25話 妖狐族編 遠征
ケイン『ガウガロに来たジャムルフィンさんとナッツさんは事情を説明するとバルトさんは直ぐに遠征の支度をすることにしました』
『先輩・・・朝ですよ?』
俺は何故かナッツによって起こされた
目をこすり上体を持ち上げて彼を見る
スッキリと目が覚めているようである
『食堂に行きましょう、朝食が待っていますよ』
『お前起きれたのか?』
『完全回復です!』
腕を組んで鼻を高くして言い放つナッツ、どうやら元通りになったみたいだな
警備兵の者が起こしに来たのでナッツが俺を起こしに来てくれたみたいだ
彼と食堂に向かうとそこには猪のステーキを頬張る猫がいた、こいつに会うのも久しぶりだ
俺達に気付くとその猫はニコニコしながら手を振ってくれたのだ
『お久しぶりニャー』
シャオである、気楽な様子は相変わらずと言ってもいいかもしれない
『シャオさん久しぶりですね、多分お話は来ているかと思いますが』
ナッツがそう口にしつつも近くのテーブル席に座る
俺も合わせて椅子に座るとシャオが欠伸をしてから答えた
『全部聞いたニャ、にしても我慢してくれてありがとうニャー・・・一応強い種族なんだけども多分時代が進んでくにつれて退化したかもしれないニャ』
シャオの言い方では弱くはないといった言い草だ
今の生活に慣れてしまい本来の能力が発揮できずに弱くなってしまった
それがシャオの予想なのだろう
狼人族の料理長がコーンスープと牛の肉と野菜炒めを持ってきてくれた
ナッツとそれを味わいながらシャオと会話を楽しんだ
『昼前には部隊を編成し終えてるニャ』
『部隊?』
その言葉の俺たちは目を細めるとシャオが自慢げに語り始めた
『ガウガロの威光を示すうんたらかんたら~とかになって各種族から兵士を20人ほど連れて行くんだニャ!族長はガーランドにシルフィーとゲイルそしてガトだニャ、他の種族の族長は国に残るから代わりの代表を出すらしいのニャ』
予想外に大きくなって少し俺たちは驚いてしまうが彼らにとって妖狐族の説得とはとても大きな問題であろう、世界一の裁縫技術かぁ・・・手先が器用ってレベルじゃない種族なんだなきっと
まぁシャオの話だと大雑把に数えても正規兵200人以上の移動である
俺達にとってはやり過ぎと思うが彼らにとっては違う
『やっぱガウガロにとってあの種族はそこまでするくらいの価値があるんだよな』
俺の言葉にシャオは直ぐに答えた
『当たり前ニャ!衣類関係の物資が最高級品質まで高まるし貴族も喉から手が出る程欲しいくらいの技術を持ってるニャ!』
まぁ凄いという事だ
幸せそうに朝食を食べるナッツを無視して俺とシャオは話し合った
彼も族長として警備の大半を任されて上手く動いているらしいが今回の遠征にはこないらしい
そうして話しているとケインとクローディアさんが入って来た
ケインの母であるクローディアさんは笑顔で俺達に声をかけてきた
『ガウガロが好きなら移り住めばいいのに』
『いや・・・今回は理由が』
『ふふふ、知っておりますよ』
彼女も俺達と同じメニューを頼むとケインもそれを頼み始めた
奥で料理人がせっせと作っている中でケインが口を開いた
『展開が早いですよね、こんなに早く妖狐族の方に出会えると思ってもいなかったですよ?』
『確かにニャー、でも彼らだし納得ニャ』
ケインの言葉にシャオが乗っかるが俺らだからとは一体…買い被りも過ぎるぞ?
そうして彼らと和気あいあいした話を繰り広げているとシャオが思い出したかのように気になることを言い出した
『そう言えばファルカから鳥人族の件は聞いている筈ニャ?不死鳥種という大昔の話ニャけど』
そう言えばそうだと俺たちは思い出した
何千年か前に見慣れない種が鳥人族から生まれて親子ともどもガウガロを去った話
ファルカに寄ればもしかしたら不死鳥種というおとぎ話で聞く種なのかもしれないという事だ
もし出会えれば教えてほしいとファルカに言われたのだが
その話になるとケインも少し真剣な顔つきになった
勿論クローディアさんもだ
彼らの変化が気になりつつも俺はシャオに口を開いた
『そうだったがそれがどうかしたのか?』
『出会っても絶対手を出さないでほしいニャ、多分勝てないニャ』
朝食を頬張るナッツの手を止まる、これも久しぶりだ
シャオがいつにも増して真剣な顔をしている
手を出すなとは・・・勝てないということは十天の者なのだろうか
そんな考えをしているとシャオが続けて話し始めた
『この前ガウガロに訪れたタツタカが言っていたニャ、彼と出会ったと・・・しかも勝てる気がしないってニャ』
『何だと?』
あいつがそう言わせるくらいの力を保有しているのか
いるかわからない種を見つけてしかも勝てないかもしれないと言わせたのか?
見た目は真っ赤な羽毛であり黒い線が入った体、その羽毛は鎧の様な色彩をしており猛禽類と思わせるクチバシをしていたと、どうやら武人祭で俺と別れた後すぐに出会っていたらしいのである
『鳥人族不死鳥種ヴァリミア・ラクォカ・ゴットバード・ゼロ、ゼロという最後の名に不気味な違和感を感じるんだニャ』
俺とナッツは顔を合わせた直ぐにお互い俯いて考える
ゼロ?ゼロだと?十天は第1位までしかいないしファーストはリビィだ
第0位なんて道理に合わないし考えにくい
もし・・・もしもだ
最悪十天ゼロが存在するならばそれは何を意味しているのか見当もつかない
強さにゼロなんて考えにくいのである
『まぁ交戦的じゃニャいらしいから出会っても突っかからなければ良いらしいニャ』
シャオはそう言いながら笑顔に戻った
胸にとどめておこう、不死鳥種か・・・不死身っぽそうな名だ
その話は深くまでいかずに保留とすることにした
気を付けるか・・・タツタカでも無理なら俺はもっと無理だろうな
世の中強い奴い過ぎじゃないか?
今まで見えなかった世界の強敵に出会う感じなんだろうなと思うけど
朝食も食べ終わりナッツは遠征出発までファルカと特訓になったらしく彼は狼人族の集落に訪れたファルカと森に入っていった、良い関係らしいなあいつら
俺は1人になったのでケインと共に集落の近くを流れる川の近くで寝そべっていた
近くでは狼人族の警備兵が釣った魚を焼いて食べている
休憩中だろうか?
『昼には出発ですよね?』
ゴロゴロしながらケインがそう口を開く
今は遠征準備に取り掛かっている頃合いだろう
死ぬ気で妖狐族を取り込みたくて皆必死なのだ、彼らが作る衣類関係は貴族に売り込みやすい
ドワーフ作成の武具関係と同じであり妖狐族の裁縫技術で作った衣類となると値が張る
そういった各種族の良い所をふんだんに使った国がガウガロ本来の姿である
『そうだな、ケインは普段何してるんだ?』
『僕はもう学校行ってますよ?』
学び舎にいっているのか
でも今まで俺達といたんだし年齢的にもそうった年ごろなのかもしれない
『友達は出来そうか?』
『ボチボチ・・ですねぇ』
まぁ上手く作るのは難しいだろう
会話を変えようと俺はとあることを思い出してケインに告げた
『そういえばだがお前をさらった男見つけてとっ捕まえたぞ?』
『ええぇ!?本当ですか?』
急に起き上がりケインは驚く
最初の出会いはなんか死んだふりだもんな!!!
思い出すと今じゃ俺は笑い話だがケインにはまだ早いか
『ポートレアの牢獄でお縄になってるぞ、偶然見つけてな・・・』
『では一発殴っといてください!』
『これの後に行く用事があるからそうしとくさ』
ケインに微笑みかけてそう彼に告げた
起き上がって川を見るが本当に綺麗である、川魚もよく見える
妖狐族の集落を流れる川とは偉い違いだな、彼らは隠れることを重点的に置いてしまい小さな川しか流れていない場所で暮らしている
十分な食料にありつけないのだろう
それで数を減らしていっている
ここにくればそんな悩み一気に吹っ飛ぶのだ
彼らも当初のガウガロに似た呪いにかかっている
非力な自分たちを守るために外からの介入を切り捨てる彼らは呪いそのものだろう
それを解放するためにガウガロの大遠征が始まる
時間になり俺たちは中央広場に向かうとやはり各種族20名ほどの兵士を集めており200名以上の獣族が綺麗に並んで待機していた、先頭にはガーランドやシルフィーそして獣王バルトが話し合っている
他にも族長はいないか見渡すと獅子人族の新族長であるヘンリーがいたのだ
彼はシュウザーに体を張って頑張ったジャジャラの息子であるが肝心のジャジャラは檻の中だ
ヘンリーが責任を持って獅子人族を正しくいくのであろう
その隣には蜥蜴人族の族長ゲイルだ
なるほど、この面子で行くのだな
『先輩も来ましたか』
後ろから声がかかり振り向くとナッツがいた
どうやらファルカとの特訓の後だが話を聞くと風呂に入ってから来たらしい
ケインは母であるクローディアを見つけると走っていった
まだ甘えたい年ごろなのだな・・・
『行きましょう先輩』
『そうするか』
広場の中に入り獅子人族のヘンリーに近付くと彼は俺達に気付いて深く頭を下げた
『お久しぶりです英雄殿!獅子人族も今後の繁栄のために助力したい所存でございます!』
元気よく言う彼だがなんかキャラが変わってないか?と不思議に思う
と言っても彼との出会いはシュウザーが最後の力を振り絞ってジャジャラを殺そうとした時である
ヘンリーが止めたのだ
あの戦いを終わらせたのは彼でもあると言っても過言ではないだろう
『大変だろうが頑張れよヘンリー、今回は遠征だけども』
『大丈夫です、体力には自信のある種族ですから!』
ハキハキとそう答えるがやっぱ変った気がする
そこはツッコまなくてもいいだろうな
そんな会話をしていると正面でバルトが拡声術が込められた石で皆に話しかけた
『皆の者!今回の遠征は今後のガウガロに絶対不可欠な旅である!事情は聞いておるだろう』
彼の言葉で全員姿勢を正して真剣に耳を傾けた
俺達も素直に彼の演説を聞くことにしたのだ
『妖狐族も自身を守るために苦しい決断を取らざる負えないほど苦労している!ルーカストアの南の最奥の森にて隠れて住んでおる!今回は彼らの救出である!時間は残り少ない!一気に駆け抜けるぞ!!』
彼が腕を強く掲げると皆も腕を強く上げて大声を上げた
確かに時間は少ない、それは俺のせいだが残り3日か・・・
獣族の体力は人間の比じゃない、俺達よりもスムーズにいくだろう
皆早馬やブラキオレイドというランクCクラスの魔物に乗っていくらしい
兎人族は大丈夫だろうか・・・こういった旅は不慣れの筈だが
だがガウガロに住んでいる全ての種族が20名ずつ集まった
妖狐族の総人口は約2千人と明らかに少ない、限界が近づいている証拠である
急がねば
そしてガウガロは闘魔牛という一際大きい牛に乗って先頭を走った
基本体格が大きい種族はこの闘魔牛というランクCクラスの魔物に乗らないと耐えられないのだ
軽い者は馬に乗り他はブラキオレイドという少し首が長い恐竜の様な魔物だ
俺とナッツは黒馬に乗って彼らと共に出発した
ルートはルーカストアの外側を縫うように進んで森を抜ける
街に入ると混乱を招く恐れもある
移動していてやはり思ったのだが一回の移動距離がとても長い
流石は獣族の者達と俺とナッツは感心してしまった、休憩は4回ほど挟んだのだがそれは俺達2人を気付かった休憩だった沢山の馬車を引いた遠征、ガウガロにとって今後が響くであろう目的の旅
彼らは妖狐族をガウガロに戻すために頑張るだろう
1日目は森の中で野宿といった感じだ
兎人族は来るだけなので仕事は殆ど無いが料理を作る当番になっている感じがする
せっせと焚火の熱で肉を焼いている姿が伺える
辺り一面に安易テントが張ってあるがその中で寝泊まりする様だ
俺とナッツはテントの中で寛いでいるとシルフィーが入って来た
他の鳥人族と違い真っ白な姿、彼女はシマエナガ種だ
『ガウガロに福をもたらすわねぇいつも』
そう言いながらテントの中に座ってきた
『偶然だよシルフィー、バウと上手くやっているのか?』
その言葉で彼女は苦笑いし始めた
上手くいってないのだろうかと心配になるとシルフィーが鼻を高くして答えた
『この前プロポーズして来たわよ?』
『『ええ!?あのバウが!?』』
あのバウがシラフで出来るとは思えないがどうしたのだろう
嘘にしか聞こえないが俺たちの反応を見て彼女は笑っていた
『ぎこちない言葉でカッチカチになってちゃんと言ってきたわ』
『ではシルフィーさん!返事はどんな感じでしょうか?』
『まだしてないわよぉ?』
なんだか嬉しそうに答える彼女だがいい返事をするのだろうな
そう思える様な乙女の反応だ、ルッカとそういった面持ちはどことなく似ている
シルフィーと暫く他愛のない話をしていたのだが彼女も眠くなったらしくてテントを後にした
ナッツも半分寝かけているので俺は明かりを消して寝ることにした
そして獣族の朝は早い
早朝5時にはもう起きて素早く朝食を済ませると一気に駆け抜けたのだ
ちゃんと休憩は取りながら進んでいったのだがそれでも移動距離が半端ない
流石は獣族、人とは比べてはいけない体力を持っている
彼らの動きを見ると人って意外とそんな大したことないのだろうとさえ思える
これなら全然間に合うだろうが夜に向かう事を躊躇い最後に1回だけ森で野宿することにしたのだ
『流石獣族ですね、速すぎますよ』
ナッツも驚いている
俺達も寝る時間を削って超最速で来たはずなのに彼らときたらもうそれを軽くぶち壊す
そんな俺達を気遣いゆっくり進んで丁度5日目の昼
ルーカストア南の奥にある妖狐族の集落の近くにまでガウガロの遠征軍は近づいた
バルト『可愛いはすぐそこだ!』




