59話 シルバ 己の罪
シルバ『俺の方の記憶ぞ?』
ノア『私のはのちほどねぇ』
その日の夜はヘクターは直ぐ近くの自分の家に戻りノアはシルバの家に泊まった
シルバのベットは2人分あるんじゃないかと思うくらいの広さであるがノアは彼にくっついている
部屋を暗くしてからシルバが深く溜息をつくとノアが口を開く
『布団もフカフカだしシルバもフカフカね』
『まぁな、冬もそれなりに暖かい体毛だが流石に軽く服は着こむぞ?』
ノアがなにやら笑っている
その様子を見て軽く頭を撫でると彼女は顔を赤くして彼に話しかける
『まだ腰が痛いわ』
すぐにシルバが狼狽える
軽く咳払いするが動揺しているのは目に見えてわかる
そんな彼の様子を見て寄り添って彼女は話した
『私にできるかな』
『バルファニアの事か?』
『それもあるけど・・・違う方も』
ノアの言葉にシルバも何か思いあたる節があるのか表情が硬い
彼が作り笑いをするとノアは天井を向いた
『バルファニアの権力の争いも無ければいいのだけどよくわからいのよ、辺境の地に飛ばされているから』
『ノア、お前ならできる・・・明日は俺が共に行くのだぞ?』
ノアが微笑むと答える
『それもそうだけど、腰が痛いわ・・・シルバって意外と変態ね』
シルバの表情はこの世界の鉱物よりも固い顔になった
次の日にはシルバとノアはバルファニアの帝国城都市へと向かった
シルバの銀彗星で1時間もかからずに城の前に着いたのだ
丁度バルファニアとの会談を控えた日であり急遽シルバが行くことなった
色々な話を獣王自らしにだ
当時の国王 カルス・ローランド・ルル・バルファニア国王は大いに驚いていた
最強自ら来たことに国内も緊張が走るが意外と会談も円滑に進んだ
会談中のバルファニア兵の足はずっと震えていたがなんとかやりきった
待合室ではシルバの隣にノアが座って国王と話したのだ
今後の国交の余地がある
ノアを獣王シルバの妻として迎える事
ドワーフの品の輸出
防衛に限り協力を惜しまない事
他にも細かい事はあったが国王は最強が後ろ盾になると言う事実に心底嬉しかったようですぐに了承してくれた、ノア自身の快挙も鰻登りであった
隣国であり最強と言われる武人を夫にするノアに国は一気に凄まじい価値を覚えた
ただの隣国から国交が生まれて交友関係にできる偉業を成し遂げたのだ
誰にも今迄出来なかった事をノアがやった、それだけで彼女は莫大な権力を持つことになった
ノアも上機嫌だった
最初は不安しかなかった彼女だがシルバがお前ならできると言ってくれていたおかげであるだろう
その後はドワーフの品を量産して一定数を鼠人族が馬車でバルファニアに運び国交する気を見せた
着々と隣国との距離も近くなっていた
その間に魔族との闘いがガウガロと魔族であったが大事な時期にちゃちゃを入れられたシルバは東の地に即飛んで魔族を殺しつくした、魔王も殺した
そうして生き残りの魔族達に言ったのだ
『今度獣族にちょっかいいれてみろ?次は女子供見境なく殺すぞ?』
それ以降魔族は獣族という存在そして銀という存在に恐怖して決して触れないことにした
その理由はノアが大事な時期だったからだ。妊娠していたのだ
誰の子かは明白であった
そして
半年以上だろうか、月日が流れた時にノアが子を産んだ
銀色の狼を人族が生んだのだ
シルバは異種交配を出来る技を持っていた事でこのような嬉しい事が起きた
銀色の小さな子を抱いてシルバの家であるソファーに座るノアにシルバが話しかけた
『面白い人生だ』
ノアは彼の言葉に優しく微笑みかけた
隣にシルバが座ると彼はノアの頭を撫でる
睦まじい仲であった
『本当に産めるなんてね、ギース・・・お父さんよ?』
まだ目が開いていないギース、出産から一週間たたないと目が開かないのだ
ノアの肩を抱いて2人でギースを見ているとヘクターがシルバの家に入って来た
『兄貴もかなり丸くなりましたねぇ』
シルバが彼に笑いながら話しかけた
『はっはっは!ヘクターよ嫌味を言いに来たか?』
『いやいや違いますよ兄貴、ようやくですね・・と』
ヘクターの言葉にシルバは静かに頷いた
子であるギースの頭を軽く突いて再びヘクターに視線を送った
『じゃあいつも通り訓練行ってきますね』
ヘクターが手を上げて入口を向くとノアも声をかけてきた
『頑張ってねヘクター』
後ろ向きでガッツポーズをして彼は家を後にした
外に出てから彼はシルバの家を見つめて囁いた
『本当にやっとだよ兄貴、家族ができたんだ・・・』
バルファニア帝国との国交の話し合いも進んできておりノア自身も国に戻って色々王族としての話し合いをすることになるがそれはギースが歩けるようになってからであった
獣族の成長は早い、半年後には歩くようになり人間が狼を生むと言う感覚に他の族長達も慣れ始めてきた
ノアが21歳になった頃ギースも普通に2足歩行で歩くようになり母乳も必要としなくなったため彼女はバルファニアで色々と多忙になり留守が多くなった
シルバは少し寂しい思いではあったが仕方ない事だと息子のギースと共に家で寛いでいた
季節は夏・・とても暑い外にギースも幼いながらにぐでんとしていた
そうしていると誰かが家に入って来た
シルバが入口を見ると苦笑いをした
『よぉシルバ!おめぇもノアちゃんを貰うとなはなぁ!』
『モーガン・・・お主何しに?』
にこやかに笑いながらモーガンがシルバが座るソファーの隣に座る
ギースもモーガンが気になるらしく手を伸ばしている
『可愛いじゃねぇかぁ!』
ギースの首裏をかくと心地よさそうな顔をするギース
どうやらモーガンも子供が好きらしい事に意外性を感じるシルバだ
ギースもモーガンには人見知りはしないらしい、マリルが来た時は全力で泣いてアザクタールの時は失禁してしまうという事態だがモーガンだけは大丈夫らしい
『ちょいと暇で来ただけだ、身構えるな』
『身構えておらぬわ』
モーガンが足を組んで休んでいるとヘクターが入ってきて驚いていた
『あれ?モーガンさん?』
『いよぉヘクター!おめぇも充実してそうだなぁ?調子はどうだ?』
モーガンの言葉で鎧の頭部をかりかりするヘクターは答えた
『剣術レベルが5になりました』
その言葉にモーガンは立ち上がりヘクターに近付いて肩を軽く叩いた
『おっしおし!いい感じじゃねぇか!夢の魔天狼と戦えるようになるまであと半分切ったぜ?』
嬉しそうな素振りを見せてヘクターがモジモジしている
彼の夢とはシルバと戦って魔天狼の強さを感じたい事
ここまで育ててくれた兄の様な存在を感じる事だった
ここまできたんだとヘクターは感じて嬉しい気持ちになるとシルバが声をかけた
『鍛錬を怠るな?もうすぐぞヘクター』
『わかったよ兄貴!』
嬉しそうな声を出して彼は再び外に出て言った
多分だが特訓に向かったのだろう
そんなヘクターの様子を見てから静かにしファーに座り直すモーガンは口を開いた
『良い感じだが気をつけろよ?』
シルバが彼の言葉で首を傾げる
モーガンがそれを確認した後に続けて言った
『帝国も内部事情は複雑だ、もしノアちゃんを煙たく感じる野郎がいればこ『俺が殺す』
モーガンの言葉に被せて話したシルバ
彼は真剣な表情でモーガンを見ている
ここまで彼女の為に変わったなと心の中でモーガンは感じた
だが良い事だと察した
真剣な顔をするシルバに口元に笑みを浮かべて彼の肩を叩いた
『それが父親だ、家族の為に動くったぁそう言う事だ』
そうしてモーガンは立ち上がると腕を軽く回して入口に向かう
『モーガン?』
シルバはふとそう言うと彼が振り返って口を開く
『いやぁ最強が呆けてねぇか気になってな、ちゃんと父親してるらしいな』
シルバは足元でじゃれているギースを見て微笑んだ
モーガンもその様子を見て満足したのか入口を向いて軽く手を上げてから家を後にした
そうしてノアが多忙になり数か月続いた時
ノアの様子が可笑しくなった
夕方頃、シルバがヘクターと彼女の帰りを待っている時に彼女が帰ってきた
ヨロヨロと歩いてギースがノアに近付くがシルバとヘクターは彼女の表情が可笑しい事に気付いた
『ノア?』
シルバの声に大きな反応は見せずに近づいてくる我が子を悲しい顔で見つめていた
ヘクターもその様子を2人に任せて見守ることにした
『マー』
ギースがそう言いながらノアの足元にくっつくとノアは涙を流した
余りの様子にシルバが近づいて口を開く
『どうしたのだノア!』
ノアに触れても反応を見せずに目線すら合わせようとしない様子にシルバは不安を覚えた
そんな彼女が小さく呟いた
『もう会えないわ』
シルバとヘクターが首を傾げた、意味が分からずにだ
ノアの頭を撫でるとシルバが聞いてみた
『何があったノア、何故そんな事を言うのだ』
『もう会えないのよシルバ・・・』
静かにノアは足元でじゃれてくる我が子のギースをシルバに向けた
ギースは再びノアに近付くがそれをシルバが持ち上げて抱き抱える
『ノア、どうしてそんな事を言うのだ』
シルバの耳は垂れていた、深い悲しみからだろうか
一向にシルバを見ない彼女は口を開いた
『私達会わなければよかったのよ、幸せだと思ってた・・・バルファニアに戻るわシルバ』
涙声で言うノアにシルバは悲しくなるが誰よりもノアの事を知っているシルバは彼女に言った
『・・・何かあったのか?』
『あなたには関係ない事よ、楽しかったわ』
そのまま振り返って外に出ようとする彼女の腕を掴んでシルバは叫んだ
『何故俺を見ない!どうしたのだ!何かあったのか!』
『知らないわよ!』
シルバの腕を振り解くとギースを見たノアはさらに泣き出してしまう
ヘクターも何が起きてるのかわからず狼狽えていた
『こんなことになるなら出会わなければよかったのよ!』
そう吐き散らしてそのまま家を出て聞くノアに誰も動けないでいた
シルバの頭には何がよぎっているのだろうか
彼自身ノアの様子が可笑しいのはわかっていた
だけどノアに言われると言う事実だけは変わらぬ事実であり悲しい気持ちになった
『兄貴・・・』
ヘクターが小さく言うとシルバは抱いていたギースが泣き出したのであやしながら口を開いた
『・・・何がったんだ?何かが可笑しい、全てがだ・・・』
嫌な予感がしたシルバは一先ず次の日族長達を集めて近況の説明をした
そのことについてバリアンヌだけ口を挟まなかった、ガウガロの軍師である彼女がだ
何かを考えている様だが確信がない限りあまり表立って話さない奴だ
そのうち何か言ってくれるであろうとシルバは思っていた
そしてノアは嘘をついているとシルバはわかっていた
ノアは必ずシルバの目を見て話してくれるが一回も目を見ようとしなかった
言いたくもない言葉をいうくらいの事がバルファニアで起こっている
シルバは無駄に介入しないような気がしてノアを追わなかった
だがそれが間違いだったと知るには時間はかからなかった
ノアが去って1週間くらいだろうか
人族に化けてバルファニアに潜んでいた妖狐族が血相を変えてシルバの家に入り込んできた
『シルバ様・・大変でございます』
異常なくらいに怯えた様子の妖狐族の女性はソファーに座るシルバと抱えるギースを見てそう言った
テーブルにはヘクターもいる
その光景にシルバは妖狐族の女性に口を開いた
『どうした?言うてみよ』
『・・・落ち着いて聞いてくださいね』
その言葉に嫌な予感がした
だが彼は聞くことにして静かに頷くと妖狐の者は小さく彼に話した
『ノア様が処刑されました』
シルバはその瞬間初めて出会った時のノアを頭の中で思い出してしまった
ヘクターは椅子から立ち上がってから動く事も出来ずにいた
続けて妖狐族の者が口を開いた
『バルファニア帝国が全面戦争を仕掛けてきます』
意味の分からない2つの情報に2人は思考を停止してしまう
数分その状態が続いた後に変化が起きた
『全族長を緊急で集めよ』
シルバの声だ
彼の表情は凍てついた様な目つきで妖狐族の者にそう伝えたのだ
その視線に恐怖しながら彼は即外に出て言った
銀の丘での玉座の間にで全族長と数名の部下が集まった、ヘクターは玉座の横で彼を見守っていた
玉座に座り緊急で開かれた会議にて彼が今後の予定を話す
そんな玉座に座る彼の足元にはギースがいた
ノアは処刑されて何故かバルファニアがここに攻めてくると
全族長はかなり驚いていた、信じられない事に熊人族のタンカーがつまらない冗談はやめろと言うとシルバは眉間にしわをよせて言った
『本気だ!』
銀色の気が多少溢れてしまう光景にタンカーも目を開いて固まった
その話し合い後。各族長はあり得ない様な事態での戦争の準備に取り掛かかる事になる
全員即集落に急いで戻る中でバリアンヌだけは残った
それを見てシルバが彼女に話しかけた
『どうしたバリアンヌ』
彼女の顔色は良くない、体長が悪いわけじゃないがバリアンヌはシルバに話しかけた
『・・・ノアちゃんはきっと』
『ハッキリ言えバリアンヌ』
そう言われたバリアンヌは真剣な顔でシルバを見て言いなおした
『予想だけど貴方を見放したのには理由があったのね、ノアちゃんは王族の争いに巻き込まれて殺された可能性が高いわ、あなたを巻き込みたくなかったのよ・・・きっと』
バリアンヌがそう話すがシルバの表情は変わらない
頭を抱えてシルバは小さく彼女に言った
『・・・俺のせいで死んだのか?』
『シルバ?』
バリアンヌが首を傾げるが彼は続けて言い放つ
『俺がノアならできると鼓舞したから頑張った、だが殺された・・・俺が招いたのか?』
『シルバのせいじゃないわ!他の王族が屑なのよ』
慌ててバリアンヌが言い直すが彼は止まらなかった
『俺が無理をさせてノアが死んだのか』
『パー、ママー?』
ギースの声にシルバは息子を抱きかかえて震えていた
『兄貴!違うよ!ノア姉ちゃんは・・・』
ヘクターが彼に近付きながらそう言うがシルバが泣いていることに気付いて立ち止まって口を閉ざした
彼の体は次第に震えていく
シルバは思った、ノアに動くように言ったのは俺だと
あんなこと言わなければこんなことにならなかったのかと
本当に見放していないのだろうかと
俺のせいでノアが死ぬことになったのかと
だが彼女は言った言葉がある
『こんなことになるなら出会わなければよかったのよ!』
この言葉だけはノアの本心だとシルバは気づいていた
自分のせいだと