9話 2つの帝国意志
騎士に囲まれた状態で俺はその場に座り込むと彼らに声をかけることにした
もう少し情報が欲しいかなとふと思ったのだ
『エステリーゼってクズリとどんな関係なんだ?』
俺の言葉で首を傾げる者もいればハッとしたような者もいるが俺は後者の反応をするものにそれを問いたいと思った
だがそれを伝えようとする前に知っている者、少し騎士歴が長そうな男が口を開いた
『クズリ様はエステリーゼ様を我が子のように育てておりました、立派な姫にしようと色々と指南をしてくれていましたしエステリーゼ様もそんなクズリ様に頼っておりました』
数歩前に歩み寄りながらそう言ってきた
ふむ・・・という事は
『クズリにとって娘みたいな存在か』
『左様でございます』
俺の問いに軽く頭を下げてそう答えた騎士
どうやらクズリがいた時から彼は騎士として彼らの近くにいたのだろう
現在ジークに利用されていると聞くと彼女は結託して行っている様子もなくクズリ側の思想の女性だと伺える
きっとエステリーゼもただでは利用されてはいないだろう
色々考えを頭で走らせていると再びその騎士は話し始めた
『ですがエステリーゼ様が国のトップに君臨して青い時期にあの方も大変そうでした、今までいた筈のクズリ様がいないだけで不安な王政を強いられてきて結局ジーク様に頼る他なかったのです、クズリ様を慕っていた有能な人物たちは立ち去ったのですから内政がボロボロにるのは時間の問題でした、じかもジーク様の手のかかった者達が内政に手を付けて来てからそれなりに帝国は良くはなりましたがそれは帝国が求める政治ではありませんでした』
『それはどんな政治なんだ?』
『思想の自由を捨てた感じと言いますか、従わなければ罰する・・・ですね』
俺でもそれなりに理解は出来るが偏った政治になってる?って感じか
どんな政治かとか詳しく聞いても俺は難しい話になりそうだったのでそこまでは聞かないことにした
でも確かな事は一つだけわかっている、その話が本当なら今回の戦争を仕掛ける話も拒否する事が出来ないという事、強引に従わせると言った感じか
だから兵士や騎士も忠実さが欠けた者が多いという事だろう
俺を囲むこいつらも帝国の為に向かってこないのはそんな心情もそれなりにあるんじゃないかな
そこで俺は唐突にとある言葉を口にした
『じゃあ俺が戦争派をボコボコにすればいいんだな、向かってくる奴は殺すか』
平気で殺すと言えるのはこの職になってからしょうがない感情の一部だ
俺は立ち上がり槍を持ちながら両手を回して軽い体操をすると俺と会話していた騎士が質問してきた
『クズリ様と戦った事があるという情報を聞いたのですが』
『あるよ、クズリ・ニューベイターだろ』
『どのようなお方になっておりましたか?今あの方は昔の様なままなんでしょうか?ここを去った理由は私らも存じております』
とても気になるらしい、まるで戻ってきてほしい顔つきだ
この騎士もきっと戦争反対派だと直ぐにわかるし肝心なクズリが戻ってほしいと願う1人だ
俺は答えた
『もうあいつとは戦いたくないな、死ぬところだったぞ?ジークより遥かに強いのに十天じゃないし帝国が危ないって教えたら軽くキレてたし』
俺の言葉で騎士の顔が微笑んだ、変わっていない彼の強さを理解してくれたのだろう
聞こえは悪いが良い暇つぶしになる、俺は彼に話した
『まぁクズリも戻ってくるし大丈夫だろう、それまで帝国を騒がせるけどな』
『その噂は本当でしたか』
『だぞ、昔の帝国が恋しいと思うなら帰還したあいつに従え』
そこまで話すと奥の方が徐々に騒がしくなる、違う気配が多いな
多分本体が来たのだろうな・・・少し大きめの気配も感じる
『どいてろ』
騎士は俺の言葉を聞いて正面の道を開けた、奥の方から一際立派な鎧を着た十字架のマークがついている騎士達が馬に乗って現れた、その中心には黒髪のロン毛野郎がいるのだがあいつが多分・・・
彼らは俺の前で泊まると一斉に騎乗した状態で剣を抜いて殺気を向けてきた
なるほどな!精鋭部隊といった所か、面白そうなと俺は口元に笑みを浮かべると黒髪ロン毛の男が馬上から口を開いた
『お前か?出来損ないだがパラスを討った男というのは』
パラスを出来損ない扱いか、仲間なのに中傷というのは好かないが一応答えることにした
『俺だがパラスは俺が倒したぞ』
すると男は鼻で笑った、好きになれない男だ
そいつの連れてきた騎士達も同じようにクスクスと笑っているのが更に気に食わない
『あいつは馬鹿みたいに優しい奴だったからなぁ!まぁだが色々手を焼いたがそれなりに仕える様にはなったと思ったのだが』
意味深な言葉だが俺の部屋に来た騎士が言った言葉が理解できる
パラスは変わってしまったという理由はこいつのせいか、性格が悪そうだ・・いや悪いな
ゴーゴンも糞臭い奴といっていたし好かれない奴なんだろうってわかる
まぁでも倒していいよね
しかしニヤニヤしているこいつの騎士達も好かない
もしかして俺に勝てる作戦でもあるのかと勘繰ってしまい俺は少し気を引き締めた
だが四傑もバラバラな奴の集まりな感じがしてならない、なにを基準に選んだのかわからない
そうしていると男が口を開く
『聖騎士バルトニクスが貴様を成敗するぞ、銀狼のジャムルフィン・・・俺は四傑で一番強いぞ!かかれ者ども』
一番強いか、気を引き締めて行かないとな
バルトニクスの部下が一斉にかかってくるが関係のない騎士達は両脇に固まっているので俺も安心して倒すことが出来る
俺は気合を入れて銀閃眼の連射弾を討ちまくった
始めて使ったのだが首の負担も少ない、俺は銀色に染まった右目の正面から放たれる銀閃眼に騎乗して襲い掛かってきた騎士達はバタバタと馬諸共倒れていった
俺に近付く事も出来ないまま正面には騎士達が次々と倒れていく光景にバルトニクスの目が見開いているのが左目でわかる
約500人が一気に倒れると連射弾をやめた
全員息でも止めたかのように静まり返る中で固まっているバルトニクスに声をかけた
『お前は来ないのか?十天だとわかっていて戦うんだろう?』
『あ・・・ま・・・まさか・・・』
『死ね』
狙撃弾を討って狼狽えるバルトニクスの頭を吹っ飛ばした
馬が驚いて両前足を上げると息絶えたバルトニクスが落馬する
あっけない、確かに俺の銀閃眼は卑怯じみた技である・・・初見で人間がかわすのは今はクズリしか現れていないし彼レベルじゃないと駄目なのだろう
これは人とは桁外れた動体視力と反射神経を持った魔物用の攻撃技
人間に向ければそれは死を意味する
銀閃眼を使うと本当に楽なのだが槍を使わないと強くはならないだろうな
銀の意思レベルはまぁ上がるとは思うが、俺は息絶えた首のないバルトニクスに近付くと後ろを向いて野次馬の騎士に話しかけた
『本当にこいつが四傑なのか?』
先ほど俺と話していた騎士が口を開けながら答え出した
『は・・・はい。多分そうですが』
ざわざわとした雰囲気に俺は首を傾げた
多分とは?まぁあっけなく死んでしまって疑いたくなる光景を見てそう口にしたんだろうな
でもまともに戦っていればそれなりに強い気配は感じたがそれでも苦戦はしないだろう
俺は騎士に近付くと再び話しかけた
『俺は四傑2人だけしか指示を受けていないしあとは俺の仲間が倒すだろうな』
『それは漆黒騎士ゾロアという方ですか?』
知っているのか、というか連絡用の魔石で情報を共有しているらしいからそれで迅速な行動がとれるのだろう
どこまで知っているか知りたい、多分四傑の1人は倒したと思うが
『どこまで知っている?』
『四傑のリプリー様が彼にやられたらしいことは聞いています、私が知っている情報はそれくらいですがそれが本当なら残る四傑はあと1人でしょうね』
『北のヴァイエルにいるレオナルドか』
残る四傑は1人というのは確実だろう
今日で残り1人だがそうなるとゾロアの考えも狂ってしまうしやはり俺は怒られるだろう
もう諦めて頭を下げるしかない、あいつはとっても強い
今回見たゾロアは以前とは比べ物にならないくらいの気配を感じた、予想では彼はもうデュラハンではない
ゼファーと似た雰囲気を感じた、本気のゼファーという訳じゃないが初めて会った時の様な気配と同じという事だ
それでも戦闘態勢になったゼファーよりかは見劣る、だが強い
シルバシルヴァを使わないと勝てない気がするがそれは彼と戦うとそうなるだろう
考えていると騎士が気難しそうに話してきた
『十天とは恐ろしいくらい強いのですね、クズリ様はそれに善戦したのですか』
『そうだな、あいつは本気で戦わないと倒せなかったな・・・俺の技普通にかわすし意味が分からん奴だったし』
『・・・はは』
ふと騎士が笑う、嬉しそうな面持ちでいるがこいつは彼の傍に付き従った事があるだろうな
騎士は続けて口を開いた
『残りの竜騎士レオナルド殿はクズリ様派のお方ですのでどうか命は取らないでほしいのです』
俺は彼の言葉を飲むことにした
『わかった』
そうして俺は宿の中に戻ることにして歩き出した
俺の地獄耳が周りの騎士の声を拾ってしまう
『四傑最強でも十天の前じゃ雑魚扱いかよ』
『これが十天か、強すぎるだろ』
『だがこれで戦争も回避できそうだぞ、クズリ様も戻るって言ってるし』
『バルトニクス殿も死んだし反対派軍でも作るかぁ』
最後とんでもない事を言っているが別な争いが起きない様に作ってもらいたい
激突してもらっても困る
『クズリが戻ったら作ればいいが争うなよ?』
俺はそう言った後宿の中に入った
中は外と違い平和であるがパラスを吹き飛ばした際の壁は壊れてしまっている
受付の近くにはゴーゴンがいるが俺の顔を見るとバツの悪そうな顔をしているのだが構わず受付に向かう
『おかえりなさいませ!十天様!』
ほら、受付嬢が元気よくそう俺に挨拶をしてくるが近くにいるゴーゴンが動揺している
そんな彼が咳ばらいをすると俺に話しかけてきた
『どうやら倒したか、弱かったろ』
『・・・お前知ってたのか』
不敵な笑みを受けべているがどうやら一杯食わされたらしい
俺は気になる事を聞いてみた
『お前本気じゃ無かったろ』
『当たり前だろ?十天に勝てる訳ねぇだろ、それにお前には殺気が感じなかったし上手く国を昔のように戻すんじゃないかってな・・・』
そこまで俺を察していたか、まともな奴だったな
試されたんだと俺は理解すると彼に今回の事情を説明する事にした
数分かけて話すが彼は真剣に俺の話を聞いてくれて彼の妻である受付嬢もその話を真剣に聞いていた
話し終わるとゴーゴンが口を開いた
『俺は子供の頃クズリ様に憧れてな、あんな人になろうって決めたら国がこのざまさ・・・だが戻るんだな』
『まぁな、あいつに時間を稼げと言われた』
『・・・あの人は強かったかい?』
『もう戦いたくないくらいにな』
ゴーゴンは鼻で笑った
クズリを慕う者達は彼が強いと聞くと嬉しそうな顔をする
それほどベルテット帝国では彼に依存した時代が大きかったのだろう
この国ではクズリは神と呼んでも良いくらいに崇められている、彼が来れば
俺はそのまま宿の部屋に戻りベットに横になろうと近づいたのだがふと思う事があり方向を変えて窓の外に視線を向けた
どうやら先ほど俺は殲滅した騎士たちの処理を行っているらしいが未だに宿を取り囲んでいる
戦っている最中に両脇にいたバルトニクスの騎士達だが彼らは敵意は無かったしあまり今回の戦争賛成しているような者達じゃ無さそうだ
主人であるバルトニクスを倒されても動揺はしたが仇を討とうとしなかった、むしろホッと胸を撫でおろしている感じがした
嫌いだったんだろうな
ベットに向かって横になる
そうしていると俺は直ぐに寝てしまったのだがどうやら疲れていたのだろうがそんな疲れてないんだがな
一応寝込みを襲われることは大丈夫だ、気配を感知したら自動で起きる
起きる事も無くてそのまま朝を迎えた、本当に昨夜に暴れた後かと疑いたくなるくらいに清々しい朝である
だが俺が起きた理由は朝だからじゃなく誰かが近づいてきたからである
直ぐに俺はノックされる前に窓から外の様子を見た、昨夜よりも騎士の数が多く見える道を全て埋め尽くしている様だ
相当囲まれている、苦笑いしてしまった
なんだが全軍で向かってきた感じがするが俺が寝ている間にせっせと動いていたのだろう
そしてドアがノックされて返事をすると開かれたドアからこの宿のお偉いさんと騎士達が入って来た
宿の者は昨夜のお爺さんだし騎士達は俺と話をしていたパラスの騎士とバルトニクスの騎士だ
彼らは困った様な顔だが中に入れると彼らは立ったままこちらの様子を見ている
外の様子についてだろうと思い俺は彼らに話しかけた
『何の用だ?』
するとパラス軍の騎士が口を開いて説明をしてくれた
『ベルテット帝国は戦争に移るのは難しくなっております、その為にこの街にいるあなたを討てばゼリフタルだけでも進行できると思って本体軍はここに集結してあなたを討つつもりの様ですが』
まぁわかりやすいな、俺だけでも撃てばゼリフタルの進行も難なく行えるか・・・うむ
丁度良く単騎で来ていると思っているらしく本体で迎え撃つ様だがそうだとしても数で押すだけじゃ無理だ、平原とかなら流石に四方八方の攻撃で俺も不味いと思うがここは街中である
まとめて倒すこともできる・・・だが肝心の天銀は使えないだろう
一気に殲滅できても被害が大きすぎるのだ
パラス軍騎士の話を引き継いでバルトニクス軍騎士が口を開いた
『竜騎士レオナルド殿とジーク様がこちらに向かっているようですが直ぐに着くと情報が入っております』
そんな事を言う彼らに俺は質問をしてみた
『俺になんでそんなことを話す?』
彼らは小さく頭を下げると宿のマスターであるおじさんが答えた
『クズリ様の帰還の為に』
こいつらは今の帝国を捨てて新たな時代を願う者達であった
それほどまでに今の帝国に不満を持っているのだろう
俺は彼らに返事もせずに槍を持つと彼らをおいて部屋を出た、廊下にはそんな時代に希望を持っている兵士たちであろう者達がチラホラ伺える
俺が通り過ぎる際に頭を下げる兵士が数多くいる
年配の者達が多いが若い兵もそれなりにいる様だな
今帝国は完璧に分断されている状況だろう
当初の作戦とは全然違う方向に向かってしまったが悪い感じがしなかった
槍を向けるべく相手がわかりやすい、無駄な殺生をしなくてもいい
1階フロントまで降りると昨夜の受付嬢もおりパラスがいた休憩室の様な場所にはゴーゴンが座って寛いでいた
ゴーゴンは俺の姿を見ると真剣な顔つきになり立ち上がった、俺に近付いてきている
俺は宿を出る歩みを止めて彼に顔を向けて待った
『十天と十天の戦いを拝めるんだ、見させてもらうぜ?』
俺は彼が勘違いしていると気づきゴーゴンの肩を軽く叩いて答えた
『ジークを倒すのは俺じゃないぞ?』
俺とゴーゴンの会話を聞いていた周りの者は首を傾げているがその答えを言わないまま俺は宿を出た
今この国は時代を変える為に大きな問題に直面しているだろう、それはガウガロでも俺は体験した
国を賭けた戦いに2度も足を踏み込むとはこれいかに、そう考えると歩きつつも不思議と口元に笑みを浮かべてしまう
今日はとても暖かい、空を見上げると快晴であり風も心地よい
ゆっくりと正面を見直す、視界全てにベルテット帝国の兵士そして騎士といった者達が辺りを埋め尽くしている
殺気を感じる奴らばかりだ、戦意があるらしいが確実にこいつらは戦争派の軍であることはわかっている
大きな宿内にも帝国軍の者はいるがそれは今回を望まぬも者達
俺の前にいる者は・・・・
『死にたい奴はかかってこい、十天を舐め過ぎじゃないか?』
兵士たちはバツの悪そうな顔で武器を構えている、向かってくる気配はないし予見スキルもさっぱり反応してくれない
敵と認定した奴らには最後の忠告として身分をひけらかすがそれは自慢じゃない
できれば向かってくるなという感情を込めているのだ、半端な覚悟で挑んでくる奴なら渋ってくれるだろう、だがそれでも襲い掛かると言うなら殺す
せめてもの倒す敵を識別する最後の忠告であった
俺が槍を構えると全員緊張が走る、とても静かであり風の音しか聞こえない
こんなに大勢に人がいると言うのに雑音というものが存在しない
『俺の相手をする奴はそこのどいつだ?』
槍を肩にかけてそう話すと女性の声が聞こえた
『私です』
兵士達も声の方に顔を向けると俺の正面の兵士が両脇にずれて道が現れた
その空いた道から1人の女性が現れたのだが非常に綺麗な人であった
顔だけならルッカ以上かもしれないがルッカが一番だ・・・うん
風貌が普通の女性ではなく高貴な存在であると俺は一瞬で見抜いた、あれはもしかするとだが
俺から数メートル距離を取って彼女は立ち止まった、腰には大剣をぶらさげているが女性には荷が重い武器なんじゃないだろうかと思いつつも警戒だけはすることにした
周りの兵士たちも騎士も驚いた顔でその女性を見ている
『貴方がかの有名な十天第7位である銀狼のジャムルフィンか』
赤い髪の綺麗な女性だ、俺の勘ではこいつはあいつで間違いないだろう
『そうだがお前は誰だ?』
首を多少傾げつつもそう口にすると彼女は大剣を腰から抜いて答えた
『ベルテット帝国皇帝エステリーゼ・ファイエル・ル・ロッテス・ベルテット』
おっ?あたりだ