12話 中間地点にて
銀彗星で超加速をした俺は鉄塔の真下で暢気に話し込んでいる魔族兵3人に狙いをつけた
お前等は気づかないだろう、気づく様な強さはない
彼らを通り過ぎ様に3人に槍を回して首を跳ね飛ばした
力無く倒れていく亡骸を横目で確認しつつも足で勢いを殺して真上に視線を向けるがどうやら気づいていないらしい、できるだけ音をたてない様に切ったつもりだし大丈夫だ
すぐ横には小さい小屋があるけどもそこに誰かがいるというような事はない
登るのも面倒だし俺は姿勢を低くしてから口を開いた
『おい!』
俺は鉄塔の上に顔を向けて大声を出しすと予見が発動する
その予見の読みを信じて銀彗星で真上に飛ぶと槍を引いて勢いよく突き出したんだ
『なんだ?』
そうだよ・・・お前が顔を出すタイミングはわかっていたさ
一瞬その魔族の顔が驚きに変わるがもう遅い
『ガフッ!』
口に槍を押し込んで貫通させるとそのまま鉄塔に上に着地した
残る魔族は何が起きたかわからない様であり大きく体を震わせながらその場にへたり込んでしまった
上級戦闘魔族というのに敵襲に慣れていない様だな、平和ボケし過ぎだ
看板だけの言葉はお前らには必要はない
残らず殺す
死んだ魔族の口から槍を抜くと俺は怯えて震えている魔族に槍を向けて話しかけてみた
『お前らの大将を殺しに来たがそのまえに一つ聞こう、このインダストリアルの魔物の主とはなんだ?』
知っていて損はしないだろう
その情報があれば気を付ける事もできる筈である、それにしても怯え過ぎだ
残像が見えるくらいに震えているけども逆に鬱陶しい気持ちになるがそれを抑えながら彼の返答を待った
『虫神様という事しか・・・知りません・・・』
大将よりもそっちの情報が重要だ、多分そいつの方が強い
だから今でも堂々と縄張りを保有しているんだ、俺達が無事にここを出るにはその存在は何者なのか知る必要が一番だと睨んでいる
俺は上級魔族兵の顔面に槍を突きつけた
彼はとうとう失禁してしまい涙を浮かべて再び口を開く
『それ以外の事は知らないんです・・・腕試しに上級戦闘員が山に入っても戻ってこなかったんでず、ほんどうなんでず』
泣いている
敵意は無いようだ、横には降りる為の螺旋階段が見えるので槍の先をそこに向けて彼に言ったんだ
『降りろ』
『ばい・・・』
俺も殺す気が失せた、というよりも可哀そうになったんだ
なんだかこいつは悪い奴じゃない様な気がしたからである
その魔族を先頭にして階段を降りると遠くから俺の仲間達が近づいてくるのが見えた
俺が突っ込んだと同時に進んで来たらしいが良いタイミングだな
ようやく合流を果たすとカールが苦笑いして俺に話しかけてきた
『ありがとう、俺も1人生け捕りにしてほしいかと悩んでいたが言わなくてもよかったな・・・助かる』
よかったよかった、間違っていなかったし一先ず大丈夫そうだ
人間が大勢いる事に魔族の者は驚きを顔に見せるがそれを気にせずナッツが質問を投げたのだ
『山に住む上級戦闘魔族らしいですがそのなかでも強いのは誰がいますか?』
一番分かりやすい質問である
難しく複雑な言葉を並べるより遥かに良い、しかも怯えた魔族でもそのくらいは答えれそうだ
そうしたやり取りをしている最中にモリスは小屋の中を散策し始めた
もしかして今日の宿にする気か?
『強いのはキャズバル魔将軍様でありその側近に三騎士がおりばす…他には魔将軍の副将であるアムルタさんです』
泣きながら頑張って答えてくれた
この状況からで出た名だが本当にその4名が強いのか
1人死んだしそれなりにいけそうか、誰1人として臨機応変に戦えるような面子しかここにはいない
『僕は元々街の生まれでず…親だけでも良いものを食べでほじぐで頑張ってここまできだんでず、どうか命だけは』
本当に殺さなくてよかったなぁ!
こいつは根っこからの上級なんたらじゃないんだな
ならば今回は見逃してやるか
そう思ったのは俺だけじゃないらしい、グスタフが口を開いた
『1人で街まで降りれるか?』
『無理でず魔物が出てきだら自信ありまぜん』
そうかそうか、整備された道だとしてもランクBの魔物は彼には驚異らしい
すると鉄塔の横にあった小さな建物を調べに入っていたモリスが出てきて口を開いたんだ
『今日はここで休みましょ?ここ中間地点ぽくて休憩所のようですよ?食料もありますので一旦死体を片付けてから入りましょ』
中間地点か、まぁ1日あるいて現在17時
太陽もそろそろ姿を消しそうだ
魔族は帰れない様なので武装を解除してナッツとカールが面倒を見ることになった
死体処理はバニアルドとグスタフ
女性陣は建物の内部の掃除をするらしく張り切っている
どうやら埃っぽいと気になったらしくて掃除をしないと落ち着かないのだろうな
俺は鉄塔の上に登り高い位置から周りを監視することにした
『今日の飯はおでんかぁ』
泊まる予定の建物には街から摂取したと思わしき食材があった
上級戦闘魔族は街からの貢ぎ品だけで食料問題は解決してるらしいけど自給自足はできないのか本当に?
一息ついて街を見下ろした、千里眼でも見えるけども問題はない
というかあいつらが嫌いな上級戦闘魔族は俺達がいる道しか通らないから大丈夫じゃないわけがない
そして目的地である山の中腹に目を向けた
前回は見えなかったけど今は見える
森に何やら建物の屋根のようなものが見え隠れしていた
あそこだな…銀彗星なら即効いけるんだけど今回個人行動は流石に白い目で見られるしやめとこう
『ここは丁度両隣の山に挟まれた場所か』
目的地の山の両隣にあった不気味な山
その2つの山に挟まれる形に今俺達はなっている
飯が出来るまで俺はここで監視なんだけど監視塔の物見は少し風が強い
だけど冷気体制のある俺は寒いとは感じず快適な監視を続けている
ふと目的地の山から何者かが数人こちらに歩いてくる様子が見えた、俺はそいつらを凝視すると少し偉い感じの魔族の者と部下らしき兵士が10人が山を降りてきているがこのままだと1時間程度でここまで辿り着くだろう、俺は直ぐ下にいるグスタフにそれを伝えた
死体処理は終えて待機してくれていたので直ぐに仲間との情報が共有できる
少ししてからナッツが鉄塔を登り俺のところまで来るとこちらに向かってくる魔物達を見ながら口を開くが彼にはまだその正体は目に見えていないだろう
『とりあえず僕らは姿を隠して様子を見ましょう、ここまで来たら先輩は彼らが逃げない様に銀彗星で後方を固めてください正面は僕らが何とかします・・・もしかしたら三騎士の1人が戻らない事がバレて調査に街に降りてきた上級戦闘魔族の者でしょう』
平和ボケしていそうな敵もそこまで馬鹿じゃないらしい
俺はそれに同意をすると再びナッツが話しかけてきた
『生け捕りにした魔族兵はアレスという街生まれの魔族らしく街の中でもそこそこ強い者だったようであり上級戦闘魔族に引き抜かれたらしいです、アレスの家の貢ぎだけは免除してもらえる話で彼はその話しに乗ったらしいですが対するアレクさんは家に帰れず上級戦闘魔族に迎えれてからは一度も里帰りを許されていないって聞きました』
可哀そうだな、しかもその後の話では5年も親の顔を見ていないんだってさ
殺さなくて本当に良かった
他に倒した魔族にもそんな事情の者がいたのか不安にもなったけどどうやら俺が殺した他の魔族は根っこからの上級戦闘魔族らしく良い様に使われており彼らは仕事をせずに全部アレクにまかせっきりだったとか
屑を殺してたのか!よしいいぞ
『モリスさんが作ったおでんが美味いと泣きながら食べてますよ?アレスさん』
なんだぁ・・・?もう飯できてるんじゃん
それをナッツに言うと苦笑いして謝ってきた、まぁみんな食べ終えてから交代で俺が食えるんだろうけどさ
わかっているよ
ナッツと話し込むとバニアルドが上がってきたので俺は後退して下に降りるがその向かってくる魔族を処理するまで一旦飯を抜くことにした
下には既にカールとミミリーそして共に降りたナッツがいる
モリスとルルカそしてコットンは捉えた魔族のアレスと建物の中で静かにしていると聞く
俺達はカールの提案で建物の影に隠れて様子を伺う事にしたがバニアルドは鉄塔の物見で潜み
グスタフは少し変わった事をしてくれるらしいが姿が見えない、気を探ると建物の中にいるのだが
『あと数分でここにつくはずだ、今道に出ると流石に姿が見えるから決して影から体を晒すな』
カールがそういうので皆静かに隠れることにする
潜みながら顔を少し出して様子を見てみるが全員それなりの武装を整えている
先頭を歩く魔族は少し強そうな風格だがまだ魔族の気配から強さを割り出すのは無理だろうけどこいつと戦えばある程度の目安の気は測れる
『そろそろ引っ込めろジャムルフィン、お前はいつでも彼らの背後に回れるように建物の反対側の影から準備しろ』
『了解』
カールの言葉に俺は直ぐに反対側に回る
そうして地獄耳でも聞こえる範囲に迫った魔族達の会話を盗み聞ぎしてみることにした
どうやら少し機嫌が悪いご様子な会話が耳に入ってくるので俺は細心の注意を払い気を抑えることにした
抑えなくても俺の気は感じないらしいけどもね
『ヴィクター殿も一体何をしているんだ、この時期に勝手に街に降りるなどキャスバル様にバレれば不味いのに勝手が過ぎる』
『メリル殿、でも何度言ってもあの方は聞き入れてもらえないのでどうしようもないのですよ』
『三騎士の1人という自覚がないのか、だからといって好きにしていいという事にはならんぞ』
『キャスバル様も困ったお人だ、このままでは街の者も衰退してしまうし今の現状街の者は奴隷扱いではないか・・・下級といえども同じ同士を何故あの人は何とも思わずこのようなお考えに』
『上には逆らえません、他の者もそれは心に隠しておりますので一先ず飲み込んでください・・・私にも家族が街におります・・そして彼らにも家族がおりますので複雑な気持ちなのです』
魔族兵の者達は深刻そうな面持ちである
こいつらは上級戦闘民としてもまともであり街の生まれだというのか・・会話の内容も街の者を想うような言葉しか飛び出さないがギリギリまで様子を見ようか
先頭のメリルという魔族兵は女か・・・褐色だが、可愛いな!胸がデカい!
『この日々がいつまで続くか・・・街が壊れるのが先か上級戦闘魔族として生きる我らの節度が変わるのが先か』
『・・・前者かと』
『そうか、我らは流れに身を置くしかない様だな』
全員が今の現状に満足していないようだがそれなら変えればいい
そのやり方は彼らには到底できる事じゃない、力が足りない
俺がその力を持っている
『銀彗星』
そう言った俺は建物の影から飛び出して一瞬でその集団を通り過ぎて後方に構えた
突然の突風に警戒を見せるが後ろに向き直したメリルが驚愕を顔に浮かべて腰の細剣を俺に向けてくる
左手に持つ槍を肩にかけて彼らを1人ずつ見回したが全員戦闘態勢に入るのが早い
こいつらはそれなりに対応に熟知しているという訳か
だが通り過ぎ様に俺が攻撃を仕掛けていれば半分以上お前らは死んでいる、奇襲とはそんな事も可能だ
もしくるとわかっていたらもしかしたら対応されていたかもな
険しい表情を浮かべるメリルは俺に口を開いた
『人間か!?何故このような島にお前の様な者が』
俺もわかりやすく彼らに伝えることにしようか
右手の甲に気を高めて十天の証である刻印7の数字が輝きながら浮かび上がるとその光景を見てメリルが口を開いて体に緊張を走らせた
どうやらこの数字の意味を彼女は理解しているらしい、俺はかまわず口を開いた
『十天第7位の銀狼のジャムルフィン、バハラの頼みで邪魔な上級戦闘民族を全て殺してお前らの陣取る山に眠る天位職の情報を奪いに来た・・・悪いがキャスバルという馬鹿も何もかも逃がすつもりはない、死にたい奴からかかってこい』
凄みを込めてそう伝えるが少しその言葉には罠を仕掛けておいた
本当は街に被害が出ない様にするなら街からの頼みと言わない方が良いのは当たり前なんだけど俺はあえて口にした
バハラという魔族の男の名をだ、この名前に反応してくれるのならばお前らの対処も変わる
十天という言葉は魔族には広く知れ渡っている事はバハラから聞いていたけど出会ったら絶対に逃げないといけない存在らしい、なんか照れる
そのせいだろうか、魔族兵たちは怯えを顔に浮かべて足を震わせていた
『本物の十天・・勝てるわけがない』
『ここまでか・・・』
そんな声が聞こえる最中にメリルという魔族の女性は違う言葉を口にした
『おまえは・・いや、あなた様は十天なのにバハラの頼みで我らを殺しに来たというのか』
知っていそうだな、誘導尋問という言葉がある
それに似た形で聞きたい事を聞き出してみようと思い彼女と会話をすることにした
『そうだ、お前らが死ねば魔族の街は平和になる・・・魔族だというのに人間に泣いて頭を下げる者の頼みだ・・・どういった心境で口にしたかお前らにはわかるまい、滅びる先が見える者達がどんな手を使ってでも生きる目的のために手段を選んでられない事をな・・・俺にはキャスバルを殺す力は十分にある』
形だけの抵抗を見せる魔族兵達をよそに俺はそう言った
するとメリルという魔族は静かに他の部下に武器を降ろすように命じたのだ
構えていても意味がない、立ち向かっても意味がない事が明白だからである
確かに10人の魔族兵は俺に武器を向けていたが敵意も無い警戒に意味をなさない、諦めが目に見えていたんだ
勝てない奴が目の前にいると
そうして彼女が答えたんだ
『私達も殺すのか?人間なのに魔族の頼みを聞いたというのか?』
『バハラからの頼みだ、彼には絶対の覚悟を感じた・・・最悪な判断した責任を全て背負う覚悟をな、それに俺はお前の言うその人間なのにという言葉がわからない』
俺はグスタフやバニアルドの言葉を思い出した、言葉では言い表せれなかったことを2人が言葉にしてくれたんだ
彼らに学ぶべきものを俺は学ばせてもらった、ありがとう
そのままメリルに話したんだ
『種族は関係ない、助けを求める声にいちいち魔族だからとか俺達には関係ない・・・弱い者を守るのは強い者の役目だ、たとえそれが違う種族だとしてもだ』
なんだかスッキリした気分になる、後悔は決してしないであろう理由だ
これが俺の理由なんだと非常に体が軽くなるのを感じたんだ
その言葉に何かを感じたのは俺の前にいる者もであるだろう、メリルは悲しそうな顔でこちらに何かを訴え始めた
言葉はない、けれども悲痛なオーラを確かに俺は感じていた
私達もその中には入れないのか?と
『その魔族を殺しちゃ駄目ジャムルフィン!』
その声に俺や11人の魔族は視線を向けた、メリルの背後になる建物の方角からミミリーが血相を変えて走って来たのだが彼女の後ろにはアレクやコットンそしてモリスもいる
カール達はその後ろを走ってきているみたいだが殺す気は無かったよ!?あの会話聞いて殺す気になれるかよ・・・この職になってから殺すことに躊躇いはなくなったけど彼らの言い分を聞いたら流石に殺さなくても良い判断くらいできるんだけどさ・・・
メリルたちは俺に仲間がいたことに驚くが剣を向けることは無かった
敵が増えただけであり彼女らにとって状況はますます悪化したんだ
逃げ場はない
そうしてミミリーは反対側にいる俺に聞こえるようにして話しかけて来たんだ
『メリルはバハラの元婚約者よ!ニヴァから聞いてたけど街から有望そうな者の引き抜きで何人かいる筈だから無暗に殺しちゃ駄目だよ!その人は引き抜きで街を壊されたくなかったらいう事を聞けと脅されてやむなしで従ったんだ、他の者もそうだよ!言わなかったのは謝るけどそれをいうと明確な敵が誰だかわからなくなるのが怖かったんだよ』
そうかぁ・・・引き抜きは強制か、有望な魔族は強制的だったのか
従わないなら街を壊すかぁ・・・その判断を下した野郎を殺さないとなぁ
するとミミリーの言葉を聞いた後数人の魔族兵が武器を地面に落として俺に土下座して口を開いてきたんだ
『お願いします十天様!どうか命だけは・・・街に住む親のためにここに来ましたがその親が命を削って献上した食料を食べて生きるのはもう耐えれません、僕はもう街におりますのでどうか命だけは助けてください!決してもう街を困らせませんのでどうか』
『俺も妻が妊娠した時にここに来たんだ!まだ息子の顔を10年も拝んでいない!頼む命だけは!せめて生まれただろう息子の顔を見させてくれ!』
そんな声を聞いて俺は少し気持ちが複雑になる
本当に十天という言葉は凄い便利だしこの場は大いに使わせてもらうかな
すると奥からナッツが歩いてきて俺に声をかける
『バニアルドさんは先輩と同じく地獄耳なので話が聞こえましたが倒す対象ではないんです、アレクの話でもメリルさんの小隊は全て街の者です』
そういうとアレクは血相を変えて俺に歩み寄ってきて両膝をつきながら服を掴んできて懇願して来たんだ
『頼みます十天様!上級にも訳ありがいるのです、どうかお願いします・・・家族が街にいる魔族もいるんです!慈悲がありましたらどうか救える命を救ってください』
難しいように感じるがそれは俺が考えなくても良いだろう
カールとナッツが見極めてくれる筈でありそれを俺は従えばいい
そうした話をしていると全ての魔族兵は武器を捨てて両膝をついて降伏を見せた
一部の上級戦闘魔族の思惑か、ならば上層部を皆殺しにすればいいだけの事
俺は軽く溜息をつくとアレクの手を掴んで答えるしかなかった
『お前も今起こる事の責任を背負う覚悟があるならば助けてやる、バハラ1人に背負わせるな』
アレクは小さく頷いた
そのまま視線をメリルに移すと彼女はどういっていいかわからない様子だった
『彼女たちは街に降ろせばいいだろう、変な気を起こせばその時ジャムルフィンが殺せばいい』
カールが言う事に俺は賛成した
一先ず彼女たちの武装を解除して街に降りるように指示を出すと大人しく従ってくれた
安堵を顔に浮かべる魔族兵たちの中でメリルだけは困惑していた、嬉しい筈なのに彼女だけ
『本当にやるのか?』
そう俺に話しかけてきたが答えは変わらない
『それしかもう方法はない所まで来ているんだ、今更綺麗ごとを選ぶか?仲良く話し合って解決しましょうって馬鹿な連中に取り繕うか?』
『いや・・無理だろう』
『ならば街を降りろ、俺達がその代役をするんだ・・・』
するとメリルは少し考えてから真剣な表情で再び話しかけてきた
『キャスバル将軍が守る宝が君達が求める品かは定かじゃないが将軍の巣くう建物の後ろにある洞窟に異常なくらいの警備がしかれている・・・もしかしたらそこかもしれない、君達を見てから思ったが三騎士のヴィクターが戻らないという事はもう生きていないんだな、ならば三騎士の2人そしてキャスバルの副将アムルタとペットには気をつけろ』
ペット?その言葉に俺は首を傾げた
どうやらキャスバル将軍が飼っているペットらしいんだけどその正体は誰も見た事がないとか
獰猛な魔物を地下の檻で飼育していると彼女が言うが幹部連中じゃないとその正体はわからないだとか
一応三騎士の強さはわかっているつもりだ、バニアルドがほぼ奴を無抵抗で打ちのめしたと聞くと弱いんだなと勘違いしだがそれは違う
ここにいる者達が強いんだ、国でも名が先に上がるほどの強者の集まりが数多くいるんだ
三騎士だって強いに決まっているが相手が悪かったと捉えてもいいだろう
『ようやく母さんに会えるんだ!』
『普通の暮らしが待っている、早く街に戻らないと』
魔族兵も目に希望を持ち始めているが街でちゃんとその能力活かして守れよ?
兵士たちが降りていく様子を俺達は眺めるがメリルだけはこちらを振り返り何かを言いたそうな面持ちだが
コットンやモリスは気にせず建物の中に入るが大丈夫か?今色々起きたばっかなんだけどさ
俺は飯になるので建物の中に入ろうとするとようやくメリルが口を開いた
『本当にやるのか?』
『そうだけど不服か?』
『いや・・そうじゃないが』
『ならさっさと降りればいい』
『虫神様にはもうバレている』
メリルがそう口にすると近くを飛んでいたカブトムシを見つめ出した
重低音を高鳴らしてこちらの様子を見ているが不気味だ、本当に虫なのか疑いたくなる
俺は少し彼女に聞きたい事を聞こうとするがそれは近くに歩み寄ってきたナッツやカールもだろう
俺達はずっとこの島全体を縄張りにした存在を気にかけている
『その虫神とは何なのか知りたいのだが』
メリルは無言で頷くと部下たちを先に街に降ろすことにして建物の中に入ったのだ
おでんのいい香りにメリルも先ほどまでの堅苦しい雰囲気は一気に消えて俺達と共に皿に盛られたおでんを口に含んで美味しそうに食べ始めた
外はバニアルドとグスタフそしてミミリーが外で見張っているので大丈夫だし俺はリラックスしながら美味しくおでんを頂いた
ここにはモリスとナッツそしてカールにルルカがいる
建物の中は予想以上に広く整理されているがこれは女性陣の掃除のお陰だな
そうしてメリルが口を開いたんだ
『我らはインダストリアルという場所をどんな島か知って宝を隠していると聞いたことがある』
俺達の飯を食べる手が止まる
真剣な表情を表情を浮かべて彼女の言う言葉を一言一句頭に叩き入れようと静かに聞き始めた
『邪悪な魔物がいるからこそ絶好だと昔の魔族はここを拠点にした、だけどもこのインダストリアルの主は予想以上の化け物だったと聞いている・・・どういった経緯でこのように街を構えて大きな山の中腹に建物があるかは知らないけれども、昔の魔将軍ヤンバルという人が太刀打ちできなく散ったと聞いたことがある・・・当時強いと言われていた魔族の将軍がだ、君たちは強いのはわかるがその主の機嫌を損ねない様に動けば願いは叶うだろう・・・だが』
俯いていたメリルは顔を持ち上げて静かに最後言ったんだ
『現在の魔族大将軍様でも主の住み家に立ち入ることに抵抗を覚えた存在だ、魅入られたら死ぬぞと』
俺達の目的が達成される条件としてはその存在に出会わない事か
十天である俺にもそう言うという事はそのインダストリアルの主とは恐ろしいほどの力を保有しているのか
『わかりました、皆さんも気をつけましょう・・・もし最悪出会ってしまったら』
ナッツは真剣な表情を俺に向けて続けて言った
『先輩は出し惜しみせず直ぐにシルバシルヴァを発動させてください』
『わかった』
死ぬ気でいかないと駄目な奴か、会いたくないなぁ
アレクもその話を聞きながら黙々とおでんを食べているが幸せそうだ、さっきまで俺に殺されかけてボロボロに泣いていたことが嘘のようである
その場の状況に適応すんのも早い
『我慢確定ですね』
ナッツが俺達のためにそう言い放つ
密かに出会いたいという感情を彼はわかっていたから口から出た言葉だ
残念だがそうしよう・・・当初の目的があるんだよ
俺は食べ終わるとそのまま外に出たのだが暗い、もう19時か
アレクは朝になってメリルと街に向かうという事らしいし今夜はここで休むと言っていた
それに対してカールも色々聞きたいらしいものがあるので都合が良いと賛成したんだ
一同は建物で寝ることになるが俺は鉄塔の物見で寝ることにした
ここからなら予期せぬ敵襲に備えられるし最初覚悟していた寝れない日々が大きく改善されたんだ
このくらい喜んで任務をこなそうと思う
下にはバニアルドが鉄塔に背中をかけて寛いでいるが下の監視は彼なんだな
建物には他の者が入って色々してるのだろうか?
まぁ俺は寝ながら監視をしたんだけど何かが近づけば勝手に起きるんだけど危険の感知能力でもステータスに表示されない感じで俺にはあるのだろうな、非常に便利だ
その夜は何事も起きなかった
朝にはモリスが野菜炒めをみんなに作ってくれて美味しそうにみんなで食べたんだ
メリルとアレクは昨夜の話し合いで街には戻らずついてくることになったんだけどアレクは楽しそうだ
お前本当に魔族か?
支度を終えた俺達は向かうべく山に視線を向けて出発したんだ
真っすぐと目的地に伸びた道を歩いて全員で歩き出す