45話 動き出した70年前
『シュウザー!!』
獅子人族のなかにいる前獣王であったジャジャラがそう叫ぶがシュウザーはまず彼を殺そうと両手の剣を握りしめて襲いかかった
俺は直ぐに銀彗星で追い越してシュウザーの前に立ちはだかるとシルバーバスターを放った
彼はそれでも止まらなかった
ガードした両手の剣が彼の手から離れてどこかへ飛んでいく
地面を踏みしめて耐えきった彼が叫ぶ
『邪魔だ!』
俺は叩かれて横に吹っ飛ぶ
思いきり壁に打ち付けられて一瞬息が出来なくなる
この道に到達しても彼の一撃がヤバい
歯をくいしばり直ぐに壁を蹴って復帰する
彼の手には剣が握られていないが鋭利な爪を使いジャジャラを引き裂こうとしていた
『やめろシュウザー!』
銀閃眼から通常弾を放ちジャジャラに伸びたシュウザーの腕に撃つとその腕は大きく弾かれた
別な手で攻撃しようとしていたが俺はすぐに銀彗星で近付いて間近で散弾を放ち彼を吹き飛ばした
4メートルの巨体が軽く飛ぶ
ジャジャラの前に俺は立つと体勢を立て直したシュウザーが口を開く
『何故だ!何故邪魔をする!こやつらは生きる価値もない!獣王であったジャジャラは俺たちを見殺しにした!ここに呼んだ奴等はその関係者だ』
その言葉にジャジャラも泣きそうな顔で俯いた
ここにはあのオズマもいた
父を見殺しにした者達そして長老会のメンバーと一部の兵士だ
皆震えながら口々に言う
『仕方なかったんだ...俺も村八分にされたくねえ』
『俺たちは長老会に言われただけで…』
その言葉にシュウザーが怒る
『そして父さんが死んだ!』
口から複数の空気弾を撃つシュウザー
狙いは獅子人族だがそれを狼撃破で全て粉砕した
砕けた岩等自慢の馬鹿力で投げつけてきたが槍で粉々にした
『邪魔をするなジャムルフィン、貴様らは帰っていいんだぞ』
シュウザーの言葉に蜥蜴人族の族長ゲイルが口を開く
『シュウザー、もうやめよう・・・彼らの処罰は我らがするから』
ゲイルが大粒の涙を流しながら彼に近付く
シュウザーは近くにあった自分の剣を拾い彼に言った
『駄目だ、それはできぬゲイル・・・お前はガーランド達と新しい国作りに励め、俺はそれに必要のない種族を消す』
『殺しても君の父さんは帰ってこない!生きて罪を償わせるんだ、シュウザー、俺たちは君に比べると可愛いもんだよ・・・父の願いは皆で叶える・・・それを見届ける事は出来ないのか!!!』
ゲイルの悲痛な叫びにシュウザーは少し戸惑っていた
言葉で説得できるのだろうか・・・できれば・・
『それは無理だ』
『なんでだよシュウザー!!』
ゲイルが大声で言う
シュウザーは言った
ガウガロが時を止める中で人族は俺達獣族より大きく進歩した
過去の過ちを繰り返さない様な取り組みに力を入れた
そんな中でいつの時代でも間違ったものがある
罪人の処遇
生きて罪を償うというのは間違いだと彼は言う
生きているという事実で苦痛を伴う者達がいる
死んだと感じることで解放される苦しみがある
行き過ぎた罪人には死しかない
そうしないと安らぎを求めることが出来ない者がいる
弱者の為にそうしないといけぬときがあると
シュウザーはそう言ったのだ
ゲイルも興奮しだし大声で口を開く
『シュウザー!君の母親はこれで満足するのか!君が獅子人族を殺しつくせばもう戻ってこれないんだぞ!』
『これが俺だ!戻るも糞もない!一族を殺したら新しい土地で新しい家、新しい墓を作って3人で暮らすんだ!そして父さんの墓の前で父さんの誕生日の続きをするんだ!あの頃のように…ミートパイを作って……』
涙を流す獣王にルッカは泣いていた
悲しすぎる獣王の過去はここにいる者全ての心を深く抉った
『この頑固者がぁ……』
あまりの重い言葉にゲイルも膝をついて泣く事しか出来なかった
シュウザーはゲイルを飛び越えてジャジャラに襲い掛かる
『くっそぉぉぉぉ!!』
俺は叫び彼の前に立ちはだかり
銀閃眼の強化弾を放った
シュウザーの胸部を貫通して彼は後ろに吹き飛んで玉座の近くまで倒れた
大量の血を流すシュウザー彼に致命的なダメージを俺は与えてしまった
なんで俺は攻撃してしまったんだろう、もう彼を攻撃する気持ちになれない・・・だけど・・・止まらないならば
もう動かないでくれシュウザー
『俺は・・・止まらぬ』
うつ伏せで倒れていた彼がゆっくり立ち上がるが腕に力が入らないらしく彼はとうとう倒れた
必死で立とうとする彼は俺達を睨みながら立ち上がろうと未だに抵抗している
その様子に皆は固まっている、なんという執念
何という恨みの塊、これが本当の恨みを知った者の
俺は彼に近付くとシュウザは威嚇をしつつ唸る
『まだだ!俺は終わらぬ!』
『シュウザーもうやめよう』
俺は彼に槍を構えつつ警戒をする
頼む・・・もう動かないでくれ、辛い
『ガト・・・』
ガーランドがそう口にしている
俺が振り返ると逃げた筈のガトが1人で戻ってきた
彼はパタパタと必死で走って此方に近付いてくる
『ガト・・・』
シュウザーが驚いた様子で目を開いていた
皆がガトの行動に釘付けになるがガトは俺を通り過ぎてシュウザーの前に立ち止まり俺の方を向いたのだ
息を切らした彼は口にした
『どうか人族の者よ、僕の友達を殺さないでくれ・・・僕の大事な友達なんだ・・君がシュウザーを攻撃するならば僕は彼を守るよ』
『ガト』
俺がそう呟くと彼が話しかけてくれた
『玉座の近くに盗聴水晶を仕込んでいた、彼の行動を知るためにだ・・・まさかあの優しい父があんなことになっていたなんて』
彼は逃げつつも水晶で会話を聞いていたらしい
そのままとある集落に向かってから戻ってきたという
玉座の横には隠れて青い水晶が光っていた、あれか
『僕の友達シュウザーよ、僕は君の傍にいるよ・・・一人じゃないんだ、今度は僕が助けるよシュウザー』
『ガト、貴様・・何故』
シュウザーの体が震えている
再び玉座の間に2人姿を現した
『シュウザー!もうやめなさい』
『ラフィーナまで、な・・・母さん!』
兎人族の族長ラフィーナ、彼はガトに頼まれてシュウザーの母であるベレッタ・アングラードを連れて来ていた
ベレッタは年老いた様子は見受けられないがシュウザーの様子を見て酷く驚いていた
俺達はこの場を見守るしか出来ないと感じて槍を降ろした
ラフィーナが彼に近付く、ベレッタは涙を流してその場にうずくまっていた
『シュウザー、もうやめよ?あの頃のあなたに戻って・・あなたはガウガロを良くしたわ・・それでいいじゃない、お父さんはここまで望んでないわ・・』
『駄目だラフィーナ!それでものうのうと生活するこやつらを俺は許さぬ!!母さんは三日間ずっと泣いた!起きて泣いて・・・また起きたら泣いた!!泣き続けたのだ!俺がどんな気持ちで見ていたか貴様らにわかるか!俺達が何をした?陰湿な嫌がらせで俺たちはどうなった!?』
腕に力を込めてシュウザーが四つん這いで立ち上がる
その時にベレッタの母が涙を流して口を開いた
『ごめんねシュウザー・・ごめんね・・・』
入口で座り込んでベレッタがそう言うとシュウザーが狼狽えた
下手に介入できない会話に俺達は他の族長は見守る事しかできなかった
『シュウザー、私は起きていたわ・・・あなたの言葉を覚えてるわ、オズワルドが死んだ後の言葉や・・・獣王になって一緒に祝った時に私が寝てると思って喋った言葉を』
『母さん!?』
『私は止めることが出来なかった、私も憎いわ・・でも駄目・・』
ベレッタは起き上がりヨロヨロとシュウザーに近付いて涙声で話しかける
『そうしたらあなたは戻ってくれない、優しかったあの子に戻れないの・・・夢よりもオズワルドは大事なものがあるの』
『そんなものはない母さん!!!』
ベレッタがシュウザーに触れると言った
『貴方が一番大事だったのよ』