22話 決勝 後半 本気出す
『シルバ・シルヴァ!!!』
大声で叫ぶと俺を中心に銀色の闘気を瞬間的に放出して爆発が巻き起こった
それによって砂煙が一気に空に舞い上がって周りの光景が直ぐに見えるようになるけどもどうやら俺はリングから3m下まで沈んでいたらしくリングもすでに無いと言っていいくらい破壊されていた
まるで隕石が会場の中心に堕ちたかのような爆心地に俺は立っている
銀色の風が俺の体から大量に放出されるとそれに呼応するかのように銀色の狼が出現して俺を囲み始めたがとある一点を激しき睨んで唸っているがその方向でカールが口を開いて驚いて固まっていた
いつ聞いても風の音が狼の遠吠えに聞こえるけどもそういう仕様なのかな
俺は銀の爪が消えている事にも今気づいたけども今更そんな事どうでもいい
その場かで腕を組んで彼に口を開いた
『チェックメイトだカール、惜しかったがこうなれば俺は人間相手には絶対に負けない・・・スカーレットさんにもな!』
彼女とは戦った事のないけども無謀な自信を口にして全力で威圧を放った
バチバチと術壁が小刻みに振動しているのがわかるけども威圧程度で割れるなよ?割れたら観客全員失神するからな?
『あれでも・・・倒れぬと言うのか!人を相手にしていないと思い全力で放ったのだぞ!お前を信じて死なないと思い躊躇わずに天罰を使ったと言うのに貴様はダメージすらなかったというのか!?』
『いや・・・実際かなりヤバかったから危なかったって言ったんだ』
『ぐっ・・・それでも貴様は』
『誰も勝てなかった魔天狼という職の力か、残念だがカール・・・俺はまだあと一回クラスチェンジの先がある』
『く・・・』
絶望した様な顔をしながらカールはテュデストラフターを放ってきたが青白い風が押し寄せて来てもまるで俺を避けるかのように避けて通過していった、その光景に流石のカールも一番の驚きを顔に見せてながら後ろに数歩下がり始めた
どうやらこの状態ではお前のテュデストラフターは効かないようだな
『無駄だったみたいだな・・・さてカール、強い者が勝負を終わらせることが出来るが今回も俺の様だが今年は去年と違ってお前は収穫があるようだ』
『しゅう・・かく・・だと?』
『自分で見つけろ!じゃあな!』
『!?』
俺は口で唱えずに銀彗星で加速するとカールを全力で腹部をぶん殴った
流石にシルバシルヴァを起動した状態の銀彗星は人では絶対に避けることはおろか一言も口にする時間さえない
カールの腹部に拳を当てたときに色々考えたよ、一体何々そんな悩みを抱えていたのだろうかと、きっと人には言えない複雑な事情があることはブール伯爵からの言葉を思い返せば分かることだったんだ
彼の冒険者の前の記録が一切ないんだからその失われた記録に彼が目をそらしたい何かがあるのだろう
だけど話さなくていいんだよカール、今まで誰も知らなかったのならば話したくないんだろうからそれは墓まで持っていけ
誰しも秘密はあるんだよ、お前は全てを綺麗に結果を出したいと思い過ぎている
そんなのいらないから取り敢えず吹き飛べ
『!!!!』
カールは声にならない声で呻いて壁まで一気に吹き飛んでいった
軽く俺の足場も揺れたが多分問題はない
彼の気は穏やかとなっていき壁から力無く床にドサリと倒れる
僅かにカールの手が動くけれども彼の気の小ささから戦闘の続行は不可能だとわかる
本当に危なかったと思うよ、だって天罰を別な形で対処しようと考えてたらきっと今倒れているのは俺かもしれない
目の前で倒れている男は未熟さを自身が今まで得てきた経験で補った、そして俺を何度も驚かせてきた
『半減…して…も、これほどか…』
僅かにカールのか細い声が聞こえた、シルバシルヴァを解除してから辺りを見渡す
今リングというものはこの場に存在しない、粉々になった破片が辺りに飛び散って瓦礫があるだけ
術壁でよくもまぁ客が無事だったもんだと思うけどもきっとスカーレットさんがなにかしら術壁に魔力を使って強めにしたんだろうな、気づけば俺の服もボロボロだし体中も少し痛い
そう考えながらカールに歩いていき、彼の前でしゃがんだ
立ち上がろうとそれでも必死に抗う彼に俺は口を開いた
『俺は小さい夢を叶える為に必死に足掻いている、周りには当たり前な事でも俺にとって大きな夢だ』
『・・・それも立派な夢よ』
『そういってくれるか』
『ああ・・・夢とは目標が大きい事ではない・・・その者が大きく願う事こそが夢、・・・私の夢も貴様と同じようなものだ、普通に暮らしたい』
『そうか・・・カール、秘密は誰にでもある・・・どんな嫌な記憶がお前にあったとしてもお前はカールだ、国の国宝でありポートレアの守護者だ・・・優しいお前はきっと勝手に背負っていたんだろうけどもそれでもお前は誰も到底出来そうもない事を成し遂げているんだ、それは国だけの為じゃなく本当にこれからの者達の為にお前は動いた、これ以上何を求めるんだ?』
『・・・俺はカール・マーグメルではない』
その言葉に聞き覚えがある、直ぐに思い出したがインダストリアルでミミリーに聞いたことを頭に浮かべた
本当の名を私は捨てたとか彼が口にしていたと彼女から聞いている、名前を捨てると言う事はそれだけ彼を苦しめていた何かがあったんだろう
その答えは次の言葉でわかった
『俺の・・・本当の名は、カール・メル・シュナイダーだ』
カールは同じであるがシュナイダーという名を彼は初めて公の場で口にした
この会話は会場内にも拡声術で聞こえるのだが彼はそれでも勇気を出して生まれ変わるために言ったのだろうか
だがその名前に俺は聞き覚えがあった、まさかと思いながらガウガロの一件でのナッツの言葉を軽く思い出したのだが覚えているだろうか?
(一部の宗教の大量虐殺が400年前にあったんですよ、あれと似ています・・・無害な民には害を出さずに一部の宗教をあぶり出して処刑した歴史があります、その宗教は国の方針に従えない時はよく暴動を起こしたりして死人も出た記録もあるらしく話し合いも100年近くしても説得できずに国は苦渋の選択でそうするしかなかったと聞きます)※第6章21話 虐殺の過去と覚悟参照
数百年前にゼリフタルでは暴君と言われる時代があった事をナッツが口にしていたんだ
未来の為に逆らうものは全て処刑すると言ったこの国で一番の黒歴史が確かにあった
俺はまさかと思いカールに言葉を送ろうといた瞬間に答えを彼が口にした
『数百年前の王の名はアル・メル・シュナイダー・ゼリフタル第3世、四百年前に民1万人を大量虐殺した忌まわしき末裔の生き残りだ』
その言葉に会場全てが止まったかのように静まり返った
俺の勝ちが確定となり見ていた観客も徐々にボルテージを上げて言っていたがカールの一言でそれは嘘の様に静まり返る
お前は大昔の暴君と語り継がれている王の末裔だったのか・・・俺も気になってその後の国の経過を歴史書で調べた事がある
あまりにも強引でおぞましい結末にクーデターが勃発して王族は皆処刑されて今のゼリフタルの王様であるゲイニー・ライバック・ブル・ヴァリスタン・ゼリフタル国王の末裔が国を統一する結果となった
確かに暴動で死人が出てやむ無しに暴徒を全て処刑したのは思い切った事でもあるが元を正せばそれは当時の国王の政策のせいでもあったんだ
増税の限りを尽くして民から大量の税を摂取していた最悪な王として語り継がれているんだ
逆らえば処刑、こんな王に未来などないと残った国民が一斉にクーデターを起こしたのである
『運よく逃げ切った暴君の末裔が1人いた、名前を変えてひっそりと暮らしていたがそれならそれでいい・・・だが何故今の時代に生まれた私に母は言ったのだろうか・・・私たちは国を汚した末裔の生き残りだと、生活はずさんだったさ・・・母は娼婦であり私は幼い頃寝る時しか家に入れなかった、母は男を家に入れるために俺が邪魔だったからだ!昼夜は浮浪児のように商店の果物を盗んで食べていた・・・母は一切ご飯を俺にくれた事は無かった』
弱々しい彼の右腕が俺の足首を強くつかんだ
その腕は震えているけども今この場にいるカールは俺の知っている彼とは違う感情を表に出していた
カールはそのまま顔を持ち上げずに涙声で話し続けてくれた
『ある日俺はいつもの様に夜になって家に入ると母がベットで死んでいたよ、多分連れ込んだ男に首を絞められてな・・・悲しいという感情が不思議とわかなかった・・・母なのにだ!・・・当然だが俺はずっと言われ続けたよ・・・怒りやすい母であったが口癖のようにいっていたよ、悪しき末裔に平穏は無いと・・・終わった事なのに俺は背負わないといけないのかと何度も考えた、母は死んでからは完全に浮浪児だったさ、盗んで食いそして捕まってまた盗んでと・・・学園にも言った事は無い・・・俺はずっと一人で他人に迷惑をかけて生きて来た、剣を盗んで冒険者になる時に俺は名を変えて新しい人生を生きようと決意した、俺には関係ない昔の出来事とは逆に人のために生きる道を歩もうと』
『カール』
『馬鹿な末裔のせいで何故俺が辛い幼少期を過ごさなくてはいけなかったんだ?俺は悪くない!普通に暮らしたかったのに盗んで生きるしか術がなかった・・・だから私は今それ以上の償いをしようと必死に頑張った、国に認められれば俺の気も晴れるだろうと思っていた、だがまだ俺の心の中に負の感情がいる・・・確かにお前の言う通りにこれは自己満足だ・・・誰にも今まで言わなかったという事は誰かに認めてもらうという行為は生まれないからだ、だが俺は完璧を求めた!暴君という過去の汚名を打ち消すくらいの完璧な男になろうとして』
俺の足首を握る彼の手は震えており顔を持ち上げたその顔は彼には似合わない不細工な顔で泣いていた
言われ続けて呪いともいえる先入観を母に押し付けられた事で暴君の末裔という言葉がずっと彼を支配していたんだろう
そしてそれに負けまいと人に認められるような行いをして過去の自分を清算しようとしていたんだ
『カール・・・』
『末裔なんて知らん!俺は俺の人生を歩みたかった』
『なら勝手に歩けよ、事実だとしてもお前は当時生まれてもいないし子が罪を背負うのは間違っている、お前が完璧主義者という性格になったせいで過去にこだわり過ぎてるんだよ』
『どう歩けばいい?教えてくれジャムルフィン・・・私はどうすれば楽になれるんだ?』
涙を流して彼に言葉を送ろうとした時に意外な者からの言葉が聞こえた
俺が彼を説得するよりもその者の言葉の方がきっといい結果を出してくれるだろう
『人々は皆昔をとうに乗り越えて今を生きておる、そして今を生きるお前は暴君の末裔ではなくここに生まれた1人の民として新しい人生を歩む権利がある、それがゼリフタル王国であり私が皆に求める国の思想だ・・・お主だけが勝手に自分に鎖をかけて生きている、辛い幼少期だったろうがお主は今国の顔となる国宝職であり人類に天位職という知識を持って死地を乗り越え生還した英雄じゃ、お前に罪は無い・・お主が生きたいように生きればよいのじゃぞ、人を思いやる心は我は本物だと思っている・・・辛かったろう?だが幼少期に愛を知らすに育ったお前はそれでも自分がされて嬉しいと思う事を今迄他人に分け与えてきたからこそ今カールとしてお前の人生が始まっているのじゃ』
それは客席よりも上で観戦していたゲイニー・ライバック・ブル・ヴァリスタン・ゼリフタル国王直々の言葉であった
彼の手には拡声術の施された魔石をはめ込んだマイクが握られている
カールはその声の主を見つめた
『私はこの忌々しい過去を脱いでもいいのですか・・・』
『捨てよ、お前がそれを脱ぐことによって完全に大昔の歴史に幕が閉じる・・・それはお主を蝕む呪いでしかあるまい、それに・・・今お主は孤独ではないだろう?誰にも愛されずに育ったお主は今数え切れぬ者達に愛されてこの場におるのだ、捨てよ・・・これは王直属の命令である』
『私はしたい様に生きてもいいとおっしゃるのですか?』
『それがゼリフタルという国であり私が求める思想である!生まれし者は自らの道を進む権利はある!過去を背負うと言う義務は無い!それこそ人の発展を阻害する行為であり蛇足である!』
力強く国王が言い切った
ハッキリ言ってカールは考え過ぎである、普通に自分のしたい様に生きればいいのに子供の頃の先入観が邪魔をして必死になっていたのだ
そして彼の怒りの原因は先祖に対する恨みだろう
行為のもなんだけども面倒な男だ・・・ある意味潔癖症に近い気がするけどもいくら今貢献したってそれは汚れじゃなく記憶である
消えはしないものにこだわること事態間違っているんだと国王は言いたいんだよ
『・・・俺は普通に暮らしたい』
可細い声でカールがそう呟くと俺達に遠くから近づいてくる者がいたけどもそれは直ぐにミミリーだとわかった
複雑そうな面持ちをしながらカールの後ろから近づくと出中を叩いて彼女が口を開いたんだ
『カール、行こう?負けたのよあんた・・・』
『でも・・俺は・・・』
今のカールは自分で決める判断力は無い
それを察してかミミリーは彼の泣き顔を覗き込みながら微笑んで答える
『十分頑張ったわ、行こうカール・・・また明日から冒険者として頑張ろ?』
『・・・』
カールはボロボロと泣いたままミミリーに起こされて肩を借りて俺から離れていった
途中ミミリーが振り返って俺にありがとうと言ってくれたが俺は何もしていない気がする
考え過ぎなカールの変なこだわりが今ようやく終わろうとしていることくらいは俺でも理解はできるだろうけどもすぐに決別は出来ないだろう
人には時間という薬が必要だし今後様子を見るしかなさそうだ
『カール!』
俺は入場口近くまでミミリーに肩を借りてこの場から出ようとする彼に声をかけた
顔を向けるけども力なく横目で見るようにしてこちらに意識を向けているけども俺は腕を組んで俺なりに彼に言葉を贈ることにした
『今度ナラ村に遊びに来いよ?ポートレアだし近いだろ?』
『・・・ああ』
少し彼は笑った気がした
その顔は疲労と安堵が入り混じった様な雰囲気を俺は感じた
周りを見渡すけどもリングは崩壊して隕石が落ちた感じになっているけども俺よく生きてたな!?
これ人に撃っていい技じゃないぞ?まぁカールは俺なら無事だろうと睨んで全力で天罰を撃ってきたんだろうけども俺自身ダメージはそれなりにある
狼気を纏わせてなかったら確実に瀕死だったろうなしカールは力を加減する余裕なんて無かった
リングがあった筈の中心で背伸びをしてから
解説スタンドに顔を向けると司会は口を開けたまま固まっている
俺的にこの勝負が終わったと告げる言葉が欲しいのだけれどもどうやら頭の整理が追い付かないようだ
そう考えていると小さく拍手が聞こえて来た
観客席からだと思い目を向けると同時に色んな人が拍手をし始めるがそれは俺に対する敬意ではない
皆の視線がこの場をあとにするカールに向けられていたんだ
『・・・私は』
拍手を目の当たりにしたカールは泣いたままミミリーの肩を借りて入場口から消えていった
はぁ・・・ようやく終わったか
俺はその場に腰を下ろして一息つくと同時に在りえない事が起きたんだよ
流石に予想なんて誰にもできない事態であるけども予見スキルが今日一番の警告を俺の頭にガンガンと打ち鳴らし始めた
鳥肌が全身を支配し俺は直ぐに立ち膝になって空を見上げた
そこには殺気で満たされたスカーレットさんが解説スタンドから高く跳躍して右手におぞましい黒と紫が入り混じった闘気の塊を俺に投げつける瞬間をとらえた、彼女の顔は不気味なくらい微笑んでいるがそれがおぞましく感じる
『鴉の行水』
そう呟いた彼女は右手に篭った闘気を俺に投げつけて来た