30話 戦争まで2日 魔族の想い
俺はタツタカとバハラで街の会議所に行く事にした
久しぶりに見る彼らは魔族であり褐色な体をしているがここにいる魔族は悪い奴じゃない
新しい生き方を見つけようと必死になっている者ばかりである
『銀狼のお兄ちゃんだぁー!』
『黒悪魔もいるぞー!!』
何故か魔族の子供たちがワイワイ集まってくるがこ全ての魔族がこんな感じならいいのにと内心叶わぬ願いを心に秘めた
『友人同士と聞いていたがまさかタツタカのテレポートでくるとはな』
バハラがそう口にするとタツタカは少し複雑な表情で答える
『今回様子を見に来たのもありますが大事な話もあるんです』
何となくタツタカが何を話したいかが俺もわかるような気がした
一応彼らにも伝えて置けなければいけない事がこれから起きるのだろうし知っておくことは大事なのかもしれない
バハラも複雑そうな顔を浮かべるタツタカを見て無言で頷く
彼もなんとなく察したのかな
街の様子は穏やかでありそこらで子供達が飛んでいるカブトムシを追いかけて遊んで……い…る?
『おいカブトムシ追いかけて大丈夫か?』
俺は冷や汗をダラダラと流して口にする
そのカブトムシはきっと虫神の一部だと俺は思い恐ろしくなったが摩天狼になってもあの恐怖心は消えないらしい
会いたくないと何度も心で叫ぶとバハラが笑いながら答えてくれたんだ
『大丈夫だジャムルフイン!神は寛大さ』
そうだと願おう
タツタカにも虫神に会ったことあるのか聞いてみたところ失禁しましたと笑顔で答えたが、そうだよな…怖いよなあれ
またエイミーに失禁王子とか言われてたろうなこいつ
ふと気になることがあって辺りをもう一度見渡すが警備の格好をした魔族が前より凛々しく感じたのだがバハラに聞いてみるとどうやらタツタカが新しい移住者を連れてきてから警備兵の質が工場労働者したらしい
『そういや話してたなタツタカ、魔将軍ギガンか』
『ですです!いがいと彼もここに馴染んでるんですよぉ』
ニヤニヤしているが四魔将最強と言われた奴らしく、ゾロアが相手にしていたので一気に決着はついたもののかなり強い男なのだと説明してくれた
あっては見たいが一先ずは会議所だな
辿り着くと夕方になる、この街で一番立派な建物だ
大きな部屋に大きなテーブル、俺とタツタカは適当な椅子に座るとテーブルに前屈みで伏せてテーブルの冷たさにのほほんとし始めた
『直ぐに他を呼ぶ、待っていてくれよ?』
笑顔で部屋を出るバハラを見送り俺は久しぶりな場所に懐かしさを感じだ
ここでも死にそうなことが沢山起きた、実際死んでも可笑しくなかったな
リヴィは来るし虫神はピカピカだしさ、本当にここは大変だったよ
そして良い関係を気づける魔族達と出会った、来た当初は暗い街だったが困ってる者は魔族でも関係ないと俺たちは目的と同時進行で彼らの未来を見せることが出来たが恨み合うことのない夢を俺も見てみたかったからかも知れない
『懐かしいですかジャフィンさん』
『まぁな、さて…リクセンはくるかな』
『来ないわけないじゃないですかー』
そんな事を話していると何かが数人建物に入ってきた気配を感じたので俺は部屋の入り口に顔を向けるとタツタカも同じ方向に顔を向けた
当然この会議室に入ってきたのは知っている顔ばかりである
リクセン街長、バハラ、メリル、アルク、リュゼル、サルヴァ
その者達は知っているが1人だけ特別強い気を放つ者が一番後ろから入ってきた
誰だろうと考えなくても奴が元魔将軍ギガンだとわかる
確かに強いなこいつ、俺がここで倒した魔将軍キャスバルの2倍以上も違う
『ジャムルフインさん!』
アレクが笑顔で俺の名を口にしたから軽く手を上げて反応を見せ
とリュゼルがそれを見て椅子に座りながら口を開いた
『ジャムルフインか、グスタフはいないのだな』
『すまないなリュゼル、今俺達多忙であいつは今来れないんだ』
『なるほど、だいたい予想はつくが先ずは来るときが来たわけだな?』
リュゼルは俺にそう告げるとリクセンに顔を向けたのだ
すると小さく頷いたリクセンが椅子から立ち上がると俺達に頭を下げてから顔を上げると口を開いたんだ
『またジャムルフインさんとタツタカ君が来るなんて驚いたよ、他の人は多忙ということでいいのかい?』
俺とタツタカは無言で頷く
最初は他愛もない近況報告会のようなもので互いに話し合うがどうやら最近農園を始めたらしくヘチマとかカボチャ栽培をしているんだとか、他にも色々あるけども季節に合わせて野菜や果物といった物にも挑戦していく予定だとリクセンが微笑んで口にするとメリルが口を開く
『警備兵関連はリュゼルとギガンがいれから全然問題ないわ、ビビリのアレクは今じゃ虫神様の貢ぎ物のお供え人役や街の郵便物の配送だね』
アレクか!あいつは運よく俺に殺されなかった魔族兵だが先ほどの職が板についたらしくせっせと働いているんだとか
しかも実家暮らしだし幸せそうだぞと俺達に教えてくれる
バハラは街の入り口の警備担当でありメリルは記録係だとか
色々と問題がなくなった彼らは今沢山の新しい事に挑戦し、新しい魔族の生き方に向けて頑張っているのである
俺も助けてよかったなと実感できる
『僕は問題ないですよ!ジャムルフィンさん!』
アレクが元気よく言うけども本当に問題なさそうだ
サルヴァもいるがこいつはニヴァの父親である、このインダストリアルに侵入した際にニヴァは特殊個体である阿修羅猪に襲われていて俺やグスタフそしてバニアルドで助けたんだ
彼からも話を聞いて見ると親子で川で漁をしているらしいけども漁と言うのだろうか、だがサルヴァはこのインダストリアルは川魚がかなり多いのでいつも大量だと言う
取り過ぎないように意識はしているけどもそれでもかなり取れるらしく物々交換でのこの街では魚は結構人気があるんだとサルヴァが力説するとリクセンもそれに乗じてくる
『川魚の天ぷらは酒にあうのだよ!』
酒好きなんだなリクセン、リクセンは街長さんで一番偉い人だが偉さがやっぱり感じられない
良い魔族という雰囲気は凄く伝わるしまぁいっか
それになんだか口を開く始める魔族達は本当に人間の街人と同じ笑顔を浮かべている、種族は関係ないと俺は全然思う
誰でも幸せになる権利はあるのだ、魔族でも絶対にだ
『みんな楽しそうでよかったよ』
話が止まると俺は微笑みながらそう告げた
この街に誰かが侵略してくるならば人間でも俺は許さないだろうな、ここは進みだした町であり邪魔はさせない
そうしているとそれまでずっと腕を組んで目を瞑っていたギガンという元魔将軍最強の男が目を開き俺に話しかけて来た
『お前の事はこの村の子供達から聞いているが銀狼のジャムルフィンか、お前も時代の高みにいる者なのだろう?』
曲がりなりにも彼は魔族では強い部類、きっとどんな魔物がここにこようとも彼がいれば容易く倒せるだろう
どんな流れでここに来たかは簡単にはタツタカに聞いていたけどもリクセン達に歓迎されている筈だし警戒する必要はない
俺に興味がある事はわかるけども時代の高みと言われてもなぁ、たしかにそう言われる時はあるけどもまだ強い奴は沢山いるしどう言えばいいかわからない
腕を組んだギガンは俺からの返事を待つかのようにジッとこちらを見つめていると代わりにタツタカが答えてくれたんだ
『十天の第6位の僕よりも強いですよ、ジャフィンさんの発する気でわからないと思いますがあなたが相手したゾロアさんでも今は相手にしたくはないって言わせるくらいです』
ギガンは目を見開いてタツタカから俺に直ぐ視線を移した、タツタカより強いと俺は思うのは難しいけどもそれは置いておこう
俺は首を傾げてしまうが彼はフッと軽く笑い背伸びをすると話し始める
『何故そこまで強くなれた?』
彼には大事な事なのだろうがそこまで期待されるような答えを俺は持っていない
『悪いがお前が求める言葉を俺は持っていない、十天第1位に狙われているから生きるために強くなったというしかないんだ』
『複雑・・・か、まぁいい・・・虫神に言われたが強さに内容が無いと本物に倒されると言われたが俺は薄っぺらだったという事だ、今悔やんでもどうしようもないが戻る気もない』
『何故だ?』
俺は質問し返した、魔族でも高い地位に上った者がその地位を取り戻すことを諦めてこの場にとどまる事を決めたのである
そっちの方が実に興味深いと俺は思う
誰もが一度静まるがギガンという男はなにやら苦笑いをし始めると予想外な言葉を口にしたんだ
『こっちの方が生きているという感覚が持てる、決められた道しか進まなかったから俺は負けたんだ・・・だがここには色々した事が無い事が沢山あるが流石に子供の相手は疲れる』
子供の相手は疲れると言う言葉でメリルは口を押えて笑い出す
それを目を細めたギガンが見つめていると彼女はごめんごめんと舌を出して誤魔化した
溜息を漏らすギガンは頭を掻いて視線を外すとテーブルを見つめて再び話したんだ
『子供の相手は疲れる、戦うよりもな』
それはわかる気がする、そうして俺はギガンという男は視野が狭い奴じゃない事に気付く
四魔将最強と言われるだけそれなりに視野が広いという事だ、彼はだからこそ下級でも幸せに暮らすこの街を見て何かを得たのかもしれない、嫌いじゃない
リクセンが口を開くが今はリュゼルの上司として警備兵長をしておりついでにリュゼルは警備兵長補佐という立ち位置に固まったと聞く
街の中の警備もそうだが俺が殺さなかったキャスバル達の部下を取り込んで街の近くまで来た魔物を退治して回ってくれているらしい
どうやら街の上に住んでいた魔族連中もここの暮らしに徐々に慣れてきたらしく、上よりも快適だと実感して来たんだとか
良い事だ
『楽しい話の所悪いのですが大事な話をしても良いですか?』
タツタカがそう言うと微笑ましい空気が少し真剣になる
誰もが彼に顔を向けるが口を開こうとはしない、どんな話をするのかは俺は薄々気づいている
これは彼なりの優しさであろう、タツタカはどんな結果が訪れてもここの魔族は決して裏切らないと言う近いでもある大事な話だと俺は思う
リクセンが頷くとタツタカは一呼吸をしたのち、話した
『ギガンさんはご存じでしょうがディロア王国にて魔族大戦が明後日起きます、僕達は国を守るため・・・・向かってくる魔族全てを亡ぼすつもりです』
誰も口を開こうとしない
どう思われるか俺も内心不安であったのだ、だって彼らと同じ種族を殺すとなると複雑だと思ったんだ
だがしかし俺とタツタカの想いは無駄と消える
アレクの一言でだ
『ジャムルフィンさん達は他国で同じ人間が戦争して死んだと聞いて悲しみますか?』
わかりやすい答えである、俺は初めてマザコンアレクに脱帽する
確かに俺達は他国が戦争しても悲しいと思った事は無い、傷付いたとも思う事は確実に無い
彼らも同じであり、魔族同士だからと言って仲間が殺されると思っていなかったのだ
他所は他所という言葉があるがまさしくこの場にその言葉は相応しい
考え過ぎだったのだ、想い過ぎて
『やっぱ優しいねあんたら』
メリルが微笑みながら口を開いた
すると腕を組んで話し続けたのである
『気を使ったのかい?全然平気さ、もし悲しいと思ってもここにいる魔族はあんたらを恨めないんだよ・・・特にジャムルフィン、私達を救ったあんたと仲間達に対してもさ・・・』
どうやら気にせず戦ってよさそうだ、俺も少し気になってたんだよな
魔族を相手にして戦った後にここの街の魔族とどう顔を合せようかとさ
まぁ彼らも人間と同じ思考だったことに嬉しく思う事にしようか
『俺は魔族大戦で沢山殺めてもここの街の魔族の印象はずっと変わらない、炭鉱夫の人間は海岸沿いには来るけどもそれ以外で人を入れない様に俺は努力をする』
『ジャムルフィン、助かるよ』
メリルが親指を立ててニヘラと笑う
問題ないという事でホッと胸を撫でおろす俺とタツタカだがリクセンだけは少し考え詰めた様な表情を俺に向けている
彼は他と違う意見なのかと内心焦りを覚えようとしたのだがそれは違ったのである
皆リクセンのそんな顔を気にし出すと彼はゆっくりと立ち上がり俺を見つめて話してきたんだ
『私も本土の魔族が死んでも痛くもなんともない・・・だがしかい私は本土からここに飛ばされた身である、私の不手際で家族と離れ離れになったしまったのだが私の息子はとても下級魔族と思えないくらい優秀な奴でな・・・きっとその魔族大戦にもいるだろう』
なんとなく彼の言いたい事はわかる
俺は何も言わずにただ彼の話を聞こうと黙っていたがどうやらリクセンは本土の魔物だったようだな
ちょっと問題を起こして姥捨て山の如くここに飛ばされたのだろう、家族を置いて
会いたいという気持ちはあるのかもしれないがそれは今の俺達の状況では難しい
何を言い出すのかと思っていたら彼は小走りに俺に近くまで近づいてきて土下座をしてきたのだ
魔族が土下座という光景も驚くが周りの者もそりゃ驚いている
馬鹿な俺に何かを期待しているのだろうが何を?
リクセンは土下座しながらその答えを口にした
『名はオーズー、オーズー・ライオットだ!彼だけはどうか!どうか殺さないで欲しい!私を恨んでいるかもしれないが父として最後に謝りたいのだ・・・どうか頼む、見つけれたでいい』
という事はリクセン・ライオットがここの領主のフルネームという事か
リクセンは深い事情があるようだが俺はそう言うの聞くの苦手なんだ、そこは運よく彼を見つけたら殺さずに誘拐する事を誓うと嬉しそうにしながら何度も何度も頭を下げて来た
ここまでされると俺は期待に応えないといけなくなるが難しい、100万という敵軍の中からその1人を探すというのは強さと別次元である
一度出会えばその気配は覚えるけども知らない状態で探すのはほぼ不可能、それをリクセンにもう一度伝えるが上級魔族よりも腕はいいから少し腕が立つ者がいれば名を聞いて見ると言いと言われた
『本当に自分が悪いと思っているのかリクセン』
バハラがなにやら真剣な顔を浮かべて彼に言い放つ
土下座から立ち上がるリクセンはバハラの言葉には『いいのだ』とだけ小さく口にして自らの席に戻る
ギガンは興味なしと言わんばかりに黙ってこの状況を見眺めているが多分彼はこういうの俺達と同じで苦手だと思う
黙る奴は大抵そうだと相場が決まってるからな
『オーズーか、特徴はなんかあるかリクセン?』
『息子は絵本が好きでな、幼い事私がプレゼントした変わった絵本をあげたのだがえらく気に入ってしまってなぁ・・・登場人物の男の様に言葉の語尾が五月蠅い癖がついたのだが話せば変わった奴だとわかる筈だ』
言葉の語尾がウザイ感じかぁ・・・どこかであったな?いや気のせいだ
でも出来る事はしようと彼に再度口にして誓う、見つけたらちゃんと捕縛するという事もな
アレクはその生き別れという内容が気になるらしくリクセンにどういった経由でここに来たのか聞き始めたんだ
ここの領主であるリクセンは誰よりもここに早い段階でいた数百年も生きた魔族であり一番歳もとっているがまだおじいちゃんではないと言い張る
リクセンが話し始めるのかと皆が静かになるとドアから別の魔族達がグラスに入ったオレンジジュースを人数分持ってきたので俺とタツタカは有難くそれを飲みながら聞くことにしたが全てを聞く事が出来なかった
『私がヘマをしただけさ、家族を支えていたつもりだった・・・妻と息子がいたがある日私は魔族の栄光ある旗を汚してしまってな、ただそれだけでここに飛ばされたんだ・・・わざとじゃないぞ?街の塔に立てた旗は夜になると降ろして倉庫にしまい、朝にはまたその旗を塔につけるのだが倉庫にしまう時にジュースを飲みながら閉まおうとしてうっかりこぼしてな、それだけでも上級魔族は相当怒ってなぁ』
へんなとこで厳しいしきたりか、まぁそういうとこもあるかもしれない
魔族の威厳である旗を汚したという罪は大きいらしく、最悪の島流しの刑になったんだってさ
いつも本を持ちながら元気に街を歩く子だと彼は微笑みながら話す、息子自慢だ
頭も良くて実戦の成績も優秀であり上級魔族に求められるのも時間の問題だと妻と微笑みながらスクスク育つ我が息子を見守っていた、だがしかしリクセンはうっかりしたミスだけでここに流されたんだ
彼が家を離れることになったのは息子の誕生日前だったと聞く
連れ去られる時には街の中を不敬を働いた者として縄で縛られた状態で引き摺り回されたと笑いながら言うけどもよく生きていたなこいつ
『数時間続いたよ、何をしたかは口外されていないがただ街を危うくすることをした者として今迄仲良くしていた者からも、友人に・・・そして息子にも今迄見たこともない顔で見られた、妻はただひたすら引きずられる私をずっと追いかけてくれたが心が痛かった、泣きながらずっとだ・・・ずっと』
最後の方で彼は泣きそうに話す、痛ましいと言うか何というかあえて何をしたのかは街の者に話してないのか
リクセンの話だけだと街を危ぶんだ不敬な魔族というレッテルで晒されてから飛んできたというように聞こえる
誰も彼がした真実は知らないのだろう
厳しすぎると思う裁きではあるがこうなっては仕方がない、あれから100年たつのだと言う
今じゃ息子も良い歳であり良い地位にいるだろうとリクセンは悲しさを脱ぎ払い微笑んだ
するとそれを聞いていたギガンがようやく口を開く
『旗は当時魔王の志が宿る宝だと称されていた、地面につけたりするだけで重い罰が課せられた奴も俺は知っているが確かに罪状の口外をしないのは可笑しいな、ただ単に面倒だからという事かもしれんがどこの所属の魔族兵にされたんだリクセン』
『・・・キャスバル』
『ああ・・・面倒くさくて省いたんだな、あいつの部下は仕事しないから』
同情してしまう、キャスバルは当時まだ本土にいたらしい
近くの街に拠点を置いていたとギガンが話すとリクセンは深い溜息を漏らして小さく言い放つ
『とことんあいつに運が無いのだな私は』
『勝手に罪をきせて晒し上げたりもあいつの部下はするくらいだ、まぁキャスバルをインダストリアルに飛ばしたのは俺だがな・・・舐め腐った職務怠慢の部下の責任を取らないと殺すと脅したら勝手にインダストリアルに飛んでいったぞ』
お前かギガン!!!お前が仕事したんだな!!だがキャスバルはギガンを恐れてリクセンのいるインダストリアルに逃亡気味に飛んでいったらしくリクセンにとっては本末転倒となる
可哀想だ、ギガンが仕事したのにな
その事実にリクセンは苦笑いを浮かべてから目の前に置かれたオレンジジュースを一気に飲み干す
オレンジジュースが酒だったらよかったなリクセン
だけどもキャスバルは俺が殺したし今じゃ彼が恨む相手はいない
残るは真実を息子に伝えるだけなのだろう、妻にも会いたいはずだ
『すまないが頼むジャムルフィン、恩人に2度目の頼み事だが』
『大丈夫だバハラ、そのかわりちゃんとメリルと仲良くしろよ?』
『!?』
慌てふためきながらメリルを見るバハラは面白い
メリルはニヤニヤしながら焦るバハラを見て楽しんでいる様だがこの女やり手の様だ
場も少しは和んだのだがタツタカがそろそろ戻りましょうと俺に告げると俺達は立ち上がり彼のテレポートで転移しようとする
すると最後にギガンが良い事を教えてくれたのだ
『俺がいた頃の作戦では魔王様の側近のしゃれこうべエンビシャと魔将軍グリードが国内に侵入して国内で暴れてディロア兵を分断する方針であった、あの面倒な南大門には道化パブロフと大魔将軍ガルドミラそしてタツタカが殺したプロトガ魔将軍の後継としてバジャルバという獣の様に毛深い魔族が魔将軍となり外から攻めるだろうが魔王様がどう動くかは誰も知らん。南大門を守るディロア兵を減らす理由での国内侵入でもあるがあわよくばザントマ国王を狙えたら狙うという話も出ている、今となってはきっと城を狙う方が良いと魔族もきめているやもしれん、エンビシャは魔物だがディスペアーキングというアンデット最強のランクA+の存在で道化パブロフはマミーキングと言い、こいつもアンデット最強だ、この2種の魔物はアンデットの双璧の王と言われているから油断するなよ?』
アンデット系魔物じゃその2人が双璧を成す強さという訳か、有難いので彼に頭を下げてお礼を言うとプイッと顔を逸らされたが素直じゃないのが可愛い
俺が相手した神はきっとしゃれこうべエンビシャ、アンデット最強かぁ・・・燃えるが俺はもう出会わない気がする
アウトしたら道化のパブロフだがその時は俺も銀狼の力をもって倒すだけだ
『助かりますギガンさん』
タツタカも笑顔で頭を下げるが不機嫌そうな顔を浮かべて再びそっぽを向くギガン
ニヤニヤしながらアレクがギガンを見ている、ここにきて日も浅いと言うのに随分とこいつ気に入られてるんだなと俺は気づいた
アレクがそういう反応を彼に見せれるということはそういう事である
一応は全てが終わったらまた顔を出すという事になり、その時には全員連れてくると約束した
だけどもバニアルド達はいないから少し残念だ
あいつは今盛っているから邪魔しないでおこう
皆で入口に歩き出すと先頭を歩くサルヴァがドアを開いて俺達を誘導してくれた
ギガンは未だに腕を組んで不機嫌そうにしているが外に出た途端彼、彼は子供たちの波に飲まれてどこかに連れていかれそうになる
『ギガンお兄ちゃんあーそぼっ!』
『魔将軍最強ギガンお兄ちゃん!あっちで鬼ごっこしよー!?』
『お兄ちゃん相手してよー!』
魔族の子供たちのそんな声と同時に両腕を掴まれて囲まれるギガン
困惑した様子を見せながら彼は必死の抵抗を口にしたのだ
『このっ!忌々しいガキ共め!!貴様を走り疲れさせて倒れるまで追いかけるから覚悟しろ!!』
『『『わーーーーい!』』』
ギガンは連れていかれた
大人気だなあいつ・・・どうすればそんなに子供に好かれるか今度聞いて見よう
タツタカが腹を抑えて笑っているがツボに入ったんだなコイツ、当分おさまりそうにない
『本当子供の扱い美味いわねギガン』
メリルが褒めている
『あいつ託児所とか作ってすればいいのに』
バハラも同じような評価を口にしている
だが絶対しないだろうなきっと、連れ去られるギガンの背中を俺達は見守るがリクセンは口元に笑みを浮かべて幸せそうに見届けていた
そうして俺とタツタカはジュゼルからプレゼントとして連絡魔石を貰ったんだ
この品はキャスバルが根城にしていた街の上の砦内にあったらしくもしもの時に使ってくれと俺とタツタカが通信できるようにと思って譲ってくれたらしいがとても有難い!
拳ほどのサイズの紫色の魔石だがこの2つはきっと役に立つと思う
彼に感謝を告げると腕を組んで鼻を高くしている
タツタカと俺に連絡魔石、この魔石は1つの魔石を2つに割ったものらしいから別の連絡魔石とは交信は出来ないぞと注意事項としてリュゼルに言われるがタツタカと連絡出来るだけで大きい
『助かるリュゼル、俺達はいくがまた仲間呼んでくるからな』
『今度はグスタフ連れて来てくれよな?いっちょ腕試ししないと』
それは・・・そのっ!止めといた方が!
言わないでおこう
タツタカのテレポートによって城内の客室前の廊下に戻ると壁に背を預けて座って休むゾロアがいた
どうやら彼のテレポートの帰る場所はここだと言われていたらしく、ゾロアは待っていたのだと知る
『来たか、んで報告してもらおうか銀狼』
ニヤリと笑みを浮かべた彼に俺は歩いて近付いてからハルバートを壁に立てかけると隣に座る
タツタカは何故か反対隣に座るがゾロアは気にせず腕を組んで俺の言葉を待っているけどもどう整理して話せばいいか迷ってしまうよ
時刻はいつだろうか、まだ見てないけども夜食の時間に近いと思う
不思議と静か過ぎる廊下だが客室にはちゃんと部屋で休むカールとミミリーの気を感じるし
ナッツの気も感じるけどあいつ今日何してたんだっけ?あいつだけ今日の行動予定を知らない
そんなことも考えながらも俺はタツタカと共に向かった教会本部の事と魔族の街での事を説明したのだが国内にいる信仰幹部№1の神という存在がしゃれこうべエンビシャの可能性が高くディスペアーキングという魔物だという事には変わったコメントをしてくれたんだ
『あいつは馬鹿だから心配ない、多分敵だとバレてないと思ってるし気にしなくてもいいぞ』
『馬鹿あのか?』
『力のディスペアーキングに知のマミーキングと思え、となるとエンビシャは力のみだが道化パブロフは非常に頭が良いから嫌な場面で出てくる可能性がある』
『俺が戦争で会うだろうけどもどんな奴なんだ?』
『マミーキングだが体の包帯を鞭のように飛ばして攻撃する、しかも柔らかそうな包帯が鋭利な刃となるから気をつけろ・・・射程距離は100mある』
よく知っているな、ゾロアは黒龍時の記憶もある為に一度同じ種族と戦った事があるのだろう
それはディスペアーキングのエンビシャも同じである言葉を口にする
『ディスペアーキングは不可解な技を使ったろう?想像しただけでその場に武器を出現させて攻撃する事が出来るし腕力も凄まじいぞ?』
『確かにいきなり錆びた剣が俺を囲みながら刺そうとしてきたな』
『遠距離攻撃もかなりの腕だが接近戦も同時にだ、耐久力もあるから銀狼でも摩天狼無しで戦うと苦戦するぞ』
『苦戦したぞ』
『ふっ・・・馬鹿者が』
笑いながらそう告げるゾロアに色々と他の話もしたがギガンが魔族側の作戦を教えてくれたというと少し不貞腐れた顔をしたんだ、どうやらギガンを倒して街に連れて言ってから魔族の手の内を聞こうとしたら教えてくれなかったんだとさ
意外とギガンは頭が切れる奴だとゾロアも評価しているらしく、自分を殺せないと勘づいて口を閉じたと不機嫌そうに話してきた
しかしギガンは話してくれたのでそのままゾロアにそれを伝えると彼は不敵な笑みを浮かべる
どうやら何かが固まったらしいけども飽く迄ギガンが言った言葉は帝国を襲った時までの方針であり、今それをそのままするとは思えない
ゾロアはそれでも土台は変わらないと自信を持って言い放つと続けて口にする
『銀狼は大門を守りながらひたすら暴れていろ、タツタカはエイミー救出後は銀狼のお手伝いにと思ったが変更だ、悪いが予定よりも早く遂行して城に戻れ』
『えっ?いいんですか?』
タツタカがゾロアの顔を覗いて疑問を口にする
彼のエイミー救出は国内の粛清とは関係なしに行われる作戦だが急遽ゾロアは死ぬ気で早く姫を救出してから城に戻れと強く言った、理由はどの時まで内緒だと意地悪を見せつけてくる
明日の朝食後は俺とナッツはタツタカの転移で直ぐに防衛都市ステンラルに向かうようになる
グスタフとルルカは城に待機らしい、早めに信仰都市ヴェルミストに向かえば気取られるから駄目だってゾロアが念押しで行ってくる
カレジリージョンは当然街にでていつでも動けるようにすると説明してくれた
なんだか緊張してきて体がキンキンする、この感覚分かるかな・・・死ぬ気は無いけど緊張はするさ
3人で座っているとグスタフとルルカが戻ってきて彼らもゾロアに今日起きた事を伝えていたが教団兵に襲われたが返り討ちにしたというとゾロアは苦笑いして2人に言い放った
『暴れ熊とじゃじゃ馬娘めが・・・だがその場で殺しておかなければ教団兵も敵と認知されたと知られていただろうし殺すしかなったのだろう、国内がパニックになるまで城から出るなよ?信仰都市ベルミスとは隣街であるが馬で移動すれば半日で着くだろうしその時にディロア騎馬隊3000を引き連れて先に行け、あとから残りの7千である歩兵騎士を向かわせるように国王に我が話をつけておこう』
『お前ぇ何者だよ』
『ゾロアだ』
何故か国の全権を握ってても可笑しくない発言の言葉にグスタフが突っ込む
国王に頼むと言うより無理やり動かせると言った言い回しだからな
彼ならきっと大丈夫だ、カレジリージョンの件は既に根回ししているから今は言う事は無いんだってさ
ルルカも床に座るとグスタフもその場に座り込む
何故かゾロアを囲むようにして皆で作戦会議に似た風景と化すが大事な話は終わっている
俺はゾロアが何をするのか聞いて見たんだけども城に居れば餌に釣られて馬鹿がかかるとニヤニヤしながら答えてくれた
『そいつを殺しとく、銀狼は寝る時間を惜しまず戦ってほしいが出来るか?お主たちが動く時間が多いほど大門は救われる』
『大丈夫だ、ナッツはわからんが』
何とも言えない様な顔を俺に見せてゾロアが言った
『・・・・・頼むぞ』