19話 武人祭4日目 天罰と気まぐれ者
ジャムルフィン『俺目線じゃないぞ!』
中央迄辿り着いたカールとグァゾは穏やかに互いを見合っているけども中央の審判はとても穏やかには見えていない
何だろうか、まるで獣が獲物を見つけて静かに息を潜んでいるかのような感覚を体に覚えるが言葉で表すことは彼には出来ないだろう
司会の声が会場内に響き渡る
『さぁ始まりますっ!何やら風の噂でグァゾ選手もなんと天位職だという話が出て来ております、もしそうならばこの2人の戦いは超一流の戦闘になるかもしれません!術壁を構築している術者さん強めにお願いしまーす!』
客席の最前列で各地点で術壁を発動させている彼らが苦笑いしているけども本当にこの戦いは抑える事が出来るジャムルフィンとは違いまだ不慣れな力のぶつかり合いになる可能性は高い
もし西皇帝グァゾが天位職だったならば?
これはどれだけ己の能力を理解しているかの熟練度の高さを求めた戦いと言っても過言じゃない
『私の魔力も使いましょうか』
スカーレットさんがそう告げると手を前に出して透明になっている術壁に魔力を込め始めた
会場内の準備が始まるがリング内の2人も同じく準備を開始した
『天位職同時か・・・』
グァゾが小さく笑いながらカールに向けて向けた言葉
その言葉に深い意味は無いと悟ったカールは一息つくと気楽に答え始める
『お前は天位職だろう?』
首を傾げて発した言葉にグァゾは目を見開いて期待通りの返答を送った
『そうだ・・・俺は天の邪鬼、まだ不慣れではあるがそれでも単純な能力の上昇は流石天位職だな・・・お前もそう思うだろう?』
『・・・まぁな、やはり天の邪鬼か・・・ならば話は早い』
『話だと?』
グァゾが肩に担いだ斧を握る右手に力が入る
その光景を見てカールが小さく微笑みと腕を組んで真剣な眼差しを彼に向けて言い放つ
『俺が勝つ』
その言葉を聞いたグァゾの目が一瞬見開くと同時に審判が大きく試合の開始を告げる
『始めぇ!』
口にした途端に審判は急いでリング外に走り出すがそれよりも中央の2人の動きの方が格段と早い
カールもグァゾも己の武器を構えながら一気に互いに間合いを詰めていった
純粋に工夫も無い直線的な滑走に互いの武器をぶつけたが驚くことにカールは押され負けずに鍔迫り合いとなる
『くっ!』
カールが苦虫を噛んだ様な顔つきで武器を押し込もうと懸命に力を入れるがそれはグァゾも同じ
彼の見える上腕二頭筋には血管が浮き出ているのだが彼も本気だという事だ
『ぬぅ・・・』
グァゾも必死だ、そのまま長くは続かない鍔迫り合いを終わらせたのは彼である
『ぬぉあ!!!!』
一気に筋肉を爆発させたかのように大きくさせるとカールの剣を跳ね除けてカールの脇腹目掛けて右足て蹴りを放つ
だが放ったと同時にカールはバク転をして避けるとグァゾの蹴りは空を切る
距離を置いて一息ついたカールは武器の構えを解かずに警戒をあらわにして声をかけた
『力はやはりお前が上か』
認める様な言葉を口にするがそれを否定する事を目の前の男はそれを否定する
『いんやぁ・・・お前が上だな、力だけではあまり違いがないがこの俺の力と相違ない力をお前は持っている・・・俺よりも小さいお前がだ、カール・・・今はお前の勝ちでいい・・・だが!』
カッと目を見開きグァゾは左手を前に出して口を開いた
『術を失ったお前に術はどうだ!効果を掻き消す技などポンポン出せまい!』
彼の左手に魔力が集まり始めると直ぐにそれは術となる
『サンダーバレー!』
黄色い魔法陣がグァゾの真下に出現すると正面に雷の柱が無数現れてそれは一瞬で壁となりカールに向かって地面を抉りながら突き進んでいった
雷という自然が生み出す現象の速度よりは速度は無いがそれでも音速に近いスピードで大きな亀裂音を響かせて真っすぐ正面に突き進んでいく
カールは既に走り出していた、前に向かって
自身が繰り出した術に向かって避ける事も出ずに向かってくるカールに驚きを見せた
『俺の耐久度を甘く見ているぞ?』
右手に武器を持ったまま正面に両手をバツの字にしつつ顔を隠して雷の壁に突っ込んだ
バチィン!と炸裂した音が鳴り響くがなんとカールは何事も無かったかのようにグァゾに襲い掛かった
『くっ!!そこまでタフなのか貴様ぁ!』
右手に持つ斧に闘気を込め始めたグァゾ、だが彼の思惑は間違いである
実際カールは物理盾・魔力盾・特殊盾という全ての攻撃を半減させる本当に卑怯なくらいの優秀なスキルを持って超タフな男となったカールだがそれでもグァゾの上位術であるサンダーバレーは強力なのだ
『ぐっ』
カールが声を漏らすがそれなりにダメージはある、体が痺れるような感覚に陥るけども動けない程じゃない
そのことに心の底からホッと胸を撫でおろすと剣を振り落とし斧でガードするグァゾを吹き飛ばす
『チィ!』
足を滑らせながら後方に飛んだ彼はそのまま真空斬を放とうと闘気を込めようとするが途中でそれをやめた
それもその筈である、まだ自分に辿り着いていないカールがその場で剣を振り始めた
直ぐにグァゾは断罪だと見抜き真横に振り抜かれた剣筋を見て体の横に斧を移動させて見えない斬撃をガードしようとしたのだが予想外な事が起きた
攻撃か来ない
何故だ!?そうグァゾはほんの一瞬・・・人が瞬く空くほどの一周だけ考えたが答えは直ぐに出た
『騙したか!』
途中で闘気の込めを中断してしまったがために今技や術を出そうとしても時間が足りない
グァゾは思った、こいつは判断力を少しでも遅らせるために俺に2択をさせる気だと
フェイクか攻撃かという簡単な2択だがこの場ではそれが致命的な遅れを起こしてしまう
そんな選択を押し付ける男が今目の前にまで迫る
『お前に考えるという無駄をする呪いのおまじないだ!』
そう大声で言い放ったカールは剣をグァゾの斧と再び交わらせると同時に再び口を開く
『ヴィスターフィン!!』
カールの背中から赤と青の2本の腕がカールの頭上に伸びると降下してグァゾに襲い掛かる
『くそっ腕が塞がれ『喰らうが良い!!!!』』
2つの腕が拳を強く握りグァゾに激突する
だが不思議な事に彼の足場は多少地面にめり込んでもグァゾは微動だにせずその攻撃を歯を食いしばって耐えていた
流石にそれにはカールも驚いてしまうがその隙を見てグァゾは動き出す
両手で持った斧から左手を離しカールの剣を外に流してから左手で彼の剣を握る腕を掴んだ
カールは掴まれるという行為には嫌な予感を薄々感じていた
グスタフも掴む、バニアルドも掴む!互いに巨躯といわれる男であり目の前の男も巨躯
となれば答えは一つ
『おらぁぁぁぁぁ!』
『ぬっ!?』
カールの体が宙を浮くと見事な放物線を描きながら地面に叩きつけられた、それと同時に2本の腕も粒子となり上空に消えていく
背中を強く打ってしまい息が口から漏れるが堪えてグァゾが掴んでいる左手に両足を絡ませて骨を折ろうと締め上げた
だが一向に折れる気配は無し、むしろビクともしない
よく見ると彼の腕ははちきれんばかりの血管が浮き出ており必死の抵抗を見せていたがグァゾの顔を見ても額に青筋を浮かべて体全体に力を入れて折られまいと抵抗を見せていた
『馬鹿力め!』
『単純な腕力なら俺が上だ!!!』
再び彼はカールを地面に叩きつけようとカールを宙に浮かせる
だがそれはさせまいとカールは掴まれた右腕の剣を手首を器用に使って飛ばして左手で持つと断罪を使い、上空に向けて突き出すとそれはグァゾの脇腹に見えない剣撃が現れて悲痛な声を口から漏らす
『ぐっ!』
手が緩んだと感じてグァゾから離れると再び断罪を3回後方に移動しながら使いが流石にそれは本物とバレており剣筋に合わせて斧で防がれた
3回目を弾いたグァゾは斧で素早く2回振って真空斬を放つ
今まで見た斬撃よりも遥かに大きい真空斬だがカールは2発とも自らの剣で弾いて横に飛んだ
先ほどまでいた場所に真上から雷が落ちて床が大きく割れてしまうがグァゾは続けて何度も雷をカールの頭上に連続で落とし始めた
『スパーク!』
上空に雷の球体かいくつも出現すると順番にその球体はカールの頭上から真下に雷を落す
それをカールは素早くリング内を縦横無尽に駆け巡り回避していく
軽く避けているわけではない、自然の雷とは違い格段と遅いのだがそれでも術の雷は音速レベルの速度でカールに向かって驚異的な速度で落ちているのだ
『しつこい雷だ!』
カールがそう吐き捨てながら避けているとグァゾも口に笑みを浮かべて口を開いた
『剣を振る時間もあるまい』
『チッ、面倒な男だ』
『ありがとう』
そんな会話を続けているがこの状況でグァゾは雷をカールに落としながら彼に走り出す
術を使いながらでも物理的な攻撃が出来るのだなと思ったカールは雷を避けながらジグザグに移動してグァゾに近付いていく
『器用な野郎め』
小さくグァゾが囁く
互いの武器がぶつかる瞬間にカールは叫んだが
『オータイル!』
一振りで無数の斬撃を一気に出現させるカールの特殊技だが彼はその斬撃をグァゾの斧に向けて飛ばした
互いの武器が交わる瞬間グァゾの斧に連続して斬撃が当たると流石の彼の力でもその技を抑える事が出来ずに斧を弾かれて体が仰け反る
『くそっ!』
体を戻そうと足を大きく後ろに踏み込んで仰け反る体を前に戻しながら左手に魔力を込め始めたがその時には既にカールが次の攻撃の準備が整っていた
だがあえて彼はグァゾが先手を打つのを待っていたのだがそれはグァゾにも既に読まれており左手に込めた魔力を使わずそのままカールを殴った
『・・・っ!』
多殴られた顔を手で触れながら後ろに下がりグァゾとの睨み合いを始めたがまだグァゾは左手に魔力を込めたまま目を細めて彼を見ている
『俺が動くのを待っているくらいお見通しだぞ?お前なら俺が仰け反った時にはもう技くらい即ぶっぱしてるからな・・・馬鹿にするな』
『ふふふ、流石だグァゾ・・・お前みたいな強者がこの国に潜んでいたとは』
高らかに彼を称賛するが喜びを顔を浮かべる様な男じゃないことぐらいカールにもわかっている
『時がきたからな、ちょいと悪者役でここまで来たが勝手にすればいい・・・だがこの大会で時代の先駆者に挑める者は俺かお前かのどちらか1人だけよ!』
斧を大きく振りかぶりながらカールに突っ込むと互いの武器のぶつかり合いが始まる
両者共に押して押されての泥試合が始まるが観客もその光景に唖然としてしまう、普通のぶつかり合いとは思えないしそもそも剣筋が早くて十分に捉えきれないのだ
冒険者には多少見えても一般の者には武器でぶつかり合っている筈・・・このくらいのレベルでしか見えていない
『カール!どうせ効果抹消する技を使う気だろぉ!?悪いが俺はそんな事されても単純な力がある!それに貴様も傷が癒えてない筈だが何故完全に治さなかった』
武器をぶつけ合いながらグァゾが質問を投げると即答気味でカールが答えた
『ナッツ君が必死に頑張った功績を易々と治癒で消したくなかったものでな!』
『チッ!真面目野郎が!』
そう大声で口を開いたグァゾは真横に斧を振るが後方に跳躍されて回避される
すかさず空中で断罪を使い剣を3回何もない所で振ったがそれは全て剣筋を見切られて防がれた
着地と同時に再びスパークを1発撃ってカールの頭上からの攻撃を仕掛けたが着地度同時に床を蹴って真横に避けて雷に当たる事は無かった
グァゾは少し息が上がっているが許容範囲でありまだ十分に戦える
だが昨日の怪我が十分に癒えていないカールは無理に動いている為、長期戦になれば苦戦を強いられるだろう
当たらなかなくグァゾは舌打ちをすると斧を肩に担いでカールに話しかける
『気持ちはわからんことは無い、俺も千剣の勇姿には感銘を受けたがそれはお前が勝手に背負っただけの事、負かしたならば責任を持って結果を出せば奴も浮かばれよう』
『はは・・・死んで無いぞ?』
『茶化すな天罰めが』
悪い奴じゃない、カールはそう感じる言葉を聞いた
確かに彼の雰囲気は悪者のイメージがつきがちだがれっきとした冒険者であり悪さは働いてはいない
ただ己の野望に忠実に動く男だという事だけだ
『貴様のその背負いたがりは今に始まった事ではないが、まぁいいだろう・・・お前の自由だがそれは時として上に上がる時には邪魔になる可能性もある事は肝に銘じて置け』
カールはその言葉に心が少し揺れた
インダストリアルでの王虫クワトロンでも同じことを言われたからである
いらない何かを背負っている、それはこの先に入らないと
目の前の大男にも言われたことにカールの心が多少揺れたのだ
当然その心の動揺を見抜けないほどグァゾは甘くはない、彼はゼリフタル西地方の皇帝と言われる者
そのグァゾの眉がピクリと動くと一気に地面を踏み抜いてカールの間の前に飛び出した
今迄に見せなかったくらいの速度で到達しカールは驚いくが冷静に振り下ろされた斧を避けて懐に潜り込むと腹部に肘を押し込む
だがそれは悪手であり肉体を鍛えているグァゾには十分なダメージは入らない
『コソコソと!』
したから膝蹴りがくるが体をくの字にさせつつ後方に下がり間一髪避けるがグァゾは休ませずに直ぐにカールに走り出した
『予想以上の強さか』
殆ど聞こえないくらいの声で囁くカール
だがしかしその言葉を発したあとに彼の顔は真剣になる
グァゾが左手に魔力を込め始める
この接戦を観客は興奮すら忘れてただ呼吸をしながら目の前の試合を呆然と見ることしか出来なくなっているがそれはどちらが勝っても可笑しくないと思っているからである
そうとは知らずにリング上の二人の戦いは続く
カールの目の前で魔力を込めた左手を前に出すが直ぐに拳を握って普通に殴る為に腕を振ってきた
『姑息な騙しめ』
『へっ!お前が言うか!』
二人が軽く会話をするが殴られまいとカールは頭を横にずらして避けるが通過した左手を開いたグァゾはニヤリと口元に笑みを浮かべた
『!?』
何かしてくる、避けられるのも計算かとカールは疑い後方に大きく飛び退いたがその時にグァゾの手が開かれて入ることに気づいたのだ
(こやつ避ける方向を予測して!?)
心の中で口を開くカール
逃がすまいとグァゾは言い放つ
『サンダーバレー!』
再びグァゾの目の前に雷の柱が無数に現れ壁と化すと前方にいるカールに襲いかかる
丁度着地をしようとしていたカールはそこからの回避が出来まいと悟って
テュデストラフターを発動して青白い突風を巻き起こしてサンダーバレーの壁をかき消した
一先ず難を逃れたかと胸を撫で下ろしたいが消えた雷壁からタイミング良くグァゾが斧に魔力を十分に込めながら飛びかかってきていた
『ふはっ!一気に決めさせてもらうぞ!ジョーカーマジックフィールド!』
ブワッと言う音がカールの耳に入ってくるが風が来たわけでもない、グァゾの魔力がリング上を埋め尽くす際に微かに聞こえた音である
飛びかかってきた彼の斧を避けると僅かにカールは違和感を覚えた、楽に避けれる筈なのにギリギリであった?何故?
少し視線を辺りに向けるが少し黒みがかった様な気がしないでもない
だだリングが多少床が割れたりしているだけ
なのにこの違和感は一体?
『まだまだいくぞ!』
一振りを避けられたグァゾは再び走り出した
カールも違和感の正体がわからぬまま彼の単純な物理攻撃を近づく前に真横に避けようとしたがその瞬間グァゾは言い放った
『横に避けたいだろ?んで断罪だな!?』
『!?』
読まれている?兎に角バレているなら危険だと察したカールはあえて懐に飛び込もうと床を蹴って一気に加速したのだが
『知ってたぜ?』
グァゾは不適な笑みを浮かべて懐に飛び込んできたカールの腹部に膝蹴りをお見舞いした
『ぐっ!!』
苦痛を声に出したまま後方に吹き飛ぶカールを嘲笑いながらゆっくりと背伸びをするグァゾ
カールは床に背中を打ち付けるも直ぐに立ち上がり警戒をあらわにして彼を睨み付けた
流れが一気に彼に傾いたが何故?それにダメージが深かったという事態にカールは彼に上手く踏み込めないでいた
苦虫を噛んだかのような面持ちに目の前の大男は答えた
『ジョーカーマジックフィールド、相手の補助スキルを一時的にだが封印するんだ…1分間だがそれだけあれば貴様は倒せる!動きを読めるのは天の邪鬼の特殊な能力である程度次の行動が気まぐれでわかるんだ』
『気まぐれだと…ネタばらししてもいいのか?』
『どうせお前は今負けるからだ!行くぞ!終わりにしてやる!』
グァゾは時間を与えまいと直ぐに行動を開始するが気まぐれで行動を読み取るというのが本当なら相当厄介なのだ
ジャムルフィンの予見スキルの下位互換であってもたまに分かるという事は相手に策を練られるからだ
だから自分の行動がたまに読まれていたのかと無駄にカールはスッキリした
断罪でのフェイクでは気まぐれ予見が発動しなかったんだと思うとその特殊な能力の発動確率も低い筈、ならば今自分も相手を倒す気でいかないと不味いと悟るとカールは賭けに出た
カールもグァゾに走り出すと両手に魔力を込めた大男はニヤリと笑みを浮かべてからカッ!と目を見開き叫ぶ
『アインビルドゥングパルサー』
チャッピー戦で見せた閃光が辺りを包み込む
超速で繰り出された電磁波の衝撃がカールを飲み込むと彼は全身の体に鋭い痛みが走り吹き飛ばされてしまう
宙を舞うカールは空を見上げると既に雷術では最高峰ともいえる彼のトールハンマーが頭上に展開されていた
雷の球体がリングの上を隙間無く埋め尽くす光景を目の当たりにしたカールは流石に避けれまいと諦めるが空中で回転して上体を正す
その時にはグァゾは掲げた左腕を振り落として最後を歌った
『俺が代わりに審判を下してやろう!トールハンマ『天罰』』
囁くようにして口にしたカール
グァゾは驚きの光景を目の前で見てしまう
驚くほどの速度の突風が自分を通過したと思ったらリング上を埋め尽くしていた雷の球体が消え始めたのだ
『なっ!?馬鹿な!!!』
あり得ない!と彼は悟った
グァゾは相手の技や術を打ち消すテュデストラフターは連続で撃てないと予測していたがそれはズバリ当たっていた、1分間のクールダウンが確実にあると気づいたからだ
普通ならば相手の攻撃をもっとテュデストラフターで消せば良かったのにそれをしない
使えばよかったタイミングで使わなかった事をナッツとの戦いで見抜いたのだ
だがグァゾは大きなミスを犯した
天罰という技の詳細を知らない、知るものはインダストリアルでカールと共に命を賭けて戦った者のみ
天罰の技の情報は天位職の書には唯一記載されておらず誰も漏らしていなかったのだ
『本当の裁きを見せてやろうグァゾ!!』
呆気にとられた大男はようやく正気に戻ったが既に遅い
トールハンマーで出現した無数の雷の球体が消えたと同時に空から青色の巨大な光線がグァゾ目掛けて堕ちたのだ
一瞬会場は揺れてふらつきながらも悲鳴を上げる観客は多い
幸いにも堕ちた時の衝撃波は術壁で観客は守られたが軽く亀裂が走ってしまい司会も驚き身を屈めてしまうがスカーレットだけは微動だにせずリング上の光景を静かに見守っていた
難なく着地したカールは剣を構えながら砂煙が晴れるのを待つがリングは既に半壊状態であり端の部分しかまともな足場か無い
中央は深く陥没してしまうが皆グァゾが生きているのかすら不安に陥るけどもその心配は直ぐに晴れる
『……お前の切り札か、知っていれば多少食いつけたのだが』
砂煙から人影が見え隠れしているが次第にそれは濃くなっていき煙の向こうから全身血だらけのグァゾが出てきた
肩で大きく息をしているが表情は不思議と小さく微笑んでいるかにも見える
だが相当なダメージを手痛く受けているのは誰から見ても明らかでありそれはこの勝負の行方が見え始めたと捉えても良い
『……俺達の戦いは』
ふとグァゾが話始めるとカールは構えたまま彼に耳を傾けた
『小手先の連続から隙を作り相手にどれだけ重い一撃を与えるかだ、互いに引かない戦いならばその一撃が致命的だ…ポコスカな殴りあいではない、大事な一撃を狙った戦い、それを喰らった俺は今続けてもダメージ量で先に床に倒れるのは俺だろうな』
単純な戦いではないと彼が言う
この戦いはいかにして自身の切り札を有効に使い有利を持ちながら相手にダメージを与えるかだとグァゾが言うが間違いではない
お互い切り札をどこで使うか探りながら戦った
だが結果としてグァゾは自身の切り札を天罰でカウンターされて重いダメージを背負ってしまった
ここからは続けてもじり貧になるのは自分だと悟ったのだろう彼は最後に言い放った
『降参だ!だが覚えておけカール!この場に出た者に半端者はいない!全てお前が手にした決勝の切符を手にするために…あの銀狼と戦うためにだ!何を背負うかは貴様の勝手だがその思い手緩く扱うでないぞ!我らは常に貴様の後ろにいるが今回はお前に譲ろう!』
『………わかった』
カールは静かに返事をすると座り込んだグァゾに背中を向けて歩き出した
『勝者!天罰者カール!決勝はカールが手にしました!』
ようやく観客全員が歓声を大きく上げる
この一戦を称える声を他所に彼は歩きながら口を開いた
『私が奴を倒す、そして俺は始まる』
その言葉の意味はグァゾにもわからない
だが今カールは決勝という切符を手に入れたことに嬉しく思い小さく左手でガッツポーズをした
立つのがやっとであり崩壊したリング中央で腰をおって座っているグァゾに救護員が駆けつけると数人に支えられながらその場を後にした
『さぁ皆さん!明日は決勝になります!銀狼のジャムルフィンと天罰者カールの戦い!去年の決勝と同じ結末となりましたが今年はどうなるか!私も楽しみですので皆さん遅れずに明日は観戦しましょうね!』
ウキウキな面持ちな司会はマイクにそう告げる
こうして今日の武人祭は終わりを告げ
明日が最終の決勝となる