3話 熊帝の底力
一週間の冒険者活動も終わり一同は一旦解散をして数日後、俺は用事がありアポスという町に来たのだがここはあのブール伯爵が取りまとめる領地であり彼から付き添いを依頼された
ただアポスの町中を彼と共に視察するだけだったが共に歩くからこそ意味がある
力を持っていると証明するためなのだが今回は伯爵と他愛のない話をしつつ俺は業務を終えたあと1泊してからジェミニでナッツと合流して二人で冒険者ギルドに向かうことにした
そこでルルカとグスタフやルッカと待ち合わせにしている
簡単に言うとポートレアに気になる依頼がなかったからちょっとした遠征みたいなものかな
『インダストリアルですか、そこの魔物はたいそう強いと聞いてますが果たして魔族はいるかどうか判断が困りますね』
ナッツと歩きながら目的の場所に向かう途中そう口を開いた
俺もそれについて疑問ではあった、強い魔物が潜む島に魔族が住んでいるのかどうか
ナッツに考えを促してしてみた
『魔物に対抗できる戦力があるとかは考えられるか?』
俺の問いに彼は渋々といった様子で頷くと答えてくれた
『その線はあるかもしれません、少なからず歴史の知識がそこにあるのなら守っている魔族はいるでしょうし強い存在はいると思ったほうがいいですね』
魔族がインダストリアルに昔の職の情報を隠した島、ただ隠す筈がない
なんのために隠したのかはナッツが考えを口にする
『人間の職の水準を下げる為、今後の目的となれば全ての体勢が整ったタイミングがディロア王国の一件と考えてもいいのかもしれませんよ、予想だとかなりキツイ戦闘になる事は覚悟しなければいけません』
『魔族の大将さんも動くと思うかナッツ?』
『動くと思いますよ、なのでできるだけ魔族をディロア王国の領土に近付けさせないのが重要だと思ってます、先輩が押さえている間に内乱を沈めなければいけませんね』
今までとは違った国を守る戦い
敵の強さも未知数な点が多いがやるしかないのだろう、大変だ
まぁ今細かく考えても仕方がない
ジェミニのギルド前には3人の姿があり俺は手を上げて到着を告げるとグスタフが親指でギルドの入り口を指した
彼らに近付きながらナッツは小さく笑いながら口を開く
『早く入りたいんですね』
『だろうな』
中に入ると昼間なのでだいたいの冒険者は外出しているのだろう建物の中に人は少なかった
一同は適当なテーブルに座ると俺とグスタフは依頼掲示板に向かってくる歩きだす
『飲み物頼んどくわねー』
『助かる』
ルッカの声だ、テーブルには買い出しで調達したサンドイッチやおにぎりといった物を並べている
ここで昼食をとってから気になる依頼があれば出発という流れ
今にもナッツはつまみ食いしそうだがルルカが彼を監視している
グスタフと掲示板を眺めていると偶然にも少し他と違う依頼書を発見したのだがグスタフもそれに目がいったようである
『なぁ』
ニヤニヤしながら俺を見てくるがこれしかないだろう
今日は運がいいと思える1日だ、他の依頼書より一際大きい
『熊帝か』
魔物ランクAの熊帝、俺がクリオネールをボコボコにした森の最奥で縄張りを作ったらしく街規模の依頼だ
金貨50枚とかこんな美味しい話食いつくしかないと決めると俺はグスタフの肩を軽く叩いて小さく頷いた
その様子に彼は不敵な笑みを浮かべながら熊帝の依頼書を受付に持っていくと受付嬢が笑顔で対応し始める
『いらっしゃいませ!熊帝とは良いチョイスですねぇお客さん!』
少し変わった受付嬢だなと俺とグスタフは内心思った
代表である俺の冒険者カードを提示すると彼女は多少驚きを顔にだすが直ぐに仕事モードに切り替えテキパキと細かい説明をし出した
最後は依頼書に判子を押して渡して来たからそれは俺が受け取った
『これで手続きは終りましたのでお気をつけてボコボコにしてくださいね!』
『ボコボコ…』
『はい!』
彼女は変わった感じのノリを持った人だな
グスタフとテーブルに戻ると昼食を食べながら依頼内容で話し合うことにしたのだが熊帝と良い放っただけで全員がグスタフを見つめた
『な…なんだよ!?』
激しく狼狽える様子にナッツが真剣な眼差しで口を開いた
『手強い、僕は辞退しますかね』
『殺すぞ?』
『いやぁ!!』
熊帝は体長4メートルはあると言われる名前の通りに最強の熊である、人里には滅多なことがない限り降りては来ないのだが発情期には暴れやすいのでそれなりに近い場所をテリトリーにしたときには討伐依頼がくるのである
『初めての魔物なのだ』
サンドイッチを美味しそうに食べるルルカが口を開いたが確かに俺たちは初めての魔物でありどの程度大きいかはわからない
大きいとだけはナッツから聞いたが閻魔蠍くらいのサイズかなと理屈のない予想をした
『面白ぇ、まぁAだし慎重に行くか』
グスタフの意見は最もでありそれにはルッカも同じく賛同した
『それが一番よ』
近くの森だし確かに危ないだろうな
ランクAは半端な強さじゃない筈だ、別次元の強さがそこから始まるのだ
『食べ終わったら森に行こう、多分さほど苦労せず見つけそうだ』
『そうですね先輩、久しぶりにちゃんとチームになりそうです』
皆昼食を食べ終わると直ぐにジェミニの近隣の森に足を運んだのががそれほど生い茂った森ではなく、箇所箇所には隙間が空くぐらいの優しめの森だろう
途中デビルパンサーや赤猪といった雑魚はナッツとルルカが苦もなく倒しながら前に進んでいく、陣形は変わらない
先頭はナッツそこからグスタフにルルカそして俺とルッカという形になってはいるがこれが一番安全だと思っている
『ランクDばかりですねぇ』
『そうなのだ、せめてランクCと戦いたいのだー』
多少口をこぼしてもきちんと自分の仕事をまっとうするお二人だが一時間ほど奥に進むと木々が薙ぎ倒されていた場所に出た
ナッツが先に近付いて木についた傷痕をじっと見つめ始めた
その間ルッカは俺の近くでしゃがみこみせっせと薬草を集めながら口を開いた
『ごめんねみんな、お荷物だけどこんな時じゃないと良い薬草が集まらないのよ』
少し申し訳なさそうに言うルッカだが俺は別に大丈夫じゃないかと思う、しかもチーム資金のやりくりは彼女がしているので必要なのだが本当に危険と思わない限り同行させることは皆同意しているのだ
『別に気にすんな、ちゃっちゃと終わらせてたらふくとらせてやるぜぇ』
『まぁ嬉しい』
『ケッ』
グスタフも問題無いことを口にするとルルカは親指を立てて同意を示している
ナッツは正面に意思を向けているが彼も親指を立てていた
『新しい研ぎ痕です、グスタフさん…現れたら隙を作るので良いやつ1発用意お願いいたします』
少し真剣な声でナッツが言うとグスタフは非常に嬉しそうな笑みを浮かべて答えた
『ああ』
近くにいる、いつ気配を感じても可笑しくないだろう
それは少し歩くと俺は感じた、今までに感じたことのない異様な気配
荒い、荒すぎる気配
非常に機嫌が悪いと思えるその気を皆に伝えた
『俺は感じた、ナッツ正面を数百メートルだ…ご機嫌斜めらしい』
ナッツは一瞬振り向いて頷くと直ぐに正面に視線を戻して歩きだす、俺はルッカと共に歩く
不思議なくらいに動物の鳴き声が聞こえない、鳥のさえずる声くらいあってもいいだろうがない
それは皆も思っているはず
そしてグスタフも気配を感じ始めた様であり彼は大きく口元が笑っている
『ルルカぁ…来やがったらパワーアップ頼むぜぇ?』
『わかったのだ』
『私が緊張してきたわ…』
ルッカが無駄に緊張し始めた
お前は俺がついてるから大丈夫だし今のグスタフ達ならランクAはいける筈だ、役割がきちんとしているし水準も高いと言える
自分達の微かな足音を聞きながら大きく開けた場所にたどり着くが開けた場所だったわけじゃない
木々が薙ぎ倒されてそうなっているのだ、そうした犯人は今俺達の目の前で鹿を食べている
『でかいのだぁー』
ルルカの肩が強張る、破壊力がでかいサイズだな・・・中途半端な覚悟で挑むものなら腰が引けてなにもできないんじゃないだろうか
真っ黒な体毛だが赤いトサカの毛が背中まで続いていた
奴は俺達がいるのに無視して食事をしている、バリバリと骨まで噛っているが大胆な奴だな…まだ無視か?
ナッツの周りで浮遊している4本の剣がより紫色に発光し始める、それはいつでも始めれますという合図でもあるだろう
『グフ・・ガフ』
俺達を無視しているのにも少しカチンと来て俺は銀閃眼の通常弾を熊帝の背中に放った
俺の右目からズドンと放たれた弾道の先には熊帝だが予想外な事になんと通常弾が弾かれてしまった
『はぇ!?』
変な声が出た
だがそれでわかった事が一つだけある、こいつ肉質が固い・・・異常に硬い
目の前の存在はゆっくりと立ち上がるとその大きさを俺達に見せつけた、2足歩行で立ち上がっただけでもその全長は3mちょい、いやそれ以上か・・・
『で・・・けぇ』
グスタフが呟くとそのあと熊帝が大声で叫んだ
『グロァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!』
地響きが鳴り声の大きさで皆耳を塞いでしまう
ランクAという初めての魔物がこの熊帝・・・予想以上の強さを持っているに違いない
叫び終わると同時に奴は俺達を睨みつけた、牙を剥き出しによだれをボタボタと地面に垂らし始めるとナッツが叫ぶ
『行きますよ!隊形が崩れたら終わりだと思ってください!!熊帝はランクAのトップです!!!』
『フシュルァァァァ!』
熊帝は4足歩行に戻ると俺達に向かって駆けだした
皆真剣な表情で敵を倒さんと一斉に走り出すが俺は後方で支援待機である、俺の後ろでルッカが隠れているがおっかないのだろうな・・・だが彼らならやれる
グスタフはナッツに言われたとおりに右手の大剣に全力で闘気を込めつつもナッツの後ろを走り始めた
『パワーアップ!』
ルルカの術によりグスタフの体は赤みを帯びて筋力が上がる
その間ナッツは前方に差し迫る熊帝に向けて渾身の一撃を放とうとした、中途半端な攻撃じゃ隙なんて絶対見せてはくれない
最初から大きな技で出鼻を挫く為にナッツは腰の剣を抜いてなおかつ4本の剣を両脇から相対する熊帝に向けて剣先を向けた
『ヴュンデル!!』
5本の紫色の光線がナッツを中心にして一斉に放たれた、
扱える本数分その千剣の技にできるらしくもし彼が10本操っていれば10本の光線が出せるだろう
それはいいとしてだ・・・
『ガボッ!』
避ける素振りも見せず熊帝はその光線をすべて受けきる、体が大きすぎて分け隔てなく全弾命中させるには容易なのだがダメージを与えたというよりも疾走してくる奴を止めただけになっていた
だがものともせずに熊帝はジリジリ歩き出すとナッツは生唾を飲んでいた、そりゃそうだよ
渾身の一撃が止めただけなんだ・・・・俺も手に汗握る光景にいつでも助力できるようにしているが通常弾では無意味と知り狙撃弾で狼気を入念に込めた弾を放てるように準備をし始める
『プファイル!!』
光線の威力が消えたと同時にナッツは大きい矢で熊帝の前足を射抜いた
走り出そうとしていたためそれを阻止しようとしたのだがどうやら貫通はしたが多少気にする程度と言った感じにしか見えない
『ガードアップ!』
ルルカは次にナッツに耐久力を上げる術を施した、すると彼の体は緑色に発光し始める
そして熊帝が走り出したと同時にナッツも走った、両者間合いに入り熊帝の鋭利で巨大な爪が地面を抉りながら下から振り上げられる
ナッツは歯を食いしばってタイミングよく手の裏に1本剣を突き刺すとメインの爪を後方に飛び避けつつ受け流した
『くっ!?』
あまりにも腕力が違い過ぎる、彼は受けきれない爪の攻撃に体を回転させて勢いを外に逃がすとそのまま横回転しながら次なる技を熊帝にお見舞いした
『メッサーシーセン!』
3つの紫球体が熊帝の顔面に飛び立ちながら一瞬で短剣になった
作って放つでは遅いと判断した彼はそのようにして時間を省略したのだがこの土壇場でよくやるよ・・
『ガフッ!?』
顔は攻撃されると嫌な様であり奴は顔を隠した、それを一瞬で悟ったナッツはプファイルの矢で貫いた右前足に向かって再びプファイルを放つと2発目はより深く刺さり3本の剣も同時にその右足に向けて指したのだ
ガクンと一段階熊帝が沈むとナッツは右腕に持っていた剣を右足の関節部分に向けて口を開いたのだ
『ヴュンデル!』
先ほどよりも大きい光線が熊帝の右足を襲う
部分的なダメージの積み重ねによって踏ん張ることが出来ずに熊帝は横に横転するとナッツが今まで以上に大きな声で合図を送ったのだ
『グスタグさ『オォヨォォォォォォォ!!!!』』
彼の背後から高くジャンプしたグスタフは大剣を眩く輝かせて高らかに振り上げた
その様子を熊帝は見ようとしたがそれはルルカのファイアバレットによって顔面を攻撃されて視界を塞がれてしまったのである、息のあった攻撃だ
いつ出ていいかグスタフも感で動いたのだろう・・・今しかないと
『グブァァ!』
『ズルク!』
熊帝に刺さった4本の剣がナッツの背後に戻るとグスタフは渾身の力を振り絞って魔物の頭部に技を放った
『パワァァァァァプレェェェェイク!!』
筋力馬鹿には有効な技だ、一定時間相手の筋力値をダウンさせつつ強めの一撃を相手に与える
顔を持ち上げた熊帝の頭部にそれが炸裂するとゴツンと重い音を出したのだがそれでも奴の頭部を破壊する事は出来なかったのである、浅い・・・・だが血はそれなりに噴き出ている
だが足りない
ヤバいと思ったグスタフは直ぐに熊帝の顔面を蹴って距離を取ったのだが判断が正しかったようで彼が避けたと同時に反対の爪でグスタフを突き刺そうとしたのだ
そういったなんとなくなところはグスタフの生命線ともいえる
『フシュル!ガァァァ・・・』
小さく唸り声をあげる熊帝に少した異変に気付いたナッツは直ぐ隊形を戻すと口を開いた
『筋力ダウンのおまけで脳震盪を起こしてます!』
どうやら脳内がグルグル回っている様で熊帝は空を切る形で両爪をぶん回している
今が好機と見るやルルカは風術のカッターを放つが奴の毛を切るだけで終わったのだ、それを見たナッツが1つの推測を口にした
『こいつが固いのは体毛です!肉は硬いですが刺せない程じゃありません!!!』
なるほど、こいつの硬さはその毛か・・・
俺の通常弾を軽く弾いたのもその理由だと頷けると感じ始めた、斬るという剣撃は見たところ心もとないと思えたがナッツは突くという攻撃に対してはちゃんと刺さったのだ
であれば体毛が固いだけなのだ
『ナッツ!!!』
グスタフが叫ぶ
ナッツの頭上には熊帝の前足が振り落とされたのだ、まだ脳震盪ではあるがそれでも声の場所でだいたいの敵に位置を把握し攻撃に転じて来たのだ
野生の勘というのはここまで来ると強み
流石獣だと褒めたくなるよ
『神速一閃』
ナッツは加速技で真横に避けたのだが肝心の4本の剣はその場に置いていたのだ
しかも剣は真上を向いて4本とも重なり合い1本の剣の様な状態なのだがその剣を熊帝は叩きつける
感覚で攻撃しているため見えていない、となると訪れる答えは一つ
『グガァァ!?』
左前脚の手の平から血が流れ始める、彼の前足には剣が刺さっておりナッツはこれを狙っていたのだ
直ぐにプファイルと叫ぶと剣が貫通した傷口を見ていた熊帝を無視して更に傷口に大きな矢で貫いたのである
『グゴァァァァァ!』
痛みで奴は怒っているし今の痛みで気付けになった様だ、動きが多少良くなっている
ナッツはズルクと唱えて剣全てを自分の近くに戻した
だがまだ力は思う様に出せないみたいだがこれはチャンスじゃないだろうか?
それはいち早く考えるより動いてしまったもう一人の熊、グスタフ
彼は次なる一手の為に入念に闘気を溜めていたのだ
迫ってくるグスタフを視界にとらえた熊帝は素早く右爪を横殴りに攻撃するとグスタフは避けずにその爪に向かって剣を振りかぶった
お前の考えてることは俺もわかるよ、あいつの無事な前足はもうないし筋力も大分落ちている状態
受けきれると悟ったろ?
『オラァァァァァァァァ!!共鳴斬ァァァァァ!』
フルスイングとして見えないグスタフの大剣が熊帝の爪と激突すると甲高い音をたてて大震動が起きた
当てた部位に連続した振動を加えた技なのだが意外とこれが役に立つときがあるがそれが今だった
パキャンと金属が折れる様な音が聞こえるとなんと熊帝の右足の爪が綺麗に折れてしまったのだ
ご自慢の爪は片方のみ、だが爪が無くとも驚異的なのは変わらない
『ファイアバレットォ!』
ルルカが大きめの火球を熊帝の深手を負った左手の甲に当てると傷口から炎が入ったらしく激しく痛がる再びその場に崩れる
ナイスタイミングでありそれをチャンスとグスタフとナッツは走り出しだすが熊帝は口から空気弾という今迄見せた事も無い技を見せつけてきた
これは獅子人族シュウザーも使用していた技だ、口から圧縮された空気の弾を撃つんだ
意表を突かれた技だが標的はナッツ
『ボフッ!!』
腹部に命中すると後方に吹き飛んでいく、その姿を見送る暇はグスタフにはない
彼は熊帝の間合い迄辿り着くがそれをさせまいと直ぐに熊帝はグスタフに標的を変える
行動が早い奴だがそれが獣だ・・・
また空気弾を口から放つがそれはグスタフに当たる前に後方から飛んできた光線によってかき消されたのだ
吹き飛びながらナッツはそれを放っていた、ナッツは木に背中を打ち付けると直ぐに立ち上がり再度走り出す
彼の攻撃は偶然なのかは知らないが熊帝の空気弾を打ち消してその紫色の光線が口の中に入っていったのだが流石に口内は硬くはない筈
『グヒュン!!』
ようやく情けない声をだした熊帝に隙をみたグスタフ
本当に痛がる時にしか出さない獣特有の鳴き声を不敵な笑みを浮かべて喜んでいる様だがまるで悪魔みたいだな・・・俺は本当に見るだけで終わりそうだ
口を半開きにしてグスタフをひと睨みするがお前にそんな暇はもうない
既にボロボロじゃないか・・・ダメージは浅くとも攻撃できる箇所は十分にある
『ここで新技!ヘルファイアなのだーーーー!!!!』
大声を出してルルカが元気よく口を開くと彼女は手を前にかざして遥か後方から赤黒い光線を熊帝に放った、これはタツタカが愛用している術じゃないか・・・よくぞ覚えたルルカ!!!そう言えば忘れていたよ!!!!それ愛用しろよ!!?
『グギャァァァ!』
モロ顔面にそれが当たってしまい両前足で顔を隠すとそれに便乗する者が2人
『ヴュンデル!』
彼を囲む4本の剣先からいつもより細めの光線が熊帝に襲い掛かるとなんとそれは熊帝の右腕を貫通したのだ
俺はあまりに事に驚くが確かあれは打撃系の千剣技の筈だぞ?
『打撃技なのに・・・』
俺はそういうとルッカが代わりに答えた
『細くすれば貫通するでしょ?箸だって思いっきり勢いつければ刺さるしさ』
同じ原理だ、細くすれば発射速度に任せて貫通できるといった理由だな
それを戦いの場で考えるかよ普通・・・・
だがそうなると一番貫きやすい腕を狙ったのだろうなと直ぐに理解できる
『ディザスタァァァハンドォォォ!!!』
グスタフの影が大きくなり前方から巨大な黒い腕が出てくるとそれはパーの形を作って熊帝を全力で地面に叩きつけたのだ、痛そうってレベルじゃないな
『ガブァ!?』
大きな手で叩かれで地面に大の字でふさぎこんだ魔物
もうこいつの攻撃する暇は残っておらずやられるだけだそうな
グスタフが大剣を振りかぶり奴の頭部に唐竹割をぶち込むとビクンと熊帝の体が一瞬反応したが無意識での体の反応だな・・・脳にダメージを負う程の威力を叩き込まれて体が反応したんだ
『グァ!!』
『マジかよ?』
『しぶといですね!?』
ナッツとグスタフは少し下がり熊帝の様子を見ているがゆっくり立ち上がると息を荒げて視線を低くしたのだがあれは明らかに走りますよと全力で伝えている
最後の力を振り絞る気なのだろうな
『ヘルファイアなのだーーーー!!!!』
2人の中心を通過して後方から再び赤黒い光線が放たれる
これは熊帝には嫌な術だろうな・・・確実に魔物にとって脅威と言わざる負えない上位の火術
これだけあれば本当に困る事は無いと思うがタツタカが愛用しているからだ!先ほども言ったがあいつが使ってるんだから間違いない!
『ギャピィィィィ!!』
また情けない鳴き声だ、顔面をまた燃やされているし頭部の毛もボロボロと地面に落ち始めているが流石の熊帝の硬い毛でも高温にはかなわないだろ・・・
すかさずグスタフは高く飛ぶと剣を熊帝の頭部に向けて思いっきり突き刺した
頭部に硬い毛はさほど残っておらずそれが無ければ当然彼の馬鹿力でも貫通する
『いい加減死ねヤァァァァァァ!!』
『ガポォォォォ!!!!』
グスタフの額にも青筋が浮かんでいる所をみると相当本気で差し込んだようでありその結果根元まで頭部を貫いた、流石にこれ以上戦う事は無理だ
直ぐに剣を抜いてグスタフは離れると目の集点が合わない熊帝は千鳥足で歩きまわすとその場でドスンと横ばいに倒れてしまった
『ピクピクですよ先輩!』
余裕だなお前、てかピクピク言うなや・・・
熊帝は酷い痙攣をしているがそれはじきにおさまり静かになると呼吸も小さくなりとうとう息絶えてくれた
経過の為に少し距離を置いて状態を見ているが完全に死んでいる事を皆確認すると全員大きく溜息をついてその場にヘタリと座り込んだのだ・・・意外に苦戦したようにも見えなくもないがそうでもないのだ
『少し緊張したぜぇ・・・ナッツがかけた時はビビッたぞ?』
『すいません、まさか空気弾を撃つなんて思わなくて・・・いった・・・』
『怖かったのだー』
3人共非常に疲れている
俺の後ろでルッカが小さくジャンプして喜んでいるが討伐した3人は喜ぶ暇も無さそうだ
『崩れればそこからやられるだろうなと思ってたしよ・・・まだ手に感覚がねぇぜ』
グスタフは自分の両手を見ているが小刻みに震えていたのだ、在りえない話だが恐れではなくあまりにも予想外過ぎる腕力を直で感じたんだ、パワーブレイクで筋力を下げて脳震盪にさせても大剣と爪をぶつけた時に手がビリビリ痺れたのだろうな・・・下手すれば振り負けていたかもなお前
でもよくやった、それがグスタフだ
『僕が吹き飛んで皆止まっていたら確実に崩れてましたよ・・・あそこからでも奴は崩せる力を持ってましたし』
『だなぁ・・・久々にスリルがったぜぇ』
『私は怖かったのだーグスタフー』
『なんだよルルカ・・・たく』
軽くルルカを撫でているがワザと甘えているようにしか思えない、無視だ
それにしても俺の通常弾を弾くなんて凄いなぁ・・・驚いたよほんと
そうして皆で熊帝の使える部位を剥ぎ取り開始しようとしたがグスタフが首を斬って血抜きをするとその熊帝の体を前みたいに自分の影を大きくしてそこに乗せるとそのまま運び出したのだ
少し異常な光景である、影が魔物を運んでいる様な感じだが・・・便利だ
この1戦で全員疲れたらしく今日はもう休みたいとあのグスタフも口にした
それには俺とルッカも少し驚いたが仕方ないだろうな、熊帝はランクAの頂点
何か一つでも崩れれば負けを皆悟っていたのだ・・・・今までにないくらいの緊張を感じていたに違いない
よく頑張った!
街に入ってからは大騒ぎであった
『うわぁ!!なんだこの魔物ぉ!』
『熊帝じゃねぇかー!?』
『ひぇぇぇぇ街が壊される!』
ルッカは恥ずかしそうに俺の背中に隠れて歩いていた
ギルドの入り口がそれなりに大きい事が幸いしてに熊帝を建物内に運ぶことに成功したがそれでも大騒ぎだった
受付嬢がその魔物を見ただけでカウンターの奥でぺたりと座り込んで失禁していたのだ
慌てて職員とかが動いたが泣きながら受付嬢が奥に消えていく光景を見て俺は居た堪れない気持ちになる
代わりの職員が俺たちの対応をしてくれたが報酬が合計で金貨120枚と多いのか少ないのか判断に困る金額だ
それについてルルカが説明してくれたのだ
『熊帝の肉は硬くて食材にはむかないのだー、前の阿修羅猪は肉の部位が人気であれくらい高くなったけどランクAの中で熊帝は強くても部位的な報酬は期待できないのだー』
まるで損をしているかのような言い方だがその通りだ
食えないのだ・・・熊帝は!だからその分安い!体毛と牙そして骨が使えるらしいのでその分上乗せをしてもらったけどそれでも金貨100枚越えは素直に嬉しいかな
宿泊する宿に戻ると3人は死んだように眠り始めた
ナッツとグスタフの部屋を見てもグッスリ寝ているしルッカがルルカの部屋を見るとグッスリ寝ていたらしい
『相当疲れたみたいね・・・にしても私達何もしてないわね』
ベットで転がるルッカがそう言うがお前は薬草採取があったろ?俺は・・・本当に・・・
何もしてない・・・少し罪悪感を感じたけど気にしないでおこう
だがその罪悪感が邪魔して今日はルッカを襲いたくても襲うのを俺は我慢したのである
働かざる者・・・食うべからずだ!!!