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【完結済】槍の新兵は夢を見ない  作者: 牛乳太子
第10章 時代の成長期
302/757

3話 ランクB昇格試験、閻魔蠍を倒せナッツ!!

ルッカ『インダストリアル編よ?』


受付嬢は微笑んで再び口にする


『運が良いですね!昇格試験は丁度明日できるんですが受付は今日までなんです!現在は2人試験に挑む人はいますがどうしますか?費用は金貨5枚ですが』


受付嬢がルッツと言ったのは冒険者カードを見てそう言ったんだ

俺達にとってナッツだが他の人からはルッツという名で通っている

だが初めてそんなイベントに出くわして俺達は驚いた、皆何かの貢献で勝手にランクが上がったんだが普通に考えればランク上げは基本依頼をこなして今みたいに一定以上の貢献をした者に対して口にする言葉なのだ

どのようなシステムで声をかけるかは不明だが多分冒険者カードには数値的な貢献ポイントがあるんじゃないかなと俺は予想した


『金なら十分出せるぞナッツ』


俺の言葉にナッツは振り返ると優しく微笑んでから再び受付嬢に顔を向けて返事をした


『受けます』


『了解です、千剣のナッツさんがこのギルドで昇格試験なんて驚きですけどね!』


何だかナッツもそれなりに有名になったかのような言葉だが正解だろう

冒険者同時の口コミはかなり早いし俺達のチームの情報も筒抜けと言っても過言じゃない

ナッツが俺たちのチームの前衛だという事もそれなりに浸透しているんだ


『頑張ります、時間は何時になりますか?』


『10時からになりますので30分前にはここに居てくださいね』


『わかりました』


そこまで話してからチーム資金で明日の昇格試験の費用を払うと俺達はその場を後にした

外まで出る時にヒソヒソと声が聞こえるがこれは俺にしか聞こえない、地獄耳発動だ


『英雄職と言われてるらしい千剣のナッツの昇格試験かよ、こりゃ明日は冒険よりも見学だぜ』


『あの背後で浮いている5本の剣でどう戦うか超気になるぜぇ、シルバーバレットで1人だけ前衛なんだろ、ぜってぇ強いって』


『超情報だな、こりゃ皆に知らせないとな・・・国のトップレベルチームでの前衛マンだぞ、勉強になるかもしれんし見ないとな』


その声を聞いて俺は嬉しくなる、確かに前衛は彼一人である

何故俺が最後衛なのかはいっつも疑問でならんけどな!前に出させろよ・・・でもダメッてみんないうしさぁ・・・はぁ・・

まぁナッツは周りからも認められている言葉を聞いて嬉しくなったことだけは言っておこう

これはお前の努力があったからこそだぞ?お前はそんなことないですよとか誤魔化すだろうけどな


早めに頑固宿に辿り着くと時間があり過ぎるので近くの銭湯に行ってゆったりする事にしたんだが何やらルルカが口をへの字にしてヘソを曲げている


『どうしたぁルルカ』


グスタフが問いかけるとルルカが答えた


『ルッカ姉さんがいないのだー寂しいのだーグスタフ一緒に・・・入『行ってこい』』


グスタフは満面の笑みで女湯に押し込んだ

その光景を見て俺は別にお前ら良いんじゃないかと思ってしまうがまだ早いか・・・うむ


男湯は他に人はそれなりにいたが混んでいる様子ではなく軽く体を洗ってから湯船につかった

ナッツがとても気持ちよさそうにしているしグスタフは頭にタオルを乗せてリラックスし始める

なんだか3人で久しぶりで入ったな


『ケイン君がいないと少し違和感ですねー』


ナッツがふとそう口にするがそれもそうだな、ガウガロに送るまで最初は嫌がっていたが狼人族の子であるケインが一緒にいたんだしそう思ってしまうのは彼だけじゃない

全員がそう思っている


『今度ガウガロでも言って一緒に入ってやるかぁ』


グスタフがボソッと呟く、俺たちの関係は終わってはいない

時間が出来たら会いに行かないとな


『にしても昇格試験か、何をするんだ?』


俺はナッツに話しかけると彼は首を傾げて答える


『誰かと実践稽古をした試験?らしいですが相手は当日までわからないらしいです』


『ガチンコっつぅ事か』


グスタフが湯船で背伸びをして言う

わかりやすいな、その相手に認めてもらうか負かせば合格という事か

単純で良いが相手が誰なのかが問題だ、強い奴ならば中途半端な戦闘じゃ無理だし辛口な奴なら運悪く認めてもらえずという事もあり得る


一息ついたナッツは天井を見上げて口を開いた


『緊張しそうですねぇ』


そう見えないけど、こいつならいつも通りの力は出せると思う


『インダストリアル行き当日に試験とはな、出発は夕方だしいいか』


『夕方ですか・・・』


『丁度いい暇つぶしだぜぇ、ナッツ・・・負けたらインダストリアルまで泳ぎな?』


『ほんといやぁ!』


本当に嫌そうだ、三日間船を追いかけて泳ぐ姿・・・見てみたいな

そうして俺達は風呂を終えてルルカを持って皆で宿に戻った


特にそこから重要な話は一切なく他愛のない会話を堪能しつつ夜食を迎えて各自部屋に戻った

俺はベットに転がり天井を見上げてボーっとしていた、一応色々と考えてはいるんだけども今考えても意味がない事だらけである


子供の名前は何にしようかとか、新しく家でも立て直して見ようかとかまだ先の話であり自惚れた事を考えている

まずはルッカを押し倒さないとな、避妊なしで!!


大事な旅に俺はそんな馬鹿な事を考えて眠りについた



『この圭太様が最強だって知らしめてやるさ!いつか僕の世界の文化を知らしめてやるんだぞ!!』


『本当の名はそう言うのか』


『ああ!そうさ!日本人たるもの米文化無しじゃ生きていけないんだぞ』


『米…だと?』


『そうさ、いつかシルバにも食べさせてやるさ!だから負けて!』


『断る』


『んもぉぉぉぉぉ!』


何やら幸せそうな会話を聞いて目が覚めた

姿はない、闇の中で声だけが反響して聞こえてきたのだ

シルバと話していたのはだれだったのだろうか、圭太?

子供っぽい声だったが……まさかな


俺は起き上がり時間を見ると朝食の時間に丁度よく起床出来たらしく安心した、だって目覚ましかけてなかったんだもん

軽く飯を済ませた俺達はそのまま冒険者ギルドに向かう

なんだかナッツの扱う剣が6本になっていて驚いたが話だと意外と簡単でしたとざっくり言い放っていた、簡単でしたと言われてもそう見えないんだよ


そして今日の夢の話をナッツの隣で話したんだけど意外なことに彼は俺と同じもしかしてを口にしたのだ


『銀の意思からのシルバの記憶の一部でしょうね、情報が少ないのでなんとも言えませんが』


『圭太ってシルバの仲間にいたっけ?』


するとナッツは深く考え出した

軽く唸り声が聞こえるが相当頭を働かせている

そんな彼がふと俺でもギリギリ聞こえる声で呟いた


『…まさか』


顔を持ち上げたナッツは俺に視線を向けて微笑み答えた


『わかりませんね』


一先ずそのままにしておこう、なにを予測したのが気になるがまだ早いのだろう

そのうちわかると思う


冒険者ギルドにつくと何故か超満員で歩く事も困難なくらい冒険者で沢山だ

中に入った俺たちを見て冒険者達が気を効かせて道をどけてくれたがその時に声が聞こえた 


『これは見ないと損だぜ』


『シルバレの前衛だぜ…熊帝に突っ込む力を拝めるし勉強にもなるかもな』


『お前ら静かに見るんだぞ、今回は課外授業だ…戦闘職の動きを見て学べ!学べるかは保証できんが俺は見たいだけだ』


『『はい!』』


なにやらどっかの学園の先生らしき人物と生徒がいるぞ?


ナッツも気づいたらしく凄い緊張し始めている

複雑な責任が重くのしかかってそうだがいつも通りやればいいぞ


ナッツを先頭にして俺たちは受付まで歩いていても声はなりやまない


『なんだよあの剣!?』


『浮いてるぞ!?噂は本当だったのかよ』


『腰の剣合わせれば7刀流とか』


面白い反応だ、俺は他人事のように楽しむ

ようやく受付まで辿り着くと受付嬢が元気よく会釈をして口を開いた


『いらっしゃいませ千剣のナッツ様!試験は30分後の10時からであり1時間弱で終わります!審査方法は召喚師から召喚されたランクBクラスの魔物を2回倒すだけです、治癒術を使える者は待機してますが治癒を求める際はギブアップか戦闘不能と判断された場合のみです!勿論合格しても治癒術は使います』


ランクBの魔物と連戦で戦うのか、なるほどな

今のナッツにはB程度大丈夫なはずだ


『ナッツはだい・・じょ・・』


話ながら彼に視線を向けると表情が硬い

俺だけじゃなくグスタフもルルカですらその表情を見て笑いを堪えているが

なんでそんな緊張しているのか聞こうとしたら彼から口が開く


『過大評価過ぎますって先輩これ』


ああなるほどな、周りの評価が予想以上で困惑してんのか


『いつも通りの戦いに誰かが見ているだけだぞ』


ナッツの背中を軽くトントンを叩くとバシンとグスタフが頭を引っ叩いた


『いだっ』


『今日くらい考えるのやめろ』


グスタフはいつも頭を動かす彼に頭を止めろというかなんというかそれが緊張に繋がっているんだと言いたいのだろうが俺もそのくらいしか思い浮かばない

頭を押さえてしゃがみだすナッツ、だが緊張よりも痛みの方が優先され立ち上がった時の彼はいつも通りの顔つきに戻っていた


『痛いですよグスタフさぁん』


涙目で苦笑いしている彼にグスタフは鼻で笑い答えて上げた


『だったらいつも通りやりやがれ、不合格だったら泳ぎでインダストリアルな』


『いやぁ!』


よし元通りだな!そうして俺達は別館に通じる連絡通路を通り訓練場に辿り着いた

観客席は3段まであるが200人は軽く収容できるだろう、とりあえずナッツは下に降りて試験の準備をするらしいので俺とグスタフそしてルルカは観客席にてのんびりその様子を見ることにした


意外と広いか、でも訓練場の広さは30m程である

大きな技や術だとこの部屋は耐えきれないがそんな強力な技を使う必要は今無い

Bランクの昇格試験なのだから


『ナッツなら大丈夫なのだー』


『あいつは普通にやれば魔物Bなんて雑魚だろうがよ』


2人の言う通りナッツは魔物ランクB程度なら普通に倒す

別に重く考える必要はどこにもない


『まぁのんびり見よう』


『なのだ!』


『そうするぜぇ』


俺はナッツに視線を向けて彼の周りの音を拾う事にした

そうしている間にも見学席にはぞろぞろと人が席を埋め尽くしている


ナッツの近くには他に3名の試験生と思われる者達がいたが彼らは緊張している

これは推測だが彼らは昇格試験に対しての体の強張りとは思えない、ナッツをチラチラ見ながら深い溜息をついている


彼という存在を知っているからこそ体に力が入って言うのである

平常心を保とうとしているのはわかるがナッツを見過ぎだ・・・


『千剣のナッツさん』


ふと1人の冒険者が彼に声をかけると屈伸運動していたナッツが首を傾げた

それに同調するかのように彼の背後で浮遊している6本の剣も主に合わせて傾げている


『どうしましたか?』


その言葉に冒険者は息を飲んで話しかけた


『何故あなたの様な人がこんなランクにくすぶっているのか不思議です、あの国最強いわれても過言じゃないシルバーバレット・・・そのチームでたった1人の前衛を任されているあなたがランクCだったという事に驚きです』


下手に出ているようにも思える言葉だがこれは尊敬の念が込められていると言っても良い

全然悪い人じゃないなこの人は、その言葉にナッツは軽く微笑んで答えたのだ


『忙しすぎて上げている時間は無かったんですけど僕はそんな強くはないですよ』


謙虚に攻めるナッツだがそれを会話相手の冒険者は良しとしない


『前線はチームの命です、熊帝と戦った事を聞きましたがその事実を聞いて弱いと言われても』


『まだ仲間に追いつけていません、僕は周りの期待より強くはありませんよ』


『・・・なるほど』


ナッツの言葉に冒険者は納得を表情に浮かべた

多分だがジルバーバレットの中では自分はまだまだだと言っているんだろうと捉えたんじゃないかな

それならわかるがそれもハッキリ言って間違いだ、ナッツは強い


『では試験を開始します!試験生は並んでください』


ナッツ達の背後のドアから1人の女性が入って来たと思いきや直ぐにそのように口を開く

綺麗な女性だが戦闘職ってわけじゃ無さそうだ、彼女の隣を治癒師独特の服装の女の子もついていく形で歩いている


『始まるか』


『始まるのだ!』


試験官と治癒師か、2人は訓練場の中央で立ち止まりナッツ達に顔を向けた


『整列してください』


その声に彼らは試験官の前で並び始めた

ナッツもだが皆首を回したり手足をブラブラとリラックスしながらも意識を正面にいる女性2人に向けている

簡単な試験内容は聞いたがそれをもう一度試験官であろう女性が復唱した


『ランクB昇格試験ですが私が召喚するランクB相当の魔物と戦ってもらいます!1人計2体ですが同時にだしません、1体だして倒せたらその場で続ける意志を聞いて続行なら2体目を出現させます・・・そこで2体倒せたら合格と見なします!ギブアップの場合再挑戦は1か月後のクールダウンがありますので注意してください!』


ランクB相当の魔物を召喚か、彼女は召喚士かぁ・・・レアだな!


『まず誰から行きますか』


続けて彼女が言うとナッツの隣の男が手を上げて口を開く


『最初の方がやれそうな気がするぜ』


その言葉の後に他の試験者2人も一斉に手を上げるがわかる気がする

ナッツに負い目を感じているからこそ先にやっておきたいんだ、正解だ

気にする人物を見てから自分の番というのは変な感情が働くから先にやっておいた方がいつも通りの自分を引き出せるはずだ


そうして試験が開始されたが1人目の試験生を残して他は後ろ奥で待機だ


『やってやるぜ、こっちだってBならそこそこ倒してるんだ』


その言葉に試験官は微笑みながらエールを送った


『なら多分いけるわね、ではレッド君の試験を開始します』


『多分?』


『召喚・ドールナイト』


そう口にした彼女の目の前から赤黒い魔法陣が現れたとおもいきやそこから木の人形の様な剣士が1体出現したのだ

なんだがパペットナイトが強くなって帰ってきた感じの魔物に見える


『ジー!ジー!』


鳴き声がどことなく似ているが種族としては同類と思われる

対峙する冒険者の目つきが真剣になった瞬間ドールナイトという魔物は動き出す


『ジィ!!!!』


『くっ!』


人形のくせになかなか早い、だが試験生もそれに十分に反応できている・・・いける

ドールナイトが剣をレッドの胴体に刺そうとするがそれをすれすれで彼は回転して避けてから自身の件を横殴りで斬りつけた


『ジッ』


『なっ!?』


思いっきり体を反ってそれを避けたのだ、人形独特の柔軟性といえる

そのままドールナイトは足を振り上げてレッドを蹴ってから後方にバック転をしながら態勢を立て直す

蹴られた彼は少しバランスを崩すが直ぐに地面を踏み込み素早く間合いを詰めた


『ジー!』


2人の剣撃が数回ぶつかり合うとレッドはドールナイトの太ももを斬りつけた

それによってバランスを崩してしまうがそれを見逃すほど甘くは無いだろうな、あいつも経験はそれなりにあるようだ、今しかないと力強く剣を握りドールナイトを真っ二つに斬りつけた

少しでも遅れて切って斬れば結果は逆か、バランスを崩してでもドールナイトは彼を斬ろうと剣を振っていた


だが彼の方が早かったらしい、バランスを崩してでも攻撃を仕掛けてくるとは凄いな


『人型は面倒だぜ・・・たくよ』


息を荒げて中腰でそう言っていると試験官が彼に視線を向けて口を開いた


『その通りです、人型は意外と難敵ですので注意するように!レッド君・・・どうしますか?休憩は1分与えますが?次はさっきより多少手強いですよ?傷付いても即死じゃなければ治癒術で治せますがそれは試験が終わるかギブアップ時のみです』


今回復はしてくれないのは仕方がない、連戦にしたのは冒険者としてそのような状態に陥る事態を想定してだろう

レッドという1人目の試験生は苦笑いしながら答えた


『行く』


その言葉に試験官は小さく頷いて彼に1分間の休憩を与えた


『本当にBか?あれ・・意外と強く見えたなぁ』


『てかBも油断すれば痛い目見るランクだぞ?強いのもいるし弱いものいるからピンキリだ』


『連戦とか辛いねぇあの人も』


『レッド頑張れー!』


見学席の声だがランクBにしては少し芸達者ともいえる

そうした周りの声を聞いている間に直ぐに時間になる


『時間です!では頑張ってください・・・召喚!』


彼女の召喚が始まるが先ほどより少し魔法陣が大きい、別の魔物を出現させる気か

一体何を出すのだろうかと俺以外も興味を示すが意外な魔物を呼び出した


『でろ!ガイアマンティス』


色が違うがガイアマンティスか!?綺麗な緑色の魔物であるが俺の知っているガイアマンティスは茶色の筈だがこれも地方によって色が違うのかな?


『キィィィ!』


2メートル超といったサイズ、鎌を上げてレッドを威嚇しているが肝心の彼は渇いた笑いを浮かべた


『ランクBのトップがお出ましかよ・・・やるかぁ』


その後彼はガイアマンティスとギリギリの戦いを繰り広げた

まるで試験とは思えないほどの死闘を見て皆息を飲んでその様子を見守ったがレッドが上手く懐に潜り込んだ時に勝敗は決した


『るあぁぁぁぁぁ!!』


がむしゃらな大声を上げて真下からガイアマンティスの首を刎ねて終わらせた

ゴトンと首が地面に落ちると歓声が上がりレッドは尻もちをついてガッツポーズをした

その様子を見て試験官である召喚士は微笑みと彼に言い放った


『文句なしの合格よ、今日からレッドをランクBの冒険者と見なします』


『やったなレッドォォォ!』


『あいつもやるなぁ』


その声と共に拍手が起きるとレッドはゆっくり立ち上がり試験官にお辞儀をして仲間だと思われる集団に両手を上げて喜びを顔にだしていた、おめでたい・・・他人でも上に上がって喜ぶ姿に悪くない気分になる

俺も小さく彼に拍手を送った


次の者は残念ながら2体目のゴブリンキングでギブアップだ、あれは体力があれば勝っていただろうが連戦の為足を躓いてしまいその隙に棍棒で叩かれて吹き飛ばされて終わった

非常に残念だ


3人目も2体目までいったがガイアマンティスという難関に苦戦を強いられてしまいこれ以上は命の危険性があると判断しギブアップした


『賢明な判断です、無理な戦いは避けるという勉強として覚えなさい!次の昇格試験をお待ちしておりますよ』


その3人目はナッツと会話していた奴だが名前はマイルというらしいな

彼は残念そうに頭を垂れて中央から離れるとナッツに視線を向けて口を開いた


『頑張ってください』


『わかりました』


そうして彼はドアの近くで治癒を施されて見学席に上がってきた

今3人を見れば弱いとは思えない剣捌きだ、無駄な動きが一切なく一瞬の判断がそれなりにできる

経験も十分であったが皆体力的な問題だけだともいえる、多分見られての余分が力みがあったかもしれないけどね

いつもならできていたことがこの時に限ってできない

そんな事態は誰でも起こりうるし今回は残念だが次に頑張ってほしいな


そうしていると試験官である召喚士の顔が一段増して真剣になる

彼女の目はすでにナッツを捉えていた


『最後の試験生・・・でなさい』


その声にナッツは返事はせずに小さく頷いて前に歩み出た

他の者とは別次元な異物ともいわれかねない異質な光景に見学者そして試験官も鋭い興味を目に焼き付けていた


『よろしくお願いします』


落ち着いた声でナッツが言う

その言葉に試験官である彼女は細い目で彼を凝視すると一息ついて口を開いた


『ではナッツ君の試験を開始しますが準備はよろしいですか?』


『いつでもいけます、2体目は休憩なしで構いません・・・時間が惜しいので』


彼女の目が一瞬見開いた

だがすぐに顔色を戻すと少し考え始めた

頑張れナッツ、どんな魔物が出てもランクBなら問題ない筈である

お前は前線で俺達の攻撃の為に頑張ってくれたんだ・・・それは弱い奴が出来る仕事じゃない


『もう見た目で試験合格で良いと思う』


『シルバーバレットの前衛を見れるって興奮するな』


『お前らちゃんとみろよ、課外授業の事は内緒だぞ』


『『『はい!』』』


おいそこの教師・・・お前学園に無断で生徒連れて来たんかい!?!?

まぁメリハリある人というかなんというか


『俺達は静かに見守ってやろうや』


『なーのだー』


グスタフにルルカもそう言って彼を見守っている

心配ないといった面持ちだな


『では始めます』


彼女がその言葉を言った瞬間、ナッツの浮遊した剣6本が彼の頭上に移動してジャキンと音をたてて剣先が赤黒い魔法陣に向いた

その剣を見て試験官も息を飲んでいた、彼女の額に汗が流れた・・・

あんたもナッツの事は知っているんだろうな、異質な職を持った俺の後輩に


ナッツは腰から剣を抜かないがいつでも抜けるように右手で剣のグリップを握っている

姿勢を低くしていつでも正面に駆けだせるように・・・獣のように

まるでグスタフの様な獰猛なスタイルだが最近変わったらしいな、面白い


『召喚!ゴブリンキング』


普通にノーマルBランクがでた、ここは手違いでランクBプラスだしちゃったテヘペロ状況を期待したがしっかりと規則に従っている様だ、なんか・・・残念だ!


『ゴフ』


デカい棍棒を持ったゴブリンキング、こいつはランクBの魔物では定番だがそれでも魔物としては油断できない存在ではある・・・そんな時代も俺にはあった


『ゴアァァァァ!』


グブリンキングが走り出そうと雄たけびを上げて地面を踏み出した瞬間

ナッツは囁いた


『貫け』


高速で投擲された6本の剣は屈折しながらゴブリンの回避する隙を与えない様に四方から囲んで

深く突き刺さる


『グファ!?』


血を流すゴブリンキングは何が起きたかわからず痛みを覚えたという感じか

そのまま6本の剣は深く食い込んだまま動こうとする魔物をその状態を維持したまま拘束したのだ

動くと剣が深く食い込むためグブリンキングも迂闊に動けないが


動いた方がよかっただろう

ナッツがもう奴の目の前にまで迫っている、勝敗は決している


『ほい』


ヒュンと剣を振るとゴブリンの首が飛んだ

非常にあっけなく朽ち果てるゴブリンキングに見ていた者はキョトンとしているが今の一連の動きに勉強になる様な動きは一切ないな


だって普通に考えたらタイマンではどうしようもできないんだよこいつの相手は

グスタフならば相手できそうだし上位職連中じゃないとまともに相手できそうにも無いだろうに

Bランクに苦戦なんてしよう筈がない


あっけなく終わった事に試験官は意外と冷静である


『だろうな』


グスタフが満足そうに微笑みが嬉しそうだなぁ

まぁなんだかんだあいつを気に入ってるんだし


『ランクBを一瞬かぁ』


『先生、凄いって事以外まったくわかりません』


『ああ俺もだよ、まぁ見よう』


おい






試験官の目が鋭くなった

彼女の周りに気が集まりだすが続けて召喚する気だ

本当に休ませない気だと思うがナッツは全然疲れていない

ナッツは剣を腰におさめて背伸びをして余裕そうにしているがそれを見て試験官の眉間がピクリと動いた

更に気が高まるが今まで感じたことがない量だ・・・これはもしかしてだが


『召喚!閻魔蠍』


『『『えええええええええええええ!?』』』


待てそれランクBプラスだろう?

意固地になったか召喚士!?不敵な笑みを浮かべているが綺麗だ

それは関係ないがナッツの実力を見込んで閻魔蠍を召喚したのだろうが彼女の顔に疲労が見える

閻魔蠍を出すのは余程疲れる様だな


『キキキィィィ!』


やっぱ大きいな、全長4メートルといったところだがアバドンで見た個体より少し小さいなぁ

あそこの魔物は基本全部大きかった印象はあるかもしれない


『懐かしい魔物ですね』


ナッツの顔も少し真剣だがBとB+の差が断然違う

そのことは彼も十分理解しているしあの魔物との闘いを経験しているから対処はわかっている筈だ

黒く禍々しい甲殻をした硬い蠍、頭部の模様は怒りに満ちた閻魔様の様である


『キィィィ!』


ドスドスと音をたててナッツに走り出した、デカいくせに早い

ナッツは6本の剣を即座に閻魔蠍に向けて飛ばす、その投擲された剣を弾こうと閻魔蠍は前足の鋏を振り回すが残念なことにそれは空を切る、剣は閻魔蠍の真下に潜り込むと剣先を腹部に向けた


『メッサーシーセン』


紫色の太い光線が6本の剣から放たれた


『キキ!?』


物理攻撃の光線というのは何かと説明しにくいがその攻撃で閻魔蠍は体が浮き上がりまるで2足歩行の状態になるがその隙にナッツはさらに追い打ちをかけた


『プファイル』


紫色の大きな矢が状態が浮いた瞬間の閻魔蠍に飛ばされた

投擲速度は見事と言えるくらいに早い、その巨躯が地面に倒れる前に腹部を貫通して緑色の液体を地面にぶちまけるがまだこいつは動ける、他の魔物よりも生命力はある


『グキキキィィィ!』


怒ったな

だがそうしている間にナッツは次の一手を考えて動き出しているぞ?

感情を表に出している時間は無い


『払え』


6本の剣はまだ閻魔蠍の真下に潜んでいた、それで魔物の足を6本同時に払った

丁度6本の足であり体は巨躯でも体を支える足は少し太い程度、勢いをつけて剣で払うと6本の足は外側を向いて転倒したのだ


ズドンと大きな音をたててすかさず立ち上がるがナッツはその隙に剣を全て自身の周りに戻して走り出した

立ち上がりながら近くまで来た彼に鋏を突き刺すがナッツはそれを腰から抜いた剣で上手く外に受け流すと体を回転させて攻撃に転じた


彼の周りに浮遊していた剣が彼を軸にに剣先を外に向けて回転し始めたのだ、彼の回転に合わせて剣も回転しているがその剣が鋏に連続した剣撃を浴びせるとその鋏がボロボロになっている


『キィィ!!』


反対側の鋏で攻撃しようとするがそれはすでにナッツの視界だ、回転しながら見ている


『ふん!』


『キュ!?』


閻魔蠍の顔面を蹴って後方に避けるが上手い!

流石は俺たちの前衛である、どんな時も一番前で色々考えて最善の手を尽くすのは彼の頭の良さがあるからこそだ

ナッツがいるから俺とグスタフは大きな一撃を与えることが出来る


そんな彼は閻魔蠍を睨みつけ自身の持つ剣を標的に向けながら聞いたことがない言葉を口にした


『ブーゼ・スクレイパー』


新しい技か!?

その声を発した瞬間彼の周りに纏まり付いていた6本の剣は閻魔蠍の周りに均等に囲み甲高い音をたてて剣先から紫色の太い光線が放たれた

避ける隙間は無い、どんな技だ・・・千剣の特殊技だろう


『ギュピィィィィィィ!!!』


避け切れずに6本全てから放たれた光線を受けた閻魔蠍の硬い甲殻にヒビが入り砕け散った

エグい・・・エグすぎる技だ、相手の硬い甲殻を砕いた、命中した部分だけだが光線が太いし6本からの攻撃だ


閻魔蠍の硬い甲殻の半分以上が砕けている、その砕けた甲殻からはピンク色の筋肉質が剥き出しになった


『すごいのだー!』


ルルカがはしゃいでいるが俺は驚いて口が半開きになってしまう

あれは本当に頼りになる技だ、相手の硬い部位を砕くためのものだろうか・・・もしそうならこれからのチームでの戦闘が優位に戦えるようになるぞ


ヨロヨロとふらつく閻魔蠍にナッツは剣先を向けていた剣で最後の攻撃を放った


『メッサーシーセン』


ナッツの剣から放たれたメッサーシーセンは操る剣から放たれる光線よりも倍太い

その閻魔蠍の剥き出しの筋肉を貫通し力なく地面に倒れていった

終わったか・・・?この場にいる皆がたたずを飲んでその光景に釘付けだ

剣を収めたナッツは静かに閻魔蠍に近付いた、死亡確認だろうが一定の距離まで近づいた瞬間最後の力を振り絞って閻魔蠍が甲高い鳴き声を上げて立ち上がりナッツに攻撃を仕掛けた


『ギャピァァァァァァァ!』


『知ってますよ』


両手の鋏でナッツを襲うが即座に腰の剣を抜いて片方の鋏をその剣で防ぐと3本の剣を使い反対の鋏を防いだ、自身の攻撃と同時に操っている剣も動かせるか・・・凄い


魔物との鍔迫り合いだがそれは永くは続かない、残り3本の剣が開いているからだ


『終わりです』


ナッツの背後にいた3本の剣が閻魔蠍の顔面に突き刺さると痛そうに悶える、その隙に彼は鋏を弾いて己の持つ剣で頭部を真っ二つにたたっ斬った


今度こそ閻魔蠍は目から力を失いその場に倒れていく

もう気は感じられない、終わった


ここまでこいつは強くなったか、いや違うか

ここまでこいつは自身の職を理解したのか・・・これは暢気にしてれば越されそうだし俺も焦らなければいけない


『俺達もうかうかしてらんねぇぜ?ジャフィン?』


横目でグスタフがそう言ってきた

俺は彼の闘争心をたぎらせる言葉を送る事にした


『じゃないと俺達越されるぞ?もっと頑張らないとな』


『よし明日からもっと特訓するか』


不味い俺も巻き添えか、くそ・・・

そんな会話をしている隙にナッツは剣を収めて奥に引っ込んでいた試験官に顔を向けて口を開いた


『終わりました』


試験官である召喚士は口を半開きにして驚いている

反応がない彼女にナッツは首を傾げるとその様子を見て彼女は正気に戻り口を開いた


『文句無しの合格・・・です、流石は千剣のナッツですね、シルバーバレットのたった1人の前衛とはこれほどとは・・・国最強かもしれないと言われているチームの前衛ですか、私も生涯で見る事のない良い物を見たいがために規則を破って強めの魔物を召喚しましたが当分謹慎になっても本望です』


『『『うおおおおおおおおおおおおお!』』』



なんだかすごい歓声だが武人祭か?ただの試験だぞ

まぁ難なく倒したようで意外と頭は疲れただろうな、上手く魔物を倒せたみたいだしいいか


『あんなの見た事ねぇぜ!』


『前衛なんて普通2人いないといけない筈なのにこれだけできりゃ1人でもいいな』


『先生!凄かったです』


『ああ凄かったな!お前ら何か学べたかぁ!?』


『『『楽しかったです!』』』


帰れ


そうして俺達はナッツの手続きを終えるのを待つと彼はオレンジの色になったカードを俺達に見せて喜んでいた


『よくやったな』


彼に労いの言葉を送るとグスタフ達も続けて口にした


『面白い奴だぜまったく・・・』


『さすがなのだー!』


『あはは、頑張りました』


そんな言葉を掛け合い、俺たちは港に向かう事にした

時間も丁度いい

急な昇格試験だったが順調に進んでくれたおかげで予定より早めに終わった、余裕はあるが多少の買い出しをしてからグスタフが筋トレだと言いつつ少し大きめのリュックに買い出しした物を詰め込んでくれた

そのまま馬車に乗ってインダストリアル行きの船着き場に向かったのである



ナッツ『ブーゼはドイツ語で悪、スクレイパーは英語で削り取る・・です!』

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新作ですがこの小説を見てる人ならわかる部分が多い内容になってます 勇者ですが指名手配されたので逃亡ライフをはじめます
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