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【完結済】槍の新兵は夢を見ない  作者: 牛乳太子
13章 番外編 それぞれの生活
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4話 悪魔大将軍 戦争

戦争の支度に数日かけた帝国軍は東の守りを固め始めた、オルトマ第3将校とレオナルドの率いる兵合計9万

レパルドル国境沿いの15メートルはある防壁の前で布陣し、上から国境の奥に注意を向ける

防壁を登れば幅もそれなりにあり、10メートルほどの厚さを感じさせるほどの頑丈な守りの壁の上からオルトマとレオナルドはレパルドル領土である大平原を見て話し合っていた


『お母さんの誕生日近いのにあちら側は空気読まんねぇ』


不貞腐れた表情をする女性将校のオルトマは体格に似合わず大斧を肩に担いでそう呟いた


今朝の魔石連絡にて北からの奇襲に警戒せよとの報告が上がるがそちらは彼女の妹でもあるクリス副将に指揮を任せて2万の兵で大森林の警戒を指示していた


オルトマとレオナルドがいる理由はこの場に援軍が到着するまで必ず死守することとエステリーゼ皇帝の指示が届いたのだがその内容の後半に二人は首を傾げるような言葉を聞いていた


援軍が到着後、北の奇襲に備えよ


二人には意味がわからなかったが深く追及しようとしてもメルビュニアからの援軍が来るまでその場を守り、到着後に一万の兵を置いて北に向かえという指示しか聞いておらず、その事に疑問をあらわにしたのである


『そうは言ってもねぇ』


オルトマが後ろを振り向いて防壁の上から時軍領土側の防壁の裏側に視線を向けたがそこには隊列を組んだ約9万の兵がズラリと並んでおり、いつでも動けるように待機していた

剣兵が大半だが先頭は重騎士の盾持ちが敵との衝突用に静かに命令を待っている


弓兵は後方で待機しており、数は少ないが時が来れば裏側からの階段を登って迎撃の準備をするのだが


『弓兵も防壁の上に既に待機させたいでしょうが命令ですから』


レオナルドの言葉にオルトマは苦笑いした

本当に弓兵だけでも彼らのいる場所で待機してほしいのに皇帝は無用だと言うのだからますますわからない

逆に彼らは援軍という存在がどういったものなのかも気になり始めていた


『おや?』


オルトマがレパルドル領土に向き直す

目を細めながら遠くを見るようにして数歩歩き出すと遠くから黒い塊が敵国領土全体から押し寄せてくるのを捉えた

数は未知数だがざっと見積もって約15万、とうとう始まるのかと思うと焦りを覚えたのだ


『チッ…援軍が来ないじゃないか!』


怒りをぶつけるかのようにレオナルドに顔を向けて話すが彼は両手を前に広げて焦りながら答える


『落ち着きましょう、来るまで死守しかありません』


『ったく……エステリーゼちゃん頼むよ本当』


本人の前では言えない呼び名を口に出してから兵を動かそうと再び防壁の裏側で待機している大勢の兵士達に指示をしようと懐から拡声術を施した魔石を取り出して口を開こうとした時


変化があった


『オルトマ殿』


レオナルドが階段を登る伝令に気付いて彼女に声をかけた

オルトマも伝令兵だと気付き、一先ず聞いてから自分の兵士に号令をかけようとして口元に近付けた拡声魔石を下に降ろした


『オルトマ様!クズリ様からの伝令です!』


急いだ様子で伝令はオルトマの前に来てから片膝でしゃがむとやや大きな声でそう告げた

ようやく援軍かと思いながら小さく頷くと伝令は一息ついてから口を開いたのだ


『メルビュニアからの援軍2名!たった今フーバーに到着!1人はクズリ様と共にフーバーから北東の大森林に向けて進軍を開始し…残りの1人は直ぐにここに辿り着くとのことでオルトマ様は持ち場を離れてクリス副将のもとに向かえと』


オルトマとレオナルドはますます意味がわからなくで変な声をだしてしまう


『はぁ!?フーバーからここまで1週間かかるんだよ!?』


『聞き間違い出はないのか!?しかも2人だけだと!?』


彼らからしたらあまりにも不可能な言葉を並べた指示に声を荒らげたが肝心の伝令は狼狽えながらも再度口を開いたのだ


『クズリ様の言葉に間違いは伝えておりません、私も最初は連絡魔石からの指示に意味がわからず首を傾げましたがその2名で十分だと…』


メルビュニアからの援軍が2名

ふざけているとオルトマは溜め息を漏らしながら額を抑えたが苛立ちを抑えながらレオナルドに口を開いたのだ


『わけわかんないねぇ、レオナルド…肝心の援軍1名はフーバーから瞬間移動でもすんのかね?』


額を抑えた手をどけてレオナルドに視線を向けると彼は目を見開いてオルトマの背後を見つめていた


『…だ…誰だ』


レオナルドの尋常じゃない動揺にオルトマは担いだ大斧を握り右手に力を入れながら素早く振り向いた

彼女はその瞬間、あり得ないという言葉で脳が埋め尽くされた

自分よりやや低めの人物、男だろう

黒い仮面をかぶり、黒いローブを羽織った者がそこに立っていたのである


伝令も流石に驚き数歩後ろに身を引くと黒い仮面の者はオルトマ第3将校に深くお辞儀をしてから口を開いたのだ


『メルビュニアから来ました援軍です、ここは僕が止めますのであなた方は北の奇襲に警戒をしてください』


本当にこいつなのかと警戒をするが目の前の未知数な者は懐からエステリーゼ皇帝の直筆の入った皇帝令という令状を開いて見せる、まじまじとその内容を見て直ぐに本物だとわかると更に驚いたのである


あり得ない、フーバーから数分で等到底無理

あらかじめすぐそこまで来ていたのだろうと予想をたてていると再び彼が口を開いたのだ


『多分レパルドルは僕見ただけで手出しはしないと思います、あっちの国の人は僕のことよくわかってますから』


『あんた一体何者なんだい?』


オルトマが彼の仮面を覗き込みながら質問をするとその者は簡単に答える




『黒い仮面の悪魔タツタカと言います、では行ってきます』


言い終わったと同時にその男は一瞬で消えた

見たこともない光景に先程まで彼がいた場所にオルトマは駆け寄るが本当に消えたのである

あり得ないの連続に冷静を忘れた彼女はレパルドル領土に目を向けると堂々と草原地帯を歩き出す先程の男がいた


『黒い仮面の悪魔タツタカ…だと?!』


レオナルドは驚きながら口にするとオルトマは説明をしろと彼に言った、彼女は国外の情報には疎くてその名を聞いただけではなんなのかわからなかったのである

だが近くにいた伝令も知っていたようで目を見開いて囁きだした


『メルビュニアの兵器…黒い仮面の悪魔タツタカ、あれがそうなのか』


オルトマはその言葉を聞いてから微かに思い出した

兵士の間で噂されていた話を

他国にはそれぞれ抑止力を持つ強者がいるのはわかるがゼリフタルは銀狼のジャムルフィン、ガウガロには金獅子の十天がおりメルビュニアには人間兵器と言われた若い男とそれに付き従う漆黒の騎士がいる……と


『黒い仮面の悪魔タツタカは魔族数万を一瞬で業火で焼いて全滅させた逸話を持った化け物だ、レパルドルと魔族との戦争だったらしいが彼の強さを一番知っているレパルドルならば彼を見れば退却するしかあるまい…銀狼と並ぶ悪魔ですよオルトマ殿』


レオナルドの言葉に口を半開きにしながらレパルドル領土に向かって歩くタツタカの背中をみた

あんな小柄な男がそんな力を持っていると信じかたく、何度も冗談だろうと言い聞かせた

しかもその話が本当ならレパルドルは何故目の敵である魔族と組んだのだろうとオルトマは考えた、まだ確定じゃないとしても予想では確定に近い彼女は底知れぬ事情が隣国で渦巻いていると感じ始めた


切り替えた彼女は再度拡声魔石を口元に近付けると防壁裏側にいる大勢の兵士たちに口を開いた


『皆聞け!この場はレオナルドに任せて私達オルトマ軍は北に布陣したクリス副将の増援に向かう!直ちに支度せよ』


在りえないと思うのは彼女の兵達も同じであり驚きを顔に浮かべて周りを見回していたがオルトマは面倒と感じ再び大声で話した


『ここは黒い仮面の悪魔タツタカが対処する!いいから行くぞ!!』


その言葉で下に待機していた兵士たちにどよめきが起きるが直ちに全員隊列を組み直した

オルトマはレオナルドに一声かけてから階段を駆け下りたが彼女が一番悔しい思いをしているのだろう

それはメルビュニア最強と言われる謎の男の戦いをこの目で見れないからだ

彼女は心の中でレオナルドを恨みたくなったが中途半端に自分の軍を置いて自らが残るよりも数的に丁度いいレオナルドを残した方が良いと直ぐに察したのである


防壁を降りて北に向かうべく8万の兵士達の先頭に立ったオルトマ第3将校が馬に乗る姿を見ていたレオナルドは防壁の上からレパルドル国境沿いに視線を移すと小さく囁いたのだ


『人の姿をした悪魔か』


彼の視界には既にタツタカの姿は見えないくらい奥まで歩いてしまい目を細めても彼の姿は見えない

レオナルドは防壁の上に上がってきた自身の騎士数名に一万のうち半分を東門の前で待機させて遠距離攻撃が可能な弓兵や魔導兵を防壁に上げるように指示をした、多少騎士も防壁の上で待機するようには言うけどもこの場では戦闘は起きないだろうと誰もが薄々感じているのである


それはタツタカの逸話があまりにも兵士たちの話では有名だからだ

魔族じゃなく今は人間相手、となれば手こずる事は無いと


『いつでも動けるように待機せよ!』


レオナルドが防壁の上で兵士達に告げると全員は大きな声で返事をしたのである


『『『ハッ!!!!』』』



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ここは帝国大都市フーバーから北東に向かった先にあるタイタン大森林の手前の小さな町

街は小さいのにも関わらず外側には20m以上もある防壁が帝国領土を守るかのよう長く伸びている

それはまるでタツタカの世界にある万理の長城に似た防壁だがそれよりも高さも尋常じゃなく厚さもある

オルトマが守る国境沿いの防壁の様に幅は5mは軽くあり、防壁を登れば1㎞先にタイタン大森林が見えるのだがそれまでの道には何もなく平地となっているがこれは大昔から帝国が少しずつ生い茂った森を伐採して大森林に潜む魔族の侵略をいち早く察知するためにこの様な500mもの何もない平地が続いている


だが今回それが活かされることとなる

敵が攻めて来ても森ではなく平地なので早期発見しやすいからだ

その巨大な防壁の裏側でクズリ率いる10万の兵とトッシュ第2将校の5万の約15万が街を覆いこむように待機をしていた、トッシュは防壁門の前でいつでも突撃できるように馬に乗って門を見つめていた

街の大通りも兵士達で埋め尽くされており、街人は援軍の1人である者に『自宅待機で良い』という異常な言葉をクズリは笑って了承して避難をせずにそのまま自宅待機としている


普通ならばフーバーに人々を避難させるのだがそんな事をして時間を費やすくらいなら絶対的な防御を固めるのがいいとその1人が言ったのである


防壁の上にはクズリ大将軍、彼は服を着替えて大将軍に名だたる風貌をしており両手には自慢の大剣を持っている

そしてその隣には先ほど言ったメルビュニアからの援軍の1人がタイタン大森林を微動だにせず見つめていた

見た目はわからないが黒いローブを羽織っており、フードも深く被っている

顔が見えない事が少々残念だと感じるクズリだが彼同様に防壁の上から馬鹿でない大森林に顔を向けながら隣にいるメルビュニアの援軍という者に声をかけた


『本当にいいのか?』


『・・・』


黒いローブの者は後ろに振り向いて帝国軍の布陣を見てから再度大森林側に顔を向けて歩き出すと手すりに手を乗せて下を見て門の周りを見始めた

不思議な行動にクズリはどう楽しい光景を見せてくれるのかと不謹慎な期待を寄せていると彼が答えた


『俺一人で十分だ、あと数分で雑魚の群れが来るから戦う支度をさせよクズリ大将軍』


『へっ・・・了解だ』


クズリは裏側待機している大群とも思える兵士達にそろそろ敵が来ると大きな地声で言い放つと兵士達にも緊張が走る、だがその中でもトッシュの軍は戦慣れしている者が多く、顔色一つ変えずに手に持った武器を強く握りしめ始めた


クズリの軍の魔導兵と弓兵そして弩弓(ドキュウ兵を防壁の上に配置する事にしてその者達が階段を登って戦闘の準備をしている最中にメルビュニアの者が口を開いた


『来るぞ』


大きな声ではない、とても小さい声で入った筈なのに皆その声が耳に入った

登って戦準備をしていた皆の動きが止まり大森林に直ぐに目を向けると森が動いているように見えたのだ

不思議な光景に目を奪われていたのだがその正体も直ぐにハッキリとわかる時がきた

兵士たちの誰もが口を半開きにして釘付けになる光景


大森林から鎧に身を纏い、見える刃だが褐色の体をした魔族軍が進軍して来たのだ

魔族だけじゃなく魔物も飼いならしており彼らの先頭には兜虎カブトラという虎の様な体格をして4足歩行で歩く筋骨隆々の虫類が横並びにびっしりといるのであるがきっとあれは防壁を砕く為に鉄砲玉だとクズリは察した


ランクBの魔物である兜虎が約3千、虫類でもその突進力は猪に劣るとも勝らぬ


『来やがった・・・』


クズリはそう囁くと裏側に歩いてトッシュに目で合図した

流石のトッシュもクズリの真剣な顔つきに敵が来たとわかり下で全員に指示をし始める


『数は20万、本気でここを墜とす気であり・・・将軍クラスが1人はいるだろう』


黒いローブを羽織ったメルビュニアからの援軍者は大森林側を見て進軍を一時止めた魔族軍を見て頬杖をつく

クズリも他の兵達も彼の様子が気になりどんな事をするのか息を飲む

メルビュニアから来た援軍が2人、だが帝国を馬鹿にしているわけではなく・・・これで事が足りるとメルビュニア国王からの言葉を授かっているのだ

クズリは黒いローブを羽織った者が誰だか見当がついていた、テレポートで一瞬にして移動してみせたもう一人は最近世話になった小僧だと直ぐに分かるともう1人はあいつしかいないと断言できよう


だが誰が来たか?援軍というのはバレても誰なのかはギリギリまでバラさない方が良いと思ってあえて伏せていた


『魔族の士気が上がり始めた、勝手にあっちが始めそうだし俺は行くぞ』


右腕を軽く回しながら彼が20m以上ある防壁の上から大森林側の地に跳躍したのだ

予想外な行動に兵士たちは目を見開いて驚き駆け足で様子を見たのだがそれと同時にズドンと地響きを響かせて着地したのだ

普通ならば大怪我しても可笑しくない高さなのにもかかわらず彼は何事も無かったかのように前に歩き出した


『ケッ!黙って見てられるかよ!おいキュベ副将!ここお前指揮しろや!』


キュベ副将とはクズリ軍の副将であり昔からいる古参の将校だったが無理やり復帰させられて今彼はここに居るのである、昔からクズリと仲が良く戦争で勝つたびに共に酒を上げると言う事もしばしばしていたそうな

その昔からの友人であるクズリに指揮しろと言われて溜息を漏らす中年のキュベ副将はクズリに質問し始めた


『んで?クズリはどこに?』


『降りる!』


『もー!昔と変わんないじゃんお前!』


『終わったら酒奢るからよ』


『はぁ・・行ってこい』


『おう!』


嬉しそうにクズリは階段を降りていくとトッシュに近付いて何やら話し始めていた

そうしている間にも魔族側の準備は出来たらしく防壁の上の者達にも緊張が再度走る

兜虎カブトラだけじゃなく重装備の魔族兵士そしてトロール種もいる、騎馬隊は右側に布陣しているがあそこに大将はいないとキュベ副将は予想した


一番奥で一際目立った黒い何かの模様が入った旗を数本掲げている


『あそこか?いや・・・始まってあっちの動きを見ないとわらかんな』


そう言いながらキュベは周りの兵士達に準備を急がせた

指示を出している間にもメルビュニアの援軍者は堂々と前を歩き出すがこの時彼らは何もわかっていなかった


その準備は無駄なのだと



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


『ギガン魔将軍様、どうやらバレていたようです』


大森林の手前、キングトロール数体を壁にした後方で大きな馬に乗った赤色の体をしている魔族に魔族兵がそう話しかけた

一回り大きな馬に乗った彼こそがギガン将軍であり四魔将の1人と言われる傑物であった

そんな彼の周りにも騎馬兵が数名いるが皆精鋭中の精鋭であり上位職レベルは容易くある

魔族兵は褐色の体をしているというのにギガン将軍が赤いのは誰にも理由はわからないが今はそれは関係は無いだろう


部下の言葉に馬上からギガン魔将軍は答えた


『驚いたな、レパルドルと我ら魔族が結託などしないと思わなかったとは・・・褒めておくが流石の帝国軍でも私がいる事はわからぬはずだ、俺は大将軍に近い力を有しているからな』


右拳を握りしめた彼はそう口を開いた


四魔将のうちのキャスバルという男はインダストリアルでジャムルフィンに倒されたがプロトガ将軍も実は去年レパルドルを襲った時にタツタカに虫を叩くかのように倒されていたのだ

【※勇者ですが指名手配されたので逃亡ライフをはじめます 2章5話 戦争の結末とは!(なおタツタカ編は8月から再始動)】


『キャスバルは多分インダストリアルの神に怒りを買ってしまい死んだのだろう、そしてプトロガも去年死に・・・残るは俺とグリード魔将軍、だが弱者は死んで当然!俺がいれば問題は無い!』


最後の言葉で力強く言う彼は直ちに声を上げて20万の魔族兵に指示をするように近くの側近に伝える


『確固たる意志を持って進軍せよ!大都市フーバーを墜とせばディロア王国滅亡の一手となる!絶望を人間の記憶に刻ませよ!!!』


『ハッ』


彼の言葉を受け止めた側近は直ぐに走り出して開戦を兵士達に告げるために空に向かって右手を伸ばしてファイアバレットを撃ち放った

彼は簡単に言うと開戦を知らせ、進軍せよとの単純な合図なのだがそれだけでいい

空に撃ち放たれた炎術を見上げた20万の魔族兵と魔物は一斉に大声を上げて前に走り出した


20万の魔族が走りながら大声を上げるその光景は防壁の上にいる兵士達に少なからず恐怖を受け付ける事となる


『魔族兵がくるぞぉ!!!』


防壁の上から帝国軍の者が大声で下に待機している者達に聞こえるように伝えると皆再び息を飲む

とうとう始まったんだとわかったのだ、防壁の向こう側から怒号が鳴り響きどんどん近付いてくるのがわかる

全員がふと不安を心に秘める、何故門の前に兵を配備しなかったのか?

防壁の家からの攻撃じゃ限界があるし扉は容易く破られるだろうと誰でもわかるのだがそれは黒いローブの男の指示であった


邪魔だからいらない、それをクズリが了承した

その意味が今わかる


『さて・・・』


目の前から魔族兵20万の波を見渡したメリュビュニアからの援軍者は首を回してそう呟いた

緊張感は無くリラックスしている様にも見えるがこの状況でそう出来るのは凄い

先頭を走る魔族兵から距離を話しながら勢いよく走ってくる魔物は兜虎

その魔物を見て彼は最後に呟いたのだ


『お前らに見せてやろう、絶王騎士の力を』


そう言い放った瞬間彼の右手に黒い剣が現れた、いや・・・違う

これは刀である

この世界ではそのような武器は存在自体太古に滅びてしまい制作方法もドワーフはわからない

真っ黒なわけではなく赤い色が入り混じり邪悪な武器のようにも見えるがそれを水平に振ったた予想外な事が起きたのである


『キィ!』


『ギャピィ!』


横並びに走っていた兜虎がうめき声を上げたがなんと真っ二つに引き裂かれたのだ

前頭を走っていた兜虎ほぼ全てがだ、幸いな事に両端の兜虎は斬り裂かれることは無かったがそれでも傷は深く見えない真空斬で斬られたかのように体の正面から緑色の血を流してその場に倒れこんだ

流石の魔族兵士達も異常な事態に急に立ち止まるがそれは大きな間違いであった


一瞬の制止と一瞬の静けさで正面にたたずんでいる黒いローブの男の声が耳元でハッキリと聞こえたのだ

距離はまだ200mも

まるで目の前で囁かれたかのようにその言葉は聞こえた



『行くぞ』


ヒュンと風を切るかのような音が微かに魔族兵の耳に入る

200m先にいた男が消えた、違う・・・・既に魔族の目の前まで迫ってきていたのである

あまりにも唐突な速度に狼狽えた時には既に遅かった


その男が魔族兵の波をただただ一直線に突き抜けると大量の血しぶきが辺りを埋め尽くした

何をしているのかというと彼は進みながら高速で自身の周りを切り刻んで進んでいるだけなのだがその光景は圧巻である

失速をすることなく障害物が無いかのようにひたすら道を作りながら前に突っ込んでいくが彼が通った後には無残にもズタズタに切り刻まれて五体満足とは決して言えない魔族兵の死体がゴロゴロ転がっていたのである


『バ・・化け物ォォォォ!』


『ヒィィィィィィ!』


余りの恐ろしさに魔族兵も恐怖で感情が支配されて奥へを向かってくる止まらない殺戮を尽くした光景が迫りくる前に逃げようと背中を見せ始めた

尋常じゃない、とある魔族兵は横に顔をみけてその光景をただ見つめるだけでありその場にいる全ての魔族の目を奪う


彼らの中には重騎兵という分厚い盾を持った防御の要ともいえる兵も中衛に控えていたがそれがたった今ことごとく打ち砕かれた、まるで分厚い盾もバターの様に切ると重騎兵諸共両断しながら止まることなく切りながら突き進む化け物に足が震えて動けずにいる


『あ・・ありえん、これはいったい』


運よく彼に斬られずに済んだ先頭集団の中の1人の魔族

彼はフォラン魔副将というギガン魔将軍の右腕の歩兵騎士、流石の彼も信じられない光景に狼狽えていたがそれが彼の命取りである

全ての魔族がギガン魔将軍がいる本陣に向けて一直線に突き進む光景を見ていたのだがそのせいで本当に向くべき方向を見ることを忘れたのだ



『おい』


大森林に突き進む血しぶきを見ていたフォラン魔副将はその声に正面を向き直すと1人の大男が両手に持った大剣を自分に振り落としている光景が目の前に現れた、クズリ・ニューベイター・ナインズである


『なっ!?!?!?』


慌てて右手に握った大剣を振り上げるがもう間に合わず彼は見せ場も無いまま大剣ごとだだっ斬られてしまった


『お前が残りモンで一番強いと思ったが違ったよ、人間を舐めるとこうなるから次は気をつけろよ?』


フォラン魔副将が最後に聞いた声は人間とは思えない邪悪な顔をした者の顔である

死ぬ間際に彼は後悔した、他にも化け物はいたのだと・・・だが遅い

そのまま単騎で突っ込んで来たクズリは不敵な笑みを浮かべながら両断された副将を見つめると顔を上げて周りの魔族兵を見渡した


『ヒッ!?』


『逃げろぉ!退避だ!退避ィ!』


敵前逃亡を口にした瞬間一気に周りの魔族はクズリに背中を向けて逃げ始めるが中には懸命にも立ち向かおうとする魔族兵も少なからずいた

そのことにクズリは多少喜びを感じて小さく笑うと魔族兵に向かって地面を蹴り、走り出した


『始めるぞぁ!開戦だぁ!』


大声を上げたクズリ、それに呼応するかのように防壁の門が開かれてその扉からトッシュ第2将校率いる軍が外に飛び出す


『帝国を守る名高い戦だ!進め!』


馬上から兵士達を鼓舞しながらトッシュが先頭を走り防壁の外に出たのだ

最初から残党狩りはするつもりであった

だが一番奥まで斬り進んだ1人の標的はただ1人、敵の大将を討ち取る事・・・その他は帝国軍で何とかする


これが作戦と呼べない作戦である

ゴリ押しで行ける力を持った者が理不尽なゴリ押しをして対象に向かって斬り進んでいる

それは流石のギガン魔将軍の目でも捉えれる距離まで迫っていたのだ


『ぬかったか・・・あのような強者がいようとは!』


ギガン魔将軍は馬上で怒りをあらわにした、予想外過ぎる事態に彼も一瞬思考が停止したが誰よりも早く木を取り直した、実は彼の背後にはまだ3万の魔族兵が大森林の中で待機しておりその3万は迂回してヴァイエルの都市を攻める予定だったがそれもままならなくなった

今ここであの化け物を止めないと全てが水の泡になると感じた彼は苦虫を噛んだ様な表情を浮かべると正面にいるキングトロール30体全てで迫りくる何者かを迎撃するように命じた


『ゴルルルル!』


『グルァ!』


キングトロールは巨大な大剣を握りながら地面を揺らしながら進軍を開始した

ランクAクラスの魔物30体であれば減速はするだろう、その時を狙って自分自ら奴を討つと意気込んだギガン魔将軍だがその思惑は絶望で消える事となる


奥に走っていったキングトロール達が一瞬で吹き飛ばされて魔族兵を押しつぶしながら地面を転がりつつ倒れると動かなくなったのだ

上量級である魔物なのにまるで虫がぶつかってきたかのように吹き飛ぶ光景を目の当たりにしたギガンは凍てつく様な表情を見せた


この場で止めれるのは俺しかいないと


『くっ・・・』


『我らは先に出ます!ギガン魔将軍殿は一度後ろに・・・』


自身の精鋭にそう言われたのだがそれは早めに決めるべきであった

もう目の前まで迫っている、50m先で味方の魔族兵の血だと思われる赤黒い液体が宙を舞っている

首を切られたり腕を切られ胴体を真っ二つにされたりと触れたら確実に死を意味するそ地獄の波が側近すらもいとも簡単に斬り裂いて目と鼻の先迄やって来たのである、阿鼻叫喚ともいえる魔族兵の叫び声が響き渡る中でその元凶が今彼に到着した


阿修羅猪というランクB+の魔物がいるがそれよりも非常に質が悪い突進力と殺傷能力に彼は度肝を抜かれるが腰の剣を抜くと彼は叫んだ


『貴様は何者だぁぁぁぁぁ!!!!!!』


立派な剣に闘気を全開で込め始めると目の前まで来た黒いローブの男がいきなり黒い霧に覆われた

徐々にその姿がハッキリと見えてくるが目に映る姿にギガン魔将軍は見ただけで恐怖を体に叩きつけられた

見ただけなのに体の震えが止まらない


腰から黒いマントをつけているがそのマントはボロボロであり下半身は銀色で輝く甲冑

上半身は鎧等は無いが肉体が筋骨隆々としており肌の色はグレイだが何故か下顎だけは骨が剥き出しになって髪は無い

両側頭部には禍々しい角がそそり立ち、目に瞳は無く真っ白

両腕は上腕二頭筋から黒みがかっており右手にはあれで道を切り開いたと思われる赤と黒で斑模様になっている刀を持っていた

一番気になるのは彼の肩に乗っている綿の様な魔物、あれは木の精霊王だと直ぐにギガン魔将軍は悟ったが何故そこにいると疑問を少し浮かべた


明らかに魔物だとギガン魔将軍はわかった

だが何故魔物が人間に味方している?そう考えている暇もなく目の前の化け物は低い声で答えたのだ

















『死の精霊神ギュスターヴハデスであり十天第4位のゾロア・ス・ターク・フォースが貴様を殺す』


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新作ですがこの小説を見てる人ならわかる部分が多い内容になってます 勇者ですが指名手配されたので逃亡ライフをはじめます
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