2話 くだらぬ恋沙汰
『はっ?』
俺とタツタカとゾロアはポートレア監獄棟の地下2階に来ている、変にタツタカはビビッてるしゾロアは彼をどんな人物か知るために黙って聞いているのだが俺が帝国の状況を伝えると牢屋の中のクズリがそう口にした
彼には鎖はついていない
警備兵が諦めて牢に入っているだけで十分だと決めたのである
『はっ?とか言われてもなクズリ…』
『実際そうだろうが、俺が居ないだけでなにボロボロな国になってんだよ』
呆れた顔をしながらが奥のベッドで寝転がる
ベッドも追加されて居心地が良さそうだが俺達から見ても囚人とは思えない
『お前には感謝しきれない事をして貰った、だが勝手に抜け出すことはできねぇんだ』
思った通りの事をクズリは言った
脱獄は彼にとって容易である、ただの鉄牢じゃ簡単に壊してしまうのだ
だけどもこの国の面子や自身の罪の意識もありちょっとやそっとじゃ動いてくれなさそうだ
俺は彼に一つ聞いてみた
『ゼリフタルが国の為に特例で動くことを許可したならどうだ?』
その言葉で彼はゆっくりとベッドから上体を起こして俺を見て答える
『そうなりゃしゃあねぇがな、ミレーユも俺がいて欲しいだろうな』
『そうだクズリ、先程も言った通り彼女はお前の帰りを待っている』
クズリには説得前に色々と説明はした
ミレーユが彼を見捨てていないと話したら彼は泣き出したのだが今はその面影はない
『国からの許可が出ればいいだろう』
俺は心の中でガッツポーズをした
それなら容易い、時間はかかるかもしれないが
タツタカも安心した面持ちで胸を撫で下ろしている
先ずは王城か、クズリには再びまた来ることを伝えると口元に笑みを浮かべて手を軽くあげた
近くの警備兵に終わったことを知らせてここを出ようと歩き出したときに思い出した約束があり俺はとある牢に近づいた
『おいスキンヘッド』
『なんだよ今さら』
スキンヘッドの囚人は元ダグマのメンバーであり幹部だったらしい
前回の悪食との戦いでも痛界で運良く死ななかったのだ、地下2階の囚人は8割ショック死したんだが彼は生きていた、流石だが
『ちょっとこい』
俺の言葉で何かあるのだろうと勘違いした彼が近付いてきたが間合いに入ると俺の拳がスキンヘッドの顔面をぶん殴る、同部屋の他の囚人数名が驚く最中にスキンヘッドは壁までぶっ飛んで気絶してしまう
『ケインが殴っとけってな』
タツタカが何故か目を見開いて俺を見ていた
警備棟の受付処理を終わると俺達はゼリフタルの城に向かうことにしたが流石に行ったことの無い場所だったタツタカはテレポートは使えない
普通に歩いて向かうことにした
『銀狼よ』
『ん?』
3人で歩いているとゾロアが俺に声をかけてきた
彼は真剣な眼差しで俺を見ているが何があったのだろうか?
『あのクズリという者、強いな』
案外意外な言葉を発した、タツタカもそんなゾロアに正直驚いている様子だ
『俺でも勝てぬが…いるのだな、あんな傑物が』
ゾロアでも勝てないと言わせる男か
そう考えると俺とタツタカが異常なのかも知れない、冷静に考えて見るとクズリは今の俺でも苦戦した奴でありシルバシルヴァを発動してやっと勝てた存在だ
やっぱあいつ強い
『ゾロアさんでもですか』
驚いていたタツタカが我慢できずゾロアに聞いた
だが返される言葉に変化はなかった
『ああ、気を押さえていても漏れてる奴を久しぶりに見たな』
今のクズリは無意識で放つ威圧を押さえているが彼の持つ気と共に多少の威圧も溢れている
それを見てゾロアは勝てないと思ったのだろう
ゾロアはそのまま話を切り替えて別の話を始めた
『ここからは二手に分けよう、判断が遅れたが時間を作りたい』
俺とタツタカはそんなことを言い出したゾロアに顔を向けた
少し申し訳なさそうな面持ちだが彼なりにもっと早く言えばよかったと後悔しているのだろう
『分けるとは?』
タツタカが質問をするとゾロアは話した
『ゼリフタル国王に面会するのは別に俺達はいらぬ、本当は俺達がいることでそんな状況であることを主張したかったが銀狼なら1人でも大丈夫だろう、俺とタツタカはナッツの家に向かって詳しい話を聞く』
効率を選んだらしい、先程も彼が言った通り3人でゼリフタル国王に謁見すれば信憑性も増すと考えた様だ、納得できる
だが救急効率を選んだのは一気に動く時間を増やしたいからだと俺でも把握できた
『判断が遅れた、すまん』
ゾロアが俺に謝るが謝られる様な事はまだしてないと感じる、俺は笑って誤魔化すと彼に口を開いた
『気にするなゾロア、城まであと一時間以上歩くんだし仕方ない…落ち合うのはどこがいい?』
二手に別れるのだから集合場所は大事だ
ゾロアはそれに対して直ぐに答えた
『クズリの牢の前だ、彼にも情報は流しとかねばなるまい』
言えてるな、そうとなれば決行だ
ゾロアがタツタカに手を差し伸べるとタツタカは俺に会釈をしたあとゾロアの腕を握りテレポートした
彼らなら心配ないだろう、ゾロアがいるしあっちにはナッツもいる
『俺はなんとしても国王から許可を貰わないとな』
1人になったので俺は建物の屋根に登り銀彗星を使ってゼリフタル王城に向かった、景色が物凄い速度で後ろに流れるが見慣れたので気にせず突き進んだ
10分で城に着いてしまい俺は門の前に着地したのだがいきなり現れた俺に門兵数人が酷く驚いている
『うわっなん…ん?!』
『銀狼殿ですか、驚かさないでください』
門兵はほっと胸を撫で下ろしてそう口にした
俺は少し罪悪感を感じて頭を掻いて苦笑いする
彼らに聞いてみることにした
『帝国の件で緊急を要する話を国王としたいので出来れば連絡をしていだだけないだろうか?』
俺の言葉で少し緊急だと把握したらしく1人が仲間と耳打ちをすると脇の小さなドアからどこかへ消えていった
『申し訳ありませんがしばしお待ちを、今日の国王は多忙ゆえお伺いを立てて見ます』
残っている数名の門兵の1人が俺にそう答えた
『ありがとう、ここでまっとく』
『はっ』
そうして俺は背伸びをして門の前で待つことにした
入って待つことも可能だがそう容易に入れることは出来ない
アポさえとってれば直ぐだが今回は急に来てしまったししょうがない
なんとしてもここは成功させないといけない
一番大事な仕事でもある
『銀狼殿』
ふと門兵が俺に話しかけてきた
俺は彼に視線を向けて話すことにした
『どうした?』
『帝国の件というと…言いにくいならばいいのですがあちらが動きそうだといった用件でしょうか?』
ご名答だ、門兵でもそこは察しているらしいな
変に隠すと不安をあおぐと思い普通に話した
『だいたい正解だ、まだあちらは動き出す前だが動き出す予定で話を進めていると情報が入ったからその件で考えがあり今回は国王に許可をもらいにきた』
『許可?』
門兵が首を傾げるがそこは話さなくていいだろう
俺は門兵に微笑みつつ答えた
『秘密だ』
門兵達が不思議そうな顔をしている
クズリの件は表には公表されていないが国王は勿論知っている筈だ、被害が出る前に動くには彼を動かすしかないだろう
その後は門兵と雑談をしていると隅のドアから消えた門兵が戻ってきて俺の前に来ると姿勢をただして口を開いた
『緊急という事で銀狼殿が面会したいと伝えましたが早急に通せと国王から言われました!お通りください、応接室にて直ぐに対応すると言っています』
ありがたい、時間を作ってくれたか
どんな用件で多忙なのかは気になるが優先してくれたことに感謝しないとな
重たそうな門が開くと俺は直ぐに応接室へと向かうことにした
多分国王は待っていると思って俺は駆け出したが応接室につくと国王はまだそこにはいなかった
早すぎたか?
椅子に座りテーブルに肘をつけて待つこと数分
奥のドアから国王と彼の側近である騎士5名が入ってきた
国王の顔も真剣だ、俺はそれを見て一息ついた
『お主が緊急とは無下にできぬ、ましてや帝国の件となると大問題だろうし一番優先する話だろうな』
その通りだと俺は思っている
俺はそれを伝えるために小さく頷いて見せた
国王が正面に座ると話し合いが始まった、国王の後ろで待機している5名の騎士は話が気になるようで息を飲んで意識を此方に向けている
『簡潔に言います、ベルテット帝国は新王誕生に合わせてやはり戦争をしようと目論んでいると聞きました…今は4か国同盟の話が彼方にも回って決めかねている状況らしいですがもし動き出すとテコでも止まらない事態です、そうなる前に帝国を止めれるのはクズリしかいないと帝国側の戦争反対の意思がある者が唱えているのですがもしよろしければクズリの仮釈放を要求したく来ました』
騎士達が口には出さないものの、目を見開いて驚いているのが分かる
肝心の国王はテーブルに視線を写し、水の入ったグラスを見つめている様だ
『クズリの人望なら止める手立てが残っているのです、彼は私が近くで監視するので出来れば彼の一時的な釈放措置をお願いしたいのです』
『許可する、直ぐに警備棟に連絡し仮釈放の手続きをするが時間がかかる』
意外とすんなり許可がおりて俺は少しばかり驚いた
国王の話では彼だけの一存で決めることは出来ないらしい
裁判所での手続きや警備棟での手続きが必要になるのだ
一存ではといったが殆どサインをしろと紙を送って署名を貰うだけなのだが最速でも3日は確実にかかると国王は言う
『あの化け物1人で帝国を止めれるのならば致し方あるまい、話ではお主に従順だと聞いておるしその点は任せる』
信頼してくれているようだ
その期待に応えないと大目玉くらうどころじゃないだろう
クズリが監獄棟に収容されている事実を知った国王はかなり驚いたぞと言ってきた
どうやら国王もクズリにビビッているらしく扱いが非常に難しいらしい
『ノートンじゃまだあやつの相手は無理じゃ…お主しか抑えれん』
周りからのクズリの評価はやはり化け物
ナッツの父さんってヤバイなと感じる
溜め息を漏らす国王に対し俺は口を開く
『この件は俺とグスタフにタツタカそしてゾロアで動く予定です』
その言葉で騎士達が話しかけてきた
『メルビュニアの兵器であるあのタツタカとゾロアですか?!』
少し声を張りながら騎士がそう口にした
非常に驚いた面持ちだが彼らがいないと移動が出来ないからな
『ああそうだ、いったろ?タツタカは知り合いだって』
すると騎士達も国王も乾いた笑いをし始めた
今回は中途半端な戦力では心許ないし現在が最高のメンバーとも言える
『なるほど、タツタカのテレポートを使って移動していたのじゃな?』
国王の予想は当たっている
『そうですね』
『…帝国の件は任せる、我らは秘密裏に警戒はしておこう』
『助かります、クズリの仮釈放がおりるまで俺は帝国で情報を集めながら動きます』
『頼むぞ』
そうして俺は国王からのクズリ仮釈放の許可を貰った
だが直ぐにじゃない、それまで帝国内部で動ける分動こうと思う
俺は急いでポートレア監獄棟地下2階に向かうとまだタツタカとゾロアが来ていないらしくクズリと話ながら時間を潰すことにした
『ほう、まぁ妥当だろうな』
『仮釈放だぞ?嬉しくないのか』
『嬉しいさ、愛する妻に直接謝れる』
本当になんか真面目な奴だなと感じる
だからこそ今のナッツが出来たんだろうなと思うのだが
今回の件でこいつの罪も軽くなればいいんだけどな、クズリは幹部と言うよりかは用心棒であったし
誘拐した子供たちの馬車の護衛や幹部たちの護衛が殆どだったけどもそれでも書類関係は目を通すことが出来たらしい
それなりに信頼されていたのである、その信頼を勝ち取るために数年かけたわけだが
『裁判は一応2週間後くらいって聞いた気がするが良く覚えてねぇ』
なんでだよ・・・
だがそこでクズリの審判が下るのだが闇組織ダグマの人間だとしても簡単には出れないと思う
『簡単に出れる方法とかないかなぁ』
俺がそう呟くとクズリが答えた
『素直に裁かれるしかねぇさ、今となっちゃ俺の目的が果たされたんだ・・・どうでもいい』
彼はそう言うけどもう少し欲を持ってほしいと思う
ナッツと共に再びやり直したいとかなんかこいつはないのか・・?
あまり欲張らないのは良いことかもしれないけどさ
『俺なら貴様を自由にできるぞ?それも合法でな』
俺は横に視線を送った、クズリもその声に反応して檻に手をかけて俺と同じ方向を見たのだがそこにはタツタカとゾロアがいたのだが今来たのだろう
2人はゆっくり歩いてくるがタツタカは仮面を外している、あっちでは仮面を被るとバレる危険性が高いからな
『今の言葉どういう意味だ?』
クズリはゾロアが発した言葉が気になるらしい
俺もかなり興味があるのだが考えてもやっぱりわからない、彼だからこそ実行できる案なのかもしれない
ゾロアはクズリの牢の前まで辿り着くと腕を組んで自慢げに話した
『俺だけ知ってればいい、だが貴様の頑張り次第ともいえる』
『俺の頑張り次第だと?』
『ああそうだ、今まで通りの生活が欲しいなら帝国を正しき道に導け!さすればお前が一番望む光景を手に入れることが出来る』
クズリが真剣な目をしながらゾロアを見ている
肝心のゾロアは自慢げに彼を見つめているがこれは期待できそうだ
クズリはそのまま後ろ歩きで下がるとベットに座り込んだ、その様子を確認したゾロアは一息ついて結果を報告してくれた
『馬鹿でもわかるように話そう、今の帝王はただの傀儡よ・・・いいように大将軍に躍らせられおる可能性が高い、帝王はこのままだと乗っ取られるだろうな・・・奴に』
なるほど、少しタツタカと話した予想と似ているかもしれない
今の帝王はまだ力がない状態である、簡単に言うと権力の扱いが不慣れなのだとゾロアが説明してくれた
助力として大将軍ジークに協力を仰いだけれども気づけばいい様に動いてしまっているし帝王自らの権力も危ういくらいに国民からの不安も募っている状態になっているんだとさ
『あのクソガキジークが大将軍とか何の冗談だ?自分の事しか考えねぇ奴が将軍の器なわけねぇだろう』
なんだか知っているみたいだな、それにクズリも何やら機嫌が悪そうだ
タツタカはいつの間にか聞き専になってしまっているがここはゾロアに任せたほうが良いだろう
睨むクズリに向けてゾロアは答えた
『それが現状だ、お前が言う糞が大将軍になるくらい落ちぶれたって事だ・・・そして今の帝王はお前も知っているだろう、エステリーゼ女王だ』
クズリは帝王の名を聞いて突然立ち上がった、タツタカが少しびっくりしている
俺もどうしたんだろうかと思っていたらクズリが口を開いた
『あの泣き虫姫が帝王にか・・なるほどな、それだけでもだいたい把握したぜ』
『おいおいクズリ、わかるように簡単にいってくれないか?俺にはさっぱり』
俺がそう言うと彼は溜息をついて再びベットに座った
何やら昔がらみの何とやらッて感じがする、何故そう思うかはガウガロの件でもそうであったからだ
だいたい相場は昔がらみって・・・決まっている・・・多分
『あの姫は俺が世話していたが頭は良いが気弱だ、ジークは小さい時から姫が好きでなぁ、何度もアプローチしても玉砕よ・・・笑える、誰があんな自分勝手な男を好きになるか・・・』
ほら、昔がらみだ
クズリの話は続く
『どうせ姫も手に入れて権力も手に入れて・・だろ?そのために王座についた時期という不安なタイミングで上手く利用してんだろうな』
『ご名答、ジークはこの気に名声を高めて帝国の相続を手に入れようとしているだろうとお前の妻であるミレーユが言っていた・・・国の為ならば帝王とて己の感情を無視して有能な奴と婚約をする羽目になるだろうな、国に自身をアピールして婚約を迫るかもしれんな』
『あいつが有能とか今世紀一番笑えるぞ?』
ゾロアが流石だと言った感じでクズリにそう言った
どうやら姫の空回りを上手く利用して自分の手柄にして後継者になりたいんだな?
姫も手に知れて権力も手に入れてウハウハみたいな感じか・・・今度は恋沙汰か?
『ミレーユさんは心底呆れてました、ですがジークの派閥が予想より大きいので下手に動けないと・・・だからクズリさんが必要なんです』
タツタカがクズリの顔色を伺うようにしてそう口にした
エステリーゼ・ファイエル・ル・ロッテス・ベルテット女王
彼女は小さき頃はクズリが世話をしていたらしいがその女の子をジークが恋した
だがジークの性格は最悪らしく彼女の感情を動かすことはできなかったらしい
どうやって大将軍になったかは不明らしいが彼女が帝王に即位後、手探りで国を再建しようと頑張っていた彼女にジークは助力を進言して彼女の為に動いているとの事
だがその助力も結局姫を手に入れる為に自分の手柄にしてしまうし逆に帝王であるエステリーゼに不安の声が募っている、そうなれば立場は逆転であり有能な彼と結婚を迫られる羽目になる危険性が高い
ジークはそれを狙っているんだとさ
今回はガウガロと違って最初から話が分かって良いな
『それも最終段階に入った、戦争を仕掛けてくるぞ』
俺は目が点になった