24話 息子を見にきただけ
『くっ!!!』
俺が見た中ではかなり早い抜刀だと思える速度で大きな斧を腰を低くすると同時に素早く抜いて手に振り落としたグァゾは鬼の様な形相で力を入れた
加減の一切ない彼の大斧をだ
勿論の木製じゃなくグァゾが愛用している武器でだ
手に滲んだ彼の斧はこの大会で一番のだと自負できそうな速さでクズリに攻撃したのだがなんとクズリは人差し指と親指で摘まんで止めた
何故そんな芸当が出来るのか俺も驚く
一番驚きたいのはグァゾだろうけども彼はたった二本の指で止められた事にたいして口を半開きにしながら視線をクズリの顔に移した
『腕力はいいが押し込みが不細工、人を斬る前に空間を斬るというイメージがねぇな』
わざとらしく目を開いて首を傾げたクズリはグァゾの顔をまじまじと見始めたがご自慢の武器をまるで草取りのように軽々と摘まんだ男に額に汗をどっと流した、あんなに簡単に防がれたらそりゃ驚くよな
クズリは鼻で笑うと手を離してからゼリフタル国王に会釈をした
当然うちの口の王様は凄い挙動不審な動きを見せつつキョロキョロとしているけどもどうやらクズリがいること事態知らなかったんだろう
バルトが国王の肩を叩いて落ち着かせた
『ゼリフタル王よ、薄々予想はしていたであろう?同盟国同士でも隣の芝生は気になるものだ』
友好関係を持っていても他国の力を見るにはこの大会は都合が良い
多分他の国からも視察で客席にいるんだと俺は思う
『だが目の前に現れると流石に驚くぞ』
『悪かったな、俺達の国も同じことをしてみたくてどう運営しているが見たかったのだ…』
『視察じゃろ?』
『うむ』
軽い会話をしているけども国王も前よりクズリには慣れているようだな
牢屋に入れていたときはいっつも泣きそうな顔しながら悩んでたんだよね
規格外な男であり拘束不可能だったからだよ、檻は壊すし足かせも容易く破壊する
『邪魔したな、俺は負けた息子を叱りに行く』
俺はクズリの声を聞いたあと直ぐにベティーナが座っている方向に視線も向けた、隣に座っているナッツが泣きそうな表情を浮かべてベティーナに頭を撫でられている
頑張れナッツ
クズリは観客席の近くまで行ってから少し高い壁を見上げているけども明らかにジャンプしそうな雰囲気だ
『まぁ楽勝か』
そう彼が呟いた瞬間に拡声術であの人の声が聞こえた
『久しぶりですねクズリ』
『あぁん……お?』
振り向いたクズリは解説スタンドに目を向けた
当然そこにはスカーレットさんが座っており自分に気づいたと悟ると立ち上がった
クズリも何かを思い出したかのような反応を見せて彼女に話しかけたんだ
『懐かしい面ぁ見れたが昔俺に喧嘩挑んだ美人ちゃんじゃねーか、ほう……今は見違えるほどに強いわけでスカーレットって名前はお前だったのか』
『ええそうですよ?』
『ふっ…元気そうだが今日は休暇を利用しての視察なんだ、悪いが昔みたいに相手は出来ねぇ…お前のほうが上手だろうしな』
『そうですか、元気そうなので声をかけただけですよ』
『そいつぁありがたいな』
クズリは両手を広げながら苦笑いするとスカーレットは奥いった話を知ることもなくその後の話を終えたのだ
隠れてホッと胸を撫で下ろしたゼリフタル国王はこの場でやりあうんじゃないかと不安で一杯だったろうな
彼の汗も凄い
やはり壁を飛び越えて客席に着地すると付近にいた客は直ぐ彼と距離をとるかのように身を引き始めた
見るからに絡まれそうな人相の悪さが際立つ顔は自然に人をそうさせるのだろうか
クズリはそんな客など露知らず辺りを見回した
丁度ナッツはベティーナの膝に顔を埋めて隠れているつもりになっているけども数本剣が浮いているからそれはバレる
『おっ』
クズリがナッツを見つけた
すると彼は客席には拡声術など施されていないのにも関わらずどデカイ声を出したんだ
『ルッツ!!負けたな貴様!!鍛えるから一度帝国に帰ってこい!』
大きすぎて殆どが耳を塞ぐ
ナッツと言うと全身を脱力させてぐったりとベティーナによりかかって途方にくれていた
まぁ次の1件まで時間はある、少し里帰りも良いと思う
『色々起き過ぎて疲れた、優勝は銀狼のジャムルフィンで今年の武人祭は終わりとする!』
いきなり疲れを感じたと口にした国王が声高らかに俺の勝ちを宣言すると驚きの連続だったその場が歓声で埋め尽くされた
俺は今年も勝ててホッとしているけども今以上に強くならないといけない
2回連続は過去では1回しかなかったらしいけども俺もその仲間入りできたと感じで満足している
カールが先ほどしたように俺は四方を向いてお辞儀をしてからカールやグァゾでその場を退散した
また桃金貨貰ってしまったしどうしようかと思ったけど使う予定もないので貯金するしかない
控室に戻ると参加していた冒険者全員がなんか集まっていて皆俺達3人を拍手で迎えてくれた
『お金いいなぁ、またアポスに来たら依頼ちょーだいね』
マリアヌが俺の肩に手を回して顔を近づけるとウインクしてきたんだけども胸が軽く当たってる
あまり意識しないようにしながら優しく払いのけてから取り合えず彼女に返事をした
『俺がいない時はマルスとお前に頼むと思うからお願いな』
『たすかるわー』
満足そうにしているけども金か貴様!金が好きなんだな!
まぁ金があれば大抵の事はできる時代だし間違ってはいないだろう、マルスはニコニコしながら俺を祝ってくれたけど素直に嬉しい
珍しくハートンもいたけどもただ俺を見つめて一言だけ俺に伝えたんだ
『上段の払いがカウンターか、面白いモノが見れてワシは満足じゃ・・・』
お爺さんの様な笑い方をしながら誰よりも先に控室を出て行った彼を皆で後ろ姿を見送るとグァゾは奥の椅子に座りながら話してくれたんだ
『はっ・・・ずっと出場していたのは引退するきっかけ作りだろうなあのおっさん』
『やっぱりそうなのか?』
俺はグァゾに話しかけると彼は自慢げに答えた
『奴は暗闇でさまよってたのさ、終わった時代で取り残されて自分の終わりを告げる者が現れるのをな』
新しい槍の者を探していたんだろうな
まぁあの人との闘いは一瞬で終わったけども頭が凄い疲れたよ
いざ前にして見るとご老体が一際大きく見えたしまだまだ現役で行けそうだと思う
『カール、お疲れ様』
ミミリーがカールに寄り添って手を握るが彼は複雑そうな面持ちだ
無理して笑っている様な感じだけどもそれを感じ取ったミミリーは苦笑いした
まだ少し僅かに過去を引きづっていそうだけどもそれほど彼は苦しめられたという事でもある
『頭が良いフリしやがって』
ふとグァゾが椅子にもたれ掛かってそう吐き捨てた
誰もが彼に視線を送るとカールが困り顔で彼に口を開く
『頭が良いフリ?』
『冒険者なんだろ?やりたい事を自由にする職だ、馬鹿じゃないとこの職はできねぇ・・・綺麗ごとを無理にしなくてもいいのがこの世界だ、てめぇを見てると厚化粧で可愛く見せようとして周りにぶりっ子を振舞う女にしか見えねぇけどもいい加減断ち切れ、それは他人を不幸にする』
『・・・言うではないかグァゾ』
『武人祭の終わりぐらい酒を飲み過ぎて街中で騒いで大声出して警備兵にとっつかまって留置所で横になるぐらいが丁度いいさ・・・』
グァゾはそう告げるとゆっくりを腰を持ち上げてからカールの横を通り過ぎて入口に向かった
なんだかんだ口は少し悪いけども悪く言うつもりはないらしい
それはカールもわかっている筈、少し微笑んでいるし悟ったのだろう
ドアノブに手をかけたグァゾは背中を見せたままドアを開いて軽く振り向いてしかめっ面で言い放つ
『こうしなきゃいけないと思う事で疲れるよりもこうしたいと思った事で疲れた方が俺達馬鹿の先があるんだよ・・・じゃあな厚化粧カール』
『なっ・・・貴様!』
少々馬鹿にされて声を荒げたカールだけども最後まで言い切る前にグァゾはドアを閉めた
厚化粧カールか、少し面白いけどもグァゾはネームセンスありそうだ
閉まったドアを見つめたカールは軽く笑うと窓際に歩いていきリングが無い会場の中央を見つめ始めた
黄昏ている彼はボソッと囁くようにして窓の向こうを見つめたまま言ったんだ
『確かにウザイ末裔でしかない、俺のおかげで違う道が開けたんだと開き直るしかないだろうか』
それが良いぞ?
『まぁ今日は酒でも飲んで第2位だし祝いましょ』
カールの肩を叩きながらミミリーがそう言うとカールはにこやかに頷いて彼女と共に歩き出した
『ナッツぐらいのメリハリで生きようか』
最後にそう口にしてからミミリーとこの場を出て行くがそれが良いだろう
開き直ってナッツみたいにふざける時はふざけて真面目な時は真面目に!でもナッツは肝心な時に寝るからそこは駄目か
そういえばナッツがいないけどもどこにいるんだろうと控室を見回してもいない
もしやと思い窓から会場に視線を向けて退散する客たちに意識を向けると一か所だけまだ客席で立ち止まっている数人がいた
ナッツがクズリの隣で説教されている様だ
しかもミレーユさんまでいるし2人で武人祭を見に来ていたのか、ベティーナは心配そうに遠巻きで見ているが彼女の両隣には親だと思われる夫婦がいるけども多分ベティーナの親だろう
ここからでも意識を集中すれば聞こえる筈・・・・うーん
『まぁ根性は認めてやろう、ただ足腰が弱すぎる!もっと避けれたはずだ・・・そんなんで女を守れると思うかルッツ』
『クズリ、今でも十分この子は強いんだから・・・』
ミレーユさんがフォローしているけどそれに便乗するようにしてナッツが口を開いている
『頑張ったんですよぉ父さん・・・』
『まぁ10割のうち11割出せたのは良いが・・・』
『いいじゃないですかっ!』
『12割だせ』
『いやぁ!』
駄目だこりゃ
俺も控室を出ることにしてグスタフと共にポートレアの会場を出たのだがハルバートで俺の位置は直ぐ父さんたちに気付いてもらえて皆で近づいてくれた
去年同様父さんはテンションが高いけども上手く母さんが睨みを利かせて落ち着いてくれているらしい
『お疲れ様』
そう口にしながら後ろから抱き着いてくるけども声はルッカだ
振り向けないけども結構強めに抱き着いてきている
『びっくりしたわよ、天罰ってあんな凶悪なのね』
『あれか・・・流石に俺も不味いと思ったよ』
『でも勝てたね、おめでと』
『ありがとう』
こういった場合親たちは茶化してくると思っていたが不思議とそれが無かった
顔を正面に向けると直ぐに理由が分かった、父さんが真剣に見つめる先にはハートンがいたんだ
彼も微笑ましい顔で俺の父さんを見つめているけども不たちは近づく事すらしない
父さんはただ黙って彼に深くお辞儀をした
父さんの槍を教えたのがハートンだったのかと思うと本当に彼の槍のこだわりを俺が引き継いだような気もする
『お前は一番弟子の中でさぼり癖があった、だが一番誰よりも言われた事はずっとやってきた』
ゆっくりとした口調でハートンは父を見つめて話し始めた
父さんはただ真剣に彼の言葉を耳に入れて聞く事だけに集中している様である
『生涯基礎・・・お主はそれを息子の代で完成させおった、ありがとうレナウス・・・私の人生は間違っていなかった』
その言葉を口にしながら俺達に背中を向けて遠くに歩いて行った
もう彼が武人祭に出ることは無いのだろうと誰もが思っている
自分のしてきた道に間違いは無かったと、それだけわかれば自分のようやく古びた時代を離れる事が出来る
そう言いたいんだと今の言葉で感じた
遠くの人の波に消えていくハートンを父さんはただ頭をずっと下げて見送った
かくして俺達ナラ村のメンツは去年同様に食事会になるがどうやら父さんは俺が優勝すると決め込んで初めから適当な場所で宴会の予約をしていたらしいけども負けてたらどうするつもりだったんだよ
早めに予約したために殆どスムーズに店を決めることが出来たらしいけども場所はキャットン
ポートレアで一番有名で高いお店である
このお金はどこから来たんだろうかと考えていると母さんが笑いながら俺に口を開いた
『あら?その手に持っている桃金貨はなぁに?』
首を傾げているけども俺に払えと!!!???
主役に払えと!?!?わかったよ母さん!!!!、でもこそっとナラ村領主のエドガーさんが俺の耳元で
『僕が払うよ主役君!』
『エドガーさん格好いい!』
『ふはは』
流石領主、最近出費が少ないために金が余っているんだろう
店内は既に馳走が並べられておりいつも見ている丸テーブルが綺麗に撤去されて木製長テーブルが2つくっついている
しかも横断幕もあり、優勝おめでとうとか書いている
本当に勝ってよかった
料理は唐揚げとかサラダそして炒め物が多く飲み物は大人はビールだし俺達は果物ジュースである
俺は隣にルッカ逆隣にはエドガーさんであり正面にはゼルさんと父さんがいる
グスタフの隣にはルルカ・・・・おい待て、お前いつからいたんだルルカぁ?
さっきまでいなかったろぉ?
『グスタフのお嫁さん候補ですからどこにでも現れるわよ?』
俺の視線に気づくだけじゃなくて心も読んでいる
嫁候補と言っているのに肝心の熊の母親ディジーさんは嬉しそうにニコニコしているしルーシーはヤッターと万歳している所を見ると公認か、グスタフは逃げれ無さそうだ
『決めんな!』
『子の名前はゲリタフね』※第4章6話参照
『懐かしいセリフ言うなぁぁぁぁ!』
久しぶりにコントを見たところでビールを持ったナラ村の領主エドガーさんが立ち上がり皆を見回す
ここに居るのはかなり多いかもしれない
俺に父さんと母さんにグスタフそれに妹のルーシに母親のディジー
ルッカに父のゼルさんに母のマリーさん、レイ衛兵長と婚約者であるライザさん・・・彼女とはまだ一度も話したことは無いけども綺麗な人だな・・・確かこの人は村の漁師の娘だったと聞いたことがある
青いボブヘアーの顔が小さい女性だ
そしてエドガーさんに妻のエリンさんと息子のポーラだがこの子はまだ5歳だっけ?そんくらいだよな
んでルルカだ
計15名か
エドガーさんが話し始めた
『ええ!言葉を選ぶにしても難しい!今回も村の者が優勝した!グスタフ君は去年の因縁での白熱した戦い見事であった!いいねぇ・・・男の友情を見ている気がして胸が熱くなったよ!来年も頑張ってほしい、ジャムルフィン君は連続優勝という事と村の恩恵に感謝だ!今日は祝おうじゃないか皆・・・そういえば村にも移住者がちょくちょくと増えつつあって私はとてもそのことも嬉しい!良い村になるように今後も頑張る!さぁ乾杯だ!』
という事で色々と言いたい事を言葉にしたエドガーさんの不器用な乾杯の音頭が終わり皆はしゃぎ始めた
食べ始めるとルッカが自分の分と俺の分を皿に盛り始めてくれて助かっている
少し王様気分かなと思っていたらレイさんの婚約者であるライザさんがイチゴジュースが入ったグラス片手に近付いてきた
『おめでとうジャムルフィン君、初めて話すわね』
『はい、ライザさんはいつご結婚を?』
彼女と話しながら軽く乾杯をすると答えてくれる
『クリスマス前よ』
もう少しじゃないか、その時は出席しますと言うと嬉しそうに頭を撫でてくれたけども本当に大人の女性って感じがする
レイさんのどこが好きなんですかと聞いたら笑いながら答えてくれたんだ
真面目だけども抜けてるところってさ、なんだかほっとけなくて色々接点を持ってからは今に至るって説明してくれたけども結婚式は既に教会で予約しているらしいので準備万端だな
『あなたは来年でしょ?尻に敷かれたほうが幸せになるわよ?』
チラッと俺から視線を外してルッカを見てそう口にした
言われなくてもそうなると思う
ルッカは少し照れながら軽く頭を下げているけども俺達も来年には結婚なのだ
意識すると恥ずかしい
『楽しんで』
ライザさんは最後にそう告げてレイさんの隣に戻っていった
俺の父さんとルッカパパのゼルさんは何やらニヤニヤしながらビール片手に会話を楽しんでいる様だけども話の内容が惨すぎた
『ゼルさん、うちの物件は2度も優勝しましたぞ?これ以上の物件そうそうありませんしお金の心配もありません!性格はルッカちゃんが何とかしてくれますよ!』
『だろうねぇレナウスさん』
顔を真っ赤にして出来上がった2人は俺を物件みたく言ってやたら話を進めている
顔赤くなるの早くないかな
『ほっときなさいジャン』
『そうするよルッカ』
彼女と唐揚げを食べるけどもかなり美味しい、というかここ美骨鶏という最高級の鶏しか唐揚げで使わないんだよな、贅沢すぎる
ルッカも唐揚げの美味しさを体を揺らして嬉しそうに出していた
米もあるし今日は食い過ぎるくらい食べてもいいだろうな、グスタフはなんだか母親であるディジーさんに避妊はするのよ?とか言われてかなり狼狽えているけどももう既にお前は逃げれない
昔散々ルッカを張り倒せない腰抜けとか言っていたな?今度はお前の番だよグスタフ
今度腑抜け熊って言っとこうか・・・・やめよう殴られる
『私の家はお兄様が継ぐので安心してねグスタフ?』
ルルカが自信満々にそう言いながら腕を組んでいる
グスタフはルーシに視線を向けると彼女は首を傾げて言い放った
『そういえばお兄ちゃんゲリタフってな『言うな』』
なんだかんだルルカにあーんされている唐揚げとかは普通に口に運んでいるけども彼は素直じゃないだけだと思う
それをルルカは知っているし安心して今の立ち位置にいれるんじゃないかな
エドガーさんが自分の息子にご飯を食べさせており妻のエリンさんは息子の口についた食べカスをハンカチでとっている、こうしてみると家族なんだなぁとほっこりと見ていられる
『エドガーさん幸せそうよねぇ』
ルッカがサラダを皿に盛りながら羨ましそうに口にした
彼女もああいった家族観を求めているんだとわかるとより現実味が溢れてきた
『いつかああなるさ』
『そうなるように生きなさいよ?』
『わかってるさ』
生きるために俺は誰よりも強くなると言う途方もない努力をしている
けれども俺は嫌いじゃない、素直にこの道が情実しているんだなと考える時が多々ある
俺も思い出となる日が来るだろう
生きるために俺は強くなったと胸を張って話せる日がいつか来るんだと思うと死ぬわけにもいかない
人の目標とは些細な事である
小さな考えが時がたてば大きな道に通ずることだってある、だからこそ初心という言葉はあると父さんは昔俺に言ってくれた
迷った時には振り返ろとってね
『今日は絶対ご褒美貰う』
ルッカにそう強く告げると彼女は口をモゴモゴとし始めて顔を赤くしたけどもいつもの可愛い動物みたいになっている
否定はしないし頷きもしないからいいという事だ、多分
サラダの生ハムを口に含んでから噛んでいるとルッカが口を開いた
『なら薬剤師の上級資格合格したら貰おうかな』
『実施試験ならば使う薬草は俺が森で取ってくるからな?』
『助かるわ、頑張って合格する』
『俺も応援するよ、合格した方が嬉しいし』
『ジャンが?』
ルッカは不思議そうに俺を顔を覗き込んで疑問を口にした
だけども内なんだか気づいたような反応をすると急に優しく笑い始めたけども俺はいつもお前に言っているじゃないか
物心覚えた時から腐るほど言ってるんだし何故そういつも俺の口から聞きたがるんだよ
『お前が嬉しそうだと俺も嬉しいからだぞ?』
俺の言葉にどうやら満足したらしく大人しくなると頭を俺にもたれかけて来た
こういうのも久しぶりかもしれない、好きだと言う前からよくこういう仕草を俺にしてきた
のにもかかわらず俺はリヴィに瀕死にされるまで好きだと言ってなかったが結局どっちも好きだったんだ
ルッカが頭をくっつけてくるのは嬉しいという表現だ
口では決して言わないけれどもハッキリと伝わる
視線を感じてルルカニ目を向けると羨ましそうにこちらを見つめてから直ぐにルッカと同じことをグスタフにしようとしてルーシーと話をしている熊に頭を近づける・・・だが途中で顔を赤くして断念した
お前恥ずかしいのか・・・道のりは長いな
『息子よ大胆だな』
父さんとゼルさんがビール片手にこちらを見ている
その様子にルッカは直ぐに離れて焦りながら唐揚げを頬張り始めるが狙いは俺だなこの2人は
『仲睦まじきだが親に見せつけるとはな』
ゼルさんは不敵な笑みを浮かべるとルッカは俯きながら黙々と料理を食べているけど顔真っ赤だ
何故くっついて来たんだと思っても彼女は感情が勝ってしまい行動しちゃったんだな
苦笑いしながら誤魔化すと父さんがビールを飲んでから俺に聞いてきた
『まだ若いんだし全てが終わってからどうするか考えればいい、俺は26で結婚したしお前には時間があるからな』
『そうするよ』
母さんも話しかけてくる
『夜は優しくしないと嫌われるからね?』
『・・・ああ』
引き攣った笑いでなんとか返事はしたが直球である
大人は食べてからも飲み会という面倒な時間を過ごすらしく俺はグスタフとルルカを連れて今日まで泊まれるホテルに戻ることにした
時刻は夜の20時、丁度いい時間だ
ホテルについてからは館内の銭湯に入ることになり俺はグスタフとのんびり風呂につかることにしたのだが先客が1人そこにはいた
湯船で鼻歌を歌う彼はカールであった
俺とグスタフは素っ裸のまま茫然と鼻歌を歌い俺達に背中を向ける彼を見つめているけども気配を感じて勢いよく振り向いてきた
顔が赤いけども多分こいつも少し飲んでいる
『い・・いるなら言わんかっ』
めっちゃ狼狽えている
『いるぞ?』
『遅いっ!』
グスタフのボケに綺麗にカールはツッコんだが上手いなカール
無言で湯船に入り3人でのほほんと天井を見上げながら湯船の心地よさを感じているけども今のカールは完全に寛いでいる様だ
だが鼻歌を聞かれたのは少し恥ずかしかったのだろう、もう聞こえない
『厚化粧カールか』
彼がひと口にしたけどもグァゾに言われたセリフだ
見るに堪えないカールに向けて言い放った言葉にグサりと刺さったんだろうな
大きな溜息をすると口を開き始めた
『楽に生きようと思う』