセンからの敵を抑えているようですがまだ強めの者は出て来てないって話ですよ』


まだ敵は何をしてるんだ?城を落とすならば初日しかないだろ、時間をかけてしまえばそれだけ守りを硬くされるし先ほどナッツが行った様に街を制圧できたマルス達が城の援軍に行けるんだ

となると固められる前の1日目がベスト、城攻めなんて囲めないならば速攻しかけるしかない


『可笑しいですよね先輩』


『一日目に敵が切り札を城に送らなかった事か?』


『流石にチャンスが一番ある日に様子見とか馬鹿しない筈ですが逆に怖いです』


確かに勘繰ってしまう、なんで敵は落とせる可能性が高い1日目を捨てた?

深く考える前に騎士がテントの前から夜食の準備が出来たというので俺とナッツは勢いよく起きて食堂代わりのテントに走って向かったのだ、今日はなんと!カレー!










・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



誰にも知られない展開が城から遠く離れた山の中で起きる

これは魔族大戦初日の夕刻頃の出来事でだ、その山は地下ダンジョンがある山の頂上であり

その生い茂る木々の上にとある者が遠くの城を見つめていたのだ


太い木の枝に立っている彼の名はエンビシャ、今彼は容姿を隠すことなく彼自身がそこにいた

平均した人間の体より一回り大きく、容姿としては骸骨だがその骨格はほぼ人間と同じである

目の位置は目ではなく、2つの角が頬を下になぞる様に通って湾曲しながら側頭部を通過して角の先が頭上に飛び出ており骸骨の額には見るに堪えない程の小さな目が数えきれないほどについている

胴体は国王のような凛々しい服を着ているが酷く汚れている、そして口元は不気味に黒煙がモヤモヤと薄く漏れているのである


何故彼がここに居るのか?答えは簡単である

ここからザントマ国王の王室にある唯一の窓が見えるからだ、窓の先はテラスの様になっており中途半端な高さの場所からではテラスが邪魔で窓の中の部屋が見えないからだ


だがここからならば見える、見えるといっても人間の視力では確実に窓の中を捉えるのは不可能に近いであろう

だがしかし彼はディスペアーキングというアンデット王の双璧の1人、魔物ランクA+の彼ならば山からその窓を見ることができ


狙撃も可能なのだ


『必死に藻掻いているが良いのデス、そうしている間の私は任務を遂行するのデス』


彼は懐から拳サイズのエイジ鉄を取り出すとそれを自身の正面に浮遊させて右人差し指で触る

そのまま撃ち出せば想像も出来ない破壊力を持った超狙撃弾と化すのだろうが彼は一瞬でも窓から姿を現すであろう国王をジッと動かずにそのまま待っていた


(一瞬でも移ればいいのダ、慌てなくてイイ・・・・その動きから向かい先を予測して撃てばオワリダ)


城攻めを企む教団兵そしてレリックは国王を王室に閉じ込めるために2方向から攻撃を仕掛けたのだ

一番ザントマ国王が安全だと思っている城の最上階にある王室、角度的にこの山からでしか窓から中を見ることは出来ない

これが失敗してもエンビシャは慌てる事は無い、次の策があるからである

彼は夕刻から数時間その態勢を維持し続けた、僅かにしろの周りに動きがあるがそれは教団兵がやり合っているのだろうと彼は思いながらも気にすることを止める


『我々が素直に正面から国を取ると思っているのか人族は、馬鹿デスよ本当に』
























『気づかれてないと思っているお前がこの魔族大戦で一番の馬鹿だな』


エンビシャはその声に驚きを見せなかった、だが気配を感じさせずにここまで近づいて来たことに関しては只者じゃないと感じ取るがただそれだけ、只者じゃない奴でも強いだけ

彼は強い奴ならば沢山倒して殺したという自信を持っている、声をかけても焦る様子も見せないアンデット王のエンビシャはまたつまらない強き者だと思って声のする隣の木の枝付近に振り返ろうとした


(王である私に強いだけの者なド見飽きたナ・・・)


彼はその者を見た、漆黒の鎧を着ている彼の腰には長い刀があり左手の手甲には細長い盾が装着されている

髪は黄色で肩甲骨付近まで伸びている彼は人間にしかみえずエンビシャは肩を落として腕を組んでいるその者に口から黒煙をだしながら言い放った


『馬鹿とはナニカ・・・それは無知デアル』


『そこらの道化より面白いな、もっと話せ』


『王にそのような口を言うとは度胸だけは褒めてやろう、ダガシカシ・・・お前も私の記憶には刻みこめれないダロウ』


エイジ鉄はまだ5つもストックがある、初めからザントマ国王には1発あれば十分と思っていたエンビシャは右人差し指の先に浮遊させたエイジ鉄をその男に向けた

馬鹿にするかのような小さな笑いを目の前の男に送るがその男はたいした反応も見せずに腕を組んでエンビシャを鼻で笑う

僅かにも同様も怯えも見せない彼を見たエンビシャは首を傾げた、王を前に無反応という彼の答えに苛立ちを覚える


威圧を彼に向けて鋭く放つと周りの木々はまるで突風に煽られたかのように大きく揺れ、近くの鳥立ちは一斉に飛び立つ


動物は反応を見せるのにこの男は見せない、王を前に無反応過ぎる

エンビシャは小物に嘗められていると思い込み、口からさらに黒煙を噴き出しながら彼に話したのだ


『アンデット王であるディスペアーキングに無反応とは罪深き強く弱い物ヨ、己が馬鹿だと言う事を恥じて死ぬが良い』


彼はそれを言い終わったと同時に電光石火の如く、右人差し指の先で浮遊していた拳サイスのエイジ鉄の塊をジャムフィンの狙撃弾の様に撃ち出した

大き過ぎる炸裂音を山一帯に聞こえるくらいまで響かせたその弾道は音速を超えた速度で邪魔をする男の顔面に飛んでいった


だがその弾が当たる瞬間、彼が消えたのだ

消えた事によってその弾は遠くの空へと夜雲に風穴を開けて消えていく


(どこに!?)


避けられたのかと思いながらも彼はキョロキョロと周りを見渡した、どこに言ったのだと

彼が探している男の声は数秒後、上から聞こえて来た


『王如きが神に戯れを所望するか、良いだろう・・・骨の髄まで遊んでやろう』















その男の名はゾロア・ス・ターク


パブロフ『私はマシな方なんですねぇ』


ルルカ『?』

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新作ですがこの小説を見てる人ならわかる部分が多い内容になってます 勇者ですが指名手配されたので逃亡ライフをはじめます
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