8話 最強が認めた十字架
『ハートンは冒険者を引退して槍の教育者ね、バニアルドは依然としてジャミニ拠点でカールはまだポートレアじゃないかな・・・なんだかミミリーと住んでいるって聞いたけど聞いた?』
『聞きましたよ?カールも満更じゃないのがツボで・・・』
『あっはははは!見てみたいわぁ』
機嫌よくライラと会話を続けている
今日の俺のお勤めも終了なので後は時間潰しだ、時間は17時をまわっている
彼女がカフェオレを一飲みしてテーブルに置くと俺に質問を投げてきた
『あんた結婚は?』
唐突で体がビクンと動いてしまう、しかも彼女にはその反応で察したらしく溜息をついている
彼女には一応20歳で結婚する約束をしているのを伝えると渋々納得してくれたんだ
女性はロマンを求めるからそれまでは我慢ねと彼女が言うが確かに20歳でというのはルッカから言った言葉である
20と言えば学園の同窓会がある、よく聞く話だと俺の村の人も結婚とかで20は確実に速いのであるがライラにもそのことを聞いて見ると23歳超えてからが殆どだとの事、早いんだ俺ら
まだ結婚してないけどさ
『ライラさんは子供とかは作らないんです?』
俺の質問で彼女はキョトンとしながら直ぐに答えた
『今子作り期間よ?』
普通に言ってのける彼女は大人だ、少し顔が赤くなる俺はまだ若いんだろう
それはライラにもバレている
『まだまだねぇそんなウブな反応するなんて』
遠回してちゃかされたなこりゃ、だが悪くはない気分だ
俺は多分子供扱いされている・・・きっとそうだ!でも実際彼女から見ればそうだし仕方ない
『それはそうとしてライラさんは冒険者は引退したんですか?』
『半年前にしたわよぉ?専業主婦目指して頑張るためにね~』
なんだか嬉しそうな表情をしているが今の生活に不満はないんだな
俺はそれをみて心底羨ましいと感じてしまう、俺も結婚したらそうなれるのだろうか
なるようになるしかない
『どうせここに来たのは魔滝でしょ?このタイミングであんたが来るならそれが目的だってね』
『ご名答です』
『んでんで!?国王からの報酬は?』
怪しい顔つきになる彼女だが俺はちゃんと答えた
『金貨300枚』
その額に聞いていた冒険者が飲んでいた酒を口からボロボロこぼしながら飲み始めた
他の奴らも口を半開きにして驚いていたが高いだろうな・・・
半年楽に過ごせるしいい物食える
そう考えているとライラは苦笑いして口を開いた
『うわぁ、大出世ね君』
『はい・・あはは』
暫く彼女と話しているうちにのちのインダストリアルの話になった
そのことでは行く理由を尋ねられたのだが俺は隠さずライラさんに話したんだ、隠すつもりは最初からないからである
俺の話を真剣に聞いてくれているが冒険者も揃って真剣だ
話し終えると彼女は一息ついて俺に話してくれた
『それ大きなことよジャムルフィン君、君の結果で今後の職の未来が決まるくらいのね』
『未来ですか、ライラさんは僕が職文明を回復させる人だと思っているんですよね?』
『当たり前でしょ?強いからそんな事も出来る・・・大きな選択肢が増えるのよ』
ライラさんはそこまで言うとカツサンドの最後の一口を口に放り投げる
美味しそうに噛んで胃に押し込むと当たり前の言葉が飛んだ
『ご馳走様』
俺に手を合わせて頭を下げてきた
それにしても俺がそんな役・・・そうだよな、大きな役割をしようとしてるんだよ
もう少し真剣に考えなくてはいけない、ずっとディロアでのイメトレでインダストリアルの事は深くは考えていなかったな
俺が隠された昔の職の情報を持ちかえれば確実に人の世は変わる
大きく息をついた
もうちょっと俺は背負った物が何か考えないといけないと知る
まだまだだ
ライラは食べ終わると立ち上がり微笑みながら口を開いたのだ
『美味しかったわ、そろそろ旦那のご飯作らないとね』
そう言いながら彼女は俺に手を振って入口に向かうので俺も答えることにした
『お元気で・・ライラさん』
『はいはーい』
そうして彼女も去ったので俺も冒険者を掻い潜ってギルドを出た
魔滝の日まで適当に過ごしたんだが大したイベントも起きずに現地には早めに辿り着いて森の前で待機した
結果は省くが俺は棒立ちのまま森から現れる魔物の大群に向けて銀閃眼の連射弾をひたすら撃って全滅させたんだ
その光景を防壁でみていた兵士達や冒険者たちは俺を畏怖の表情で見ていたんだ
連射も弾数が馬鹿みたいに消費するので拳サイズを小石サイズに小さくしたんだ
魔物の大きさが俺達人間と同じ奴らばかりだったし小石サイズの弾が貫通するだけでも致命傷である
ひたすら撃って薙ぎ倒した、最後の方は魔物の悲鳴しか聞こえなくてどっちが魔物なんだか実際俺でもわかんなかったよ
終わった後の兵士たちの顔といったらなぁ・・俺を見て泣きそうな顔してた
少し悲しい
次の日には即国王から報酬を貰い夕方にはナラ村に到着
今は俺の部屋でルッカとのんびりしている
彼女は俺のベットで足をパタパタさせて本を読んでいるがどうやら好きな本を読んでいる様だ
『あ~やっとクリスとマールがむすばれたのねぇ』
激しく足をパタパタさせているがなんか物語の本だろうな
昔から英雄ショーも好きだったしそういった内容の話は好きなんだよ
俺もベットなのでルッカに後ろからくっついて見ると本をパタンと閉じてそのままコツンと頭を叩かれた
『変態が出てこない本よ?見てみる』
『でもいつかはクリスも変態になる、気をつけろマール!』
『なによそれ』
腹を抱えて笑っている
相当ツボに入ったらしい、ようやく笑い終わるとルッカが口を開いた
『クリスを使わないでくださーい』
『はーい』
というかその本いつ買ったんだ、前はお前の部屋に無かった筈だけど新刊がでたのか?
まぁルッカの趣味だし口出しはできないが結婚しても読んでそうだよな、だいたい想像つくのは必ずやめないと思う
にしてもだ、なんだかんだ学園生活じゃルッカは人気あったよなぁ
今更気付いても遅いけどグスタフと犬猿時代だったし喧嘩ばかりで俺も問題児扱いだったこともありルッカに近付けない男が沢山いたらしい
いい魔除けだろ俺、うんうん
『明日は付き合ってね』
ふと彼女が言うが俺は暇だ、素直に頷く
予想だと薬草採集だ
前回熊帝と戦った森じゃ良質な薬草が豊富で持ち帰ってから懐が膨らんだと見えるが儲かったなルッカ?
『護衛するさ』
『あら頼もしい』
頭を撫でてくれるが妙に落ち着く
ルッカだからだろうと思うと不思議としっくりきた
今日は残念ながら泊まりじゃないから少ししたら帰ると思うけど残念だな、夜はこれからなのに
『まぁインダストリアルまではそれなりにいるさ』
『インダストリアルねぇ…確実に強い魔物はいるよねぇ』
『そうだな、連れていきたいけど今回はお留守番お願いする』
情報が少ない地域には連れていけない
最悪守りきれるかわからないのが本音なんだ、そこらの森なら別に支障はないのだが何かあったときに困るしな
『帰ったらたらこパスタ食べに行くか』
『やたっ』
小さい声で喜びながら少しくっついてきた
だけどルッカも家の手伝いとかもある筈だし残る方が良いだろう
インダストリアル出発まで時間はあるが普通に過ごしていれば直ぐだろうな、俺は色々と動くかもしれないけれども
俺はふとルッカに話しておこうと思い違う会話を出してみた
もしかしたら彼女も納得してくれるんじゃないかと思いだ
『リヴィだが、あいつが探しているのはケサラパサラかノアか…俺はノアだと思ってる』
ルッカが少し真剣な表情を浮かべた
俺は気にかかっていたのだ、ずっと探している
最初はアバトンの森を復活させるためにケサラパサラを探しているのだと思っていた
現在ガウガロ領地となったアバトンの森、ノアの記憶の一部から読み解くと毒ガス散布によって木々が枯れてしまい長い間生命が生きにくい環境になったのだろう
森の外側は森なのだが中に入るにつれて枯れた木が多くなり霧が濃くなっている不気味な森だ
『ノアちゃんじゃないかな』
ルッカが俺と同じ意見であった事を口にした
予測であるけどもそっちの線が高いと俺は睨んでいたんだ
彼女が続けて話してくれた
『ノアちゃんはシルバしか知らない地下の秘密基地に逃げ込んだんでしょ?もし見つけてたら多分だけどシルバの近くに移動させるんじゃないかな』
知っていたらこうするんじゃないか?がリヴィに一切感じられなかったのだ
だから俺はノアを見つけてないと思ってたんだよ
移動か……何故だ
『移動か』
『多分だけどあそこまで二人に粘着するんならリヴィにとって一番安全な場所はティクティカ遺跡にあるシルバの部屋じゃないかなぁ…別々に安置するって考えにくいわ』
あー確かに、あいつにとってシルバの部屋が一番の安置か
俺はなるほどといった様子で軽く頷いた
今の情報では一番近い答えかもしれない
生き返らせる気なら別々に置くなんてしないな、同じ場所に置く
『確かに、ケサラパサラは二の次か』
『だと思うわ…』
『あとは薄々気付いていた事があるが』
『なに?』
『…あいつは摩天狼の実際の強さを見たことはあっても感じたことがない』
シルバは俺に言った、勝てると
シルバは昔のリヴィに言った、鍛錬を怠るなと
摩天狼と戦う事が夢であり最終目標がシルバとノアの蘇生、リヴィはジハードであり死者蘇生を行使できると聞く
そして現にリヴィは確かに十天の第1位、この世界で一番強いという事になっているのだが
俺にはまだ得体の知れない者達がいる様な気がしていたんだ、確証は殆どないんだ
だけどそう感じるんだよ・・・気のせいか
(いるぞ・・・1人)
『ん?』
俺はルッカとベットの上で横たわってたけど飛び起きてしまう
シルバ・・・いきなり思念を送るなよ、あっちは無意識だろうけどな
いきなり脳内の声が聞こえるとびっくりするんだよ、幽霊かよ・・・
『ジャン?』
ルッカが首を傾げて俺を見つめているが彼女の頭を撫でてちゃんと答えた
『シルバの声だ、リヴィより強い奴いそうだなぁとか考えてたら1人いるぞーってさ』
『あはは・・・大変ねぇ』
ルッカは苦笑いしながら反応を示してくれた
声が聞こえる時がある事は皆知っている、勿論彼女もだ
俺は再びボスンと音をたてて横たわる
『いるって言われてもなぁ・・・もう知っているんだよな』
多分ゼロの事だろうな、いや時代が違うし初代の不死鳥種のことか・・・
ヴァリミアは自身を2代目と自負していた、なら1代目も現在のゼロと差はあっても強いとシルバに言わせた奴だろう
『不死鳥種のヴァリミアの事よね』
『そうだよ、十天を管理しているんだしその立ち位置ならば彼らより強くなくてはならない』
『でも敵意は無いんでしょ?』
『そうだな、心配する事は無いと思う』
(不死鳥種ではないぞ?)
んんんんん!?!?
あれれ!?え!?マジで?
予想が外れた、やっぱ世界は広いんだな・・・表に出ない存在か、だが予想はしていた
明らかに十天クラスだと実感できる者と戦った事は多々あるんだよ
そのうち出会うだろう
(十字架に気をつけろ、魔天狼じゃないと決して勝てない)
『十字架に気をつけろ・・?』
その後は彼の声は聞こえなくなった、完全に何かを伝えようと頑張って疲れたから寝たんだな?
まぁでもありがとう、気を付けるさ
『ジャン?なんだって?』
俺はとりあえずルッカに伝えると気難しい表情を浮かべている
気持ちはわかる、リヴィ以上の者がいるって彼が言うんだ、これが英雄ショーなら興ざめだ
最後に行く前に最強より強い奴いるぞと言われると白熱はしないがこれは現実だ
先に言われたほうが良い、だが俺はリヴィを倒せればそれでいい
あいつよりも強くなればそれでいい
俺は普通にルッカと普通に暮らしたい、ただそれだけだ
前にも言ったが人々が当たり前の生活を送るために俺は十天の第1位に勝たなくちゃいけない
それは夢なのだろうか?
夢か・・・
『大丈夫よ』
ふとルッカが抱き着いてくれたけど不思議と考えていたことがどうでもよくなってきた
今考えても無駄だ、先の事は深く考えても意味がない
俺は振り切れてとりあえずルッカを脱がしてしまったが後悔はない
それが男だ
その後泊まろうと懇願すると彼女は潔くOKをくれたので俺は超ご機嫌
ルッカとグッスリ寝てから次の日には2人で森に出かけて薬草採取に向かった、その時にはグスタフも呼んで2人でルッカの護衛をしたがときめく戦いは無い、グスタフは拗ねていた
ナラ村では魔物でスキル向上は見込めずに俺はグスタフを誘って実践稽古やトレーニングで補うしかなかったのだがたまにスカーレット館の特訓に向かったのだがそのうちケサラパサラがいなくなっていたのである
スカーレットさんに事情を聞くとどうやらタツタカ達と共に旅の仲間になったらしいな
ゾロアやったじゃん・・・想い人と一緒じゃん・・・今度ちゃかしに・・・いや俺は無理だ!
そうして俺たちはインダストリアル出発まで残り1週間となった