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【完結済】槍の新兵は夢を見ない  作者: 牛乳太子
第6章 5000年の想いと国を賭けた聖戦
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44話 獅子の子③

『シュウザー・・・』


シュウザーは近くにあった大きめの布を見つけると父に口を開く


『大丈夫だよ父さん!僕が連れて帰るから・・帰ったら治療しよう』


小雨が大雨になる、冷たい雨が降りしきる中

震える体でシュウザーは大人のオズワルドを大きな布の上に仰向けにして引っ張って運んでいた

あまりの大雨に足を取られながらも必死に父を村に運ぶ


だが運ぶにしても子供である

シュウザーは震える腕を必死に使い布を引っ張って彼を運ぶ


『父さん・・大丈夫だよ、治ったら美味しいご飯食べよう・・・父さんの為にミートパイ作ったんだ』


涙声で彼が父に言うと心配させまいと彼も精一杯の言葉をかける


『ああ・・わかった、楽しみだな・・・シュウザーのミートパイ』


傷口を抑えオズワルドが苦痛を浮かべて答える

ズリズリと地面を引き釣りながら少しずつ彼を運んでいった

子供の力なので思う様に進むことが出来ずに数時間かけて村まで辿り着いた


『誰か!僕の父さんが怪我しています!助けてください!』


村の中に入るとシュウザーは大声を出して叫んだ

ふとどこかの家のドアが開くが隙間からこちらを見ている

シュウザーは布から手を離してその家に近付いた


『お願いします!父さん危な・・』


最後まで言おうとする前にドアが閉まる

窓から見える明かりもカーテンによって閉められてしまったのだ


『なんでだよ!』


その家のドアを思い切り叩き悪態をつくもシュウザーは必死に助けを呼んだ

だが彼が近づくとドアが閉まり先ほどの様に窓もカーテンで閉まられるのだ


『なんで?同族なのになんでこんな事するの?助けてほしいだけなのに』


泣いているのだろう、大雨でわからないが涙声でそう呟く

シュウザーは体を震わせて嘆く

寒さからだろうか・・・悲しさからかは定かではないがどちらでもあるだろう


『シュウ・・・ザー』


その声にシュウザーが近づいて父に状態を見ると

顔が真っ青になっていた、慌てたシュウザーは自分たちの家に運ぶことにした


『父さん・・父さん・・・』


シュウザーの震えて握る手は赤く染まっていた

引きずる際に何度も布から手がすっぽ抜けた、その時に擦れてしまい切ってしまったのだがそれをものともせずにシュウザーはオズワルドを家に運んだ


家についてからは母さんのベレッタが大粒の涙を流して父を治療していた

リビングのソファーに寝かせて止血をして傷口を縫おうとしていた

オズワルドの息が弱々しい、大量の血を流してしまった

ソファーが血で染まる、彼の呼吸が荒い

意識も朦朧としている


『オズワルド、もう大丈夫だからね・・・』


『ベレッタ・・』


シュウザーはオズワルドの手を握っていた

その手がより強く握られた時に彼はベレッタに口を開いた


『シュウザーを頼む』


『オズワルド?』


彼はそのままシュウザーに顔を向けた

青白い、生きている者の顔では決してない状態であった

両手でシュウザーの手を握り言った


『自分に正直に・・生きなさい・・我慢してた・・のは知っている』


『父さん・・・』


シュウザーの父、オズワルドも目に涙を浮かべて彼に話しかけた


『感情に流されちゃ駄目だぞ、自由に生きるんだ・・』


『大丈夫よオズワルド、助かるから』


ベレッタが急いで傷口に薬草を塗っているがその手を掴んで止めた

目を見開いた母はその意味がわからなかった


『全種族が・・・互いに手を取り合う時を・・見て見たかった』


オズワルドは言う、生まれてきた子に罪は無い

もう終わらせていい過去に縛られずに皆で仲良くしていい

永すぎるいがみ合いに終わりが欲しい


『父さ・・ん』


『シュウザー、俺は見たかったな・・・俺の夢・・叶えたかった・・』


オズワルドの目には涙が浮かんでいた

横では母が酷く取り乱していたがその声をよそに止血をしようと必死になっていた

大粒の涙を流して彼が言った




『恨みに負け・・るな・・・シュウザー・・ベレッタを・・・頼む』














この日オズワルドは息を引き取った

父の誕生日に大事な父が死んだ、母は大声で泣いた

シュウザーは死んだという事実に意外なほどに泣かなかった


泣くことが出来なかった

どうして父が死なないといけないの?

何も悪い事僕達してないのに


なんで自由に友達を作ったらダメなの?

彼らも何もしてないのに?


泣く事よりも色々な思いが彼の感情を支配した



この後が酷かった、オズワルドの死後彼の墓を獅子人族の墓に入れることを拒まれたのだ

それに母も泣きながら反抗したが駄目だった


近くの森にひっそりと墓を立てた

母とシュウザーの2人だけで穴を掘り火葬してできた骨の粉を箱に詰めて埋めた


『なんで・・・なんでこんな仕打ちされなきゃダメなの』


母が墓でそう言いながら泣いていた

その後シュウザーの母は泣き続けた

起きてる間ずっと泣いて寝て起きたら再び泣いて


『母さん・・・』


シュウザーはその様子に何もできずにいた、彼の心もどんどん壊れていった、もうあの頃に戻れないと知りシュウザーは笑い方を忘れた


泣くだけの母にご飯を作り近くに置くが何も食べない

そんな母が衰弱して風邪をひいた


ベットに横たわる母はまだ泣いていた

もう父さんは戻ってこない、そんな思いが母を支配していた

母が寝ている時にシュウザーはベットの横に近付いて母の頭を撫でた


そして口を開いた


『父さんの代わりに僕が頑張るよ、きっと・・・父さんの為に獣王になって・・・』


シュウザーの声が震えている

母は反応をしない、寝ているのだろう

泣き疲れしてしまったのだ


『父さんの願いを叶えて・・・』


眠る母の横でボロボロと泣きながら喋るシュウザーは最後に言った








『全ての獅子人族を殺す』






シュウザーの心の影に潜んだ憎しみが彼を包み込んだ

そして彼の充血した瞳は赤く染まる、全ての獅子人族の瞳は白一色だがこの日から彼の瞳は赤く染まったのである


シュウザーは母が落ち着いてきたところで中央広場に行った

そこにはガトがいたのだ

彼がシュウザーを見ると驚いた様子で彼に近付く

そんなガトの隣にもう一人いた


『シュウザー、どうしたんだい?最近見なかったのに』


いつもと違うシュウザーにガトは不思議に思っていたが彼にはわからなかった、思い出し華夏の様にガトが話しかけてきた


『そうだ!シュウザーに紹介したい友達がいるんだ!シュウザーもきっと仲良くなれるよ』


嬉しそうに言うガトは自分の後ろに隠れていた子を紹介した

兎人族のラフィーナだ、どうやらシュウザーが怖いらしい

獅子人族だしそう思うのも仕方ないが


必死でフォローしようと頑張ってるガトにシュウザーが口を開いた


『ラフィーナ』


『はっ・・・はい』


怖がった様子でいるラフィーナにシュウザーは彼女の手を取って再び口を開く


『ガトを頼むよ、気が小さい奴だけど本当に良い奴だし僕の友達だから』


ラフィーナは無言で彼に頷いた

シュウザーは彼女が少し笑ってくれたような気がした



『シュウザー?』


ガトの声にシュウザーが反応を示すと何も言わずにシュウザーはその場を去った

獣王になるべくしてシュウザーの野望が始まった

馬鹿みたいな無理も沢山した


母が大丈夫な状態になってからは彼が食材を調達することになり

森で強い魔物と戦いながら肉体を鍛えて母を支えていった


父を追い詰めたガイアマンティスの特殊個体を倒せたのは父が死んでから40年後だった

そしてシュウザーは改心した振りをした


一番辛かったことは父が間違っていたと偽った事を喋る事だった

シュウザーの体は40年で2m越える程まで大きくなった、そこらの獅子人族とかわらぬ大きさだ

いつも通りに森で魔物と戦っているとふと遠くへ行こうと思い違うエリアに遠出した


どこらへんかもわからないが現れる魔物を簡単に大剣で掻っ切っていく

数時間走りながら進むと森を抜けてしまう


そこは兎人族の集落であった、ここは彼らの領地

隣の隣まで来てしまったらしい、畑を耕していた1人の兎人族が彼に気が付いて驚いていた


『誰!?!?』


シュウザーは武器を降ろして手を上げる

するとその兎人族が喋った


『シュウザー?』


『何で俺を』


『私よ?ラフィーナ』


シュウザーは驚いた、べっぴんさんになったのか

どうやら畑仕事を手伝っていたらしい

彼は少しだけ話をした


『ガトは元気か?』


『大丈夫よ、気が弱い性格は相変わらずだけど』


その言葉にシュウザーは久しぶりに軽く笑った

ラフィーナに向けて口を開く


『俺の代わりにガトを頼む、大事な友人だ・・・君も体には十分気をつけろよ』


そう言って彼はそのままラフィーナから離れ、森に帰っていった



そして父が死んで60年以上たった時

かれは獣王として君臨した、その時の彼の巨躯はゆうに4mはあった

圧倒的な体格と威圧感、そして絶対的な力


獣王に君臨した初日

彼は少し改装した家で寝た、彼用の大きな玄関のドア

天井は元々高いからいいのだが寝床がリビングになった

母のベレッタと一緒に祝いをしながら2人仲良く寝ることにした


寝静まった時シュウザーが隣で眠る母に口を開いた

寝ているだろうと思い独り言として言い放ったのだ


『母さんもうすぐだよ・・・もうすぐ父さんの夢を叶えれる、僕はやるよ母さん』


深呼吸をしてシュウザーは涙を浮かべて続けて言う





『最後に獅子人族を全て殺す、そして2人で別な場所で住もう・・・新しい国に獅子人族は必要ない』



彼の隠していた感情、本当の恨みがここで動き出した

彼は誓った

いがみ合いのない国にすると


彼は誓った

父の夢を叶えると


彼は誓った




全ての獅子人族を殺すと


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




『・・・・・シュウザー』


俺は彼にだせる言葉がそれしかなかった


『貴様ら等もうどうでもよいのだ、お前とも戦う必要もなくなった!父の夢は叶う!だが』


息を切らし、血だらけのシュウザーは壁際で怯えている獅子人族をすさまじい眼力で睨みつけた

凄まじい咆哮を上げて部屋中が揺れ出した


『獅子人族を残らず殺すだけだ!!!全ての元凶そして・・・』


目から血の涙を流しシュウザーは叫んだ



『父さんを殺した貴様等全員殺す!!!ここが終われば次は村人だ!!!』


シュウザーは俺を無視して獅子人族の中へと襲い掛かった

獣王は本当の憎しみを持った獣王となり復讐のために動き出した


ナッツ『父の夢を叶えた後に復讐のために獅子人族を殺す予定だったシュウザーさんです』

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新作ですがこの小説を見てる人ならわかる部分が多い内容になってます 勇者ですが指名手配されたので逃亡ライフをはじめます
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