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【完結済】槍の新兵は夢を見ない  作者: 牛乳太子
第6章 5000年の想いと国を賭けた聖戦
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58話 シルバ ブラックネイビー

シルバの過去

次の日シルバはヘクターと日課であるランニングをしていた

彼は似合わないくらい普通に走っている


最強と言われている存在が皆が考えうるであろう体力づくりをしている

そんなシルバについていくのがヘクターである

鎧の音をガシガシ響かせて彼に並ぶ、走るスピードはさほど速くない様だった


銀の丘と言われる獣王の神殿を外回りに走っていた

神殿の裏側は森になっているためたまに魔物が現れるがそれはヘクターが頑張って倒している

倒して再び走るの繰り返し


走ってから2時間が経過しようとしていた


『兄貴、今日はやけに機嫌がいいっすね』


ヘクターがそう言うと走りながら彼に視線を向け、直ぐに正面を向き直して笑みを浮かべる

本当はヘクター自身も何故機嫌がすこぶる良いのかは知っているのだがあえて聞いたのだ


『天気がいいからな』


『いや曇りだし』


ヘクターが即答で突っ込む

森に入るとランクDである魔物、突猪トツノシが1体現れた

ジャムルフィンの時代にはもう存在しない絶滅した魔物である

見た目は普通の猪、茶色だ


頭部に一本の角が小さく生えていた

名前の通りにひたすら対象に突進するだけだ


こちらに気付いている突猪はゴフゴフ言いながら


シルバは立ち止まると彼に口を開いたのだ


『ヘクター流して一撃で仕留めよ』


軽く首を回して腰の剣を抜くヘクター

彼は抜いた瞬間直ぐに走り出した、突猪もそれを見て走り出した


シルバは腕を組んで見守っている


突猪と接触するギリギリの距離でヘクターは体を回転させて突猪の横面を斬り倒す

甲高い声をあげて倒れる魔物を見てからシルバのもとに歩き出し、剣を腰に収めようとした瞬間シルバが口を開く


『まだだ!』


『えっ!』


ヘクターが後ろを振り向くと立ち上がろうとする突猪

少し焦ってしまう彼であるが半分くらいまで収めた剣を抜刀しつつ突猪に投げた

その剣は突猪の頭部に刺さり今度こそ息の根を止めた


突猪の亡骸から剣を抜きシルバのもとに戻るヘクター


『兄貴・・・』


『斬る際に体重を乗せ忘れたな?』


頭を掻きだすヘクター、図星の様だ

その様子を見てシルバは彼の頭をポンポンと叩いてから言った


『回数をこなせば意識せずともできるようになる』


『でも言われてから1年たちそうだし』


シルバは彼に軽く笑いかける、腕を組んで答えた


『お前のペースがある、気にするな・・・・だが』


ヘクターが自分より身長の高いシルバを見上げた

彼の顔は真剣だった、それを察してヘクターも姿勢正しくシルバの言葉の続きを聞いた


『鍛錬をやめた時が強さの終わりだ、強いと勘違いして鍛錬をやめることは死に繋がるぞ?』


シルバが地面に座るとヘクターも彼に合わせて座った


『兄貴は流石に鍛錬しなくても誰も勝てないんじゃないっすか?』


『そんなことはない』


ヘクターが首を傾げている

シルバはそんな彼の様子を見て溜息をつく

彼の肩を軽く叩き話しかけた


『いつでも後ろで追ってくる強者はいる、忘れるな・・・常に強さに向かって走り続けている存在は隠れている、止まれば追いつかれるぞ?』


真剣な顔で話す姿にヘクターは素直に頷いて反応を見せる

そうするとシルバも笑顔になり立ち上がる


『今日は終わりだ、基本姿勢からの剣撃の修行だけは怠るなよ?基礎は決して己を裏切らぬ』


ヘクターも立ち上がりつつシルバに口を開いた


『わかったよ!』


歩き出すシルバの後ろを追従するヘクター

彼は戦闘センスは無いもののちゃんと言われた事をこなしている様だ


歩きながらヘクターが彼に聞いた


『兄貴はノア姉ちゃんと事どう思ってるの?』


シルバは歩きながらそのまま空を見た

曇りである、太陽は見えないが彼は穏やかな顔で小さく呟いた


『大事だろうな』


『そっかぁ、ノア姉ちゃん優しいしね、最初はじゃじゃ馬全快だったけど』


『フハハハハハ!そうだな、とんがっておったわ!』


ノアの話になるといつにも増して幸せそうな顔をするシルバを見てヘクターは内心嬉しかった

いつも思い切って笑うような人じゃなかった、確かに笑う時はあった

でもヘクターが言う彼の笑った顔と言うのは多分面白いという意味ではなく


喜びから来る表情だろう


『ん?』


『どうしたヘクター』


ヘクターが急に横を見居て立ち止まるとシルバも反応した

彼の見る視線には黒い長い花びらの花が咲いていた

なんでも触りたがるヘクターはその花に近付こうとしたのだが触ろうとした瞬間、匂いが鼻を刺し近づくのをやめた


『変わった匂いの花だな、たまに見るが』


シルバがそう言うとヘクターも何回もくしゃみをしながら答えた


『鼻水が出そうっす、あ~臭い』


鼻から意識を離して再び歩き出す




2人が狼人族の集落に戻りシルバの家に着くと人の気配がする

それにシルバは決して動揺はしなかった、誰がいるかぐらいわかりきっているからだ


玄関奥のリビングの椅子に2人が腰かけると丸テーブル越しにヘクターが話しかけた


『ノア姉ちゃん今日疲れてるのかなぁ』


その言葉にシルバの目が泳ぐ

ヘクターがそんなシルバをみて首を傾げるがよくわかっていないらしい

大きく背伸びをして丸テーブルにへたり込むヘクター


シルバがテーブルに肘をついてヘクターに質問をした


『それは置いといてだ、ノアが去年違う国に使者として言った際に自身が作った子守唄が人気があったねとか言っていたが聞いておらぬか?』


『ああなんか言ってましたね兄貴!ノア姉ちゃんは機嫌がいい時に道の唄に似た感じのを唄ってましたしそれじゃないっすか?』


『バルファニアよりもっと西の方で偉く気に入られたらしいが教えてくれぬのだ』


少しシルバの耳が垂れている

聞いてみたいのだろう、ヘクターは彼がそう思っているんだと気づくと鎧の中でバレない様に笑う

シルバは椅子の背もたれに思い切り寄りかかる

そんな彼にヘクターは聞いてみた


『兄貴に聞かれると恥ずかしいんじゃないんすか?』


今度はシルバが首を傾げる

ヘクターは薄々だがノアの唄には気づいていた

シルバの手料理を作っている時に口ずさんでいたのを聞いたことがある

当然隠れて盗み聞ぎしたのだがバレたらノアに怒られるだろうと彼は思う


それは想いを伝えれない者の唄だろうとヘクターは感じた

ヘクターは不思議そうな顔をするシルバを見て思った


ノア姉ちゃんはシルバの言葉を待っていたんじゃないかって

ヘクターは自分の事を弟の様に可愛がってくれる存在が幸せを手に入れるのは嬉しかった

憧れた存在が本当に笑うと嬉しかった

隠していた夢が叶うだろう彼を見てヘクターは嬉しかった


もう1人じゃない、確かにシルバと仲が良い者は沢山いるけど中心にはいつのまにかノアがいた

ヘクターはその中心に自分がいなくてもいいと思っていた


シルバの為ならば、自分の人生を変えてくれたの為ならば


『しょうがない、後で頼んで聞いてみるか』


そんなシルバの声で正気に戻るヘクター


『そうっすね』





その夜はノアが猪の肉で野菜炒めを作ってくれた

他には野菜スープに保存していた絶鳥の肉を唐揚げにした料理だ


『どう?料理だけは得意よ?』


丸テーブルに並んだ料理で目を輝かせたヘクター、シルバも顔をほころんでいる


『いただきます』


3人揃ってそう言うと目の前の料理を食べ始めた

ノアの手料理を食べながらヘクターがノアの質問をした


『そういやノア姉ちゃん腰でも悪いの?なんかさっき料理を運ぶときなぁんかぎこちなかったというか・・・』


彼の言葉でノアは何故か斜め上を見て口をへの字にしている、顔真っ赤だ

なんか可笑しいなと思いシルバに聞こうと彼は隣のシルバを見る…と


『・・・腰痛だろう』


目が泳いでいる、深く首を傾げるヘクターは意味がわからないと思っていた

昨夜は自分の家で寝ていた彼だがシルバの家にはノアしかいない状態だったが彼女にもなにか特訓でもさせたのだろうかとヘクターは考えるが思い当たる節がない


考え込むヘクターだがノアが話を変えようと話題を振ってきたのだ


『今日の修行は順調だったの?』


唐揚げにレモンを変えながらノアが言うとそれに乗ってシルバが急いで答えた


『ああ!・・・当たり前だ、ヘクターは頑張っておるぞ?』


チラチラとヘクターを見るシルバであるが挙動不審過ぎて気になるヘクター

彼も深くそれについては追及するのはやめとこうと感じで口を開いた


『ぼりぼりだけど頑張ってるよノア姉ちゃん!』


自分の胸を叩いてヘクターが言う

叩いた鎧ががガシンと鳴っていた


『流石シルバの騎士よヘクター!』


『へへん!』


ヘクターも上機嫌である

唐揚げを口に何個も頬張るシルバ、どうやら味が気に入ったらしい

その様子を見てノアも嬉しそうである

同じくノアも唐揚げを食べ始めた


そんな2人を見てふとヘクターが口を開いた


『そういや黒い花が森に咲いてたんだけどさ』


『黒い花?』


ノアも彼に視線を向ける

シルバも黒い花という言葉で食べながら彼を見た


『そうそう、近づいたら長い花びらでキツイ匂いだったんだ』


『触ったら駄目よ』


ノアが直ぐにそうヘクターに言った

サラダを小皿に盛りながら彼女は口を開いた


『触れば腫れるわ・・・毒のある花だから絶対触っちゃ駄目よヘクター』


少し真剣な顔つきで言うノア

どうやら触ると腫れるだけじゃなく、腫れた箇所が激痛で数日間うなされるんだとか恐ろしい花であった

その話を聞いたヘクターは少しゾッとした

決して触らないと彼女に約束するとシルバは気になったのか椅子の背もたれに寄りかかり聞いてみた


『ノア、何の花なんだ?』


ノアはサラダを小皿に盛り終わると唐揚げをシルバの口元に運んで食べさせた

少し照れるシルバ、完全に尻にしかれるんじゃないかと疑う光景だ


『美味い』


静かに彼がそう言うとノアも口元に笑みを浮かべた

その後彼女が静かに言った







『その黒い花はブラックネイビー、花言葉は犠牲・・・よく毒薬に使われる花よ』


ヘクター『触りません!』

ノア『偉い!』

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新作ですがこの小説を見てる人ならわかる部分が多い内容になってます 勇者ですが指名手配されたので逃亡ライフをはじめます
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