13話 父の願いと息子の叫び 千剣は蘇る
『父さん』
ナッツはか弱くそう囁く
『父さん』
今迄の彼の行動の辻褄が今わかった
彼は僕の父さんだったと
『ずっと・・お前をざがしてだ』
クズリは力が入らない体で一生懸命口を開いた
その言葉にナッツは体を震わせてしまう、こんな場所でこんな出会い方だとは思ってもいなかった
お前の父は屑になってしまった、彼の言葉の意味を知る
ナッツを探す為に大将軍を捨てて最低な地位になって探す必要があった、ナッツも馬鹿じゃない
クズリが内部から自分を探していてくれていたことを瞬時に理解した
『やっど・・みずけた、すまなかった』
クリオネールもその光景が面白う様であり時間を与えていた
彼は感情も一緒に食らう悪食、最高潮に達するのをひたすら待っているのだ
腐っている・・・だからこそ悪食の王
『俺のだがらものをずっとさがしだ、十数年ずっど』
『父さん』
『行け、最後に帝国に置いてきてじまったミレーユに会っでほしい・・最後の願いだ』
口から血を吐きながらそう口にする彼は最後に歯を食いしばり刺さったままクリオネールに近付いた
貫通した針を押し込みクリオネールに近付くがそれをさせる程悪食は能天気じゃなかった
悪食は囁くように最後クズリに口を開いた
『さよならお父さんバイバイバイバイバイ』
刺したままクズリを持ち上げると全力で地面に叩きつけた、地面が深く陥没し亀裂が走る
一瞬地震かと間違えるくらいの威力であった
叩きつけられた時にはもうクリオネールの針は抜けて無残にも地面に力なく倒れている父を見てナッツは動けないでいた
こんな最低な夢覚めてほしいと心の底から思っていた
だがこれは正真正銘の現実であった、呪属性耐性がない彼らにはとても辛い相手だったのである
『そんな・・・』
『あははははははははははははははははははは』
浮遊しながらくるくる回るクリオネールはクズリの周りを旋回して笑っていた
そしてクリオネールは旋回したままナッツに話しかけた
『一気に食べたいから記憶返すね、マインドボール』
クリオネールの体内の黒い臓器から光が満ちた、それは頭部に移動してから頭部に移動すると同時にまた化け物の頭部は4つに裂けて黄色く小さな球体がナッツに近付いてきた
彼が僕の記憶?僕の足りない欠片?ナッツはそう思い避ける動作を取らなかった
その球体はナッツの頭部に触れると彼の脳裏に色々な記憶が駆け巡った
『ルッツ!お前は最高の戦士になるんだぞ!俺が強いんだ間違いない!』
幼きナッツの頭を撫でるクズリの姿がそこにはあった
ナッツは思い出した、いや取り返した・・・自分の記憶を今ここで
そこは懐かしい・・・彼の住んでいた家、ベルテット帝国にある一軒家だ
『僕も父さんみたいになりたい!』
『ならまず痩せないとなぁ!はっはっは!』
『クズリ?可愛いからって食べさせ過ぎ』
台所から女性がでてくる、あれは僕の母さんだとナッツは直ぐにわかった
懐かしい母の声と顔にナッツは涙がこぼれた
『父さん・・・僕も戦うよ!』
森の中で熊帝と睨み合うクズリの後ろにはナッツがいた
2人で森に散歩に出かけたところで運悪く魔物ランクAの熊帝と鉢合わせてしまったのだ
『俺だけで十分だ』
『でも・・父さん』
『俺の言う事が聞けないのかぁ!ルッツ!』
小さきナッツは偉大な父の怒号に涙目になりながらも父の背中に隠れた
『ご・・ごめんなさい』
『いいかルッツ、強いとは武じゃない・・・心だ、決して屈するな!強い心を持ってお前の生きる信念を守れ!!!結果なんて気にするな動くか動かないかだ!力は最後についてくる』
ナッツの頭の中に幼き父との会話が呼び起こされた
愛おしい記憶に彼は幸せを感じていた
『ルッツ』
『なぁにお母さん』
父に怒られたあとに母に泣きついた彼は母の膝で甘えながら話していた
『父さんは僕の事嫌いなの?』
『あらまぁそんな事ないわよ?』
ナッツの母ミレーユは小さきナッツの頭を撫でて話を続けた
『あなたは私とあの人の大事な宝物よ、あなたに何かあればあなたの為に全てを捨ててでも絶対に守ってくれるわ』
『本当?』
『本当よ?』
『ルッツ、お前は俺の世界で一つだけの宝物だ』
『ルッツ、あなたはお母さんとあの人のたった一つの宝物よ』
ナッツの脳裏に家での記憶が蘇る
『助けてくれぇ!』
『お父さぁん!お母さぁん』
『うわーん!』
夜を走っていた馬車が何かに激突して転倒し見えない何かに1人ずつ食べられていく光景に皆足がすくんで逃げれずにいた、自分たちの目の前で誘拐した組織の人間が何かに食べられている
頭からバリバリと美味しそうに
『ご飯ご飯ご飯ご飯』
その時に動けたのはナッツだけだった
彼は得体の知れない魔物が食べるのに夢中になっている隙に逃げ出した
『駄目駄目駄目逃げちゃ駄目マインドイート』
悪食は脳の中身を食べて彼を植物人間にしようとした
十数年前のクリオネールはナッツの記憶を食べようとしたが呪気で作った触手が彼の頭をかすったのだ、それは肥満だったナッツが足を取られて転んで不完全に記憶を食べてしまったからであった
ナッツは運よく転んだお陰で今迄の記憶を食べられただけで済んだのだ
だが完全に食べきれなかった、彼の記憶の隅に残っていた物があった
屈さぬ心と正直な心を持った彼は食べられていなかったのである
大事な人を全力で守ろうとする心、仲間を大切にする心を奪われなかった
今迄のナッツは昔のナッツだったのだ。確かに彼の性格は蛮勇そして無謀といわれても可笑しくないだろう
だが大事な人の為ならば死など恐れぬ彼はそうして育った
父の教えを無意識に成長させて今の彼が生まれたのだがそれは今のクズリと同じ生き方
カエルの子はカエルとは彼らの為の言葉だろう
彼は父の教えを忘れてはいなかった
『父さん』
動かぬ父の最後を見て彼は涙を流し続けた
『父さん』
反応をしない父にゆっくりと近付くとクリオネールはふわりと後ろに下がった
顔はないが幸せそうに体をくねらせて彼らの様子を見届けている
ナッツがしゃがむと父に触れた、徐々に冷たくなる体にナッツは肩を震わせて泣いた
父と出会えた、記憶も戻った
はっきりと父だと気づいた
父の愛を感じた、必死で自分を守る父を見た
宝物という大事なものを守るための父を見た
やっとナッツは全てを手に入れたが失う代償があまりにも酷過ぎた、彼の全ての土台を作った偉大な父が目の前で消えていく
『強・・く・・あ・・れ、我が愛しい宝物・・ルッツ・・』
クズリ・ニューベイター
彼は息子を最後まで守った、動ける限界まで彼を守った
やっと会えたのに死ぬという事実を受け止めれないナッツは思いっきり叫んだ
『父さぁぁぁぁぁぁぁん!!!』
『それいいそれいいそれいい!旨味がでるでる』
楽しそうにはしゃぐクリオネールを思いっきり睨んだ
そんな彼の視線を面白そうに見るクリオネールは悪ふざけを始めた
『父死ぬ残念残念息子食べる一緒に食べてあげる僕優しい優しい優しい最後に君の唄歌ってあげる』
誰も望んでいない事を彼はやり始めようとした
クリオネールが欲しいのは悲観と憎悪、それをかけ合わせれば人はいい具合に美味しいと言うのだ
ギリギリと歯を食いしばりながら冷たくなっていく父を抱きかかえながらクリオネールを睨み続けた
絶対に殺してやると、その感情をクリオネールは気づいた
もっと必要だと、その為に悪ふざけをしようとしたのだ
だがそれは間違いであった
クリオネールははしゃぐのをやめると4つに裂けた頭部から唄を口にした
『千の勇姿が見守るぞ、決意を胸に希望をその手にいざ進め・・・降る雨は敵を打ち倒し・・・千の剣にて弱者に光を幸福を、我らが守る人々に安眠と食事と平和を与えたまえ・・・人々の心に我はいる体全てを武器と化せ、心も全て武器と化せ・・・・愛ある体に栄光を、全てを数えて千とする我が剣帝千剣騎士』
本当に彼は間違った事をした
クリオネールの声は普通の声じゃない、彼の口にする音には特殊な効果が付加されているのだ
悪食王クリオネール・オヴェール、彼の声には魔力が込められている
不快にするのも幸福な気持ちにすることが出来る、この時クリオネールは優しく歌ってしまった
それが間違いだ
自身の幸福を歌に表して歌ってしまったのだ
『!?』
ナッツの体が紫色に輝く
その自分の変化に驚いた瞬間彼は意識を失った
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『・・・ここは』
気が付くと彼は真っ暗闇の中にいた、辺りを見渡すが自分の足元と正面に伸びる道以外は闇に染まっている
紫色で染められた道をゆっくりと歩くナッツはこの光景を誰かから聞いたことがある事を思いだした
ジャムルフィンから聞いていたのだ、道がどういった感じかナッツは聞いていた
聞いていた通りの光景だ、彼は急いで走り抜けた
このタイミングで道とは予想外過ぎると、だがそんな焦った様子を見かねてとある声が聞こえた
『焦るな、貴様の世界の時間は止まっている』
若い男性の声と思われるものがこの空間に響き渡る
その声は誰の声なのかわからず周りを見渡して警戒すると再び声が聞こえた
『ゆっくり歩いて進め』
だが彼はゆっくりなんかしていられない
急がないと父さんがしんでしまう、その焦りから彼は走ってしまう
走っている最中に鼻で笑う声が聞こえたがそれを気にせずナッツは走った、すると大きな扉に着いたのだ
『聞いてた通りだ、父さん・・・今行きます・・今度は僕が・・』
ナッツはおおきな扉を強く押して開けた
『貴方を助けます』
扉の奥から眩しい光がたちこめ彼は目を閉じてしまう、再び目を開けるとそこは暗闇と化していた
本当にここは職の道なのかと少し疑いたくなる気持ちを抑えて彼は変化を待った
予想していた通りに頭上から先ほどの声が聞こえたのだ
『よくぞ解き放った、貴様の志は千剣の資格を有している・・・よって次の時代の弱き者の剣となり心となれ!理想郷を求める為に懸け橋となるのだ』
千剣の資格という言葉にナッツは少し狼狽える
道に入る為の条件とは何だったんだろうかと思うがきっと安眠と食い意地スキルは必須だろうなと確信していた、千剣の資格を持つ自分に育ててくれた父であるクズリに心の中で感謝をするとナッツの千剣への開花が始まったのである
『道を解放したことにより貴殿の職は上位職である千剣兵に到達した』
ナッツは高揚を感じた、先輩もこんな感じで強くなっていたのだろうと
教会の水晶でパッとしないクラスチェンジと違い大幅に強化されるこの瞬間を味わっていたのだろうと
『戦術スキルに操剣追加、技強化を追加』
聞いたことのない戦術スキルに彼は首を傾げた、操剣という戦術スキルは彼の勤勉で得た頭でも知らないスキルであったためそれは千剣専用のスキルだと直ぐに理解した
技強化は把握しているがまさか手に入ると思わず少し驚く
彼の心はまだ怒っている、クリオネールに向けて
ナッツはそのまま静かの自身の変化を見届けた
『補助スキル上昇、体力【中】・魔力感知【中】・気配感知【中】・忍耐【中】になる』
心の中で有難いと念じるナッツは深呼吸をした
そうしている間も彼の変化は続いた
『千剣の加護が千剣兵の加護に変わる、そして千剣技を2つ覚える』
ナッツは思った、僕は皆の為のサポートだと
自分は出来る事を全力でやるだけだと思ったのだがもうそれ以上の事も求めてもいいくらいに自分は変わるのかと少しまだ信じられない面持ちでいた
『プファイル、そしてガンマレイ・・・なおガンマレイは3日に1回しか放てない非常に特殊な切り札である、使うと全ての魔力を消費するから使用の際は気をつけろ?この道では一番強い技だが次の最終に進めばそれよりも強いのはある』
早くしろと募る気持ちが消えるくらいその不可思議な説明に興味を持った
己の魔力をすべて使って攻撃をする技だろうか・・・なんにせよ切り札に使う技と言っていたので危ない時は使わないといけないだろう
『お前のステータスだ』
・・・・・・・・・・・・
ナッツ・ランドル(男17歳)千剣兵【上位】
☆戦術スキル
剣術【6】 剣の熟練度、恩恵により攻撃力と耐久力が中アップ
体術【5】 体術熟練度、恩恵により耐久力と素早さが中アップ
魔術【3】 魔術熟練度、恩恵により魔力量を小アップし・詠唱時間を小短縮
操剣【1】 千剣兵技練度、恩恵により技の威力と精密さが小アップ
技強化 技の威力が小アップ
☆補助スキル
食い意地【大】 食事による体力の回復速度が大アップ
安眠 【大】 どんな状態でも寝ることが出来る
痛覚耐性【大】 痛覚を軽減する
逃げ足 【中】 対象から離れる際の速度が中アップ
恐怖耐性【中】 恐怖状態を少し緩和
我慢 【中】 少し耐久力があがる
集中 【中】 術や技の構築時間を少し短縮する
体力 【中】 少し疲労しにくくなり自身の体力を中アップ
魔力感知【中】 体内の魔力の流れを感じとることが出来る
気配感知【中】 少し生物の気配を察知
忍耐 【中】 少し物理耐性が上がる
☆技スキル(開示ステータスに表示されない部分)
居合・骨砕き・・流し斬り・トリックソード・十字斬り・唐竹割
神速一閃
☆千剣技(開示ステータスに表示されない部分)
ハントハーベン・メッサーシーセン
ヴュンデル・シルト・プファイル
ガンマレイ
☆称号スキル
千剣兵の加護 剣術の熟練度が上がりやすくなり特殊な技を覚えることが出来る
攻撃力と耐久力が大アップしダメージ自動回復【小】
『さぁ立ち上がれ、千剣の威光を世に知らしめよ』
誰かもわからない男性の声を聞くとナッツは絶望だった状況に戻ってきた
クリオネールは不思議そうに彼をキョロキョロと首を動かして見ているが決して気づいていないだろう
死んでいく父を地面にゆっくり置くと彼は立ちあがりクリオネールを再び睨みつけた
血の涙を流しそうな勢いで涙を流しながら彼に叫び出した
『お前は絶対に許さないぞぉぉぉぉ!!!』
ナッツの周りに強い風が巻き起こった
彼に感じた事のない気を感じたクリオネールは後ろに下がりつつも彼に口を開いた
『なんでなんでなんでなんで!?』
『それは死んで考えろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』
ナッツは紫色の球体に覆われた、彼は瞬時の変化した自身の能力を読み解き彼を倒す唯一の方法を選んだ
父さんでも勝てなかった相手に勝つ方法は一つしかないと彼は賭けに出たのだ
ナッツを包む紫色の球体が激しく光始めるとクリオネールは驚いた様子でナッツと距離を取り始めた
だがもう遅い
『生意気生意気生意気餌の癖にぃぃぃぃ!』
『死んで償えぇぇ!ガンマレイ!!』
ナッツを包む紫色の球体から数えきれないほどの光線が屈折しながらクリオネールに襲い掛かった
地下2階を覆いつくす程の光線はある程度巨体の悪食には避ける事は出来ない
必死に回避行動を取ろうとするがその前にナッツの放ったガンマレイがクリオネールに当たった
その瞬間に爆発が起きた、大量の光線が悪食に触れた瞬間に爆発を引き起こしたのである
地下が崩れそうなほど激しく揺れるが今のナッツに踏ん張る力はなくてその場に膝をついてしまう、爆発で砂煙が舞いクリオネールが見えないがどうなったのだろうかと彼は不安になる
ガンマレイ、千剣の切り札ともいわれた技をナッツは使った
もし生きていれば確実に殺されるだろう、逃げることも出来ずに倒れているグズリと共にだ
だが彼は逃げなかった、何故か
決して屈しない心が逃げる事を拒んだのだ
父をいたぶった魔物を前におめおめ背中を見せることは出来ない
たとえ父が逃げろと言っても、言うことを聞けと怒ったとしても彼は逃げることを拒否した
そう作り上げたのはグズリ・ニューベイターというナッツの父である
ナッツによる最初の反抗期が今起きた
『痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ』
砂煙の中から緑色の液体を流したクリオネールが現れたのだ
倒しきることが出来ずにナッツは溜め息を溢した
やることはやった、あとはきっとあの人が僕の仇をとってくれると信じて体から力を抜いた、だがクリオネールは意外な行動にでる
『もういい帰る帰る帰る、さよならさよならさよなら』
浮遊しながらポタポタと緑色の液体を地面に落としながらクリオネールは後ろを振り向いて地下の入口である階段に飛んでいった
なんと運良く戦えない事がバレていなかったのだ
直ぐにそれを悟ったナッツはやっと終わったと安堵の表情を浮かべた
周りをよく見渡すと他の囚人は息絶えた者が多いがクリオネールの痛界によってショック死してしまっていたのである、それなりに強い囚人は辛うじて生きているがよだれを垂らし呻いていた
『ルッツ』
ふとナッツはその声の主に顔を向けた
『父さん!!』
グズリを抱き抱えて父さんの顔をしっかりと見るナッツ
とても眠そうな目でナッツに話し掛けた
『すま…ながっだ…俺はあぐとう…なるしかお前を探ずことができなかった』
グズリの身体も酷く震えている
どうにも出来ない事態にただただナッツは父に耳を貸した
『幸せで、よがっだ…ずっと探しだ、見つけた』
『父さん…』
せっかく父を見つけた、母もどこにいるのかわかった
もう少し父と他愛の無い話をしたかった、時間が欲しかった
だけどその父は今死ぬ
その現実はナッツにとって一番辛い事であった
ナッツは心のなかで祈った
神様がいるのならば僕の父を助けてくださいと
『父さん…ありがとう』
ナッツはぼろぼろと泣いた
死ぬ父を看取る現実がこんなにも辛いのだと思わなかった
親の愛を思い出した彼のスタートは父の死から始まる
そう思ったが現実が非常である
それを許さぬ者がいるようだった
『グレンツェントヒール』
ナッツの頭上からそんな声が聞こえた、クズリが息子を逃がす為に天井を砕いて地下1階への穴からである
するとクズリの体は光はじめてみるみる傷が回復し、なんと欠損した両腕も完全に再生したのだ、あまりの奇跡にナッツは目を見開き穴の空いた天井を見るが誰もいない
『う…なんだ、こりゃ』
天井から直ぐに視線を父に移すとクズリも非常に驚いた表情をした、失った両腕を前に出して見つめている、クズリはしぶとく生きていた・・・流石はジャムルフィンを苦戦させたほどの豪傑
そう易々とは死なない体にナッツは父の頭に抱き着いた
彼も信じられないらしく何度も体中見ていた
グレンツェントヒール、そしてあの声にナッツは静かに最高の感謝を送った、誰の仕業かは言わなくてもわかるだろう
ナッツが世界で一番信頼している者である
『ありがとうございます』
『痛い痛い痛い痛い帰る帰る帰る!』
かなり怒りながらポートレアに一番近い森に逃げたクリオネールは森の中を堂々と突き進んだ
ナッツの最後の攻撃に驚いてしまい、警戒して撤退することにしたのだ
外はもう夜である、ナッツは昔話に時間を長く使い外が夜であることにも気づいていない
クリオネールは夜行性だったのだ、だから彼が来た
『でもいつか食べる行く、食べ残し駄目駄目あいつ食べる』
復讐を誓った悪食王クリオネール・オヴェール
彼はもう少し力をつけてから再び食べに行くことに決めた
だがそれは叶わぬ願いになりそうである
『おい…ゴミ魔物』
夜の森に反響して図太く入った声にクリオネールは不機嫌な感じで振り向いた
彼はまた餌が迷い込んだのであろうと思い傷の回復を狙って声をかけた者を食べようと考える
悪食の能力に捕食すると傷の治癒効果もあるのだ
『何何何?餌餌餌?食べる食べる!ペイン!』
振り向いて瞬時に頭部から赤黒い球体を彼に当てるのだが特に痛がる様子もなく平気そうな顔をしている
クリオネールは知らなかった、彼には呪い完全無効だったことを
『なんでなんでなんでなんで!?』
非常に驚くが彼に悪食王の術は一切聞かない、相性が最悪な相手だったことを恨むしかないだろう
だがクリオネールはそれでも彼を食べようと考えた
今日と言う厄日をこの夜食で忘れよう、そう思ったのだ
『シルバ・シルヴァ』
破裂音がした瞬間クリオネールと相対する人間が銀色に包まれた
押しとどめられない程の銀色の闘気がその者の周りを駆け巡り、狼が走り回っている
突風が吹き荒れてクリオネールも飛ばされそうになりつつ何が起きているのか状況を確認しようとしたのだがそれはもう遅かった
悪食王に相対する人間は鬼の様な形相で彼を睨むと最後にこう告げた
『俺の大事な後輩に手を出したな、死ね!』




