58話 シルバ ノア
シルバの過去
シルバは銀の丘と言われる神殿にて玉座で眠そうな顔で座っている
ふと彼は正面を向く、階段下の先には妖狐族・熊人族・鳥人族・猫人族・兎人族・蜥蜴人族・猿人族・虎人族・獅子人族・亀人族・猛牛人族・鼠人族・ドワーフ族
そしてエルフ族の族長らしき者達と部下数名がいる
彼らは真剣な眼差しで玉座に座るシルバを見つめていた
ヘクターも階段下で気を付けの姿勢で彼の顔を見つめている
『眠そうねシルバ』
そのシルバが横を向く
ノアが小さめの椅子に座り足をパタパタさせていた
彼はその様子を見て微笑む
『まぁな、昨夜は族長達の飲み会だったのだ』
深く溜息をつくシルバに階段下から声がかかる
『お酒には弱いのね、世界最強にも苦手な物はあるのねぇ』
兎人族のマイラだ、とても綺麗な大人の風貌の女性であった
誰もが美しいと思える姿だが・・・・・
シルバが彼女の胸を見る
『・・・神は残酷な者であるな、我もそう思う』
彼の視線に気づき額に青筋を浮かべたマイラ
そう、彼女は胸がない・・・Bカップしかないのだ
あんなに美しいのに神は彼女に胸と言う武器を与えなかった
『どこ見て言ってるのよ馬鹿犬!』
隣の熊人族がマイラにバレない様に笑いを堪えている
シルバは苦笑いして頭を掻いていると口を開いた
『すまぬ、話を切り替えよう・・・』
彼は寝不足であるがゆっくりと立ち上がる
階段手前まで歩くと腕を組んで族長らを見回して質問を投げかけた
『隣国のバルファニアもノアの話では世代交代の時期に差し迫っていると聞く、そろそろそれを気に友好とまではいかぬがそれなりの付き合いを少しずつ始めたいと思うのだが』
彼の言葉に皆考え始めた
だが猛牛人族のバリアンヌだけは唯一気楽な顔をしつつシルバに問いかけた
『ノアちゃん第2王女よ?あんたら結婚しなよ?』
『はっ!』
『『『『『えっ!?』』』』
シルバの驚きの後に他の族長達が目を見開いて驚く
ヘクターはびっくりして尻もちをついていた
肝心のノアは笑顔で首を傾げて固まっている
その光景を見てバリアンヌは手に持っていた酒を飲むと小さく笑う
彼女が少し前に出るとシルバも正気に戻り口を開く
『流石のお主でも正気の沙汰じゃないぞ?』
『だからぁ・・・問題ないでしょ?』
シルバが口をへの字にしてバリアンヌを見た後チラッとノアを見る
まだ固まっている、さっきと同じままである
『まぁ察しはつくが言うてみよバリアンヌ』
バリアンヌはその言葉を聞くと律儀に膝をついて説明をした
『聞こえは悪いけどノアちゃんを結局王権の座から遠ざけたい為にガウガロに近い辺境の地の館にいるのよね、普通王族が歩いてこれる距離にこれないわ』
バリアンヌが顔を上げてシルバを見ると彼は頷く
そのまま話を続けたのだ
『そのノアちゃんがあなたと結婚すれば隣国との付き合いが生まれる事になる、そうなればバルファニアは嬉しいと思うわよ?後ろ盾が強力な獣族・・・そしてドワーフ族の作品の量産などを期待してね』
猛牛人族バリアンヌは言った
確かにノアは第2王女だが何かの理由でガウガロに近い場所に飛ばされた
それはあきらかに城から遠ざけたい理由である
だったら獣王シルバと仲が良いノアと婚約させれば彼女が時期バルファニア王女として最大権力を持つことになる可能性がかなり高い
隣国との付き合いが生まれるというのは大きいのだ
物資の価値もこちらにある
一番は最強が背中を守ってくれるという絶対的な強みが手に入る
基本的には貿易国として付き合っとけばいいし武力抗争になればシルバを押しかけて脅すだけで他の国は必ず黙るのだ
いや・・・・彼がバルファニアに手を貸したという事実が凄まじいのだ
誰も攻めようと思わない、絶対にだ
『・・・バリアンヌ、お前の言いたいことはわかる、だがな』
少し不安な面持ちでそう言ったシルバ、彼は横を軽くみる
ノアが凄い動揺している、彼女もここに来て・・・いや、シルバと出会って3年
彼女は大きくなった、3年あれば人はそれなりの成長を遂げることが出来る
ノアの身長は166㎝までなっていた、体の発育も人族にしては良い
なにより兎人族のマイラより胸がある
『ノア姉ちゃんはどうなのニャー?』
ニコニコしながら猫人族のニャルマーがノアに話しかけた
少しモジモジしている感じのノアだが彼女を見るシルバも少し何を言い出すか不安で弱々しい顔をしている
『それは秘密です!』
『うぉいおーいノアちゃん?気になるぜ?』
ニタニタした意味で熊人族のタンクがノアの顔を階段下から覗き込むように見ている
それを感じたノアは直ぐ視線を逸らす
タンクはクスリと笑い正面に向き直した
シルバも一先ず公開処刑されなかったのだと安心した
後ろ向きで歩いて再び玉座にそのまま座った
『まぁその話し合いは我らがそうなってもいいって事をシルバに知ってもらう為かバリアンヌ』
鳥人族のソルは両手を腰につけてそう言った
バリアンヌは声の主であるソルを見ると立ち上がりシルバを見直して答えた
『流石ソルね、そうねぇ・・・族長達はそうなっても大丈夫って姿勢を彼に教えときたいのよ』
シルバは彼らの会話をただただ聞く側になっていた
どう動くか見極めるつもりであろう、下手に会話に介入してもダメそうだと感じたのだ
それでも彼はノアが気になるらしくシルバが見るとノアが少し恥ずかしそうだった
『他の族長殿はそうなることに不安はあるか?』
ソルがそう言いながら族長達を見回す
考える素振りというよりかは反応は悪い方じゃないようだ
族長達の口元が笑っている、エルフ族のエミレミアという女性が口を開いた
『興味があるわね、と・・・皆の空気が言っておりますがそうなったとしても私たちは止めはしませんよ』
族長達が何も言わす彼女の言葉を聞いて正面を向き直した
シルバは頭を抱えて小さく唸っている
その様子をバリアンヌが小さく笑っている
シルバが咳払いするとバリアンヌも笑うのを止めた
『・・・そういう未来もあると言うのは覚えておこう』
シルバは立ち上がり歩き出した
ヘクターはそれを見て膝をついた
他の族長達も彼に膝をついた
その様子を見届けたシルバは階段上から口を開いた
『以上だ!まぁ来週もなにか一つ案があればよろしく頼む、そしてエルフ族に先週申告された中央広場の拡張だが進める方針で動くことにする』
シルバの言葉でエミレミアはニコニコした
そうして彼は続けて言った
『解散!』
早々と族長達が玉座の間から出ていくとヘクターがシルバとノアを交互に見て鎧の奥で軽く笑う声が聞こえる、そのまま彼も玉座の間から出て言ったのだ
『ふぅ・・・』
玉座の背もたれに思いっきりもたれ掛かる、足を組み脱力していた
彼自身もどっと疲れを感じたのだろう、寝不足なのにだ
シルバが横の椅子に座っているノアの顔を向けて声をかけた
『すまぬなノア、茶化したわけじゃないぞ?』
顔が赤いノアは頭をグルグル振りながら彼に答えた
『気にしてないから大丈夫よ?』
そう言うとノアは椅子から降りてシルバに近付いた
彼女はそのまま玉座で足を組んでいるシルバの上に乗った
いつもしている事らしく彼もその事については動揺はしていない様子であった
『ノアよ、お主も王族として色々大変だろう』
『そうでもないわよ?あっちきっと私はそんなに王権には関与出来ない存在だと思われてるから安全よ?』
『ふむ・・・』
シルバが彼女の頭を撫でると嬉しそうに彼にもたれ掛かる
ノアも彼に撫でられながら口を開く
『きっと第3王女が引き継ぐわよ、私は多分時期が来たら知らない貴族と結婚するかもね』
話しているノアが少し寂しそうに話した
王族は自らが望む道に行けぬのが道理である
女性に限っては
ノアの様子に気付いていたシルバは軽く眉をひそめた
気に障る事でも彼女が言ったからだろうか?
少なからずノアは不機嫌にさせる様なことは言ってはいない
だがシルバは何かが気に食わない顔をしていた
彼は撫でるのをやめて口を開く
『ノアの好きにすればいい』
『ん?』
彼にもたれ掛かるノアが首を傾げた
その後体を捻って彼を見た
いつも通りの王としての顔つきであるがいつもと違うとノアは感じていた
『どこの輩かわからぬ貴族が嫌ならガウガロにいてもいいのだぞ、ここにはお主の居場所がある』
ノアはその言葉に何を感じているのだろうか
顔は族長達が立っていた階段下を向いているのだが意識は彼に向いているのだろう
『3年も一緒にいたのね』
『時がたつのは早いな』
『そうね、シルバはどうしたいの?』
彼は押し黙る
その理由はノアが一番知っていた
黙りこくるシルバを見て笑って話しかけた
『シルバも獣王として我慢してるじゃない、色々したいことをさ』
肝心の彼は困った顔をしている
同じ境遇同士である
同じ王族である
同じ生きる者である
お互いそうありたいという想いを閉ざしている
シルバから降りてノアが数歩前に歩く
振り返り彼を見つめた
僅か3年でじゃじゃ馬の様な出会いをかました娘がこうまで成長を遂げた
そう彼は感じた、そして嬉しく思った
『さすればだ』
『?』
『国のために動いてみようと思わぬか?』
『ん?』
シルバが少し口ごもる
頭を掻いてどうしたもんかと考え込む
ノアはきちんとそんな彼を優しい感じの笑顔で見守っていた
『王族として動くなら先ほどのはノアに悪くない話ぞ?』
『・・・フッ』
ノアが真剣に少しだけ考えると直ぐに少し笑ってしまい吹いてしまった
今度はシルバが首を傾げるが彼の表情は少し強張っていた
推測だがそれだけの理由でノアに言ったわけじゃない筈だ
ノアもそれに気づいて吹いてしまったのだと思う
『ノア?』
シルバがそう言うと彼女は彼に近付いて玉座に座る彼に近付き両手を握る
目を点にする彼も面白いのだがノアはその顔を見て話しかけた
『いつも素直じゃないわね』
『ん?』
シルバもよくわかっていないらしい返事をすると彼女は話した
『あなたは孤独が怖い狼よ?だからモーガンやメリルさん、そしてビビ君とかともしつこいと思わずに何度も相手してるんでしょう?』
彼女の言う事に対してシルバは何も言わない
『ヘクター君も自分の弟の様に可愛がっているし、本当は気にかけてくれる人達が好きなんでしょう?』
繋いだ両手を見つめるシルバは口を開く
『・・家族は我が幼き亡くなった』
『知ってるわ』
『・・・俺は生きるために強くなるしかなかった』
『なら家族を作りましょう?』
シルバは何を言われているか理解が出来ずに不思議そうな顔をした
わかってないんだと感じたノアが微笑む
『別にいいわよ?シルバが家族が欲しいなら私がなってあげるわよ』
こう言われてもシルバはよくわかっていなかった
神殿の入り口付近で隠れて2人の様子を伺うヘクターは鎧の中で軽く笑った
普通ならこの部屋の全ての音を感知するシルバの耳でも今の状況なら聞き逃すだろう
いつもシルバはヘクターを傍に置いて周りからもわかるくらいに可愛がっていた
そんなシルバには血縁と呼べる家族がいない、事故で亡くしたとノアが聞いていたが詳しくは聞かなかった
彼が一番嫌なのは孤独であった
彼が一番欲しいのは家族であった
何度も戦いを挑む5人の強者
邪険に扱わずにそれよか非常に仲が良いのだ
彼がそうありたいと思ったのだ
どんなに挑まれようと彼は何度も受けて立つだろう
自分を意識してくれるものがいる事に幸福を少なからず感じていた
ノアはそれを形にしようとシルバに言ったのだ
『メリルさんも言ってたわよ?あいつはかなりの寂しがり屋だって』
非常に色濃くシルバが苦笑いしている
その単語が苦手なのだろうが嫌いじゃない
いつも料理を作って貰っているし付き合ってあげているのだから
『あやつに何か吹き込まれたのか?』
『なぁんも?』
目を細くしてノアが言うが彼は頭を掻いてノアに聞いてみた
『・・・家族にとは?』
ノアはシルバに背を向けて階段に座った
その様子を彼は上体を前に出してノアを見つめると彼女が少し上を見上げて口を開いた
『ノア・シルヴァになってもいいわよ、シルバとなら結婚しても良いと思うの』
石柱に隠れるヘクターはガッツポーズをした
ノア『ノア・シルヴァね』
シルバ『えっ?』




