24話 妖狐族編 移動
ナッツ『ガウガロに向かって妖狐族に使者を送る様にするため大移動をします
ジャムルフィン『夜に襲われたがまぁ仕方がないか』
ルーカストアの街で昼頃まで仮眠した俺達は人起きたのち宿のテラスで昼食を食べることにした
ナッツはまだ半分寝ぼけているが俺も少し眠い
スプーンで肉を食うという行為をしている所を見ると俺も寝ぼけているのだろう
『先輩、眠い』
少し可愛い口調でそう口にするが可愛くない
『うむ』
これが限界である
昨夜は起きすぎた様だな、寝る時間にフルで動きまくったんだから仕方がないのは承知していたが早めにガウガロについてから一息つきたいのだ
その方がいい
『はぁ、別な意味過酷な旅ですねぇ』
『そうだな』
それには同意する
昼食後は直ぐに馬に乗りミューリアまで駆けたのだが辿り着いたのは夕方を過ぎていた
本当はここから直ぐに発とうと思っていたのだが寝たりないのでミューリアの冒険者ギルド2階にある休憩所にて仮眠を取ることにした
またまた久しぶりな場所だ
ミューリアのギルドを前にそう思った
『先輩、少し眠気は覚めましたが…』
ナッツがそう言うと俺がその言葉の続きを答えた
『仮眠だな』
そしてギルド内に入ると俺達に気付いた冒険者から声がかかった
『銀狼の旦那じゃねぇっすか』
『おお!冒険者ランクSになったあの銀狼さんじゃないか』
ルーカストアにもその情報が出回ったか、流石に速いな
そんな声に俺は頑張って笑顔で答えた
『今日はガウガロまで用事があるから2階で仮眠したら直ぐでるんだが二時間くらい外の馬黒2頭を見てくれるなら金貨二枚だす』
その言葉に冒険者は血相を変えて近づいてきてニコニコしながら答えだした
『喜んで見ときますよ旦那ぁ』
『頼む』
前金の金貨1枚を渡すと彼は直ぐに外に走っていった、金があるなら使えるときに使おう
ナッツもそのやり取りを見て軽く笑っている
螺旋階段を登り2階に上がると休憩所と書かれた部屋に入り空いている安易ベッドにナッツと横たわった
ここまで会話は少ない、疲れているのだろうか
ナッツは直ぐ寝付いたのだが今それが役立ってしまうと此方も羨ましく感じる
食い意地で体力回復できるし安眠でも回復が見込めるのだから彼のその2つのスキルの相性もなかなかのもんだ
俺はナッツが寝てから15分程度で眠りに落ちた
暫くすると馬を頼んでいた冒険者の仲間が俺達を起こしに来てくれた
有難い、頼んでもいないが丁度起きれたのでその冒険者にもお礼として銀貨3枚を渡すとニコニコしながら頭を下げて休憩所から出て言った
『ナッツ、起きろ!』
『ごふっ!?』
ダメージを与えれば起きる
可哀そうだが安眠スキル持ちはこれしかない
起きたナッツは口をへの字にして俺を見ているが仕方ないだろう
『しょうがないだろう・・・』
『過激すぎますよもう少し優しく』
『起きないだろ?』
『そこは否定できませんね!』
腕を組んで誇らしげに言うナッツだが納得はしている様だ
2人で下に降りて馬の元に向かうと黒馬の警護を頼んでいた冒険者が俺たちの乗る黒馬の横で真面目に見張りをしてくれていた、俺たちの姿を見ると近づいてきて口を開いた
『旦那、問題は何もなかったぜ?』
『助かった、残りの金貨1枚だ』
金貨を受け取ると冒険者はニコニコしながらお礼を言った
『へへっ!助かるぜ!』
そうしてナッツとガウガロまで一気に向かう事にした
到着は夜は確実である、黒馬の速度なら休憩を2回挟んでもそのくらいかかる
途中魔物等ともすれ違うが戦う気が起きずに置き去りにしてそのままガウガロに向かう
ルーカストアの街付近を抜けて森に出てからは速度を上げて駆け抜けた
すっかり月も綺麗に表れておりナッツもそれを見て苦笑いしていた
『いやぁ5日間は流石に片道なら楽ですが往復となるとキツキツですねぇ』
『6日間にすればよかった』
『まぁ過ぎた事ですししょうがないです、今日つけば残り3日ありますから直ぐに誰か連れて行くしかありませんね』
『まぁそうなるな』
唐突にガウガロに言って急いで連れて行くのだ
あっちにも予定という物はある筈なのでよくよく考えると申し訳ない
ナッツとそんな話をしながら進むとアバドンが真横に見えてきた
月明かりに照らされ森を包む霧が不気味さを際立たせる、雷帝はあそこでノアを守っているだろう
彼が一番の適任である決して約束をないがしろにできないだろうな
雷帝はシルバと戦いたがっている
『先輩・・・僕は出来ればバルトさんを連れていきたいですがそれが無理なら族長数名とファルカさんが良いと思います、できるだけ色んな種族を連れて行ってガウガロの現状を見せつける必要もあるからです』
『出来れば種族を偏らせないでってか』
『そうですね、まぁどうなるかは着いてからのお話ですね』
妖狐族にガウガロに住む獣族を満遍なく見せつけたいのだろう
現実味があるのだし悪くはない
『これが終わって国に戻ったら見てほしい囚人がいるんだ』
『囚人?』
ナッツが首を傾げてこちらを向いた
馬上の会話だが俺はそのまま答えた
『闇組織ダグマの人間だがお前の知能が必要でな』
『ああなるほど、わかりました・・・それについての細かい日時は終わってから決めましょうか』
『ああ』
取り合えずクズリの約束も果たせそうだ
アバドンも森も通り越してガウガロに向かった際の獣道に向かって突き進む
ケインが通っていた道である、意外とまだ覚えていたので近道だろうなと通ることにした
それに対してナッツも同意してくれたのだが本当に横幅がギリギリで危ない道だったが次第に見覚えのある墓所が見えてきて俺たちはホッと胸を撫でおろしたのである
『やっと休める』
ボソッとナッツが囁く
『いやぁ辛い道のりだったな』
俺も多少そう言う
狼人族の集落の入り口に着いた
入口を警備している複数の狼人族の者に最初は警戒されたが俺たちの姿を見て非常に驚いてから姿勢を正して口を開いた
『ジャムルフィン殿とナッツ殿ではありませんか!?一体こんな時間に何が!?』
他の警備兵も夜更けに来た俺達にびっくりしている
俺達は馬を降りてから一息ついてからナッツに話をしてもらった
『妖狐族を見つけました、彼らはガウガロに戻る気でいますのでガウガロの者の使者が必要です!できれば種族を交えていきたいのですがガーランドさんはいますか?』
彼の言葉に口を開けて驚く警備兵たち
少し落ち着くと一人走って狼人族の集落の中に消えていった
『なんと・・・そんな馬鹿な、今族長殿をお呼びしておりますので食堂にてお待ちくだされ!』
律儀に頭を下げて俺達を食堂に案内するが
食堂が新しくなっていた・・・・まぁあれだ
確かタツタカが燃やしたんだよな?外交でガーランドから聞いたけどさ
『中でお待ちくださいませ!』
案内してくれた警備の者が言うと俺はナッツと中で待つことにした
互いの武器をテーブルに乗せて俺達はぐったりとテーブルに上体を伏せた
ああやっと着いた、時間を見ると22時か・・・
『6時間以上軽くかかりましたねぇ』
ナッツが小さく言葉を発する
妖狐族の集落からマシな道が無くて手こずったのだ
南の最奥の森なのだから抜けるだけでかなりの時間を有したのだから気疲れが半端じゃない
『終わったら1日寝たい』
『そうですね先輩』
力なく答えるナッツ
その後彼が言葉を発することは無かった
寝てしまったのである、俺を追いて彼は寝た
全てを託して
『お前・・・』
テーブルに顔を伏せて気持ちよさそうに眠るナッツを見て渇いた笑いしか込み上げてこない
少ししたら警備兵の者が2名入ってきて俺達に視線を向けたのだが眠るナッツを見ると口元に笑みを浮かべてから俺に口を開いたのだ
『もう少しすればガーランド殿が来ますのでお待ちください』
『助かる』
彼は食堂の奥に行くとグラスに入った水を一杯出してくれた
俺はそれを飲み干しながらナッツを見る、こいつも飲みたかったろうな
この場には俺達2人に加えて狼人族の警備兵2名といった様子だ
ガーランドが来るまでの間警備兵に事情を説明すると真剣な顔で答えた
『流石ジャムルフィン殿のご一行ですね、妖狐族は億劫な一族と化してしまいましたか』
『普通なら危ないが非力な一族なんだ、仕方ないと思うさ・・・自分たちの種族を守るためだしな』
『そういう考え方が出来るからこそジャムルフィンさんもガウガロを救ったのですな』
警備兵はそういいながら微笑んでいた
すると食堂の外から何者かが勢いよく向かってくる気配がするが少し多くないか?
この気配はガーランドもいるが・・あれ?
『ジャムルフィン!本当か!』
そう叫びながらガーランドは血相を変えて食堂に入ってくる
『本当にジャンルフィンたちじゃない!?あはは!』
鳥人族のシルフィーもいたしファルカもすぐ後ろからついてきていた
『おっ!?久しい顔が2人もいるぜ、先ず飲むか?』
熊人族のバウは速攻シルフィーに叩かれていた
『凄い時間に来たもんだなぁ』
虎人族のチェスターじゃないか
『可愛い妖狐族!』
最後は可笑しい言葉を叫んで獣王だと思われるバルトが入ってきた
獣王で間違いないのだが発する言葉がそう思えない
皆入ってきてから俺たちの様子を見ると寝ているナッツを見てから視線が俺に注がれる
空気を読んだのか俺と暫く話をしていた警備兵が立ち上がると口を開いた
『皆さま夜分遅くまでお疲れ様です!事情はわたくしめが聞きましたので一通り説明いたします、ジャムルフィン殿は長旅で疲労しておりますので』
有難い、そうして俺も続けて口を開いた
『久しぶりだな、だが動き過ぎて疲れた・・・妖狐族が戻るには全種族各1名ずつは隠れ家にいかないと信じてもらえ無さそうだ、あいつらも昔のガウガロ同様にお外の情報がまるで理解していない』
そう話すとチャスターが直ぐ答えた
『見るからに急いだ感じだなお前、俺は各種族に伝令飛ばしに行くわ・・・使者として向かう者を決めとかねぇとな』
虎人族のチェスターは食堂を出ると何やら誰かと話す声が聞こえた
『お前ら直ぐに各種族に伝令だ!妖狐族が見つかった、各種族から数人使者として向かう手筈を整えとくようにする事を伝えておけ!詳しい事情は今から聞く』
『ははっ!』
数名の返事が聞こえたがどうやら外に彼の部下が待機していたのだろう
バルト達は食堂のテーブルに座ると警備兵から話を聞き始めた
あとからケインが来て俺の隣で嬉しそうにしながら何故か頭を撫でられている
『元気そうですね?』
苦笑いしつつもそう言うケインだがそう見えるか?
『ケイン?最近嫌味を覚えたなぁ?』
『疲れてるお二人っていつも通りじゃないですか』
『確かに否定できないな・・はは』
『ですよ』
ケインとも久しぶりだ、銀色の体毛でシルバと同じ一族である
俺そんな話をしている間近くでは警備兵が立ち上がってバルト達に事の事情を説明していた
皆かなり真剣な表情をしている、バルトがあんな真剣なのは久しい
ここに来ると全てが久しいと思えてしまう
いや思い出があり過ぎるか、ここで俺たちは必死に戦ったんからだろう
ガウガロの今後の為に死ぬ気でシュウザーと戦った
今思えば最後は十天と十天の戦いに似た物か、白銀武槍でまったく歯が立たなかった
『残り3日でルーカストアの南の森にある集落に向かう必要があるな、各種族から最低1人は出す必要がある・・・我はいこう』
そう言ってバルトが立ち上がるとガーランドやバウそして他の族長も立つがそこでバルトは再び口を開いた
『俺とガーランドは行くが族長はなるべくガウガロに残そう、国の防衛はシュウザーに動いてもらうとしようか』
バルトにガーランドそしてシルフィーが族長として向かう事にして後の種族は使者として兵を借りる予定らしい
彼らの国にも変化があったらしい
警備兵を国の治安に
兵士という戦士を国を守るものとして分けたのである
そこは人族のやり方を真似たらしいのであるがわかりやすくていいと思う
『一先ずジャムルフィン殿は休んでくれ、もう少し我らは動くゆえ朝には迎える様に整える』
『早いな』
そう言うとバルトは腕を組んでから答えた
『急を要すると感じている、ルーカストアにも使者を送って事情を説明しておこう』
念には念を入れてだな・・・
そうして俺はナッツを無理やり起こすとまだ半分寝ぼけた状態で周りの者を見渡していた
最近ナッツを起こすのが多い気がする
『あれれぇ?バルトさんやみんなが』
彼の様子に皆軽く鼻で笑っている
そんなナッツにファルカが近づいて胸部の羽毛から腕を出して彼の肩を叩いた
『疲れたろうナッツ、宿舎で休んでおれ』
『あれぇファルカさん』
まだ起きていない様子に流石のファルカも俺に視線を向けて首を傾げている
寝起きはすこぶる悪い後輩なんだよそいつは
少ししてナッツと前回泊まった宿舎まで狼人族の警備兵と共に向かうとナッツはリビングにあるソファーに横になり直ぐに寝始めた
その様子を見て警備兵も目を見開いて多少驚いている
『疲れているご様子ですね』
『移動続きでな・・・』
『そうですよね、明日は他の者をこちらに差し向けますのでゆっくり休んでください』
起してくれるらしい
その行為に甘んじて受ける事にしようか
『助かる』
『ではこれにて!』
一礼したのち警備兵はここを出ていく
俺はソファーで眠るナッツに視線を向けてから奥のドアを開けて寝室に向かった
一番手前のドアを開けるとベットがあるが個室である
槍を壁に立てかけて俺はそのままベットに倒れるように寝そべった
やっと一安心できる
俺が襲われた事は警備兵にも説明をしたのでそれをそのままバルト達にも警備兵が伝えていたがそこはちゃんと彼らの都合があり生きていく中で仕方がない方法だったことは皆も納得はしてくれていた
非力な種族はどんな手を使っても種族を守る
それは獣族でも理解はできるらしく心配無さそうであった
ベットに入った俺が眠りにつくまではそう時間がかからなかった
ナッツ『やっと苦労が終わる』