4話 南大門防衛戦
(銀超乱いけ)
肩の高さまで上げた右腕、手首だけを倒してそう心で呟いた
すると俺の頭上50m上空で遠くの魔族兵に牙を剥き出しにして威嚇していた銀狼100頭が次々と隕石の様に突っ込んでいった
音速とまではいかないがそれなりに速度はあるだろう
ビュンと音をならしながら敵陣に勇猛果敢に堕ちていく俺の銀狼は魔族兵の前衛の右から左へとなぞるように落ちていくと中規模な爆発が遠くで起きた、1頭の威力でも3m以内の者は大怪我するだろう
簡単に言うと戦闘不能状態に確実にできる
一番左から右に向かって次々と爆発が起きる様子を見ていると遠くで叫び声が聞こえてくる
当たり前だよ、いきなり攻撃来るんだしな・・・ビビったろうに
『なん・・・だこれ』
副将ファウストが驚いているが彼だけじゃなく全員があまりの光景に口を半開きにしている
勘が鋭い者が1人俺に視線を向けてきたがマイである、彼女も目が飛び出るんじゃないかと思うくらい開いてるけども俺は無表情で小さく頷く
マイは口元を手で押さえて周りをキョロキョロし始めると近くのお友達となにやらヒソヒソ話し始めてタツヤとリキヤも俺を持て異常な者を見る目で俺を見ている、傷つくわぁ
(そんな凄い技じゃないんだけども爆発属性の術ってレアだよな、だからか)
そういう事にしておこう
『誰だっ!?攻撃した者は!』
副将ファウストが馬上で狼狽えているかのように馬を動かして後方に体を向けて声を上げた
『いえ!誰も放った形跡はありません!』
『こちらもです!』
『不明です!唱えた形跡はまったく!』
周りの騎士達はファウストにそう答えているが有難い
無詠唱って伝説級だしその予測には至らないだろう、ならば・・
俺はハルバートを肩に担いだまま再び上空に銀狼を100頭出現させて直ぐに魔族兵の後方にそびえる投石機10台に向けて突っ込ませたが1台につき10頭だな
ぶち当たる寸前妙な事が起きた、最初の3頭当たりが障壁の様な壁に当たって手前で爆発したんだけども4頭目からはその壁を破壊して投石機を見事攻撃し、崩壊させたんだ
明らかに投石機に障壁を施していた、壊れては困るからだ
半分壊れたところで投石機が後ろに下がり始めるがもう遅い、俺の銀狼が敵だと認識すればしつこいぞ?
後方に下げようと投石機を下げても狼の速度には勝てない
無残にも残りの半分も障壁を破壊し本体を爆破させて使い物にしなくする
俺の地獄耳でも魔族側の声は細かくは聞こえないが阿鼻叫喚なのはわかる
こちらも同じだよ、陣形を崩さずに混乱しているけどもいきなり訪れた開戦に副将は直ぐに気持ちを切り替えると大声で皆に叫んだ
『なんだかわからんが!好機である!』
予想外にも動ける男の様だ、混乱に乗じて先に動く事は悪手じゃない
この様子で後手に回った方が完全な不利となる事を経験で知っているのだろうがどうやらこの副将場数はかなりのものだ
(流石大将軍の副将だ)
するとファウスト副将は剣を敵陣に向けて叫ぶ
『我に続け!敵は混乱している!開戦だ!』
馬をいち早く彼は走らせると彼の周りの騎馬隊が一斉に前に走り出した
それと同時のタイミングで前線の部隊が前に大声を上げて駆けだしたんだがとうとう始まった様だ
『ぬぉぉぉぉぉ!』
『凄いの見たぜぇ!』
『後ろ見ないで前見て走りなさい!』
タツタカのお友達の声が俺の耳まで聞こえる
俺は走り出す冒険者の波をジグザグに避けつつも前まで躍り出るとそのまま横にずれてタツタカの友達の近くまで行く、俺が来たことに3人は気づいて視線を向けるが会話を長々としている暇はない
これは戦争だ
『気にせず戦え、危なくなったら俺が助ける・・・敵の大将はできれば3人の誰かが倒してくれ、俺はまだ大きく目立ちたくはない』
『了解!』
『良い所くれよ?』
『りょーかい!』
笑顔でいい返事を見せると彼らは直ぐに真剣な顔に戻り前を向いて走り出した
担いだハルバートを体の前に移動させて両手で持ちながら走るが銀彗星はまだ使わない
先に出過ぎると目立つ
『『『うおぉぉぉぉぉぉ!』』』
先頭集団が大きな声を出しながら敵に向かうが魔族兵はまだ陣形を立て直せていない
しかもそのまま陣形を崩したままあちらの前衛が前に出てくるがそれは悪いやり方である
焦ってしまっていると思うが陣形は大事、死なない為に絶対崩してはいけない命綱だぞ?
距離は100m、俺はタツヤやリキヤそしてマイの直ぐ後ろを走って追従すると前に出て来た魔族兵に紛れてトロールが続々と走って来たんだ、俺は別に問題ないが他の兵士には面倒な相手だろう
魔物ランクBだしタフな魔物だ、大きな棍棒をもった灰色の大きな太っちょがドスドスと音をならして襲いかかる
(まぁ囲めば問題ないだろうな)
そう考えていると一陣の先頭であったファウストの部隊が敵とぶつかり合った、直ぐ他の部隊もぞくぞくと敵と接触していくが俺はタツタカの友達を意識しながら近づいてきた敵をひと振りで両断していくが魔族兵の鎧がなんのその!軽く斬れる
ハルバートに感心しながらも飛んで襲いかかる階級が高そうな魔族騎士二人を素早く連続で突き刺して地面に落とすと再び銀超乱を発動し、上空に展開された銀狼100を敵の中衛付近に落とし始める
『うわぁぁぁぁ!』
『さっきの狼だぁぁぁ!』
敵も大変そう、奥で爆発が起きるが俺は隣で敵のトロールに頭を殴られそうな兵士のためにトロールの首をハルバートで撥ね飛ばして助けると兵士を起こして声をかける
『大丈夫か?』
『あぁ!助かった』
『不安ならさがってていいぞ?』
『足を刺されてな…』
よくみると剣でふくらはぎあたりを刺されていたが戦えないだろう、下がれと言うと兵士は片足でぴょんぴょん飛びながら後ろには去っていった
んで俺の周りの敵をハルバートを振り回して一掃してからタツタカの友人を見るがまともに戦えている
『おらぁ!』
『ぐへっ!』
タツヤが敵の剣を弾き飛ばすと素早く体を回転させてから腹部に剣を刺し、胸部を蹴って剣を抜くと横から襲いかかる魔族兵を斬られる前に斬りつけて倒していた
スムーズで基本はなかなかだがそれほど鍛練したのだろう
リキヤは敵の剣を避けると腕を掴んで一本背負いしてから首に剣を刺して次の相手を探すために周りを見渡す
『スピードアップ!』
マイはマーギアーだ、タツヤとリキヤに速度向上の術をかけると少し後ろに下がった
『サンキュー!』
『助かる!』
『頑張りなさいよお二人さん』
『『おう!』』
いい仲間同士だ、この中にタツタカもいたんだな
早く会わせてやりたいがまだ我慢だ、俺じゃないけどさ
奥を見ても弓兵はいなさそうである、だが大将らしき陣が更に奥に見えるし気配も大きい
超感知に意識を集中したのだが敵の援軍が来る様子はまだない
それよりも奥の魔族兵の中に2つ強めの気を感じる、俺はまだなんとかいけるけどもタツタカの友達には少し荷が重いだろう
その時は俺がやるしかないか
周りにいる騎士達も必死にこの乱戦の中で敵を倒したりしているがやられてしまう者などもそれなりにいる
『くそっ!忙しすぎる!』
『慌てるな!英雄殿の近くで戦え!』
騎士達からそんな声が上がる、それが正解だが彼らの近くにいない兵士や騎士は目の前の事で精一杯
必死に敵と対峙している様子を見て俺は彼らに口を開く
『お前ら前は俺がやるからこぼれた敵を倒せ!』
そう言いながら正面から来る敵をバッタバッタと斬り倒して行く
騎士達にも少し余裕が生まれたのであろう俺の後方について正面を俺に預け左右に意識を向け始める
慣れてない場合は全方向を見るというのは不可能に近く、そんなことすれば全てが中途半端になる
『助かります冒険者殿』
『余裕がない者はこの者の後ろで戦え!』
いいぞ、これで俺は左右を心配しなくて済む
それにしても強めの魔族がまだ現れないな、そろそろ前に出て来ても良い頃あいかなと予想を立てているのだが一向に現れん
『この化け物がぁぁぁぁぁ!』
魔族兵が数人俺に剣を向けて襲い掛かる、4人同時にか
だけどもハルバートは斬ることも出来る、槍の側頭部に着いた斧刃を使い体を回転させて一気に4人を斬って戦闘不能にすると目の前から汚いトロールの顔面にハルバートを突き刺し、銀超乱を直ぐに上空に展開して奥の敵に突っ込ませる
それだけで魔族兵は混乱する、過剰な反応ともいえるがそれほどまでに俺の銀超乱がおっかないんだ
手の打ちどころがないからな
奥で銀超乱によって中規模の爆発が次々と起こると俺の正面付近にいる魔族兵達もチラっと後方を見て息を飲み始めた
『なんなんだ・・・こりゃ』
『人族側に化け物がいるぞ!気をつけろ!』
俺からすれば化け物の定義がお前らにもヒットするんだけどもなぁ
そのまま周りの騎士達の様子を見て転倒したいる者を起こしたり正面の魔族兵に向かって狼撃破を5発ほど撃って吹き飛ばしたりしているとタツタカの友人たちに近付く大きな気配を感じた
視線を彼らに移すと目の前の敵と奮戦しておりまだ気づいていない、周りで彼らを守るようにして戦う騎士達もである
『タツヤ達!強めの奴がお前らに近付いてるから気をつけろ!』
大声で彼らに言うとタツヤは魔族兵を斬りつけながらも返事をしてくれたんだ
『了解したぜ!』
俺は今自然と最前線で戦っている、その横30m先に彼らはラインをしいて戦っていた
反対の横ではファウスト副将が馬上から勇敢さを見せつけ剣で魔族兵を薙ぎ倒しているが強いなこの人、流石だ
『さて・・・と』
少し俺の周りが落ち着いたので走ってくる魔族兵の大群に向かって威圧を放ちながらハルバートを肩に担いだ、威圧によって俺の体から風が正面にビュンと吹き出し魔族兵を通過していく
するとどうだろうか、魔族は急に立ち止まり体をブルブルと震えさせて両膝をついて固まり始めた
これだけでもかなり有効なもんなんだなと思いながらも俺は一歩までに出る
腰が引けて思うように動けない彼らは尻もちをついて後ろに下がり始めた
『ばばばばばば・・ばけものぉぉぉぉぉぉ!!!』
俺を見て叫び出す魔族さんだが心外である
普通の人間だ
『英雄騎士よりも質が悪いのがいるぞ!』
『全員で取り囲んで殺せ!』
人族とは違い直ぐに気持ちを切り替えた魔族兵たちは立ち上がると興奮した面持ちで俺を取り囲もうと迫ってくるが俺の後方で敵を待ち受ける騎士達がそんなことさせない
彼らは俺を中心に左右に広がるとそうさせまいと剣を前に出して果敢に攻め始めた
(それでいい、俺を軸に動けば死なない)
魔族兵の考えも虚しく騎士達に阻まれ取り囲むことは出来ずに悔しそうな顔をしながら後ろに引き始めた
俺の前には敵はいない・・・20m先まで下がったんだが怯え過ぎじゃないだろうか
『ここにいれば死ぬことは無さそうだ』
騎士の一人が俺の近くでそう口にするので俺は彼に向かって言ったんだ
『生き残りたいなら離れるな』
『聡明な冒険者とお見受けしますが感謝します、了解です!』
彼は律儀にも俺に頭を下げてから俺を中心に布陣を作り始めた、ここはもう大丈夫
てか敵が襲ってこようとしない
攻めても押せないとわかっらからだな・・・つまらん
(タツヤ達は?)
強めの気配がぶつかりそうな寸前で彼らに顔を向けるとタイミングよくタツタカの友人たちは体が少し大きめの魔族と睨み合いをしていたんだ
上半身裸であるが下半身は軽装備の魔族、筋肉量が素晴らしいが大剣使いか
互いに武器を向けて睨み合いをしている様子ではあるが先に口を開いたのは魔族
『俺は副将ザメル、お前らを殺せばこの戦の勝ちは決まる!先ほどのでたらめな技をもう撃たせはせん!』
そう言いながらタツヤ達を睨みつけたザメルという魔族は取り巻きを10名ほど連れて彼らに襲い掛かった
『その考えは甘いぜ!俺達はまだ死ねねぇんだよ!リキヤいくぞ!』
『おう!!!』
2人が襲い掛かるザメルに走り出すと護衛の騎士達も敵の取り巻きめがけ走り出す
マイは少し距離を保ちつつ友人2人にガードアップを放ち耐久力の底上げをしている
ザメルか・・・でもあいつが大将という訳では無さそうだ
一瞬だけ周りを見たが俺の場所も安定しておりファウスト副将の場所も問題なく敵と戦っている
更に横奥で冒険者の塊が魔族と戦っているが僅かに押してきているから心配いらないな
1箇所騎士だけの部隊がおり少し劣勢気味だとわかると俺は後ろの騎士達に直ぐに指示を入れた
『3つ右奥が押され始めているから後続待機から500連れて増援に向かうように言え!交代させるんだ!疲弊が見えている』
『わかりました!!!』
すぐに返事をした騎士が後ろにさがって後続を呼びに行った
それにしても俺の正面に敵が来ない、少し前に出ると距離を置いている魔族が嫌そうな顔で後ろに下がる
それでいいのか?まぁ出過ぎて面倒なことを起こしたくはない
あっちは来てほしくないと思ってるならこっちは利用させてもらうよ、後ろの騎士達を休ませたいしね
『どういたしますか冒険者殿?』
『いかがいたしますか?』
後ろの騎士達からそんな声を耳に入れる
言える事は1つしかない
『敵が来ないなら来るまでこの状態をキープ、防衛側だから無暗に出ない事!周りをみてどこに増援が必要か判断してくれ・・』
騎士達は元気よく返事をする、余裕が生まれてくるのは良い事
不思議と俺の後ろには500くらいの騎士が待機しているが何かあった時に俺が指示する事になるだろう、ここに居れば比較的他よりも落ち着いて戦えると理解してくれた様だ
んでタツヤにリキヤそしてマイだが敵の強敵であるザメルと戦っている
『おらぁ!』
タツヤが剣で斬りかかろうと一気に駆け出すが意外と早い
そこらの魔族兵なら反応は無理だろうが相手はその中でも選りすぐりの強者だ
敵の魔族は一瞬鼻で笑うとクワッと目を見開いて叫ぶ
『甘い!!』
大剣を思い切り振ってタツヤの剣にぶつけると彼ごと後方に吹き飛ばす
力勝負は悲しくも魔族の方が圧倒的に上、かなり強い
するとザメルという魔族は横から直ぐに襲い掛かったリキヤの腹部を蹴って地面に転がし、直ぐに奥にいるマイに顔を向けて口を開いた
『お前を倒せばこの戦も安定するだろう!珍妙な術を使いおってからに』
マイは少し困惑を浮かべる、騎士達は彼女を守るように囲みながらザメルに剣を向けている
魔族の者以外は何の事だと少し首を傾げているがザメルが言う珍妙は技は・・・俺だよ!
まぁでも勘違いしてくれているんだし有難いか
『わ・・私?』
マイが小さく囁いている、すまんな
対するザメルは彼女を人睨みすると魔力を込め始めて術を唱えた
『ヘルファイア!』
彼が上げた左手から赤黒い光線が放たれるとマイ達の前で交戦している人間と魔族の間を通り抜けて彼女に襲い掛かる
だがしかし容易くやられるタツタカの友達じゃない、それなりに場数は最低限こなしている筈
マイは驚いた声を上げながら横に回避して難を逃れるとカウンターだと言わんばかりにアクアレーザーを放つがザメルはそれをいとも容易く体を横にずらして回避する
軽く笑みを浮かべるザメルだが余裕がある、まだ彼らには討伐は早いのか?
吹き飛ばされていたタツヤが横から剣を振って真空斬を放ちリキヤが真正面から剣を構えて走り出した
『同時攻撃で勝てるとでも?』
ザメルがあざ笑うかのように口にするとリキヤは走りながら言い放った
『思ってねーよ!』
その言葉が終わると同時にザメルは横から迫る真空斬を大剣で払い消してから目の前まで迫るリキヤの剣の突きをなんと掴んで止めた
流石にリキヤはそれには驚きザメルの顔に目を向けた、魔族であるザメルは笑っている
何を思って笑みを浮かべているのかがわからないが剣を引こうとするリキヤに向かって大剣を振り上げる
一巻の終わりかと思われた状況だがそんなリキヤの肩のスレスレでマイのヘルファイアが飛び出してきた
『くっ!!』
ザメルは直ぐに剣を離して後ろに跳躍してマイの術を回避するがその先にタツヤが待ち構えていた
『らっしゃい!』
『貴様しつこい奴め!』
跳躍して満足できる移動は空中ではできない、できるのは着地のみ
タツヤは体に闘気を込め始めるとそれを察したザメルが舌打ちをしつつも空中で体を器用に回転させて後方にいるタツヤに体を向けて大剣を振り上げた
単純な勝負ならばザメルの方が圧倒的に上だがあいつに勝てる見込みは十分にあると俺は睨んでいる
そうしていると勇猛果敢に俺に襲い掛かる魔族兵が来るがそいつらを突きで刺して倒しながらも彼らを見守る
んでザメルが負ける要素となるとハッキリしたことは1つだけある
警戒心が無く傲慢な性格だ、小規模な戦争でも多少億劫にならなければならない
予想外な事がいつ起きても良いのが戦争、大半がそれによって死ぬ
『アクアレーザー!』
マイは騎士達に守られながらもザメルが振り上げた大剣に向かって術を飛ばした
ザメルは意識をリキヤに向けていたので魔力の接近に気付くのが遅れ、横目で後方を見た瞬間に大剣を弾かれてしまうが話すことは無かった、だがこれによってザメルは後手となる
攻撃しようと大剣を振り上げたのにマイのアクアレーザーによってその態勢が崩された
その光景を見逃すリキヤではない
『2人相手はどうだ!!!』
『なっ!?しまった!』
ザメルは着地した瞬間、リキヤの声でタツヤという男に視線を向けた
真横で鬼の様な顔を浮かべて剣を振り下ろし始めていたのだ、回避が間に合わないだろう
悔しそうな顔を浮かべるザメルだがそれは過剰な自信が招いた結果であり強さは本物だがもっと慎重に戦っていれば負けることは無かった筈だ
焦りを初めて顔に出すザメルは弾かれた大剣を手元に引き寄せてタツヤを迎撃しようとするがその前にタツヤが口を開いた
『唐竹割ぃぃぃぃぃぃ!』
勢いよく彼はザメルの正面を深く斬りつけた、魔族も赤い血が流れておりその鮮血が飛び散る
その後直ぐにタツヤはザメルの腹部を蹴ってその場から離れるがザメルはまだ生きていた
ヨロヨロと足をおぼつかせながらも体の正面につけられた傷を左手で押さえつけて肩で息をし始める
そしてリキヤが真空斬を放つと避ける事も出来ないまま胸部に命中して再び血を流した
『馬鹿な・・・卵風情が私を・・・』
舐めてかかるからそうなる、最初から真剣に戦えばそうならない強さがあったろ?
マイはタツヤとリキヤに近付くとヒールをかけて軽い怪我を直ぐに治し膝をつくザメルに視線を向ける
周りの魔族兵も徐々に押され始めており気付けばタツタカの友達の近くの戦場は魔族兵が1人もいない孤立状態、ほんのわずかな時間でザメルは救援を呼べない場所になったと悟り渇いた笑みを浮かべ始める
彼の側近も人間の騎士達が仕留めたのだ、2人がかりじゃないと倒せない程の強さの側近であったが数で押せば倒せる
動かない側近に目を向けたザメルはそのまま視線をタツヤ達に移すと口を開いたのだ
『油断大敵とはこの事か、次の人生で活かそう』
ザメルは一息つくとそのまま前のめりにドサリと倒れ、大剣を手から離した
強敵を倒して小さくガッツポーズをするタツヤとリキヤを見ながら俺は目の前にいる魔族兵をドンドン薙ぎ倒していくが前には進まない、防衛戦なら押し込まない方が良い
相手を撤退させる勢いで行くならば押し出した方が良いんだけどもこの戦場でのあちら側の強者が最初に倒された以上迂闊に前に出てこないと思う、まぁ奥に控えている大将らしき気配が前に出なければだけどもさ
俺の役目は大半終わっている、タツタカの友人に伝言は伝えたからな、あとは彼らが死なない様にこの戦場見張るのみ
俺はいつもの癖で近くにいる騎士達に勝手な指示を出してしまう
『英雄たちが魔物側の強敵を倒したぞ?味方全員に知らせろ、士気にかかわるからな』
『わかりました!』
騎士は嬉しそうにしながらも後ろに少し下がり大声で英雄たちが魔族側の副将1人を撃破したという一報を叫んで周りに知らせる、それを聞いた騎士や兵は少し顔に希望を持ち始めると同時に魔族兵たちは苦しそうな顔を浮かべて徐々に後ろに下がり始める
劣勢だと馬鹿でもわかる状態だし下がる他ない
俺は騎士を後ろに配置して下がっていく魔族兵に顔を向けるが周りの魔族達も一気に下がり始めたんだ
すると魔族軍の中央が割れ始め、そこからトロールがワラワラと現れたんだが多いな!
魔族と気配が重なり合っててわからなかったがまだいたんだな
『トロール突っ込んできます!』
『弓兵でなるべく減らせ!!!』
騎士達がそういうと後方から一斉に弓が雨の様に魔族側に降り注ぐが狙いは飽く迄トロールである
鈍足ではあるが力は本物だ、ドスドスと草原地帯を肥満である体を揺らし棍棒を振り回して走ってくる団体に向かって弓が命中する
だがしかしそれだけでも有効打にはならない、意外とトロールはしぶといのである
大量の矢を体中に受けて膝をついても直ぐに起き上がり不気味な叫び声を上げながら突っ込んでくるがタツヤやリキヤそしてマイは武器を構えて待ち構えた
全員が衝突に備えて姿勢を低くするがトロールの数は千近く、俺達の布陣の中心を突破して道をこじ開けるために特攻させたのだろう
(布陣崩しに特攻か、悪くはないが選んだ魔物が悪い)
鈍足だ、人間が走るよりも遅い
待っているつもりは無いので再び上空高くに銀超乱で銀狼を100頭出現させる
こればかりかと言われても目立つのを避けるにはこれしかないんだ、狼撃破とかはハルバートを使わないと使えないし下手な動きを見せたくはない
バレずに勝たないと
『また上空に狼だぞ!』
『いったい誰なんだ!』
犯人捜ししても無駄である、無詠唱というか溜め無しで技を構築したんだからな
迫りくるトロールは陣形など気にせずまばらに迫りくるのは面倒だが中心付近に向かって銀と湯欄を次々落としていくと爆散したり吹き飛んだりと結構な大打撃となる、それでも千近くの数だから削り切るのは無理
せいぜい120体と言った感じかな…少ない
吹き飛んだトロールを入れればもっといくけども戦闘不能まではいっていない
『グロロロ』
不気味な声を出しながら吹き飛んだトロールは立ち上がり再びこちらに走ってくる
魔族兵は来る気配はなくトロールの様子を見ている様だが先ほどの銀超乱でさらに後ろに後退していくが怯え過ぎである
『皆の者、ただのトロールだが首を墜とせ!生命力はしぶといから気をつけろ!』
ファウスト副将がそう皆に叫ぶと我先に前に馬を走らせた
ここまで良い感じだけども敵の数は減っている様には思えない、3万近くいるもんな
俺の銀超乱でいくらか減らしてもそれは焼け石に水、もう少し威力を増して放てば楽だろうが節約したい
節約したいとはいっても尽きる事はまずないであろう俺の狼気、良い方を変えるか・・・バレたくない
するとファウスト副将に続いてタツヤ達も前に走り始めたので俺は後ろの騎士達にこの場を固めて待機を伝えると直ぐに彼らの隣に追いついた
『あんたすげぇよ、空の狼全部あんただろ?』
トロールに走り出しながらも隣にいるリキヤが口にしたので軽く答える事にするか
『俺だがバラすなよ?約束を守ればお前らは死なない、ここにお前らを殺そうと企む奴がいたとしても俺が見張るから安心して前だけ見てろ』
『なら遠慮なく正面に集中するぜ!』
彼は元気よく答えると顔を前に向けた、俺も正面に顔を向けるがトロール迄距離残り50m
数秒で激突だがここで狼系の技を使えばバレるか・・・なぜバレたら駄目なのかゾロアに聞いていなかったけどもあとで聞いて見るか
んでトロールが目の前まで迫る
ファウストの部隊1000に加え英雄騎士であるタツタカの友人部隊は300と混ざっている俺
気になるのは敵の弓兵の射程圏内なのではという不安があるのだが大丈夫だろうか
後退した魔族兵との距離は約500mほどもあるが弓を使われればいい的である
(一応警戒しとくか)
俺はタツヤとリキヤそしてマイ達と共に遅いかかるトロールの群れに突っ込んでいった
『おらぁ!』
『太っちょ野郎が!』
『ヘルファイア!』
タツヤとリキヤが一撃で攻撃をする前のトロールの首を跳ね飛ばすとマイが後ろからトロール1体の顔面に術を放ち燃やし尽くした
再び乱戦に近い状態になるけども相手は知能が乏しいトロール、俺は奥の魔族兵に意識を向けながらもトロールの首や動体をハルバートを振り抜いて斬り飛ばす
少し敵側の方で魔力が集まっている気配を感じたがそれは俺だけじゃない、他の者も気づいたらしくその者達は口々に声を上げる
『術が来るわよ!一旦防御に徹して!』
『何か来るぞ!備えよ!』
マイと副将ザメルである、副将の大きな声で騎士達は交戦していたトロールと距離を取るために一度下がり始めるとタツヤ達も1体倒してから後ろに下がったんだ
魔族軍の後方が赤く発光しているけども何か来る、そう思いながら俺はただ1人下がらずに周りにトロールを切り倒しているとあっち側から大量の弓と同時に火球が沢山飛んできたんだ
(ファイアバレットか?しかも放物線を描くようにして撃つとは手練れがかなりいる様だ)
普通直線状に放つ術だけどもこうして俺の目の前には山なりに飛んでくるファイアバレットが見えている
それなりに玄人が揃っているという事だ、面倒だな
後ろに引き始めるけどもギリギリ射程圏内であるため最前線の者達はその降りしきる弓とファイアバレットに当たるだろう、だがタツタカの友人は守る為に俺は彼らの近くに寄ると落ちてくる弓矢や術をハルバートで頑張って素早く動かして弾く
物凄い数だけども何とかなりそうだ、振り向いたリキヤは驚きに口を半開きにしているがさっさと下がって欲しい
数秒でその雨は止むがファウストの部隊の前線はそれなりに被害が大きい、副将は無事だが馬がやられたらしく彼の近くで倒れて動かない
残念そうな顔で馬を撫でるファウストは小さく囁いた
『今まで共に戦った事感謝する!』
そう言うと彼は遠くの魔族を睨み始めた
トロールは既に10体ほどしか生きておらず先ほどの攻撃でやられたんだな、多分引き寄せてから倒す作戦だったらしいけどもこちらの主要人物は誰も死んでいないから失敗だぞ
んで魔族兵がまた一斉に雪崩の如く遠くから走って来たのだが今度はかなりの数で攻めて来た
押して引いて押して引いての繰り返しをする気か?押し寄せる魔族の波を見て俺達の後方の兵士達は武器を力強く構え迎え撃つ状態を作る
副将ファウストは馬を失ってもなお敵を迎え撃たんと味方を鼓舞し陣形を固めろと大声叫んだ
タツヤ達は深呼吸しながらもこちらに目を向けるが小規模にしては規模がデカい
魔族側の兵力は十分に有り余っている様だし消耗戦を仕掛けてくるのだろう
ならばこっちは沢山撃つしかない
銀超乱で上空から銀狼100体を襲い掛かる魔族兵の前線めがけて一気に放つと爆風を巻き起こしてその周りの魔族達は歩みを止めて恐れを顔に浮かべ始める
かなり俺の技にビビッている様だからすかさずもう一発銀超乱を直ぐに構築して250m付近まで迫る魔族の前線に向かってどんどん打っていくと彼らはその技に恐怖を覚えたらしく叫びながら後ろに下がり始めたんだ
『匿名希望の誰かか・・・致し方ないが感謝だけはしておこう』
ファウストが言うけどもその考えに至ってくれて俺は内心ホッとしている
彼は続けて叫び、皆に指示を出した
『迂闊に前に出るな!敵は先ほどの狼の攻撃で警戒心を高く持っている!消耗戦といえども兵糧はこちら側が圧倒的に有利、あちらは日をまたぐことも苦しいだろう!ならば決着は今日である』
同感だ、あんなに俺の技に覚えてるんだから下手に攻める事も出来ない筈
魔族の領土から攻めて来たと言っても近くに彼らの町などはない、補給という備蓄を備えてここまで来たのだろうけども期限付きの消耗戦は今潰えたと言っても過言じゃない
岩場が多い山に視線を向けるけどあそこを登る事もまずない、こっちの味方がそれなりに山の上で待機しているし登ろうとしても絶壁、落とされるだけである
完全な要塞と化しているこの南大門を抜けるには絶対的な兵力でぶつかるほかない、今日それをしないという事は別の意味
きっとタツタカの友達を仕留めようという企みだと俺は気づいているが無理だったな
敵の大将らしき気配は少し前に出てきている様だがまだ姿は見えない
『冒険者様、どういたしましょう』
後ろを振り向くとさっきまで俺の後ろで戦っていた騎士達がそう口にしているがお前ら俺に勝手につくことにしたな?まぁそれが一番いいと思うけども俺は冒険者だぞ?いいのか・・・
だがまるで指示を待つかのような面持ちに深い溜息を漏らしたのち
言い放った
『また来たら正面は俺がやる、こぼれた敵を皆で迎撃してくれ・・・それと水をくれ』
俺は近くの騎士から水筒を借りて水を飲んだ
美味しい