21話 妖狐族編 再開
ナッツ『ダグマを殲滅した際に捕らわれていた妖狐族の娘ジーンさん、彼女を村に届ける為に僕と先輩でルーカストア南にある大森林へ向かう事になります』
ルーカストア国そしてガウガロを交えた3か国外交も超プラスな方向に向かうとゼリフタルの国も安心した様子を見せる
帰ってから数日はグスタフと体術で戦ったのだが余所見をすると危なく負けそうになる
気が抜けている証拠だと彼に注意された
まぁグスタフは俺で力を発散できて満足そうだったが…
数日後俺はナッツを連れてポートレアの警備棟に向かうと受付でワシズを呼んで例の妖狐族の娘のもとに案内してもらった
どうやら保護するための施設で今は安静しているらしいが警備棟のすぐ後ろであった
孤児院に近い建物だ、2階建てのどこにでもある建物のようにしか見えないがワシズが中に入ると例の娘を連れて出てきた
檻に入っていた時と違って清楚な感じであり可愛い
その容姿にナッツは鼻を伸ばす
『ナッツ?』
彼を軽く小突くと顔を赤くして返事をした
『あ…すいません』
妖狐族の娘はゆっくり近付くと俺達二人を見てからお辞儀をして口を開いた
『助けて頂いてありがとうございます、私は妖狐族のジーンと言います』
俺が前回ダグマの本拠地で助けた妖狐族の娘ジーン
彼女にどういった経緯で誘拐されたか聞いたらルーカストアの南の森で果物をとっていたら捕まったと言うのだ
彼女を連れてポートレアの近くの料理店に向かうとジーンはたらこパスタを2つ注文した
俺とナッツは目を点にして驚いた
こやつもたらこパスタ教かよ
『いただきます!』
二人前のたらこパスタを食べる姿に俺とナッツはサンドイッチを食べながら観察していた
食べ盛りっていうのかな?よく食べる
『ガウガロの獣王バルトと先週会ったけどその気があるなら妖狐族に戻ってきて欲しいそうだぞ?』
俺がジーンにそう言うと彼女は口に含んだパスタを水で押し込んでから答えた
『本当に帰って良いのでしょうか?村の者も今更帰れないと思っていますし』
少し不安な様子なんだな
そこはナッツが柔らかく説明すると彼女も安心したのか残ったパスタを素早く平らげてから話始めた
『私達の集落はルーカストアの南の森の奥にあります、隠れ家みたいな感じですが人数も少ないので見つからなかったんですよね』
『今は何人位なんですか?』
ナッツが質問をするとジーンは答えた
『2千人程度しか、昔は4千人いたらしいんですけど…住みにくい環境なので子孫の繁栄も難しくて』
自給自足が主な生活だろう
となると大変な筈である
『取り敢えず今日は俺の村で泊まってから明日その集落に共に行こうか』
俺の言葉にジーンは元気よく答えた
『はい!』
『合計金貨2枚と銀貨4枚になりまーす!』
会計が痛くついた
恐るべしたらこパスタ
俺達はジーンを連れて馬車乗り場でナラ村に向かったのだが馬車のなかで一先ずジーンと話をしてみたのだ
他に客がおらず貸し切り状態、気負いせず楽である
『ジーンの集落だけしか妖狐族はいないのか?』
『そうですね、他にいない筈ですよ』
生き残りはジーンの集落だけか
それなら慎重に扱わないといけないな、殆ど絶滅危惧種になってもいいくらいの人口だし
『やっぱ種族長はいるんですか?』
ナッツが本を読みなからジーンに質問すると彼女は直ぐに答えてくれた
『ベラトミ様が種族長をしております!とても強くて綺麗な女性ですよ』
ナッツが興味津々だ、お前は可愛い子好きだな
どうやら女性の種族長であり武力もそれなりにあるそうだ、ランクB以上の魔物も子供みたいに倒すらしいからそうならかなり強い部類じゃないだろうか
『ただ頑固な所もあるのでまだ結婚できてません』
要らない情報をジーンから頂いた
そこは別にいいんだよ?
種族で一番強いのもベラトミという女性らしくで自給自足が主な今の生活じゃ彼女の狩り無しでは十分な食糧もとれないらしい
他に戦える者はいるのだが森の奥は意外と強い魔物が現れやすいのと群れが殆どで上手く狩りができないとジーンが言った
『ガウガロにはそんな不安も無くなる場所だ、君たちが昔使っていた領地もそのまま残っているし必要なら迎えを獣王自ら向かうとも言っていたよ?』
『それが本当ならとても嬉しいです、ベラトミ様も戻れたら良いのにとよく囁いておりましたが今のガウガロでは不安だとも言ってたので』
変わったガウガロをまだ知らないのだ
その妖狐族の種族長ジーンも昔のガウガロしか知らないのだろう
平和になったことを伝えて早急に新しい住みかとしてガウガロに移住すべきだ
俺は村には事情を話して少し留守をすると言っているのでこのまま彼女の集落までナッツと行くことになった、ルーカストアからとりあえず贅沢に黒馬で向かうとそのままナラ村を横切ってルーカストア方面の森に行ったのだ
勿論道中魔物は少しいたのだがそれはナッツが対処してくれた
彼も早く上位職になりたいのだろうし戦える時は戦う事にしている
夕刻になるとジーンは30分ほどでつくと言いながら少し仮眠をとった
他の乗客も数人いるので俺たちは途中下車の予定でいる
魔物も現れずに馬車の中でナッツとのんびりしていると彼が口を開いた
『天位職と戦ったって話は聞きましたが先輩でも苦戦したんですか?』
少々信じられないって感じでナッツが聞いてくる
そういわれても危なかった
クズリはかなり強い奴であり予見を使いづらい相手であった
銀彗星が無ければ本当に危なかったかもしれない
実際シルバシルヴァを起動して倒せたのだし相当な奴だ
『めちゃ強かったぞ?あとあいつから職の唄らしき歌詞を聞いたのだが・・・』
するとナッツは興味があるようで目を細めて返事をした
『唄ですか・・・どんな歌ですか?』
俺は彼に聞かせることにした
消えた息子によく聞かせた唄を
『千の勇姿が見守るぞ、決意を胸に希望をその手にいざ進め・・・降る雨は敵を打ち倒し・・・千の剣にて弱者に光を幸福を、我らが守る人々に安眠と食事と平和を与えたまえ・・・人々の心に我はいる』
俺の記憶力も中々のものだ、完璧に言い切ったと思える
再びナッツに視線を送ると口を開けて何かを考えていた
『ナッツ?』
俺が声をかけても反応はしない
何か起きたわけじゃないが何かを深く考えていると俺は思った
彼の眉間にしわが寄っている、何か考え事をするときはいつもこうだ
俺は溜息をついて腕を組み始めると突然ナッツが小さく囁いた様に口を開いた
『体全てを武器と化せ、心も全て武器と化せ・・・・愛ある体に栄光を、全てを数えて千とする我が剣帝千剣騎士』
唄の続きの様にも思えた
お前が俺の言葉に続いてそう反応を示すのか?お前は何者なんだ
ナッツ
彼は少し悲しそうな顔になると体を小さくして話し出した
『懐かしい感じがします、小さい時に聞いたような・・・でも僕には昔の記憶なんてないんです、捨てられたのかどうかもわからないのだけが救いですね』
それは昔彼から聞いていた、ジャミニの孤児院に現れた前の記憶が何もかも無いのだ
何かのショックで一時的に記憶が消失しているかもしれないと言う事は孤児院の院長も言っていたような気もするが
ナッツ・ランドル
彼は幼少期の記憶が失われている
孤児院にいる彼に出会い俺は仲良くなった、のちに養子として孤児院を出るがあくまで独り立ちさせたいというとある老夫婦の願いで彼はここまで育った
今迄親の愛情といえる物は感じないで生きてきた後輩
『誰かが唄ってくれていたような気がします』
思い出せない様で歯がゆい雰囲気でいる彼に俺は答えた
『この旅が終わったらその唄を知っていた者に会わせる』
ナッツは返事をしなかった、ただ俯いて考え事をしていた
だが来るだろうと俺は確信を持っている
そしてもう一つの確信も持ち始めたのだ、だがどうする・・・・もし本当にお前が・・・
するとジーンが起きたのである
彼女は欠伸をしてから両手を上げて口を開いた
『おはようございます』
『おはようジーン』
俺は返事をするとジーンは馬車の窓を開けて外を伺うと視線をこちらに移して話しかけてきた
『もう少しです、降りる準備をしましょう』
ようやくらしい、少し暗くなるのが遅くなってきたのだが春が近い証拠だ
槍を持っていつでも降りられるようにしているとジーンが俺達を交互に見て口を開いたのだ
『お二人さんは仮眠しなくてよかったんですか?』
仮眠なんていらない、夜寝れればいい
今日は妖狐族の集落で寝る予定だが集落の者はいいといってくれるだろうか
『僕たちは平気ですよジーンさん』
やっと通常に戻ったナッツが彼女と会話をしていた
するとジーンは彼にとあることを聞いたのだ
『ナッツさんは安眠スキルあるんだし勿体ないですよ、それ別名で寵愛スキルと言って超レアなのに』
そんな別名があるのか?初耳で俺とナッツはホーと関心した様子で反応を見せるとジーンが苦笑いし始めた、知らなかったの?本当に?と言っているかのような苦笑いである
『本当に知らないんですか?それ大人になると絶対取れないスキルですよ?』
『そうなんですかジーンさん?』
ナッツが質問するとジーンは俺達2人を考えこませる答えを告げた
『幼少期に親の愛情を受けて大事に育った子供じゃないと絶対取得できないスキルですよ?しかも1万人に1人の割合でしか保有者がいないんですよそれ?ナッツさんは親に大事にされていたんですね』
羨ましそうな面持ちでジーンはナッツを見た、そんな特殊なスキルだったというのかこいつの安眠は
とんでもない事を聞いてしまい俺は隣にいるナッツに視線を送ると彼はボソッと口を開いた
『親の愛情・・・』
ジーンがナッツの様子を見て首を傾げている
俺は彼の肩を軽く叩くと軽く顔を上げてから俺を見た
ナッツが考えている事は薄々だがなんとなく理解できた
彼は捨てられたのかどうかという答えを知るのは怖かったのだろう
記憶が無くて逆にそれが安心感を生んだ、真実を知らない方が良いと
だが安眠スキルは幼少期までに取得しないと永遠にとれない特殊スキルであり親の寵愛を受けた中で極稀に保有することができるスキルなのだ
『僕は何で記憶が無いのでしょうか・・・』
再び悲しそうな顔をしている
今彼の頭に中には新たな確信が生まれていた、とても大事な事実
今迄考えることも億劫であった事実・・・いや真実を知った
彼は愛されて育った、捨てられたわけじゃないと言う事を知った
『小さい時お前の身に何かが起きたんだろう、親もお前を大事にしていたって事じゃないか』
『もう十数年たっています、流石に諦めていても可笑しくありません』
ナッツの言葉に俺は大きく心が揺れた
ここでクズリの事を話していいかどうかだ、だが俺の一存で決めるには早い
一旦会わせて反応を見るまで我慢してみようと思う
約14年くらい前か・・・普通に考えれば諦める年月でもある
だが諦めていない者もいる、そいつに会わせるまでは
『一先ず今はジーンの事に専念しよう、この話はゼリフタルに帰ってからだな』
『そうですね先輩』
少し無理をした感じでナッツが返事をすると空気を読んで大人しくしていたジーンが口を開いた
『ここらで降りましょう、歩けば1時間ほどで到着します』
俺達は決して降りる場所じゃない所で馬車を降りた
南に視線を送ると広大な森が見えるが前回の魔滝もあの周辺から来たはずだが集落は大丈夫か?
まぁルーカストアの南は森が殆どなので隠れ家のように住んでいるかもしれない
日も暮れており目視は難しい状況ではあったが俺とジーンは夜にも目が利くのでナッツを誘導して森の奥へと進んでいった、基本獣族は夜も関係なく見えるらしい事をジーンから聞く
多少の魔物も俺の銀閃眼の通常弾で一発粉砕で薙ぎ倒していくこと1時間
木の家が立ち並ぶ集落へと着いたのだ
入口からでも集落の中に川が流れているのが見えるが小さい
ジャンプして飛び越えれる程度の川しかないようだ・・・明かりは灯っているからナッツでも見えるだろう
その集落を前にジーンは静かに口を開いた
『戻ってこれました、私の村です』