21話 新たなる始まり
ナッツ帝国滞在最終日
彼は昼食後は家でのんびり寛いでいた
ソファーにもたれ掛かって隣で本を読んでいるミレーユと他愛のない話をしているとラブーがリビングに入って来た、彼はどうやら王宮からの騎士の伝言を門から受け取ってそれをミレーユに伝えた
『帝国内の通行税が統一化されたようです、物流関係の通行税は銀貨1枚そして他は銅貨5枚で今日から開始されるようです』
その言葉にミレーユは驚く
それもそうだあろう、1週間いじょうかかると思われた法案が1週間足らずに移したことに対しての感情だ
この事実はツェンバー財務官長の力量が為せるからこそだか彼に付き従う新たな部下たちの迅速な対応ともいえる
『流石はツェンバーね、彼はもしかしたら今迄の財務官の中でも選りすぐりかもしれませんね』
『保険税は少しかかるらしいです、奮闘した部下を労う為に少し休暇を与えたとか』
『なるほど、動く時は動き休む時は休む・・・理にかないますね』
ミレーユはツェンバーの能力を再確認した、できる男だと
ラブーはそこまで話すと会釈をして再び家の警護をするために外に出て行った
国の再建は確実に始まっているとわかる事実にナッツも良い傾向だと微笑んだ、その様子に気付いたミレーユは彼の頭を撫でた
ナッツは程よく幸せを感じるととりあえず外の庭で千剣の技の訓練を始めた
彼の剣は前のと違って立派な物になった
エイジ鉄がメインだがフラスカシルバーという高級の金属も使っているため折れるという心配はほとんどない
剣の名はデュリトリオン、帝国のとある部族の言葉で貫くを意味する言葉をひねった名である
前の剣よりは気持ち重く感じるが使い慣れると気になる事は無いと思いナッツはそれを使い訓練を始めた
『ハンドハーベン』
そう唱えながら剣を頭上に放り投げると紫色に発光し始めて空中で浮き始める
庭の周りを自在に飛ばせてまるで鳥のように飛ばすまで器用に操れるようになった
自身の剣を近くに移動させると再び口を開いた
『シルト』
ナッツの正面で高速回転させて盾の様な効果を成す技
触れれば腕が細切れにされそうなくらいに見えない速度で回転をするその盾は術の防御に有効
物理には限界があるが魔力攻撃にはかなりの効力を発揮する
徐々に千剣の技の特徴を捉えてきたナッツは実力が発揮できて来たと思っていた
自分の能力を知ることは選択肢の幅を増やすに繋がる、引き出しの量は手数の多さ
手数の多さは戦闘力の高さ、それを確かなものにするために一つ一つの技の完成度を高めれば確かなものに変わるだろう、クズリから教わった言葉を思い出して彼は微笑むと技を解いて回転を止める
宙に浮いた剣を掴むと手首で剣を軽く回転させて腰におさめた
『それなりに苦労せずに扱えますね』
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ルッツ・ニューベイター(男17歳)千剣兵【上位】
☆戦術スキル
剣術【6】 剣の熟練度、恩恵により攻撃力と耐久力が中アップ
体術【5】 体術熟練度、恩恵により耐久力と素早さが中アップ
魔術【3】 魔術熟練度、恩恵により魔力量を小アップし・詠唱時間を小短縮
操剣【2】 千剣兵技練度、恩恵により技の威力と精密さが小アップ
技強化 技の威力が小アップ
☆補助スキル
食い意地【大】 食事による体力の回復速度が大アップ
安眠 【大】 どんな状態でも寝ることが出来る
痛覚耐性【大】 痛覚を軽減する
逃げ足 【中】 対象から離れる際の速度が中アップ
恐怖耐性【中】 恐怖状態を少し緩和
我慢 【中】 少し耐久力があがる
集中 【中】 術や技の構築時間を少し短縮する
体力 【中】 少し疲労しにくくなり自身の体力を中アップ
魔力感知【中】 体内の魔力の流れを感じとることが出来る
気配感知【中】 少し生物の気配を察知
忍耐 【中】 少し物理耐性が上がる
☆技スキル(開示ステータスに表示されない部分)
居合・骨砕き・・流し斬り・トリックソード・十字斬り・唐竹割
神速一閃
☆千剣技(開示ステータスに表示されない部分)
ハントハーベン・メッサーシーセン
ヴュンデル・シルト・プファイル
ガンマレイ
☆称号スキル
千剣兵の加護 剣術の熟練度が上がりやすくなり特殊な技を覚えることが出来る
攻撃力と耐久力が大アップしダメージ自動回復【小】
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操剣スキルも直ぐに2に上がったのは他のスキルのレベルの高さもあり彼の暇な時間での鍛錬もあり直ぐに結果を出した、これなら3も直ぐだと予想して彼は家の中に入って風呂に入った
ニューベイター家の中には銭湯があるという贅沢、それを味わってからナッツは夜までミレーユとゆっくりすることになった
ふと共にソファーに座る母がこう言ったのだ
『やるべきことの大きさは責任の大きさ、ディロア王国での事は聞きましたが今回は魔族との闘いをどう阻止するかです、それはあの銀狼が止めるでしょうからそれを活かすかどうかは国内にいる者の奮闘で決まる筈です・・・それに絶対の失敗は許されません』
母には今迄の旅の話をした、それはガウガロの一件も含まれている
『やらなければいけません、不特定多数と先輩は慎重ですがその通りですね・・・僕もそんな存在と戦う可能性は大いにあるのでそれまでにもっとつよくならないといけません』
ディロア王国はかなり大きな事になるのだろう
ほとんど戦争だ、今までとはわけが全然違う
完全なる戦争が起きるのだから大混乱のさなかでの行動を強いられている
そのまえにやらなければいけないかもしれないがタツタカの都合上そのタイミングじゃないと駄目だそうだ
だがその話になるとゾロアも争いが起きてからが良いと太鼓判を押す形で反対はしなかったらしいことはタツタカから聞いている
『重い言葉かもしれないけど・・・あなたならできるわ、大きなことをする人はその言葉を乗り越えなくてはいけません』
あなたはできるわ、その言葉は時には人を堕とす恐れのある言葉であるがあえてミレーユは平然と口にした、だがその程度で負担を感じる様では話にならない事はナッツも承知の上
そうしてナッツは軽く答えた
『大丈夫ですよ、先輩もいますし母は出会っていませんがグスタフさんという仲間もいてタツタカさんやゾロアさんもいます・・・他にも仲間を募るらしいですが』
彼には仲間がいる、色々な死線をくぐり抜けた仲間が
不安はない
ミレーユはナッツを撫でながら口を開いた
『私とクズリの宝物、頑張りなさい…あなたにはあの人の血が流れているわ』
『はい』
夜になるとクズリは帰ってきて共に夜食をして楽しくこの時間を過ごした、今日で最終日だがそんな雰囲気を感じさせないどこにでもある家族の触れ合いを皆味わう
夜食の時にふとナッツは父であるクズリにこう告げられた
『お前だけはいつでも冷静でいろ、チームの頭であれ』
納得できる言葉を貰いナッツは小さく頷いた
自分にしか出来ない役割を捨てずに行動しろという事だろう
違う面でジャムルフィンを支えようと彼は既に誓っていた
次の日の朝にはタツタカとゾロアがテレポートで迎えにきたのだがやけに眠そうである、ゾロアはいたって普通なのだが話を聞いてみるとメルビュニアで反勢力の無力化をしていたら休む暇がなかったらしいのだがタツタカとゾロアの二人だけで成功したのだからやはり凄い人たちと再認識した
『ナッツよ、ポートレアでいいだろう?』
ゾロアが腕を組んで彼に確認をとる
『はい、よろしくお願いいたします』
深々と頭を下げると同時にミレーユは口を開いた
『頑張るのよルッツ…、それにタツタカさんやゾロアさんも本当にありがとうございました、この国で困りましたらいつでも頼ってください』
眠そうであるタツタカも笑顔で返事をするとゾロアは微笑み小さく頷く
『全てが終わったら一度帰ってこいよルッツ』
『はい』
良い時間を良い仲間に与えてもらい彼は満足した
沢山の協力がなければ不可能な事をしてくれた
ナッツは恩返しのために必死で頑張ろうと決意してタツタカの腕を握りしめる
ニューベイター家に仕える皆も悲しむ者はいない
遠くで頑張るクズリの息子に心の中でエールを送っていた
『では』
タツタカが告げた瞬間視界が徐々に移り変わり気付くとポートレアのギルド前に転移した
長い間来ていないような感覚にナッツは陥るがそれは気のせいである
先ほどまで目の前には自分の家族がいたというのに今はいない、その現実に彼は寂しい気持ちにもなるがそれは直ぐに解消された
家族がいるという今までにはない事実に恵まれてそれだけでも満足感が彼を包み込む
全てが終わればまた終える、会おうと思えば遠くても会いに行ける
いないわけじゃない
それだけで十分なのだ
『タツタカさん、ゾロアさん・・・本当にありがとうございます』
ナッツは2人に大きな感謝を述べた
彼らの働きによって叶えられた願いにナッツは深く有難みを心に覚える、タツタカ達もそんな彼の言葉に口元に笑みを浮かべる
『ディロアではよく働いてもらうぞ千剣?』
微笑みながらゾロアがそう言い放つとナッツは元気よく返事をした
『はい!!』
そうしてタツタカ達は直ぐにメルビュニアへとテレポートで転移していったが彼らは疲れていたためゆっくり休む事だろうとナッツは悟った
その場で背伸びをしてからナッツは軽快に歩を進めた、彼の心の中にはもう昔の様な不安はどこにもない
更なる冒険の為に目標を決めて強くなることを彼は決めた
暫く街中を歩いているとふと裏路地に変わった風貌の者が入っている所を見かけた
赤いローブを深々と羽織った人物に少し意識を奪われて自然と彼を追いかけてしまう
理由はナッツにもわからないのだが無意識について行ってしまったと言った方がいいだろう
少し早歩きで裏路地に入ると少し奥の方で彼が立ち止まっていたがそれはまるでナッツを待っていたかのような状態
それはナッツにもそう思えたらしく一瞬彼を警戒していつでも剣を抜こうとしてしまう
『サーチ』
その得体の知れない赤いローブを羽織った者がそう呟くと不気味な風がナッツを通り抜けた
『千剣か、先代のババラハ・キメラロードを思い出すな』
彼がそう呟くとナッツは理由が掴めない恐怖を感じた
頭で考えるよりも早く体が剣を抜けと大警告を発する、気づけば今迄にはないくらいの速度で抜刀して赤いローブの者に剣を向けていた
一瞬、そう・・・ほんの一瞬だが彼が微笑んだのだろうがその時不気味な気配をナッツは感じる
今迄感じた事のない緊張感が彼の体中を走り回る
『誰ですか』
それ以外の言葉など浮かぶ筈がない
酷く警戒しているナッツに赤いローブの者は軽く笑う
こんな時に限って裏路地を歩く人々はいない
『剣術7・・・体術6・・・そして魔術5に操術5で天位職千剣騎士になれる』
ナッツは目を見開いて驚いた、自分が知りたい情報を彼が軽く口を開いて教えてくれた
嘘かどうかはわからないが何故か嘘とは感じられずにナッツはそれを鵜呑みにしてしまう
一言も発する事も出来ない状況を見た謎の人物は続けて口を開いたのだ
『千剣の雨を闊歩しよう、堂々たる歩に刮目せし・・・全ての刃が敵を穿つその力。全ての栄光を宿しその心・・・愛を知って力とす』
そこまで言うと彼はナッツに背中を向けて歩き出した
その言葉が唄だと悟ると再びその者は口を開く
『武器は今のうちに4つくらい持っておけ・・・その立派な剣は腰につけておけばいいが他に4つだ、ハンドハーベンで纏うだけでいいだろうし浮遊させとけば先手は誰よりも早い』
その言葉を言った瞬間いきなり彼は業火に包まれた、周りが赤く染まられると炎はおさまりそれまでいた赤いローブの者は消えていた
少々熱いと感じたナッツは顔を腕で隠していたが彼がいた場所まで走って辺りを見回した、だがいない
完全にいなくなったと悟ると大きく息を吐いた
千剣を知る男、何者なのだろうと考えても答えは出ない
だがどうあがいても勝てる気がしない者に対して出て来た感情は畏怖ではなく疑問
何故自分に情報を提示したのだろうと何度も何度も答えの出ない考えを脳内を支配する
敵意が感じられない、アドバイスをくれたのはわかったがそれには意味があるとだけはわかった
『千剣を知るのならば今の情報は・・・試す価値はある』
無意識に彼はそのまま鍛冶屋に足を運んだ
ポートレアの武人祭が行われた総合闘技場の近くにある鍛冶屋に向かうと他の冒険者が数名中で武器を品定めしていたがナッツは迷わずに軽鉄の片手剣が沢山入った壺に目を向けた
1つ金貨3枚という安さ、片手剣にしては安いのだが軽鉄だけでできた剣なので金額はその程度
同じ型の剣を4つ持ってカウンターに持っていくと店員が少し驚いたような顔でナッツを見た
『4つも買うんですか?』
『はい、必要なので』
男性の店員は不思議そうな顔をしながら再び口を開いた
『金貨12枚です』
そのやり取りを店内にいた冒険者たちも異常な者を見る様な目で彼を見るがそれをきにせずにナッツは迷いなく支払った、おさめる鞘はないことが安さでもあるが彼はそれが必要ないと予想であるがわかっていた
4つという言葉とハンドハーベンで何とかなると言った言葉の意味をナッツはその頭の回転の良さでやっと理解したのだ
『おいあんちゃん・・・変わった買い物だな』
気になった他の店員、彼はこの鍛冶屋のマスターだろうが奥からナッツに話しかける
偉い人だろうと瞬時にわかった彼は少し口元に笑みを浮かべて答えた
『必要になるので』
その言葉を発してからナッツはカウンターに並べられた4つの剣に意識を向けた
あの得体の知れない者の話が本当ならハンドハーベンという技はもしかしてと脳裏をよぎる
だが試さずにはいられない、考え過ぎてしまいそんな簡単な事を試さなかった自分に悔しい気持ちが募った
『ハンドハーベン』
4つの剣が紫色に発光するとそれはカウンターから軽く浮いた
その光景を見た店員や冒険者は凄いもんを見る様な目で浮き始めた剣に目を奪われた
ナッツは今まで1つの対象に対しての鍛錬しかしてこなかった、それにしか考えが及ばなかった
何本迄操れるかまでは考え切れていなかったのだ
そしてハンドハーベンは魔力の消費を一切しないという事だけはわかっていた
その技を解くとそれに使用した魔力は主に戻るという特徴を知っていたので4つ使うという言葉にナッツは大いに興味を持った
4つの剣はナッツの意志によって彼の周りを浮遊し始めた
いける、彼は心で大きな声で叫んだ
4つの操作は大変かと思っていたがさほど難しい事じゃなかった事を感じるとナッツは軽くガッツポーズをした
彼の背後を均等な距離で保ちつつ並んでおり剣先は地面を向いている
消費はない、ハンドハーベン自体の消費は小さい為今更4つになったところで大した事は無い
『なんだこいつぁ・・』
『ありえねぇ・・てかこいつ銀狼がいるシルバーバレットのナッツじゃ』
『あそこのチームはバケモンしかいねぇのかよ』
その声に反応を示さずに彼はカウンターの店員たちに向かって微笑み口を開く
『良い買い物でした、ありがとうございました』
『あ・・・ああ』
ナッツは颯爽と店内を出るとそのまま自身が止まるべく宿を探した
ポートレアには宿屋が沢山あるがそれは冒険者の多さが理由となっている
彼は少し休めの宿を探した、理由は簡単だ
さっき金貨を手持ちの半分使った
『はぁ・・・』
必要な買い物だけども少し痛い出費である
色々街中を歩きながら今日の予定を考えているがそんな彼が歩く姿を人々は流石に驚いている
ナッツの周りには4つの剣が浮遊しているからだ、見た事もない光景に驚くのは仕方ない
宿を探すよりも先に資金を増やすことに専念した方が良いと考え冒険者ギルドに足を運んだ
中に入るとそれはもう冒険者たちは異様な目でナッツに視線を向ける
全員が不思議な物を見る様な目で釘付け状態、慣れない視線に多少ナッツは恥ずかしい感情を抑えつつも真っすぐ受付に歩き出すと見慣れた者からの声をかけられた
『前に話していた千剣・・・か・・・面白いぞナッツ、シルバーバレット全員が面白い』
『カールさん』
微笑みながらナッツに声をかけたカールはどうやらスカーレットの館での特訓を終えて冒険者生活を再び始めたが彼の座る椅子の隣にはミミリーもいる
『何故君がランクCの冒険者なのか不思議でならんな、抗議でもしたらどうだ?』
不敵な笑みをナッツに見せている
『考えときます』
ナッツはそれを言ってから一枚の依頼書を掲示板から手にして受付嬢に手渡した
グランドパンサー3頭の討伐依頼、報酬は金貨3枚・・・手ごろであり戦い慣れた魔物で丁度良いと彼は悩まずにそれを選んだ
1人という事もあり報酬は総取り確実、一日一回の依頼で絶対プラスになる
その依頼書をナッツは新調してもらったハードレザーアーマーの内側にしまうと再びカールに近付いた
カールは何か要件でもあるのだろうと悟ってナッツからの反応を待った
ナッツはカールという人物は紛れもない本物の冒険者だと信頼していた
決して他人を馬鹿にせず相手を理解しようとする性格に確かなものを感じている
それが彼の強さであり彼の人望だろうと思いながら彼は口を開いた
『カールさんに今後手伝ってほしい事があります、最悪死ぬかもしれない大きな問題です』
カールは彼の言葉で口元に笑みを浮かべて彼を見つめた
最悪死ぬかもしれない、その言葉の意味を瞬時に読み解くとそれは今までの依頼とは大きくかけ離れたレベルの大変な依頼であると悟る、シルバーバレットならばそんな問題に出くわす事も不思議じゃないとカールは予測してその大いなる依頼に自身の更なる高みを求めて静かに答えた
『ほう・・・君が言う事に大いに興味があるぞ・・・?』
第9章 ベルテット帝国平定戦 完
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